プレイバック炎 立つ・第一部 北の埋み火 (02)恋の予感
【アヴァン・タイトル】
陸奥国には奥六郡と呼ばれる地域があった。奥六郡とは「胆沢(いさわ)」「江刺(えさし)」「和賀(わが)」「稗貫(ひえぬき)」「紫波(しわ)」「岩手」の各郡の総称である。この地方は、9世紀の征夷大将軍・坂上田村麻呂によって平定されるまでは、朝廷の直接支配の及ばない独立した地域であった。
その後10世紀に至って、鎮守府である胆沢城の管轄下に置かれ、辺境の特別行政区域としての扱いを受けるようになった。奥六郡と呼ばれ始めたのは、このころからである。やがてこの地の豪族・安倍氏が奥六郡の実権を掌握して、朝廷との間に諍(いさか)いを生じるようになる──。
吉次の館の中にある祈り堂で、巫女の紗羅が呪文を唱えて占っています。その後方から様子を見守る夫の安倍頼良ですが、隣に座る紗羅の弟・乙那が平伏するのを見て、頼良は慌てて頭を下げます。占い終わり、頼良は紗羅に娘の結有の居場所を尋ねますが、紗羅は安心したように微笑みます。「ご心配には及びませぬ。結有は多賀城にて大事に庇護されておりまする」
その結有は藤原経清と雪の中、遠駆けを楽しんでいました。都まで馬で駆ければ何日で行くのかと、結有は都へのあこがれを滲ませますが、経清は白河に行き着かぬうちに山賊に襲われてしまい、女ひとりではとても無理だと厳しい表情です。衣川へは結有が多賀城にいることは伝えていますが、結有は経清が早く厄介払いしたがっていると感じ取ります。「でも、私は経清どのの傍がいい!」
次男の安倍貞任は、宗任家臣の大藤内業近が必死に止めても、結有を迎えに行くといって聞きません。流麗という新妻がいながら、血のつながらない妹・結有に未練がましく恋感情があるようで、母の瑞乃は呆れてしまいます。そして流麗は、そんな貞任の姿をじっと見つめています。頼良は業近に止めても無駄だと諭し、一緒に付いていくよう命じます。
衣川の館を出ていこうとする貞任に、行かないでと甘えた声を出す流麗ですが、貞任は頭に血がのぼっているのか、うっとうしい! と流麗を突き飛ばします。「やはり本当だったのね……あなたは結有どのがお好きなのだと」 流麗は婚礼の日の夜から貞任の薄情さを感じ取っていたわけですが、妹を愛してなぜ悪い? と貞任は開き直ります。怒り肩で出ていく貞任を、流麗は黙って見送るしかありません。
結有とともに亘理の藤原館に帰って来た経清を待っていたのは貞任と業近でした。結有を見た途端、険しい顔がパッと明るくなる貞任です。貞任はすぐにでも伊具(いぐ)へ連れていくつもりですが、結有本人はもうしばらく経清のもとで厄介になりたいと言い出します。経清は困惑して貞任を見ますが、貞任も結有のまさかの言葉に動揺しています。
経清の勧めもあり、結有と貞任は亘理に泊まりますが、真夜中に結有の助けを呼ぶ声が聞こえてきました。飛び起きた貞任は急いで結有の寝床へ駆けつけます。襲った相手について結有は、暗くてよく見えなかったけれどと断ったうえで、経清だと貞任に伝えます。「騒ぐなと言った声は……まさしく経清さま! 経清さまが私を襲ったのです!」
翌朝、貞任に抜け衣を着せられた経清は必死に弁明しますが、血が上った貞任が聞くはずもありません。刀を抜き対決するふたり。頼遠は殺しても殺されても大ごとだと剛介に止めさせるよう命じます。つかみ合いになるふたりに、ちょうどそこに現れた永衡の号令で家臣たちが集まり、ふたりを引き離します。様子を見ていた結有は笑って逃げ、経清は怒りに任せて結有を追いかけます。
川岸の林まで結有を追った経清はついに捕まえ、手を上げようとしますが、一瞬みせた真顔に経清は冷静さを取り戻します。結有も叩かない経清を見て、また笑って逃げて行ってしまいますが、経清は振り上げた手を下ろして足元に積もる雪で顔を冷やし、結有の後姿を見送るしかありませんでした。
翌日、多賀城に呼びつけられた貞任は、陸奥守藤原登任に奥六郡の年貢の倍増を命じられます。登任は金山採掘は朝廷が安倍に許可していて、その分の上乗せという認識なのです。あまりの命令に貞任は怒って帰ってしまい、登任はおもしろそうに笑っています。永衡は10万の安倍に8,000の兵で戦を仕掛けるようなものと危機感を募らせ、自分の思いを汲み取ってくれない永衡に登任は苛立ちます。
1年の猶予を与えるとはいえ、それは登任の口実だと見破る頼良は、すぐにも多賀城を囲めると笑いますが、登任の挑発には乗るなと吉次はたしなめます。たとえ登任に戦に勝っても、すぐに次の軍勢が来るわけです。吉次は支度金として金を用意し、乙那に京に向かわせて公家に戦にしないよう便宜を図らせます。「戦は結束こそ要。ただ官軍に攻略の口実を与えるような真似だけはせぬよう」
永承5(1050)年、平 繁成の秋田城介就任を関白家に具申している登任の名代として、経清主従は中山道経由で京に向かいます。さっそく関白藤原頼通と対面して登任の下文を届けた後、経清は単独で二条大橋に居を構える生母亜乎根(あこね)の屋敷を訪れます。亜乎根にとっては18年前に生き別れた自慢の息子であり、藤原経輔は「まるで昔の恋人にでも会うような騒ぎ」ときょとんとしています。
幼さはすっかり消え凛々しい若武者に成長した経清に、亜乎根は目を細めます。寒がりから陸奥行きを拒み、どうしても連れていくと頼遠が言うため、経清を泣く泣く手放した亜乎根でしたが、自分を恨んでいるであろう経清に涙を流します。経清は暗い空気を一蹴しようと土産の数々を亜乎根に披露し、後から入ってきた経輔はその土産のすごさに大喜びです。
経輔は三位であり、亜乎根は都勤めをしたいなら経輔に言えばいいと勧めますが、経清は頼遠の身に何かがあればなおさら陸奥に責務があると断ります。もともとは登任の使いで頼通に下文を届けた経清ですが、安倍の使者という商人が公家たち全員に金を配っているという情報を聞きます。「“金売りの吉次”じゃ。正式の名前は別にあろうが、みどもらは金売り吉次と呼んでおる」
経清は剛介や忠平を連れて酒飲み処に入ります。突然始まった宋人の見世物に、貞任の婚礼の時に見たものと同じと気づいた経清は、金山を見てしまった自分らを捕らえた乙那がいることに気づきます。乙那は自分の席で飲まないかと、酒の相手をする真耶を通じて誘ってきました。「異なところでお会いいたしまするな。金売り吉次……何をしに都へ来られた? 何を画策しておる?」
内裏・左近衛の陣では、登任の下文が披露されています。安倍頼良に不穏な動きあり──。しかしその内容については記載がなく、安倍の年貢も正しく納められていることから、報告は聞き流されます。一方、空席になっている秋田城介については、登任が繁成を欲しがると睨んだ頼通の意見がそのまま通ります。朝廷にとって陸奥は無関心でしかなかったのですが、戦は避けられない情勢になっていました。
もし戦になったら安倍につくか多賀城につくか──。菜香は、この地になじんでいる夫・永衡とふたりで伊具と衣川を往復するほどで、永衡は安倍につくと断言します。結有も経清は安倍だと考えていますが、経清は頭が切れる人物と考えている貞任は、それがかえって誤った判断を下すと、経清は自分たちを裏切ると言い出します。結有は兄の発言に悔しい思いでいっぱいです。
原作:高橋 克彦
脚本:中島 丈博
音楽:菅野 由弘
語り:寺田 農
題字:山田 惠諦
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[出演]
渡辺 謙 (藤原経清)
古手川 祐子 (結有)
村田 雄浩 (安倍貞任)
新沼 謙治 (平 永衡)
川野 太郎 (安倍宗任)
鈴木 京香 (菜香)
財前 直見 (流麗)
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名古屋 章 (藤原登任)
寺田 稔 (乙那)
伊藤 孝雄 (藤原頼遠)
新橋 耐子 (亜乎根)
浜村 純 (平間裕常)
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多岐川 裕美 (紗羅)
西村 晃 (吉次)
里見 浩太朗 (安倍頼良)
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制作:音成 正人
制作・著作:NHK
共同制作:NHKエンタープライズ
制作統括:高沢 裕之
制作協力:NHKアート
:NHKテクニカルサービス
演出:門脇 正美
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『炎 立つ』
第3回「衣川への岐路」
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