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2024年7月17日 (水)

プレイバック炎 立つ・第一部 北の埋み火 (04)雪の鬼切部(おにきりべ)

【アヴァン・タイトル】

経清の正式名は「散位(さんい)藤原朝臣経清」という。彼は陸奥国府の権大夫(ごんのたいふ)、つまり今でいう副長官であった。従五位の身分を持つ父頼遠は、かつて下総国の役職についていた。

経清の祖先には、藤原秀郷(※)の名がある。秀郷は10世紀半ばの承平の乱で平 将門を討ち、その功により下野守に任じられ、藤原の名を坂東に知らしめた人物である。そんな名家に生まれた経清は、親から受け継いだ文武の技量を買われて陸奥国府に勤務し、亘理(わたり)郡の主となった。しかし安倍一族との出会いによって、経清の人生は波乱に満ちたものとなってゆく──。

(※)藤原秀郷=『風と雲と虹と』でいう田原藤太


時はさかのぼって延暦21(802)年7月10日、征夷大将軍坂上田村麻呂に降伏した陸奥の豪族阿弖流為(あてるい)と母礼(もれ)に、朝議により斬首が決定、処刑場へ連行される2人は捕縛されます。京の民は馬上の2人に石を投げ、阿弖流為は額から血が流れ出ます。阿弖流為の処刑の場では、なぜか安倍貞任の姿があり、処刑される阿弖流為をじっと見つめています。

貞任が意識を取り戻すと、吉次の館の中にある祈り堂にいました。田村麻呂に裏切られて京で処刑されたと貞任から聞き、吉次たちは阿弖流為の霊が貞任に乗り移ったと確信します。10倍の朝廷軍に20年も持ちこたえた阿弖流為の霊が乗り移っているとすれば、貞任は100万の味方かもしれないと吉次はつぶやきます。「俺は討つ。裏切られ殺され続けてきた我らが民のこの恨み、必ず晴らす!」

永承6(1051)年、鬼切部奇襲のための雪の栗駒山越えは常識では考えられない策であり、道がなければ切り開いて作ればいいという貞任の大胆な発想で、安倍正任率いる先発隊が進軍します。その道を貞任、平 永衡、大藤内業近らの本隊が進みますが、それも栗駒山の尾根までです。あとは荒雄川の川沿いに鬼切部に下るという計画です。

尾根にたどり着いた貞任は刀を抜き掛け声をかけて士気を高めます。そのときは晴天だった天候も、下る時には猛吹雪になります。案内役が道を見失い、業近は激怒しますが、貞任は軍勢を小隊に分けさせます。そのころ藤原経清は、陸奥守藤原登任とともに多賀城から衣川にほど近い伊治城へ進軍しています。

貞任と流麗の間には千世丸という赤子がおり、泣きじゃくる千世丸に結有と菜香があやしますが、流麗は血相を変えて千世丸を取り上げます。流麗は父の金 為行が立場が不利になるのを承知で安倍に加勢に来たというのに、経清は来ておらず、爪の赤を煎じて飲ませたいと皮肉を言います。「相変わらず小骨が刺さるような物言いばかりするのね」と菜香はふくれっ面です。

千世丸を披露する流麗に、為行は小勢を残して今夜のうちにここを去ることを伝えます。そしてもし安倍が官軍に負けるようなことがあれば館を出るよう勧めます。「朝廷の敵となった安倍の元にいてはろくなことはない」 よいな? とささやく為行に、流麗は戸惑いながらコクリと頷きます。

 

小隊に分け、猛吹雪の中を体力温存する貞任軍ですが、道はまだ見つかっていません。貞任は、雪の轟音の中から馬のいななきを聞き取り、その方へ近づいていくと、そこには白馬に乗った阿弖流為が白装束でいました。阿弖流為は弓を引き絞り、矢を放ちます。その矢は遠方の岩に突き刺さり──貞任は雪の中バタリと倒れます。

抱き起こされた貞任は、阿弖流為が矢を放った方角に向かって歩き出します。そこには矢が刺さった岩があり、貞任の号令でここから沢へ降りていきます。貞任の言う通り沢が見つかり、業近は貞任の勘に舌を巻きます。一刻ののち、貞任本隊は正任軍と合流し、古い金山の廃坑で休息を取り、夜明けを待って鬼切部を襲撃します。

厩舎を襲い馬に乗ると、貞任軍は鬼切部の兵舎目がけて突進します。朝方の突然の襲来に官軍はなすすべなく倒され、兵舎は炎上します。大将の平 繁成を探索しますが、館から伸びる足跡が古井戸につながっていました。覗き込むと、隠れている繁成を発見します。殺せ! とわめく繁成に、井戸の上から大笑いする安倍軍です。

伊治城では繁成を引き渡すとの安倍の伝言に、繁成が敵の手に落ちたと登任は衝撃を受けます。登任軍が伊治城に到着したと同時に、待ち伏せていた安倍宗任と重任の軍勢が伊治城を取り囲みます。間もなく貞任軍が合流し、完全に包囲された伊治城から経清が出て来ました。経清の策通りにやったら勝てたと豪語する貞任ですが、経清は大いに不満です。

繁成を捕らえるのと伊治城を取り囲むのとでは意味合いが大きく違うというのです。勝ち誇って、捕らえた繁成を見せびらかさなくてもいいはずだと経清は主張します。貞任は怒って繁成の首を刎ねようとしますが、永衡らに止められます。結局は繁成を伊治城に入れ、「付き合い切れぬやつだ!」と経清は貞任に吐き捨てます。

戦が終わって、繁成も登任も頭を丸めます。鬼切部の敗退の責任を取らされてのことだとは誰の目にも明らかでしたが、表向きには自発的な出家と知らされます。

 

半年後、陸奥は内裏から何の音沙汰もなく無風のような日々でした。多賀城の宿舎に戻った経清は、客人として乙那が来ていると知り驚きます。乙那は戦のあと京に行き、金をばらまいてきたのです。奥六郡は戦は望まず、次の陸奥守には安倍に対等に物が言えて、穏健な人物をと根回ししているのです。「貴殿の名を吹き込んで来た」と笑う乙那に、経清は驚愕します。

衣川の貞任館では、白拍子による舞が披露されていました。近ごろ酒が過ぎると貞任を気遣う宗任は、経清が陸奥守になってくれれば和議が簡単に勧められるのにとつぶやきます。経清の名が出た瞬間、貞任は目の色を変えます。もはや多賀城には帰れまいと嘆く永衡に、それも経清が陸奥守になれればすべてうまくいくと宗任は胸を張ります。

経清官舎で酒を酌み交わす乙那は、1つの金山に1,500人の人夫がおり、20近くの金山を抱えているため、人夫だけで3万人いると実情を明かします。そしてその全ての金山からは500貫ほど産出でき、経清は驚きます。その金で年に2度宋から珍品を仕入れ、都に運べば5倍の金額で売れるわけです。得た金は、新しく金山を掘るのに使われるという循環なのです。

経清は、実質的な陸奥の支配者は吉次一族だと気づきますが、乙那は一族の願いは金ではなく、陸奥を血を流さずに朝廷とは無縁の「楽土」を築きたいわけです。それほどの金の力があれば、朝廷とは対等の、いや朝廷を凌ぐ力を持つ日が来るかもしれないと経清は考えます。「もう後には引けぬぞ。聞いてしまった以上、貴殿も覚悟されよ」と乙那は経清を見据えます。

乙那の目下の心配は貞任です。鬼のように強い武者ではありますが、道を外れやすいのが難点です。そのためにもうひとり──乙那は経清がそのもうひとりになってほしいと願っています。乙那の発言を経清はそっとたしなめますが、貞任も経清とは組めないと同じようなことを言っていたと大笑いします。

酒に酔った貞任たちは、寝転がって大いびきです。それを見て結有と頼良は、真面目に安倍の今後を話し合っているのかと思ったら単なる酒盛りかと呆れています。頼良は、内裏の腹が読めず少しばかりいら立ちを見せますが、結有はその隣で、戦が終わったら経清と会えると思っていたのにと残念がっています。

 

内裏では新任の陸奥守について話し合いが行われていました。先祖も陸奥守に就任したことがある家系から、いっそ経清を陸奥守にしてはどうかという声が多数を占める中で、家系を言うなら父頼遠が上総国司に背いたという声があり、関白藤原頼通は「そらいかんな、そないな謀反人の家系はいかんいかん」と首を横に振ります。

今は安倍も落ち着いているし、その間に態勢を整えてと右大臣藤原教通は進言しますが、藤原頼宗は安倍を不問に伏せば謀反を許すことにつながると、けじめをつける意味で報復措置をせねばと主張します。頼通は安倍の戦闘力を危惧しますが、それを凌駕できるだけの武将として、頼宗は源 頼義を推薦します。

戦が始まるぞ、と乙那は経清に伝えます。あれだけ金をばらまいておいたのに、都の公卿どもはまったく当てにはならないと乙那は吐き捨てます。自ら手を上げたというよりは、頼義が誰か公卿を巻き込んだとしか思えません。和議を果たすだけなら位がひとつ上がる程度ですが、戦に勝てば源氏の名を挙げることが出来ます。それが頼義の野望だと乙那は断言します。

京の屋敷では、矢の手入れに勤しむ頼義がいました。陸奥に行けば陸奥の土地に明るい経清がいて、副官に据えてしっかりと朝廷の威厳を示さなければと、頼義は考えています。

経清は乙那に、都へ一緒に行きたいと相談します。従二位藤原経輔に力を借りたいというのです。すでに頼義は任官されているのだから今さら遅いと言いたげな乙那に、軍の発動が命じられたわけではないと経清は諦めていません。今のうちにできる限りの画策をしておきたいわけです。


原作:高橋 克彦
脚本:中島 丈博
音楽:菅野 由弘
語り:寺田 農
題字:山田 惠諦
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[出演]
渡辺 謙 (藤原経清)
古手川 祐子 (結有)
村田 雄浩 (安倍貞任)
新沼 謙治 (平 永衡)
川野 太郎 (安倍宗任)
鈴木 京香 (菜香)
財前 直見 (流麗)
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名古屋 章 (藤原登任)
寺田 稔 (乙那)
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佐藤 慶 (源 頼義)
多岐川 裕美 (紗羅)
西村 晃 (吉次)
里見 浩太朗 (阿弖流為)(安倍頼良)二役
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制作:音成 正人
制作・著作:NHK
共同制作:NHKエンタープライズ
制作統括:高沢 裕之
制作協力:NHKアート
    :NHKテクニカルサービス
演出:竹林 淳

 

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『炎 立つ』
第5回「陸奥の春」

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