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2024年8月16日 (金)

プレイバック春日局・(24)母ふたり

【アヴァン・タイトル】

私たちの心に深く刻まれた“おふくろの味”。竹千代、後の将軍家光にもそんな味がありました。育ての親・おふくの「七色めし」です。七色めしとは、病弱だった家光のためにおふくが選んだといわれる7種類のご飯のことです。

麦めし。粟めし。赤小豆めし。青菜を入れた菜めし。いずれもビタミン豊かな健康食です。一度茹でたご飯を蒸した湯取りめし。米粒を細かく挽いて炊いた挽き割りめし。どちらも柔らかく、病気の時には最適です。炊いたご飯を乾燥させた乾飯(ほしいい)は戦の時の携帯食です。幼いころ、これを食べて生き延びたおふくは、その体験を家光に伝えたかったのかもしれません。

健やかに、立派にお育ちするよう、おふくの願いのしみ込んだ七色めしは、家光終生の思い出になったに違いありません──。


慶長14(1609)年の新春、年が明けて竹千代は数え6歳になりました。お江与との対面を前に、おふくは竹千代に思ったことをはっきり言うよう勧めます。竹千代はお江与に剣の腕前を披露したいとニッコリしますが、お江与への目通りはしばらく無用との知らせが舞い込みます。突然竹千代に対するお江与の態度が変わり、何か感じ取ったおふくは奥へ向かいます。

お江与への目通りを願い出たのに、対面したのは侍女のおくにでした。おふくは、竹千代に対面してもらえない理由をおくにに尋ねますが、会いたくないから会わないのだと人を小ばかにした返答です。竹千代のどこが気に入らないのか? おふくの言動に機嫌を損ねるものがあったのか? しばらく無用とはいつまで? とおふくは食い下がります。「さあ? 御台さまのお心は、わたくしにとて分かりかねまする」

竹千代は千熊を相手に剣の稽古です。竹千代はかつて千熊が国千代の小姓たちにめった打ちされたことを忘れておらず、いつか敵討ちしてやると心に決めて稽古に励んできました。おふくは竹千代に、国千代の小姓たちにそのような感情を抱いてはならないとたしなめます。竹千代はだからこそ正々堂々と剣で勝負するのだと胸を張りますが、いつ会える? との竹千代の問いに、おふくは黙って下を向きます。

おふくの居室では国千代とすごろくをして遊んでいます。「何ゆえ竹千代に会うてやらぬ?」と徳川秀忠はお江与をただしますが、お江与はそれには答えずすごろくの方に夢中です。知力と武運、丈夫がなくては人の上には立てないと笑顔を見せるお江与は、徳川家康はじめ諸大名は竹千代が徳川の世継ぎと決めた扱いに不満で、竹千代を疎んずるのはその者たちへの見せしめなのです。

 

秀忠は、お江与が国千代を溺愛する気持ちも理解しつつ、このままでは竹千代も不憫だと考えています。土井利勝は、この件が家康の耳に入ったらと危惧しますが、今はお江与の心のままに、そしておふくには事情を話して竹千代が傷つかぬように配慮することにします。兄弟のうち器量のいいほうを世継ぎにというお江与の考えも道理ですが、今の秀忠には何も決められないのが口惜しい限りです。

東屋(あずまや)にはお静の姿がありました。無論利勝が呼んだのですが、秀忠が気に入れば側室にと勧められます。何もこのような東屋で隠れて会わなくてもという利勝に、お静と他愛もない話をしているだけで慰められる秀忠です。「静とて側室になどしたら哀れじゃ。奥の女子どもの風当たりとて強かろう。奥の煩わしさで静を縛りとうはない」

といいつつ、利勝がその場を離れると秀忠は東屋に向かいます。お静は、猫のたまと殿さま(=秀忠)のことを話していると笑います。優しくしてくれた殿さまのそばにひと時でもいられて幸せ……そういうお静がけなげで、秀忠のこころに花が咲いたようです。「女子がものをこしらえている姿というのは美しい」 秀忠がそうつぶやくと、お静は照れます。

竹千代の膳を確認するおふくですが、指示しておいたはずの菜が入っていません。どうやら最近好き嫌いが激しくなっているようです。分別のつく年ごろに成長し、そろそろ考えねばとおふくはつぶやきます。そこに利勝がおふくに会いに来ました。

お江与が対面したくない事情を利勝から聞き、おふくはやはりと合点がいったようです。利勝は、お江与の目が覚めるまではおふくが竹千代を守ってほしいと伝えます。おふくは、竹千代が器量なく弟に世継ぎの座を取られるようなことがあっては、徳川は危うくなり天下の乱れる元だと、誰にも竹千代が世継ぎの器量を備えた殿であると納得してもらえるよう、養育する覚悟を固めます。

 

おふくは竹千代と小姓たちに論語の講義をしますが、竹千代は対面してくれないお江与のことで気持ちが入らないのか、今日はもうええ! と文机を叩きます。おふくは、学問とは決して楽しいものではなく、知力をつけることより学ぶ厳しさに耐える心の強さを養うものと諭します。いま教えたところを読むまで、ふくとともにここに座ってもらうと言われ、竹千代は諦めたように座ります。

夕餉の膳に菜が入っていて、竹千代は菜の器をどかして他を口に運びます。菜を食べないなら膳を引かせるとおふくに言われ、竹千代は膳をひっくり返してしまいます。お江与の元に向かおうとする竹千代に、おふくは膳を片付けるよう忠告します。それでも竹千代は聞かず、小姓たちが止めますが、おふくはついに会いに行くことを認めます。「そこまで思いつめておいでなら、一人で会うておいでなさいませ」

お江与の居室に向かっても誰もいません。「母上!」と叫ぶ竹千代の声に、侍女たちが大騒ぎしますが、竹千代は構わず奥へ奥へと進んでいきます。するとおくにが現れ、竹千代の前進を遮りますが、何度も何度も「母上!」と叫ぶ竹千代の声に、ついにお江与が竹千代の前に出て来ました。おふくに病気と聞いていただけに、元気そうな姿に安堵する竹千代です。

お江与は「竹千代“殿”」とよそよそしく呼び、血肉を分けた母と子でも好き勝手に会えない時もあると諭します。しかし会えないといっても母と子には変わりなく、竹千代にはおふくがついていてくれるのだから、母は立派に成人するのを見守っていると伝えます。そこに眠そうな国千代が泣きながら入ってきました。国千代をあやすお江与を見て、母に甘えられなかった竹千代の表情はみるみる険しくなります。

膳がひっくり返されたまま、ひたすら待ち続けるおふくのもとに、おくにに付き添われて竹千代が戻って来ました。おくにに厳しく叱責を受けるおふくですが、今回のことは表ざたにはしないとのお江与の言で、おふくは不問に付されます。おくにが戻っていき、おふくの笑顔を見ると、竹千代は黙ってひっくり返した膳を片付けます。その背中を見ていたおふくは、感極まって竹千代を抱きしめます。

自分には、おふく以外に頼る者はいないと竹千代は悟り、これからはおふくの言うことを聞くと約束します。母は国千代の方が大事なのだとショックを受ける竹千代ですが、竹千代のことはおふくが守ると激励します。竹千代だけに苦労を背負わさず、おふく自身も小姓たちもともに──。「今日の若君はご立派にございました。ふく、安堵いたしましてございます」

庭では国千代と高丸は相撲を取って遊んでいます。端午の節句を迎え、国千代にも諸大名から多くの祝いの品が届けられました。満足そうなお江与は、竹千代には不憫なことをしたと言いつつ、竹千代は気性が激しくおふくに甘く育てられたとあって、先が思いやられます。子はやはり母親の手元に置かなければ思うように育たないものだとつぶやきます。秀忠は何も返す言葉がありません。

夕方、秀忠は庭を歩き東屋に目をやりますが、そこにお静の姿はありません。利勝が付き従っているわけではなく、利勝がお静を呼び出したわけでもないため、当然のことではあります。しかし無人の東屋にも秀忠の目にはお静の姿が浮かぶようで、秀忠は一抹の寂しさを覚えます。

そのころ利勝はおふくと対面していました。近ごろ国千代が世継ぎになるのではないかといううわさがあり、利勝はおふくを心配していたのですが、おふくはそんなうわさはまったく気にかけていないようです。ただひたすらに家康から預かった竹千代を、御意にかなうよう養育するまでと返します。利勝は、家康の耳に入らないうちにこのうわさを何とかせねばと考えあぐねています。

徳川の奥ははっきり2つに割れようとしていました。おふくは生涯に何度目かの険しい道を歩き始めていました。


原作・脚本:橋田 壽賀子「春日局」
音楽:坂田 晃一
語り:奈良岡 朋子
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[出演]
大原 麗子 (おふく)
中村 雅俊 (徳川秀忠)
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浅利 香津代 (おくに)
松本 友里 (お静)
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中条 きよし (土井利勝)
長山 藍子 (お江与)
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制作:澁谷 康生
演出:小見山 佳典

 

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『春日局』
第25回「こころの教育」

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