プレイバック春日局・(26)生き残る道
【アヴァン・タイトル】
大阪平野にそびえ立つ大阪城。昭和34年から始まった大阪城総合学術調査。今も続くこの調査から、それまでの大阪城に対する常識が覆されました。豊臣時代と徳川時代とでは、大坂城は全く違うものであることが分かったのです。
大坂夏の陣で勝敗の決着がついたあと、豊臣時代の建築物は全て壊され、土に埋められました。その上に徳川大坂城は建てられたのです。石垣すらも基礎から新たに積み上げられ、地上に豊臣時代の遺構は何ひとつ残されませんでした。
では、豊臣時代の大坂城はどのようなものだったのでしょうか。城の周りには二重三重に堀がめぐらされ、さらに北に天満川、東に平野川、そして西には大阪湾と、自然の要害に囲まれた難攻不落の大城でした。その広さは2km四方、豊臣方が最後の頼りとしたこの秀吉の大いなる遺産は、天下統一を目指す家康を最後まで苦しめることとなるのです──。
慶長16(1611)年3月、稲葉正成が江戸へ下向し、宿下がりの許しを得たおふくと千熊、高丸は、正成邸で久々に家族とともにひと時を過ごします。おふく不在の稲葉屋敷の世話は、堀田正吉に嫁いだおふじが面倒を見てくれていて、おふくは礼を言います。残念なのは美濃でひとり暮らすお安ですが、正成が言うには達者で御仏にお仕えしているそうです。
江戸城に出仕しているとはいえ、おふくと千熊は竹千代に、高丸は国千代に仕えているとあって、おふくと高丸が会うことはなかなかありません。高丸は竹千代がお江与に会いに来ないことを不思議がりますが、目通りをお江与が認めない状況は小姓たちには知らされていないようです。竹千代がお江与を嫌っているなどという噂もあるようで、おふくは流言に惑わされないようたしなめます。
徳川の世継ぎ争いの件は正成の耳にも入っていますが、徳川はそれどころではないと正成は説明します。駿府と江戸の徳川体制がようやく成り、あとは豊臣の仕置きだけ残されています。豊臣には秀吉が遺した財宝がうなるほどあり、難攻不落を誇る大坂城もあります。豊臣恩顧の大名たちが豊臣の元に集まれば、徳川を脅かす火種になりかねません。
後陽成天皇が間もなく譲位し、徳川秀忠の娘・和姫が入内する政仁(ことひと)親王が天皇に即位しますが、その祝いに上洛する家康は、二条城で豊臣秀頼と対面する予定にしています。かつて秀忠の征夷大将軍就任の際、秀頼へ祝いに伏見城にくるよう求めたものの、茶々の猛反発に遭って対面が叶わなかった過去があります。もし秀頼が二条城に来なかったらどうなるか……。おふくの表情が曇ります。
正成に借りた馬に乗って、おふくはお静を預けている武州八王子の信松尼の庵を訪ねます。秀忠からお静の身を預かったおふくの役目とはいえ、江戸城を出られないおふくは宿下がりの際でないと自由に動けず、お静のことに気づいたお江与の詮議も厳しく、表立って使いを頼むこともできません。信松尼はお静が無事に出産できるよう出来る限りのことをすると約束します。
3月6日、家康は5万の供を従えて駿府を発ち、5年ぶりの上洛を果たします。それを機に家康は、成人した秀頼と二条城で対面したいと申し入れます。二条城ゆきを勧める高台院(寧々)に、豊臣は関白家なのだから家康が大坂城にくればいいことだと饗庭の局や大野治長は反発します。「それでも豊臣の禄を食む家臣か! 情けない」と高台院は睨みます。
高台院は、今回も断って徳川が戦を仕掛けてきたら豊臣に勝ち目はないと説得します。しかし治長は、家康は70歳で先が長くなく、亡きあとは天下も変わると余裕です。秀頼は、家康と対面して収まれば済むことだと二条城に出仕することに決めます。無謀すぎると茶々は止めますが、高台院は加藤清正や浅野幸長も同行して秀頼を守ると約束します。「豊臣を守るは秀頼の務めにございます。お許しくださいませ」
3月28日、秀頼は大坂城を出発し12年ぶりに上洛、衣服を改めるため京の片桐且元邸に入ります。且元は関白家の御曹司が家康に出仕することは断腸の思いと表情をゆがめます。且元や清正は、家康に不届きの行為があった場合は挙兵する覚悟です。ただ家康に会うだけだと笑う秀頼は、くれぐれも軽挙妄動は慎めとたしなめます。
大坂城では、いつ戦になってもいいように治長がその準備に余念がありません。茶々は、もし秀頼の身に万一のことがあった場合、千姫を自害させて最後の一兵になるまで戦い、大坂城に火をかけるつもりです。茶々は千姫を呼び、秀頼が無事に帰還するまで居室に軟禁することにします。千姫はびくびくしながら耐えています。
江戸城では、茶々が秀頼を二条城に出してくれたことにお江与が安堵していました。ただ、家康が秀頼をどうするかは闇の中であり、もし秀頼の身に何かあれば千姫の命が危ないと、お江与は今さらになって千姫を嫁に出したことを悔やみます。秀忠は大坂城に千姫がいるからこそ、家康が豊臣を潰すなど手荒な真似はするまいと、お江与を安心させようとします。
竹千代は千姫の辛い胸中を察します。おふくは、お江与も千姫も豊臣と徳川の和と天下の和平のために輿入れしたわけで、その心を無にしないようにと竹千代を諭します。家康と秀頼の対面は天下を左右する大事であり、つつがなく果たすことが出来るように祈るだけです。竹千代もおふくの言葉に、素直にうなずきます。
二条城の対面の席では、立派に成人した秀頼が二条城に赴いたことで、豊臣と徳川の絆は不動なものになったと家康は大笑いです。祝いの盃と家康から勧められた秀頼はぐぐっと飲み干します。続けて秀頼は運ばれた膳に舌鼓を打ち、清正や幸長は怒りに震えます。一大名になり果てた豊臣は、今は徳川の力を頼りにしていると秀頼が頭を下げます。「秀頼どのがそのお覚悟ならば、豊臣家は安泰じゃ」
心配で居室をうろうろする茶々ですが、秀頼が戻ったと聞いて出迎えに駆けつけます。その場に残された千姫には、大蔵卿の局が「さぞお辛うございましたろう。ごゆるりとお休みなされませ」と労わり、千姫にようやくホッとした安堵の表情が浮かびます。また軟禁されていた緊張から解放されたせいか、涙をこぼす千姫です。
秀頼が家康の盃を受けたことに、茶々は家康が主君と認めたことと立腹します。さらに膳にも箸をつけたと聞いて茶々はあきれ果てます。清正は今回の会見で豊臣に手を出すことはないだろうと安堵しますが、大任を果たし終えた直後に体調が急変してしまいます。茶々は徳川に毒を盛られたと大騒ぎし、徳川に心を許してはならないと戦慄に震えます。
徳川家の中で宴が開かれ、家康は上機嫌で舞を舞います。本多正純はこの会見で徳川と豊臣の関係をはっきり示せたと笑顔ですが、家康は豊臣の仕置きはこれからだと考えています。「秀頼はただの男ではないぞ。このまま豊臣を捨て置かば、徳川を脅かす男となろう」 家康は、自分の目の黒いうちに豊臣を仕置きせねば、徳川の未来が危ういと厳しい表情を浮かべます。
一方徳川家では、国千代を世継ぎにと望む動きがあります。お江与は兄弟の区別なく、世継ぎとしてふさわしい方が後継者となるべきだという考えを持っていて、家老の本多正信ですら歯が立たないわけです。お勝は、竹千代にはおふくがついているのだから安心してお任せをと勧めますが、家康はあれこれ考えて、持っていた扇をパチンと鳴らします。
家康と秀頼の対面が終わったとおふくは竹千代に報告します。もし徳川と豊臣が戦になったら、竹千代は伯母茶々や姉千姫と戦わなければなりません。戦国の世では父と子が争い兄と弟が殺し合うことも珍しくなく、おふくは竹千代にはそんな非道な戦をしてほしくないと訴えます。「姉上と戦をするなど許さることではない」 力強い竹千代の言葉に、おふくは泣きそうになります。
5月、武州八王子の信松尼の庵に預けたお静はひっそりと男の子を出産します。そしてそのことは、利勝を経て秀忠の耳に入ります。秀忠は、自分の子どもでありながら祝ってやることも抱いてやることもできないと、浮かない表情です。秀忠はせめて「幸松(ゆきまつ)」という名を与えます。おふくを通じて十分な援助をしているとはいえ、秀忠にできることはそれぐらいしかないのです。
そしてお江与は、お静の行方を大久保忠隣に探らせていますが、未だに発見には至っていません。「ふくが面倒を見ておることは確かじゃ。つき止めたらふくはただではおかぬ」 お静が男子を出産していたらゆくゆく徳川の障りになるわけで、おふくの罪は許されるものではないと考えているのです。正信や利勝は家康が遣わした者で頼みにならず、お江与が頼りとするのは忠隣だけです。
そこにおくにが文箱を持って現れます。駿府の家康からお江与に宛てた書状が届いたのです。珍しいこともあるものだ、とお江与は顔を引きつらせながら文箱を開け、書状に目を通しますが、その目がみるみる怒ったように吊り上がります。その様子を見て、忠隣とおくには顔を見合わせます。お江与にとって意外だった家康の書状こそが、徳川の幕閣を揺るがす事件の発端となります。
慶長16(1611)年3月28日、山城国京都二条城において、徳川家康と豊臣秀頼が会見を行う。
寛永6(1629)年10月10日、おふくが上洛して昇殿し「春日局」名号を賜るまで
あと18年6か月──。
原作・脚本:橋田 壽賀子「春日局」
音楽:坂田 晃一
語り:奈良岡 朋子
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[出演]
大原 麗子 (おふく)
長山 藍子 (お江与)
中村 雅俊 (徳川秀忠)
山下 真司 (稲葉正成)
東 てる美 (お勝)
大和田 獏 (大野治長)
津嘉山 正種 (片桐且元)
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渡辺 徹 (豊臣秀頼)
野村 真美 (千姫)
中条 きよし (土井利勝)
前田 吟 (本多正純)
馬渕 晴子 (大蔵卿の局)
松本 友里 (お静)
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香川 京子 (寧々)
大空 眞弓 (茶々)
丹波 哲郎 (徳川家康)
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制作:澁谷 康生
演出:一井 久司
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『春日局』
第27回「舅から嫁への手紙」
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