プレイバック炎 立つ・第一部 北の埋み火 (10)衣川撤退
【アヴァン・タイトル】
奥州北部には2つの強大な勢力があった。陸奥国奥六郡の安倍氏、そして出羽国山北(せんぼく)三郡の清原氏である。出羽山北の俘囚の主といわれた光頼は、安倍氏と共存していた。
しかしその弟武則、武則の嫡男武貞に実権が移り、関係が急変する。黄海(きのみ)の戦いで源氏軍が安倍軍に敗れ、安倍氏が国府を凌(しの)ぎ、陸奥全土を支配しかねない状態となったのである。これは清原氏には脅威であった。武則は頼義・義家親子の執拗な援軍要請を受け、ついに挙兵する。そこにはこの機に乗じて奥州の覇権を狙う清原氏の野望があった──。
康平5(1062)年、国府多賀城に高階経重が入ります。武装した軍勢に囲まれての入城に、内裏には戦をするつもりがないことを表明する経重ですが、武士たちは鼻で笑います。想像した以上に立派な構えの多賀城に、歌詠みとして過ごすのも悪くないとつぶやく経重ですが、都の公家はのんきでうらやましいと笑われます。
安倍との戦いの軍議を開いていた源 頼義は、戦の最中は決着が続くまで前任者が続ける決まりを盾に、経重に都へ帰るよう強く勧めます。そもそもは藤原登任が仕掛けたこの戦を、こちらから和議を結んで戦が収まるはずがないと頼義は譲りません。「和議なら和議でその証に陸奥守の首の一つも差し出せと言われても仕方のない状況にござるぞ。そのお覚悟があっての着任なれば、わしとて文句は申さぬ」
経清は、頼義が経重を追い返したことに愕然とします。経重が都に戻り、内裏が次の決定を出すまでの間に戦を始めれば、一応の大義名分は得られるわけです。頼義はこの戦で死にたいのか、勝てる自信があるのか……。ともかく2万の兵が国府軍に加わり、大戦になると厳しい表情を浮かべる経清は衣川へ向かいますが、予想に反して国府軍には目立った動きがなく、経清は再び江刺へ戻ってきました。
安倍が陸奥守の首を欲していると聞いて肝を縮めた経重が、すごすごと都に戻ってきました。藤原経輔は、清原2万の軍勢を加えたとして頼義は勝てるのかと懐疑的ですが、藤原教通は頼義ではとても安倍に勝てないし、援軍も出せないと鼻で笑います。藤原頼通は、内裏としては参戦できない態度を明らかにし、頼義が勝手に戦をしていると強調して様子を見ることにします。
衣川から戻ってきた経清を、源 義家と瀬田剛介が訪ねてきました。義家は5年前の黄海の戦いで命を助けられたお礼を述べると、そそくさと帰ろうとしますが、経清には頼義と義家の命を助けたことが今の自分を苦しめていると明かします。命を奪われる危険も顧みずに会いに来てくれた義家と、太刀を交換したいと経清は自らの太刀を差し出します。「大事に使わせていただこう」
7月に入って出羽に不穏の動きがあり、経清は衣川へ急行します。軍議では15,000~16,000の清原の出方が見えないだけになかなか決まりません。繁農期で戦は2万しか割けず、経清は衣川をいったん捨てる奇策を提案します。衣川には5万の民が暮らし、本拠を預かる貞任は聞きず、安倍良照は負けを認めるということかと反発しますが、「どのみち、衣川では戦えぬ」と経清は地図を見つめます。
経清は、わざと小松柵を敗らせて衣川へ敵を誘導し、南の川崎柵と北の鳥海柵(とりのうみのさく)から敵を挟み撃ちにすると主張します。もし衣川で敵をせん滅できなかった時には、本隊を鳥海柵の北にある厨川まで移すと聞いて、良照は「そこまで一挙に退くか」と目をむき出しにします。厨川なら1万の兵が籠城でき、民も少なく被害が少ないわけです。これでいくべ! と貞任は決定します。
一家を挙げて厨川へ避難することになりました。流麗は千世丸も連れて行こうとしますが、未熟ながらひとりの武士として認めてくれている父らと、千世丸は離れるつもりはありません。川崎柵の父・金 為行のところに行く侍女に、流麗は他人にはみられてはならないと厳命して父への文を託します。そのやり取りを偶然結有は目撃してしまいます。
数日後、厨川へ向かう荷駄隊が次々と衣川を出発し、瑞乃ら女たちの移動が密かに進められます。7月末、清原武則率いる13,000の大軍が出羽を出、鬼切部を経て伊治城を目指します。少し遅れて頼義軍2,000が国府多賀城を出発し、伊治城で清原軍と合流した総勢16,000の軍勢は伊治城近くの丘に陣を張ります。しかし4日経っても軍勢が動き出す気配はありません。
5,000の兵が詰める川崎柵では、貞任のほかに経清と安倍宗任、そして為行が入っていました。宗任は敵が衣川に1万、残りの5,000で川崎柵と小松柵を同時に攻撃する可能性を模索しますが、為行は笑ってそれを否定します。敵が動き出したという報が舞い込みますが、どこに向かうかまでは掴み切れていません。乙那は飯を食うからと経清を誘い出します。
国府軍が食料調達に乗り出したらしいです。戦が長びくと予想したことが伺えますが、安倍が本陣を厨川へ移したことが知られたかもしれません。その情報を知ったのが物見からでなければ、内通者の可能性を乙那は示唆します。結有から流麗の愚痴ばかり聞かされていた経清は乙那に流麗周辺を探らせていたわけですが、流麗の父・為行の館に義家が立ち寄ったとの情報を厨の侍女から聞いたのです。
為行に会ったというよりも、流麗と会っていてそれを為行が黙認しているようです。為行は自分の孫(千世丸)が陸奥の覇者になることを強く望んでいます。だからこそ国府軍と安倍軍の和議がなり、経清が陸奥守となって勢力を持たれるわけにはいかないのです。そしてその思いは、娘の流麗も同じというわけです。「女は男次第で、鬼にでも夜叉にでもなれるでな」
ひとり広間に残る為行のところに貞任が戻ってきました。為行は5月に義家が江刺を訪問したことを告げます。余計なことを耳に入れるなと貞任は一喝しますが、為行は黄海の戦い後に雪中で頼義・義家親子を見逃した出来事も貞任に報告します。さらには経清はもともと頼義の家臣であったことも念押しし、為行は経清が敵に内通しているといわんばかりです。貞任は為行を睨みつけます。
敵はどこに攻めてくるか──。石坂近くに陣を敷く宗任ですが、敵が頼義・清原の全軍で攻めてくると聞いて慌てて撤退します。柵は一日も持ちこたえることが出来ませんでした。川崎柵も焼き討ちにされ、経清と貞任も必死に逃げていきますが、落馬した貞任を経清は助け出します。貞任は経清に掴みかかります。「なぜだ……こんなことがなぜ……なぜだ経清! なぜなのだ!!」
原作:高橋 克彦
脚本:中島 丈博
音楽:菅野 由弘
語り:寺田 農
題字:山田 惠諦
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[出演]
渡辺 謙 (藤原経清)
古手川 祐子 (結有)
村田 雄浩 (安倍貞任)
川野 太郎 (安倍宗任)
鈴木 京香 (菜香)
財前 直見 (流麗)
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寺田 稔 (乙那)
赤座 美代子 (瑞乃)
名高 達郎 (清原武貞)
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蟹江 敬三 (吉彦秀武)
佐藤 浩市 (源 義家)
佐藤 慶 (源 頼義)
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制作:音成 正人
制作・著作:NHK
共同制作:NHKエンタープライズ
制作統括:高沢 裕之
制作協力:NHKアート
:NHKテクニカルサービス
演出:門脇 正美
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『炎 立つ』
第11回「血戦」
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