大河ドラマ光る君へ・(31)月の下で ~まひろは天皇のために物語を~
まひろの屋敷に藤原道長が突然の来訪です。藤原公任の屋敷で和歌を教えるまひろの『かささぎ語り』が評判で、読ませてくれないかと道長はまひろに頼みますが、『カササギ語り』は燃えてしまってありません。新たに書く気にもなれないまひろに、道長は食い下がります。「中宮さまのために新しい物語を書いてくれぬか。帝のお渡りもお召しもなく、寂しく暮らしておられる中宮さまをお慰めしたいのだ」
寛弘元(1004)年。この年の秋、斉信(ただのぶ)が従二位に叙された。一歳年上の公任を追い抜いての出世であった。藤原斉信は、かつて道長が定子の中宮大夫から従二位に出世したのと同じように、道長に彰子を託されて中宮大夫にしていた斉信を従二位に叙しただけですが、先を越されて出仕拒否をする公任のところに赴いて、調子が出ないからと公任に出仕を求めます。
2人のところに大納言・藤原実資が現れます。実資も斉信と同じように公任を励まし、出仕を求めますが、誰かに頼まれたのだろうかと公任は実資と斉信を怪しみます。急に黙り込んでしまう実資を見て大きくため息をついた公任は、それとなく背中を押します。「ああ……会いにいくなら今ですぞ。間もなく学びの会が始まりますゆえ」
実資が女房と部屋に消えていく横で、まひろはあかねに『枕草子』の感想を求めますが、艶(なま)めかしさがないからあまり惹かれなかったと酷評します。「『枕草子』は気が利いてはいるけれど、人肌のぬくもりがないでしょ」 まひろはその意見を参考にすべく、あかねが所有している『枕草子』を借りて読んでみることにします。
皇后さまの影の部分を知りたいとつぶやいたまひろに、「皇后さまに影などはございません!」とききょうがムキになって反論していたことを思い出しつつ、まひろは『枕草子』を開いて読み始めます。一心不乱に読み進め、最後まで読み終えた時には夜が白み始めていました。
ひとりで過ごしている彰子を見舞う道長ですが、彰子は父(道長)と母(源 倫子)はどうかしたのかと尋ねます。娘でもあり、格上の中宮でもある彰子に、心配いただくようなことは何もありません、と答えはしたものの、道長が屋敷に帰って倫子が出迎えても、そっけなくすれ違っていくだけです。中宮のためにと働きかける気持ちは父母ともにありつつ、その形の違いがすれ違いを生んでいます。
道長は高松殿の源 明子のところに泊まります。藤原頼通が正五位下に叙されたと知り、明子は実子の巌(いわ)と苔(こけ)も間もなく元服と道長に知らせます。「我が子にも、頼通さまに負けない地位をお与えくださいませ」 自分は醍醐天皇の孫、北の方(倫子)は宇多天皇のひ孫、ただの嫡妻と妾の関係とは違うと明子は示しますが、争う姿を見せればいずれ子どもたちにも波及すると道長は諭します。
以来、道長は土御門殿にも高松殿にも帰らず、内裏に泊まる日が多くなった。
自分らしさって何だと思う? とまひろは藤原惟規に尋ねます。やなことがあってもすぐに忘れて生きてるところかな、と惟規は答えますが、まひろらしさって何? と問われ、頭を抱えます。「そういうことをグダグダ考えるところが姉上らしいよ。そういうややこしいところ、根が暗くてうっとうしいところ!」 まひろの頭に何かひらめいたようで、すっくと立ちあがり自分の部屋に向かいます。
道長は自分宛ての書状に目を通していました。その中にまひろからの文もあります。中宮さまをお慰めするための物語、書いてみようと存じます。ついてはふさわしい紙を賜りたく──。道長はすぐに高級の紙を手配し、まひろの屋敷に赴きます。百舌彦が積み上げたのは、まひろが好んだ越前の紙です。まひろが越前の美しい紙に、歌や物語を書いてみたいと言っていたのを、道長は覚えていたのです。
紙を文机に出すたびに、まひろは何だか嬉しさがこみ上げてきます。フッとほほ笑んで筆を走らせますが、一気に書き上げてしまいました。知らせを受けた道長は物語に目を通し、飽きずに読み通します。しかしその反応はまひろが考えていたものとは違ったようです。道長は中宮に読ませたいとまひろに物語を書かせましたが、目が虚ろになる道長を見てまひろはそのことを疑いだします。
「実は……これを帝に献上したいと思うておった」 道長の意外な告白にまひろはギョッとします。『枕草子』にとらわれる一条天皇は亡き定子から解き放たれず、『枕草子』を超える書物を献上することで、こちらに目を向けてもらいたかったわけです。ただそれを正直にまひろに伝えれば、政の道具にするのかと怒ったかもしれず、ゆえに偽りを言ったのでした。
まひろの心の中には、帝が読むものを書いてみたいという気持ちが芽生えていました。いま道長に読ませた物語ではなく、違うもの。帝のことを教えてほしいと、まひろは道長に懇願します。「道長さまが間近にご覧になった帝のお姿を、何でもよろしゅうございます。帝のお人柄、若き日のこと、女院さまとのこと、皇后さまとのことなど。思いつくままに帝の生身のお姿を」
家の者たちはまひろの邪魔をせぬように宇治に出かけていて、道長は屋敷に居座って帝の誕生から話し始めます。夢中になって話しているうち、日が暮れ始めます。まひろは、帝も“人”だから乱心もするし、道長の知らないところで苦しんだのだという結論に至ります。「それを表に出されないのも、人ゆえか」と道長はつぶやきます。
そして夜を迎え、道長とまひろは月を見上げます。人はなぜ月を見上げるのか……。『竹取物語』のかぐや姫は月に帰っていきましたが、もしかしたら月にも人がいて、こちらを見ているのかもしれない。まひろのつぶやきに道長はおかしなことを言うと返しますが、「おかしきことこそめでたけれ、にございます」と、かつて直秀が教えてくれた言葉を道長に教えます。
ひらめきがなく、廊をうろうろするまひろです。いとはまひろを心配しますが、道長の願いに応えようとしていると感じた藤原為時は、わざと放っておくようにいとをなだめます。文机に越前の紙を出すと、まひろの頭の中にいろいろな物語が沸いて、降ってくるようです。「いづれの御時にか──」とまひろは書き始めます。
いとや乙丸らが見守る中、まひろが描いた物語を道長に見せてみると、これは……と道長は言葉を失っています。かえって帝の機嫌を損ねるのではないかと思われます。これが私の精一杯とまひろは答えます。「これで駄目なら、この仕事はここまででございます。どうか帝に奉ってくださいませ」
そこに、心配そうに見守る賢子がいました。まひろは賢子を呼び、道長に挨拶をさせます。6つという年齢を聞いても、自らの膝に座らせても、道長は賢子が自分の子だと気づかず、母親に似て賢そうな顔をしていると賢子の頭をポンポンします。まひろは引きつった笑いを浮かべますが、家の者たちは微笑ましく眺めています。
道長はまひろが書き上げた物語を帝に献上します。道長の所用はこれだけのようで、この程度のことであれば蔵人(くろうど)に渡しておけばいいのにと帝はつぶやき、下がれと言われて道長は素直に従います。そして道長に渡した後でも、まひろは物語のあちこちを修正します。提出してしまったのにまだ直すのかと為時は呆れますが、まひろにとって物語は生きているわけで、筆を走らせます。
夜、帝は道長に献上された物語に目を通します。 『いづれの御時(おおんとき)にか、 女御(にょうご)、更衣(こうい)があまたお仕えしている中に、それほど高い身分ではありませんが、格別に帝のご寵愛(ちょうあい)を受けて栄える方がおりました。宮仕えの初めから我こそはと思い上がっていた方々は、その方を目障りなものとして蔑み、憎んでいたのです』 帝は思わず物語を閉じます。
作:大石 静
音楽:冬野 ユミ
語り:伊東 敏恵 アナウンサー
題字:根本 知
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[出演]
吉高 由里子 (まひろ)
柄本 佑 (藤原道長)
黒木 華 (源 倫子)
高杉 真宙 (藤原惟規)
町田 啓太 (藤原公任)
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塩野 瑛久 (一条天皇)
見上 愛 (藤原彰子)
ファーストサマーウイカ (ききょう/清少納言(回想))
秋山 竜次 (藤原実資)
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岸谷 五朗 (藤原為時)
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制作統括:内田 ゆき・松園 武大
プロデューサー:葛西 勇也・大越 大士
演出:中島 由貴
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『光る君へ』
第32回「誰がために書く」
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