プレイバック炎 立つ・第一部 北の埋み火 (07)経清決断
【アヴァン・タイトル】
『陸奥話記』には、厨川柵(くりやがわのさく)を始めとする安倍氏の柵について記されている。それ以前に律令国家によって造営された、玉造柵(たまつくりのさく)、城輪柵(きのわのさく)などは、軍事的拠点としてばかりではなく、行政機関としての城をも兼ね備えていたものであった。
しかし安倍氏の作った柵は、行政機関としての柵ではなく、むしろ朝廷への軍事的抵抗の要素の強いものであった。河を前面にした崖の上に立地されたことが、その表れである。やがてこの策を巡って、朝廷と安倍一族の間で、壮絶な戦いが繰り広げられるのである──。
天喜4(1056)年。安倍側につこうと藤原経清に説得する平 永衡を見て、瀬田剛介と多磨が困惑します。そこに現れた結有を多磨は引き止め、先代藤原頼遠の遺言をご存じかと確認します。知りませぬと返答する結有に、困るじゃないかこういう大事なことを忘れちゃ! と多磨は説教します。「先代は、絶対国司には背いてはならぬと。安倍なんぞに味方してはこの家が滅びる! やめていただきます」
その先代の遺言があるからか、経清は永衡に考え直してもらいたいと逆に説得を重ねます。頼時の婿ではあるが、そのことだけに捉われてはならないのです。戦力の差から安倍勝利は確実ですが、戦が長引けば圧倒的に源 頼義軍が有利です。もし国府側についていれば、敗れたとしても生き延びる道は残されているのです。結有は、そんなことを経清の口から聞くとは思わなかったと衝撃を受けます。
衣川館では「鬼じゃ! 頼義は人の心を持たぬ鬼!」と安倍頼時が激怒しています。罠にはまった安倍貞任を愚かと言って見捨てるわけにはいきません。人がこの世にあるのはことごとく妻子のためであり、その心をなくして民はまとめられません。子を見捨てた親に従う民はおるまい、と頼時は家臣や子どもたちに土下座して頼み込みます。安倍宗任は、安倍の心意気を見せる時と士気を高めます。
座の後方で聞いていた乙那は、経清や永衡に相談なく安倍の方針を決めていいのかと疑問を呈します。両者とも武士の魂があるなら馳せ参じるはず! と強気です。現に永衡は鬼切部の戦いでは安倍側についています。貞任も、経清の半分以上は安倍の人間であり、紗羅の占いでは安倍の家を守るのは経清の息子(清丸)と、経清の参陣を疑いません。
藤原館ではまだ永衡と話し合いがもたれていました。何としても家を潰してはならない。生き延びるのが勝ち、謀反を起こしては後世まで汚名が残る──。経清のささやきに苦々しい表情の永衡は、返事できずに黙り込んでしまいます。
経清と永衡の姿が多賀城にありました。安倍の軍備に詳しい経清が味方してくれたことに、頼義は安堵します。追討軍として5,000の兵が来ることになっていて、頼義はまず川崎柵を攻めるようで、経清に川崎柵への先陣を命じます。安倍の軍備に詳しいとはいえ、川崎は不案内と経清は困惑しますが、そこは永衡が詳しいからと頼義は笑顔です。「婿同士、これ以上信頼できる組み合わせはあるまい」
経清と永衡が多賀城に向かったと知って貞任は激怒しますが、安倍の婿でありながら多賀城の役人である2人の難しい立場を、頼時は慮(おもんばか)ります。ほどなくして朝廷から安倍頼時追討の宣旨が下されます。頼義はついに大義を獲得したわけです。その宣旨に目を通す頼義は、ニンマリします。
坂東から2,000の兵しか集まらなかった現実に、頼義軍は勝てるかと乙那は疑問ですが、経清はわざと負けて安倍軍の強さを内裏に知らしめるのかもしれないとつぶやきます。頼義にとって自分たちは捨て石でしかないと永衡は吐き捨てます。川崎柵の貞任、小松柵の安倍良照に、思いを伝えられると乙那は告げますが、安倍の婿である以上、不穏な動きは慎まなければなりません。
川崎柵に国府軍が集結します。頼時から授かった銀の兜をつけた永衡の軍勢と経清軍が突進します。「矢の届くところまで走れーッ! 怯むなーッ!」と経清は下知します。一方、ほど近い小松柵から駆けつけた良照軍が到着し、経清は撤退を余儀なくされます。経清は足に矢を受けるも、落馬した剛介を後ろに乗せて引いていきます。
頼義本陣では、敵が手加減して永衡に矢を射かけなかったのではと話に上ります。敵将頼時から授かった兜を着用するのは国府軍を蔑(ないがし)ろにするのも甚だしいと非難の的です。本陣に駆けつけた源 義家は、奇襲をかけた側が痛手を被るのはよくよくのことと、作戦の変更を進言しますが、頼義は落ち着いています。「内通する者があれば、負けるのも道理じゃ。今その処罰をいたすところじゃ」
経清が本陣に呼ばれ、頼義と義家から感謝の言葉をかけられます。おとりの役目も、信頼しているからこそ任せられるという頼義は、主従の契りをもってこれからも力を貸してほしいと伝え、経清は黙って頷きます。
経清の陣では、人払いで小田忠平が下がった後、永衡に切腹の命が伝えられていました。永衡には縁起がいいから被っていただけの銀の兜ですが、これは目立ちすぎるほどの目印だと疑いをかけられたのです。一時は斬り合いになるところですが、使者の佐伯経範は頼義への釈明を勧め、永衡とともに本陣に向かうところで、永衡は不意を突かれて殺害されてしまいます。
本陣からの帰り道、頼義の信頼度の高さに剛介は鼻高々です。しかし経清はそう思っていないようで、その表情には明らかに困惑が見て取れます。そこに忠平が馬で駆けつけます。よほど慌てているのか、足元もおぼつきません。何があったのか聞き出そうとする経清ですが、忠平は草むらの陰から一部始終を目撃したそのままを伝えようとしつつ、あまりの衝撃に言葉になりません。
自陣に戻った経清は、永衡の亡骸と対面します。銀の兜のことで注意したら、疑われたが最後と目を離した隙に切腹したと経範は言い訳し、本陣に帰っていきます。永衡を抱き起す経清は、背中に切腹ではできるはずもない刺し傷と、その出血に気づきます。切腹とはうそだと確信した経清は悔しさを滲ませ、自らの手で永衡の首を落とします。「帰ろうぞ、永衡。そなたの好きだった衣川へ」
永衡の首桶を持って乙那が多賀城に向かいます。銀の兜が仇になり、銀の兜を勧めた菜香はひどく後悔します。乙那は、頼義ははなから安倍の婿など信用していないと吐き捨て、菜香にすぐに衣川へ行った方がいいと促します。永衡を抱く菜香は、その髪の毛の間から小さく折りたたんだ紙を見つけます。「安倍の元に戻られよ。我もまた近々安倍に身を投じる覚悟なれば、妻よ子よ、とく戻られよ」
安倍軍の多賀城襲撃を気にした頼義は、経清と金 為時に安倍軍を封じ込めるように命じ、自らは多賀城に戻ります。川崎柵では矢文が放たれ、それに目を通した安倍宗任は大藤内業近を呼ぶように命じます。そして衣川の安倍館には、結有と菜香の姿がありました。どうした? と声をかける頼時に、菜香は涙があふれて頼時の胸に飛び込みます。経清が兵を率いて安倍につくと乙那に聞いた頼時は驚きます。
馬に乗った経清を、頼義を裏切ればすべてが水の泡と剛介は必死に止めます。「今の国を国とは思わぬ。全ては奥六郡の金に目がくらんだ欲の亡者のなせる戦じゃ」 経清は、川崎柵を目指し奇襲のふりをして安倍の柵にもぐり込めと川を渡っていきます。それでも引き止めようとする剛介は投げ出されてしまい、去ってゆく経清たちをひとり川岸から見送ることしかできませんでした。
川崎柵から貞任軍が出て来ました。貞任も経清も手にしていた刀を捨て、再会します。「待っておったぞ経清!」「貞任どの……兄者! 今日から身も心も安倍となり申す!」 川の中央で抱き合うふたりです。安倍軍も経清軍も、雄たけびを上げて喜びます。
黙っていられないのは頼義です。主従の契りを無下にして俘囚の元に走った経清を許せない頼義は、義家の前に立ちはだかります。「義家、忘れるなよ。経清こそは天下の謀叛者、我が源氏にとって不倶戴天の仇。必ずや討ち取り、八つ裂きにしてくれる!」
原作:高橋 克彦
脚本:中島 丈博
音楽:菅野 由弘
語り:寺田 農
題字:山田 惠諦
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[出演]
渡辺 謙 (藤原経清)
古手川 祐子 (結有)
村田 雄浩 (安倍貞任)
新沼 謙治 (平 永衡)
川野 太郎 (安倍宗任)
鈴木 京香 (菜香)
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寺田 稔 (乙那)
赤座 美代子 (瑞乃)
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佐藤 浩市 (源 義家)
佐藤 慶 (源 頼義)
里見 浩太朗 (安倍頼時)
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制作:音成 正人
制作・著作:NHK
共同制作:NHKエンタープライズ
制作統括:高沢 裕之
制作協力:NHKアート
:NHKテクニカルサービス
演出:門脇 正美
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『炎 立つ』
第8回「黄海の戦い」
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