プレイバック炎 立つ・第一部 北の埋み火 (09)密通
【アヴァン・タイトル】
源 頼義・義家親子は「清和源氏」の家柄である。清和源氏は清和天皇に始まり、鎌倉幕府を開いた源 頼朝へと続く武家の名門である。摂関家に仕える侍として勢力を伸ばした源氏は、頼義の父・頼信の代に転機を迎える。それは坂東の豪族平 忠常の乱の勃発であった。頼信は朝廷の命を受け、房総一体にわたるこの大乱を鎮圧し、源氏の評価を一挙に高めた。
頼信の子・頼義は、この坂東を基盤に陸奥の支配を狙う。源氏を頭領とした武家社会の到来を天下に示すため、安倍氏との戦いは千載一遇の好機だったのである──。
康平4(1061)年、藤原経清は奥六郡の境界線を越えて、伊治郡や気仙郡まで勢力を伸ばしていました。4年前の黄海の戦いで敗れた陸奥守・源 頼義の権威は地に落ち、国府の役人でさえ経清の一行を避けて道を譲るような力関係になっています。運ぶ年貢の多さに、国府の役人たちは恨めしそうに眺めています。そんな中を小田忠平は誇らしげに通り過ぎていきます。
「白符」を用いて国富ではなく安倍側で年貢を徴収するやり方は、国府を愚弄するような行為で、すなわち内裏を愚弄することと同義です。頼義は内裏に援軍を早く寄越せと主張したいのですが、安倍と戦う意思のない内裏が動くとは思えません。藤原茂頼は、敵は内裏ではなく中立を守る清原兄弟であると告げます。「清原が援軍を出してくれさえすれば、我らは再起できるのでございまするぞ」
しかし頼みとした清原兄弟は、源 義家が赴いても会ってもくれず、清原武則の娘婿・吉彦秀武(きみこのひでたけ)だけがとりなしてくれるだけです。相手にされず侮られている頼義は激怒し、国府と伊治の兵のみで戦を仕掛けると言って暴走します。「攻めて攻めて攻めまくり、砕けて散って屍を晒してやる!」
康平5(1062)年、内裏の左近衛の陣では、頼義の後任の陸奥守を誰に任命するかが話し合われていました。経清を陸奥守にすれば、内裏が安倍に負けたと見られるため、藤原頼宗は慎重な性格の高階経重(たかしなのつねしげ)を推薦します。こうして後任に経重が決まると、頼義の焦りは頂点に達し、義家の清原詣でもさらに必死なものになります。
頼義の性格を熟知している清原光頼・武則兄弟は、会って断れば頼義が怒り出すからと、最初から会わないのです。義家は断られるのを承知で来たから、会うだけと秀武に食い下がります。秀武も何度も話をして説得しているらしいのですが、なかなか難しいところです。そこに武則の嫡男・武貞が現れます。
想定していたのと違う名前が出てきて戸惑う義家を見て、オレでは不満のようだな、と武貞は睨みつけます。武貞は父や伯父は会わないとはっきり断ります。安倍が出羽に侵攻してくるならともかく、なぜ他人の戦に首を突っ込む必要があるのか。それが陸奥守に援軍を送らない最もらしい理由です。義家はがっくりと肩を落とし、秀武は義家に同情します。「……お送りいたそう」
実は、武則は「朝廷と安倍が和議を結べば、安倍は名実ともに陸奥の支配者」、光頼は「安倍が強大になっても出羽の清原にまで勢力は伸ばすまい」と、光頼と武則の間でも主張の相違があります。安倍頼時亡き後、清原に対して正月の挨拶すらなくなってしまった現状、安倍が清原を圧倒する時が必ず来ると、武則は光頼を説得します。その横で、何の話ですかと武貞が身を乗り出してきます。
衣川の安倍貞任の館では、貞任の嫡男・千世丸が、経清の嫡男・清丸に弓を教えています。それを見て流麗は、千世丸に面倒を見させるなと結有に文句を言いだします。瑞乃も、たとえ経清が陸奥守になったとしても、安倍が経清の下になることはないと結有にくぎを刺します。「そなた、いずれは清丸が安倍を率い、この陸奥の支配者になると思うていやる。安倍は安倍、清丸の家来にはならぬ」
経清の誘いで、貞任と千世丸が江刺の経清館に遊びに来ました。館には菜香がいて、紗羅や安倍宗任、乙那も駆けつけて、昼から酒盛りです。話はもっぱら、紗羅の占いで清丸が陸奥をまとめる人物に成長するということですが、経清は自分の陸奥守任官も含めて、少し飢餓はないのではないかと笑い飛ばします。
失意で清原館を出た義家は、秀武屋敷を訪れます。秀武は金 為行(こんのためゆき)を義家に紹介します。兄為時は頼義に従って戦い、為行は安倍に縁があって川崎柵を守り、兄とは行動を別にしています。義家は流麗の父であるとすぐに気づきます。為行も義家のことは、流麗から武士の中の武士だと高評価を聞いています。「元気といえば元気じゃが……ちくと気鬱がござってな。今は川崎柵に」
3人はそのまま酒を酌み交わします。為行は貞任と流麗が不和であることを打ち明け、清丸がもてはやされているのも手伝って気鬱になっていると説明します。ひどく心配する義家に、秀武はいっそ川崎柵に出向いて流麗を慰めることを勧めます。為行は、案内はできないが川崎柵に出向くのは止めない、と義家を見据えます。義家は井戸水を頭からかぶり酔いを醒ませますが、流麗の名を月に叫びます。
さっそく川崎柵の流麗に宛てて、義家から恋歌が届けられます。届けた侍女は、都ぶりの立派な武将で、今朝こちらに到着したばかりと伝えます。流麗は恋歌を贈るまだ見ぬ男に胸がざわざわします。「『思い染めにし 人と忘れず』 ……そうなのか。初めて会う人ではないのですね、この方は」
夜になり、あたりを警戒しながら義家が流麗の部屋を訪ねます。流麗は大人になった義家を見て目を細め、中にいざないます。ご心痛がおありとか と手を握る義家に、思わずサッと手を引っ込める流麗ですが、こんな風に会うことが地獄に行くことになるかもしれないのに、一生かけて守ると義家に言葉をかけられて、流麗は義家の胸に飛び込みます。「さらってください……義家さまのお好きなところに」
しかし妻を敵将に寝取られる事態は清原に伝わり、義家は戦より女を口説くのに長けていると武貞は笑いますが、秀武は安倍の結束が崩れているのは確かだと感じ、武則は安倍を滅ぼすなら今だと身を乗り出します。光頼は賛成こそしませんが、武貞らの主張を止めることはしません。光頼は形ばかり武則や武貞を義絶する一方、秀武に安倍を攻める旨 義家に伝えるよう命じます。
翌月、陸奥守赴任のために高階経重がのんびりと多賀城に向かっています。そのころ貞任らは経清の江刺に集まります。2万の清原軍は国府軍とは違って陸奥の状況に明るいわけで、安倍は戦いにくい相手と戦をせねばならなくなるかもしれません。いきり立つ貞任をなだめる経清ですが、これまでとは違って難しい戦いになると、経清は厳しい表情です。
原作:高橋 克彦
脚本:中島 丈博
音楽:菅野 由弘
語り:寺田 農
題字:山田 惠諦
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[出演]
渡辺 謙 (藤原経清)
古手川 祐子 (結有)
村田 雄浩 (安倍貞任)
川野 太郎 (安倍宗任)
鈴木 京香 (菜香)
財前 直見 (流麗)
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寺田 稔 (乙那)
赤座 美代子 (瑞乃)
石田 太郎 (清原光頼)
新 克利 (清原武則)
イッセー 尾形 (藤原経輔)
名高 達郎 (清原武貞)
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蟹江 敬三 (吉彦秀武)
多岐川 裕美 (紗羅)
佐藤 浩市 (源 義家)
佐藤 慶 (源 頼義)
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制作:音成 正人
制作・著作:NHK
共同制作:NHKエンタープライズ
制作統括:高沢 裕之
制作協力:NHKアート
:NHKテクニカルサービス
演出:竹林 淳
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『炎 立つ』
第10回「衣川撤退」
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