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2024年8月12日 (月)

プレイバック春日局・(23)悲劇の予感

【アヴァン・タイトル】

神奈川県小田原市は人口19万人。古くからの城下町で、江戸時代は箱根の関を控えた江戸の西の守りの要衝でした。寛永9年、ここの城主となったのが、おふくの子・稲葉正勝。幼名千熊です。竹千代誕生時に小姓となった少年たちの中で、目立って出世をしたのがこの千熊でした。千熊は小姓組番頭などを経た後、27歳の若さで要職に抜擢されました。千熊に次いで松平長四郎、後の信綱も老中に就きました。

こういうケースは彼らだけではなく、後世名高い2人の人物、五代将軍綱吉に仕えた柳沢吉保と、九代将軍家重に仕えた田沼意次もまた、小姓出身でした。千熊たち小姓は、主君竹千代の遊び相手、かつ学友であると同時に、身辺を警護する親衛隊の重要な職務を任されていました。幕府に信任の厚い彼らは、やがて幕閣を支える中心人物に成長してゆくのです──。


慶長13(1608)年、稲葉正成・おふく夫婦にとって実家ともいえる 美濃清水城主・稲葉通重が婦女暴行の罪で、稲葉家は改易、通重は流罪となりました。この事件を通して駿府と江戸の二元政治の勢力争いに巻き込まれたおふくは、乳母を辞めて江戸城を去る時が来たと密かに心を決めていました。そんなある日、竹千代の小姓たちがけがを負うという事件が発生します。

千熊に続き、松平長四郎も「木から落ちた」と明らかな嘘をつき、おふくは千熊の着物を脱がせます。背中には木刀で打たれた無数の傷があり、おふくは小姓たちを問い詰めますが、誰一人として口を割りません。大した傷ではなくても、事の次第をわきまえておかなければ、おふくの面目が立たないのです。そこに竹千代がやってきて、千熊を心配しています。

おふくは千熊ひとりを残し、他の小姓たちに竹千代の遊び相手をするよう促します。竹千代を心配させている千熊を、おふくは叱責します。これだけの手傷を追って何ごともなかったとは通らないと、おふくは釈明するまで謹慎を命じます。千熊はただ黙って下城していきます。そこにお江与の使いでおくにがやって来ました。

小姓同士のいさかいに大人が出ることではないながら、心配したお江与が見舞いの品をおくにに届けさせたのです。そこでおふくは、千熊たちがお江与の庭に無断で入ったと聞かされます。そして国千代の小姓たちが捨て置けぬと傷を負わせたわけです。おくには厳しくしつけるようおくにに言われてしまいます。「子ども同士というても、奥を二つに割るようなことがあっては……」

おふくは小姓たちを呼び、なぜお江与の屋敷の庭に入ったのかを尋ねます。そこでようやく長四郎がすべてを白状します。もし国千代の小姓たちに手傷を負わせれば、事はもっと大きくなっていたでしょう。国千代が竹千代と競い合うのはあったとしても、おふくは小姓たちに張り合ってはならないと諭します。そしてことを収めるため打たれ続けた千熊を労わります。「よう辛抱なされました」

お江与と国千代を訪れる竹千代とおふく、小姓たちです。お江与は竹千代にすずめの入った鳥かごを渡し、竹千代は千熊に嬉しそうに報告します。お江与は千熊に悪いことをしたと詫びますが、主君が仲良くても家臣が争って家を潰すことがあると諭し、そのためにも高丸を早く小姓として申し受けたいと催促します。そしておふくにも、いつまでも竹千代と小姓たちを束ねてほしいと言葉をかけます。

おふくが宿下がりを願い出て正成邸に来ました。正成は、おふくが今後を迷っていると察知します。千熊は宿直のない夜は正成邸に泊っているようで、千熊から聞いておふくのことも奥のことも全てお見通しです。おふくが身を引いたら、竹千代も千熊たちも、親身になって守ってくれる味方を失うことになります。「わしへの遠慮は無用じゃ。そなたは気の済むまで竹千代ぎみにお仕えしたらええ」

 

その年の夏、おふくの子・高丸が5歳で国千代の小姓となりました。徳川秀忠とお江与との対面には、正成が国許に戻っているため、おふくが代理として立ち会います。お江与は利発そうな高丸に満足そうです。そしておふくは乳母として引き続き城に残り、徳川家に身命を賭してお仕えすると宣言し、秀忠とお江与は安堵します。そしてそのころ、おふじが男子を出産します。後に家光の重臣となる堀田正盛です。

9月、家康が江戸城へ帰ってきました。駿府城も完成間近で、家康はこれを機にお勝と市姫を駿府に引き取ることにします。これからも竹千代に仕えるというおふくに、絶対的な信頼を置く家康はその養育を一任します。家康は、熱海の湯が身体にいいと、湯の入った樽をいくつも江戸城に運ばせ、竹千代に使わせます。

樽が国千代に届けられなかったことに、お江与は不満です。竹千代は徳川の世継ぎだと秀忠は諭しますが、同じ徳川の子でありながら、嫡男と次男でなぜ差別するのか、お江与には納得できません。お江与は秀忠に、国千代にも竹千代同様立ててほしいと言い置きます。「天下の将軍が、いつまでも大御所さまを憚ってばかりおられては……少しはしっかりなされてくださいませ!」

国千代をお江与の手元に置いたのは間違いだったかもしれない、と秀忠は土井利勝に吐露します。父には逆らってはならないという考えを、お江与には分かってもらえず苦悩しているのです。ふと顔を上げると、東屋(あずまや)には先日のお静が茶を点てていました。驚く秀忠に利勝は微笑みます。秀忠の心労を少しでも慰めたいという利勝なりの気遣いです。「ごゆるりと一服、召し上がってくださいませ」

お静は城下の娘で、城には下働きに上がっていますが、心映えのよい娘だそうです。ただお静には客人の正体を明かしていません。利勝はお静に客人を紹介し、所用があるといなくなってしまいます。秀忠は緊張しているお静に優しく声をかけ、緊張の解けたお静は亡くなった母の話をし、その心根の優しさに触れて、秀忠にとって心の渇きを癒してくれる至福の時間が過ぎていきます。

 

12月、家康はお勝と市姫を連れて駿府へ帰ることになりました。おふくは乳母として城に上がってからこれまで、世話になったお勝に礼を伝えます。家康は別れに際して兜と太刀を竹千代に贈り、おふくはこの兜と太刀に恥じない主君に育てることを約束します。

慶長14(1609)年正月。竹千代には年始の挨拶に100人ほどの諸大名の使者が訪れます。国千代との差があまりに解せず、お江与は竹千代に贈られた祝いの品々を改めさせたほどです。お江与は、まだ幼い竹千代が世継ぎと決まったわけではないと主張します。長男が暗愚のために次男三男が家督を継いだ例はたくさんあるのです。それを家康が理解していないことにお江与は失望します。

それほど竹千代のことが疎ましいのかと秀忠は声を荒げますが、お江与なりの心配の末です。国千代が竹千代より優れていれば、当然の話として国千代が世継ぎになるのが徳川のためです。お江与は国千代がいつ世継ぎになってもいいように、これまで養育してきたし、これからもその覚悟です。お江与は侍女を呼びます。「おふくどのに伝えてくだされ。しばらく竹千代ぎみの目通りは無用じゃ、と」

自分の手元で育てた国千代へのお江与の愛情は、国千代が4歳のかわいい盛りを迎えていっそう強いものになっていました。そして今、それが徳川の悲劇の発端となっていきます。


原作・脚本:橋田 壽賀子「春日局」
音楽:坂田 晃一
語り:奈良岡 朋子
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[出演]
大原 麗子 (おふく)
長山 藍子 (お江与)
山下 真司 (稲葉正成)
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中条 きよし (土井利勝)
東 てる美 (お勝)
松本 友里 (お静)
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中村 雅俊 (徳川秀忠)
丹波 哲郎 (徳川家康)
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制作:澁谷 康生
演出:兼歳 正英

 

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『春日局』
第24回「母ふたり」

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