大河ドラマ光る君へ・(32)誰がために書く ~まひろは宮中で執筆~
寛弘2(1005)年。一条天皇と亡き皇后定子の遺児・脩子(ながこ)内親王の裳着(もぎ)が行われた。「裳着の儀」とは、女子が成人したことを内外に示す儀礼であり、成年に達して初めて裳を着ける儀式です。この儀式には中宮彰子や敦康親王も参列し、おとなしく座っています。
一条天皇の亡き定子への執着は強く、いまだ公卿に復帰していない伊周を、大臣の下・大納言の上に座らせるよう命じた。「譲られよ」と立ちはだかる藤原伊周に、藤原道綱は戸惑い、藤原実資はムッとした顔で立ち上がり、席を譲ります。一条天皇は表向き、伊周の昇殿は脩子内親王の裳着に参列させるためとしたが、真の目的は道長への牽制であった。
まひろは亡き母・ちやはの観音像に手を合わせながら、春が好きだったと回顧します。その横では乙丸ときぬの喧嘩が始まります。京に来て初めて紅を買おうとしたきぬに、どんどん美しくなって他の男の目に留まるのがイヤだと、乙丸はきぬへの独占欲を見せたのです。意外な返答にきぬはデレデレと乙丸の首に手を回し、まひろといとは顔を見合わせます。
先日、帝に献上するために左大臣藤原道長に渡した物語ですが、あれから返事はなく、きっと帝のお気に召さなかったとまひろは落胆します。しかしあれがきっかけで、まひろの書きたいものがどんどん沸き上がり、今は誰のためというわけではなく自分のために物語を書いているまひろです。いとは、日々の暮らしのためにはならないと皮肉を言いますが、すでにまひろは没頭していて耳に届いていません。
脩子内親王の裳着から数日後、道長は土御門殿で漢詩の会を催し、伊周と隆家を招いた。
「春帰不駐惜難禁」(春帰りて駐(とど)まらず、禁(か)え難きを惜しみ、)
……「枝空嶺徼霞消色」(枝は花を落とし、峰は視界を遮るように聳(そび)え、霞(かすみ)は色を失う)
などと、藤原伊周は自らの身の不遇を詩に乗せて披露します。
会に参加した藤原斉信は、伊周はけなげな振る舞いだったと評価しますが、藤原公任や藤原行成は内心とは裏腹だと見抜いています。それよりもこの会で株を挙げたのは道長でして、帝が伊周に心を向け始めているものの、道長自身全く焦りを感じさせず、伊周という政敵を広い心で受け止める大きな器を示したのです。
帝は道長に、伊周を陣定(じんのさだめ)に参加させたく、公卿たちを説得せよと意向を伝えます。しかし道長は難しいと返答します。陣定は参議以上の身分でなければ参加できず、道長といえども無理というものです。帝のたっての意向と伝えれば角が立つため、道長の裁量に任せると言われれば、道長も前向きに検討するしかありません。「難しきことながら、はかってみましょう」
道長は帝に、それとなく先日献上した物語の感想を求めますが、忘れておった、と哀しい返事です。深いため息をついた道長は、まひろの屋敷に赴いて「お心にかなわなかった」と正直に打ち明けます。まひろは意外にも落胆せず、書きたいものを書くという気持ちになっています。道長は、俺が惚れた女はこういう女だったのか、と新たな一面を見るようです。
辞表を出した公任に翻意を促すため、一条天皇は公任を従二位に昇進させた。この辞表作戦を指南したのは、実資だった。公任は、その作戦を提案してくれた実資に礼を言います。ただのゴネ得だと笑う斉信ですが、これで従二位公任、従二位斉信、正二位実資となり、3人でムフフとニンマリします。
中宮彰子と敦康親王のいる藤壺に道長が訪問し、太鼓の胴の形をした壺へ矢を投げ入れる「投壺(とうこ)」という遊びをして見せます。喜ぶ敦康親王ですが、そこに急に帝のお渡りがあります。「お渡りのお触れはあったのか!?」と慌てふためく道長に、彰子はいたって冷静です。ともかく聞いていなかった道長は投壺の道具を女御たちに片付けさせます。
帝が着座し、道長は退室しようとしますが、あの物語は朕への当てつけか? と睨みます。物語よりも書き手に興味を持った帝は、書き手のまひろにまた会ってみたいものだとつぶやきます。唐の故事や仏の教え、我が国の歴史などさりげなく取り入れているところなど、書き手の博学ぶりは無双に感じられたのです。「会うなら、続きを読んでからとしよう。あれで終わりではなかろう」
その足でまひろの屋敷に現れた道長は、中宮彰子の女房にならないか? とまひろに持ち掛けます。物語の続きを読みたいと帝が言ったことを告げ、まひろその人にも興味を示した帝のために、藤壺にいてほしいというわけです。おとり? とまひろは感じますが、道長は否定はしません。「娘と離れがたければ連れて参れ。女童(めのわらわ)として召し抱える。考えてみてくれ」
源 倫子は、道長がなぜまひろを知っているのか訝(いぶか)ります。公任に聞いたのだと盃をあおる道長は、帝はまひろが書いたものを気に召して続きを所望していると伝えます。まひろを藤壺に置いて続きを書かせれば、帝が藤壺に訪れる機会が増える……倫子は身を乗り出します。「名案ですわ! まひろさんのことは昔から存じておりますし、私も嬉しゅうございます」
まひろは、道長に提案されたことを父・藤原為時に相談します。これからのことを考えると自分が藤壺に上がって働くしかない……。自分もまだまだ働けるとすねてみせる為時は、「帝の覚えめでたく、その誉れを持って藤壺に上がるのは悪いことではない」 為時は、内裏は賢子のような幼子が暮らすところではないと、この家で暮らすことを勧めます。
賢子は、自分のことが大好きならなぜ内裏に行くのかと率直に尋ねます。まひろは「一緒に行く?」と賢子に微笑みかけますが、行かない! と声を荒げます。お休みの日には帰ってくるし、寂しかったら月を見上げれば、母も同じ月を見ているから、とまひろは賢子をなだめます。賢子はそんなまひろの思いを知ってか知らずか、「行かない!」とそっぽを向いてしまいます。
まひろの姿は内裏の藤壺にありました。目の前には中宮彰子がいて、倫子がまひろを紹介します。実際に出仕するのは来月からということで、今回は顔見せです。道長や赤染衛門の見守る中、まひろは彰子に挨拶します。「前(さきの)越前守 藤原朝臣為時の娘、まひろにございます。帝と中宮さまの御ために、一心にお仕え申し上げる所存にございます」
挨拶が済み、倫子から屋敷内を案内するよう命じられた衛門は、まひろが夫を亡くした身であることも知っていますが、夫はいても大して当てになりませんけれど、と笑います。衛門の夫はあちこちに子どもを作り、衛門が育ててきたわけですが、そのうち子どもも大きくなり下の子の面倒を見てくれるようになり、帰ってこない夫を待つのに飽き飽きして土御門殿に上がったのでした。
人の運・不運はどうにもならないとつぶやく衛門は、道長を婿にした倫子は類いまれな運の持ち主と羨ましそうですが、道長と激しい恋に燃え、彼の子を授かったまひろは、表向きは衛門に同調しつつ「私は強運? 不運?」と複雑だったかもしれません。まひろはお仕えする彰子について衛門に尋ねますが、奥ゆかしすぎて謎ですの、と言われて戸惑います。
道長のもとに、安倍晴明危篤の知らせが来た。馬で屋敷に駆けつけた道長は、従者須麻流による祈祷が行われている中、晴明の病床を覗き込みます。晴明は道長の顔を見てから死のうと思ったようで、思いのほか元気そうな容態に道長は安堵しますが、晴明は天井を見つめたまま「私は今宵死にまする」とつぶやきます。
道長は彰子について晴明の助言のまま行ってきました。自身では実感が沸きませんが、道長はようやく光を手に入れ(たようで)、道長家からは帝も皇后も、そして関白も出ると晴明に告げられます。父のまねをするつもりはない道長ですが、晴明は最後にくぎを刺します。「光が強ければ闇も濃くなります。そのことだけはお忘れなく。何も恐れることはありません。思いのままにおやりなさいませ」
晴明が口を閉じると、須麻流が肩を震わせて泣き、道長は晴明に死が訪れようとしていることを悟ります。「長い間、世話になった」と深々と頭を下げます。果たしてその夜、カッと目を見開いた晴明は、波乱に満ちた生涯を閉じます。その夜、自らの予言通り、晴明は世を去った。
一条天皇は、伊周を再び陣定に召し出す宣旨を下した。その宣旨を受け取った伊周はニンマリします。一方で実資は言葉を失い、右大臣藤原顕光は、道長に対して怒りをたぎらせますが、道綱は道長を責めるのはおかしいと、右大臣自身が諫めてもよいではないかと訴えます。至極真っ当な主張に、顕光は黙り込んでしまいます。実資は不吉なことが起こらなければいいがと気がかりです。
その夜、皆既月食が起きた。闇を恐れ、内裏は静まり返った。月食が終わるころ、温明殿(うんめいでん)と綾綺殿(りょうきでん)から火の手が上がり、瞬く間に内裏に燃え広がった。まひろの物語を読んでいた帝は突然の悲鳴を聞き、敦康親王の身が気になって女房たちが逃げ惑う中を藤壺へ駆けていきます。
藤壺では、炎の中で女房たちに助けられるでもなく、彰子がひとり立ち尽くしていました。すでに親王は彰子によって逃がされていました。「そなたは何をしておる!?」「お上はいかがなされたかと思いまして」 帝は彰子の手を引いて、一緒に避難します。彰子がつまづいてしまっても、帝は彰子の肩を抱いて駆けていきます。
この火事で八咫鏡(やたのかがみ=三種の神器のひとつ)を焼失したことを、道長は居貞親王に謝罪します。これはたたりだ、と親王はつぶやき、伊周を陣定に呼び戻したことが原因だと怒りに震えます。「月食と同じ夜の火事、これがたたりでなくて何であろうか? 天が帝に玉座を降りろと言うておる! 間違いない。帝の御代(みよ)は長くは続くまい」
道長は、八咫鏡を失って深く傷つく帝に、中宮を助けてくれたことの礼を述べます。帝は中宮であるのだから当然だと返答しますが、正直中宮中宮というのは疲れてきたようです。下がれと言われて帝の前を辞した浮かない表情の道長と、陣定に復帰しやる気に満ちた顔の伊周は、廊ですれ違います。
帝の前に現れた伊周は、今回の火事の火の回り具合から放火に違いないと帝の耳に入れます。今度の火事は、伊周を陣定に加えたことへの不満の表れだと言われていて、たとえそうでも付け火は帝の命を危険にさらすだけです。表立って出せない帝の怒りを代わりに表現した伊周は「お上にとって信ずるに足る者は私だけにございます」とアピールを忘れません。
敦康親王の別当としての公任の報告でイライラが募る道長の前に、藤原隆家が現れます。中関白家の再興に命を懸ける兄伊周とは違い、自分は志高く政を行うことが望みだと主張するのですが、面会中にズカズカ入り込まれて公任は面目を失います。伊周は帝を籠絡し隆家は道長を懐柔する企みだと公任は言い出し、睨み合う公任と隆家。道長はふたりを仲裁し、公任を下がらせます。不服そうな表情の公任です。
粉雪が舞い散る日、まひろが内裏の藤壺に出仕する時がやってきました。行って参ります、とまひろは為時に頭を下げます。為時は、帝に認められ中宮に仕えるまひろを家の誇りだと胸を張ります。中務省(なかつかさしょう)で内記を務める藤原惟規は、遊びに来なよと姉に微笑みかけます。「お前が……女子であってよかった」 為時のひとことに、まひろは涙を浮かべます。
藤壺に上がったまひろは、宮の宣旨を始めとする女房たちがみなまひろを品定めするように見ていて、気まずい思いをします。名乗り、まひろが深々と頭を下げると、女房たちもそれに合わせて頭を下げます。藤壺での新し、苦難な生活の始まりです。
作:大石 静
音楽:冬野 ユミ
語り:伊東 敏恵 アナウンサー
題字:根本 知
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[出演]
吉高 由里子 (まひろ)
柄本 佑 (藤原道長)
黒木 華 (源 倫子)
三浦 翔平 (藤原伊周)
高杉 真宙 (藤原惟規)
町田 啓太 (藤原公任)
渡辺 大知 (藤原行成)
竜星 涼 (藤原隆家)
木村 達成 (居貞親王)
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ユースケ・サンタマリア (安倍晴明)
塩野 瑛久 (一条天皇)
見上 愛 (藤原彰子)
上地 雄輔 (藤原道綱)
秋山 竜次 (藤原実資)
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岸谷 五朗 (藤原為時)
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制作統括:内田 ゆき・松園 武大
プロデューサー:大越 大士・川口 俊介
演出:黛 りんたろう
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『光る君へ』
第33回「式部誕生」
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