« プレイバック炎 立つ・第一部 北の埋み火 (11)血戦 | トップページ | プレイバック炎 立つ・第一部 北の埋み火 (12)厨川(くりやがわ)落城 (第一部最終回) »

2024年8月21日 (水)

プレイバック春日局・(25)こころの教育

【アヴァン・タイトル】

徳川家康が江戸に来て20年、町は大きく様変わりしました。江戸城から海に流れ出る日本橋川、家康はこの川の周囲を商業地域に定め、全国から商人や職人を呼び集めました。川には商品を運ぶ船が盛んに往来し、町人の活気で町は賑わいました。当時の地図を見ると、店を構えた町人たちの職業が一目で分かります。呉服町、桶町、畳町、炭町。ふるさとの地名をつけた町もあります。

現在の日本橋川は高速道路の下です。流れをさかのぼってゆくと、江戸一番の繁華街・日本橋に差し掛かります。日本橋のそばには魚市場が設けられました。市場の活気が日本橋をさらに賑やかにしたのです。江戸の人口はこの時すでに十数万、町は日の出の勢いで成長を続けていたのです──。


慶長14(1609)年、4歳の国千代を溺愛するお江与は、このころから6歳の竹千代を疎んじるようになります。竹千代は引き戸に隠れて庭で鯉を見ているお江与と国千代、勝姫たちの様子を隠れて見ています。竹千代は千熊たちにたしなめられますが、千熊たちを無視して戻っていきます。何を見ているのかと気になった千熊は、国千代を溺愛するお江与の姿を目の当たりにします。

竹千代は荒ぶって書物を小姓たちに投げつけ反抗します。わがままは許さないとおふくは厳しく言いますが、千熊がいたたまれなくなっておふくを止めます。千熊は別室で竹千代が目撃した光景をおふくに話し、単なるわがままとは思えないと訴えます。それをくみ取ったおふくは、今日の手習いを無理にさせることはせず、千熊たちにそばについているよう伝えますが、竹千代の心を強くせねばと気がかりです。

「竹千代ぎみを城外へお連れすること、何とぞお許しいただきたく」とおふくは土井利勝に願い出ます。突然の内容にさすがの利勝も驚きます。おふくが言うのだから理由があってのこととは察しますが、江戸城外には徳川の命を狙うものがウロウロしているわけです。賛成できるはずもありません。

竹千代も小姓たちも町方の着物を着てお忍びで出かけ、町方の暮らしぶりを見せたい──。お江与の仕打ちに心を痛める竹千代は、徳川の世継ぎとしての覚悟が固まらず、その養育ができないというのです。江戸城の奥にいればお江与のことから頭が離れないため、さまざまな人の暮らしがある世間を知ってもらうというのが目的です。こればかりはおふくの単独プレーではできず、利勝に協力を仰いだのです。

竹千代の不憫さも、おふくの胸中も痛いほどわかる利勝は、このことで竹千代の心が少しでも変わるのならと、危ない橋を渡るのも無駄ではないかもしれないと思うようになっていました。竹千代が城外に脱出して無事に帰城するまで、万事利勝が取り計らうことにします。「ただし、あくまでも隠密に。まず日取りを決め、全てに万全の策を講じたうえで」

 

決行の日が来ました。麻という糸で縫った小汚い着物を身に着けた竹千代は、同じような格好の千熊たちに驚きます。おふくから、今日は町に出ると言われた竹千代は目を丸くします。たくさんの町方の者が、今日を生きるため生業を立てている様子を見てもらうのです。見送りに出た利勝は、町のことをよく知る者としてお静を同行させることにしました。

江戸の町は活気にあふれています。片隅で行われている人形劇に興味を示し、うどん生地を伸ばす職人の手さばきに目を輝かせます。お静は城内で使われる米や油などを売っている地域に案内します。店に入れば何でもくれるのかと尋ねる竹千代に、おふくは銭を渡します。「これが銭にございます。若君がお好きなものをお求めなされませ」

竹千代は紙屋に向かいます。紙屋では職人が紙を裁断し、何種類もの紙が並べられています。紙を所望する竹千代は、主人からどんな紙が欲しいかと聞かれて答えに窮します。お静が「美濃紙を2丁」と助け船を出し、事なきを得ます。目を輝かせる竹千代は、銭を渡せば物をくれたと、銭をどうやって手に入れるのか尋ねます。「銭は働かねば手に入れることが出来ませぬ」

ものを売って銭をもらい、その銭で自分の生活に必要なものを買う。世の中の仕組みを理解した竹千代はさらに先に進みますが、片隅で野菜を売る農民の母娘に目を止めます。娘はまだ幼く自分より年下のようです。おふくが物を売って銭を売る大変さを教え、あの娘も母を助けて畑で耕し、売りに来ているのだろうと伝えます。

町方が食するものをと言われてお静が選んだ飯屋では、麦と汁、菜のみです。この飯はなんだと竹千代は顔をゆがめますが、目をよそにやれば町方の者たちがそれを食らう様子が見えます。竹千代は麦に目を落とし、黙って口に運びます。飯屋を出た竹千代は、まだ野菜を売っている母娘の前に立ち、銭を握った手を差し出します。「菜をくれ。全部くれ」

たくさんの菜を千熊や松平長四郎に運ばせて、竹千代一行は無事に帰城しました。おふくが手討ちも覚悟の上で言い出したことですが、今回の経験が竹千代にどう影響が出るかは未知数です。おふくは同行したお静の気配り心配りに胸を打たれ、部屋子にほしいぐらいだと笑いますが、これはあながち冗談ではなく半ば本気です。ともかく利勝にはお静にくれぐれもお礼をと伝えておきます。

竹千代の前に出されたのは、将軍家としての膳です。あの麦めしさえも食せない貧しいものもたくさんいる中、懸命に生きている人々を竹千代が守っていかなければならないということを、おふくは示したかったのです。お江与の仕打ちという小事に心を奪われていては、徳川の世継ぎにはなれないのです。竹千代は今日のことは忘れないと言い、嫌いな菜にも箸をつけます。

 

竹千代を城外に連れ出したことがお江与の耳に入り、即刻おふくに暇を出せとわめきます。しかし秀忠には利勝から相談があり、無事に済んだのだからと大ごとにはしません。家康の威光を笠に着て権勢をふるう芽を摘み取らねばと秀忠をけしかけるお江与は、子が父に逆らうことこそ家を滅ぼす元だと主張する秀忠を差し置いて、おふくに暇を取らせるよう家康に直々に書状をしたためることにします。

お江与の居室から戻っていく秀忠ですが、その庭先に狼藉者が忍び込んでいました。捕まえてみると、それはお静でした。唇をかむお静に秀忠は表情を固まらせますが、利勝は大笑いします。「その者にはわしが使いを頼んだのよ。詮議は無用」と利勝がとりなし、大事に至ることはありませんでした。

いつもの東屋で、お静が点てた茶を一服します。しばらく会えず、東屋に行けば“殿さま”と会えそうな気がして とつぶやくお静をいじらしく感じた秀忠は、暇をいただくと立ち上がろうとするお静を止め、自分の気持ちを伝えます。「わしとて会いたかった。会うてはならぬと……そなたを傷つけてはならぬと……」

「一に曰く道、二に曰く天、三に曰く地、四に曰く将、五に曰く法……」と、竹千代と小姓たちが孫氏の兵法を習っている横で、縫い物をするおふくは、竹千代の学びに対する成長ぶりに笑顔ですが、侍女のきくはおふくに対するお江与の風当たりを心配しています。もし家康がおふくを許さぬというのであれば、それも致し方ないとおふくは笑います。

駿府では、お江与からの訴えが家康の元に届きます。しかし家康は、おふくもなかなかやりおるのう! と大笑いです。家康や秀忠は戦で下々の暮らしを見てきた立場ですが、竹千代は生まれながらの将軍で、戦に出ることはないだろうから、下々の暮らしを見せたいというおふくの考えももっともなのです。

市姫を遊ばせていたお勝は、お江与からの訴えを読み、お江与は納得がいっていないようだと同情しますが、家康はおふくの実力行使に愉快そうです。結局お江与の訴えは家康に無視され、おふくは不問に付されます。この時遊ばせていた市姫は、翌 慶長15(1610)年2月、病死してしまいます。

 

その年の秋、次期将軍について国千代と決めてかかる諸大名が増えてきました。おふくと対面した利勝は、家康とお江与との板挟みになっている秀忠が気の毒だとつぶやきます。利勝は昨年 江戸市中を案内したお静のことを持ち出し、秀忠の子を身ごもったと打ち明けます。秀忠はお静に無事に子を産ませてやりたいという意向です。

しかし利勝が動いては目立ってしまうため、同じ女性でもあるおふくに、しかるべきところへの世話を頼みたいと言い出すのです。おふくは、大事な将軍家の子を無事に出産できるよう、できる限りのことはすると協力することにします。

お静を城外に出すことになり、秀忠はお静に詫びます。邪魔になったからではなく、正室お江与のいる奥ではお静が辛い思いをするのが目に見えているからに他なりません。お静は十分に理解していて、秀忠に会えたことは幸せだったと笑顔を見せます。秀忠は懐から守り神をお静に授けます。「立派な子を産んでくれ。先々徳川を支えてくれるような立派な子を……」

間もなくお静はおふくに伴われて、江戸近郊 武州八王子で庵を結ぶ、武田信玄ゆかりの娘・信松尼のもとに預けられます。しかし数日後、おふくはお江与に呼び出されます。挨拶をするおふくの言葉を遮って、お江与はおふくを問いただします。「静という女子、いずこへお連れなされた?」

秀忠が若い娘と奥の庭で会っていることを知っていたお江与は、いずれ側室にするつもりなのかとその女子の正体を詮議させていたら、急にお静が暇を取ったことで判明したわけです。しかも場外へ連れ出したのがおふくというところまで調べがついていました。それであってもおふくは、そのような女子は存じませんと白を切ります。

もしお静が身ごもり男子を産めば、徳川にはゆゆしき事態になると、お江与はお静の落ち着き先を聞き出します。おふくはうつむき、あくまでも知らぬ存ぜぬを通します。お江与は涙を浮かべます。「よう分かった。おふくどのを頼りにしたのが間違うておりました。私が改めれば済むことじゃ。上さまも、側室になされば済むものを」


原作・脚本:橋田 壽賀子「春日局」
音楽:坂田 晃一
語り:奈良岡 朋子
──────────
[出演]
大原 麗子 (おふく)
長山 藍子 (お江与)
東 てる美 (お勝)
──────────
中条 きよし (土井利勝)
松本 友里 (お静)
──────────
中村 雅俊 (徳川秀忠)
丹波 哲郎 (徳川家康)
──────────
制作:澁谷 康生
演出:富沢 正幸

 

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『春日局』
第26回「生き残る道」

|

« プレイバック炎 立つ・第一部 北の埋み火 (11)血戦 | トップページ | プレイバック炎 立つ・第一部 北の埋み火 (12)厨川(くりやがわ)落城 (第一部最終回) »

NHK大河1989・春日局」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« プレイバック炎 立つ・第一部 北の埋み火 (11)血戦 | トップページ | プレイバック炎 立つ・第一部 北の埋み火 (12)厨川(くりやがわ)落城 (第一部最終回) »