プレイバック春日局・(21)母去りぬ
【アヴァン・タイトル】
ここは完成したばかりの江戸城の本丸です。あちらには立派な天守閣も出来上がりました。この天守閣の前にはたくさんの建物が立ち並んでおります。それでは今日はこの完成したばかりの、江戸城の本丸をご紹介しましょう。ひときわ目立つ五層の天守閣は高さ70メートル。20階建てのビルに相当します。もちろん江戸では一番高い建物で、ここからは江戸が一望のもとに見渡せます。
3万坪の敷地に建てられた本丸は、天守閣を境に表と奥に分かれます。表は政治を行う幕府の中央官庁です。奥は将軍の正室や側室が生活する、いわばプライベートの場。この奥だけでも広さは現代の3LDKの100戸分にあたります。おふく、お江与の住まいはここにあります。
家康が江戸にやってきて17年。本丸の完成をもって江戸城はまさに日本最大の城となったのです──。
慶長11(1606)年11月、ようやく徳川家康が江戸に帰城し、暇がもらえると胸をなでおろすおふくの前に、思いがけず稲葉正成がおふくを訪ねてきました。おふくは美濃へ帰れると笑顔ですが、正成は美濃国羽栗郡十七条に1万石で召し抱えられたと伝えます。召し抱えることによって、おふくを江戸城に引き止めておきたいという家康の真意を、正成は分かっています。
ただ1万石の大名となれば江戸屋敷を構えることになり、家族は江戸暮らしになります。これまでより家族の再会が容易になるわけです。さらに美濃国羽栗郡(はぐりごおり)は正成の故郷でもあり、父祖の地への凱旋は祖先への面目も立ちます。これらはすべて家康の配慮であり、正成は稲葉家の父として、仕官の話を受けることにしたのです。
美濃で無位無官のまま埋もれる父を置いて嫁には行けぬとおふじに言われ、堪(こた)えたわと正成は照れます。正成はおふじも連れてきていて、招き入れます。「おふじどのには私の留守を預こうてもろうて、さぞ苦労なされたろう」 おふくの優しい労わりの言葉に、おふじはおふくの胸に飛び込んで泣きます。母の不在に、おふじは辛く寂しかったのかもしれません。
目を覚ました竹千代がおふくを探して屋敷内を走り回っていて、千熊が追いかけています。図らずも対面所の前に現れ、おふくは竹千代を抱き止めますが、千熊は予測だにしない父と姉との再会に、目を輝かせます。江戸屋敷の普請のため正成は今夜からしばらく千熊の屋敷に逗留することになります。
これで夫婦ともども徳川のために働くことになり、家康は上機嫌です。そしてもうひとつ、側室のお勝が身ごもりました。もしものためにお勝は江戸に置いておき、家康のみが江戸と駿府を行き来することになりますが、お勝が一人では寂しかろうとおふくに話し相手になってやってくれと笑います。おふくは我がことのようにお勝の懐妊を喜びます。
乳母として江戸城に上がって初めておふくは宿下がりし、夫婦ともども千熊の屋敷で過ごします。おふくはおふじに、1万石の領主の娘として肩身の狭い思いをさせずに嫁いでもらえると微笑みます。正吉では不足かと正成に言われ、思わず「いえ」と本音をこぼすおふじですが、おふくの使いで屋敷に駆けつけた正吉と5年ぶりの対面を果たします。照れるふたりに正成とおふくはニッコリします。
おふくが宿下がりの時には竹千代がむずかって大変だったと知ったお江与は、またしばらくおふくが竹千代に仕えてくれることになって安堵しています。今度生まれてくる子はきっと男の子だと、お江与はおふくの子を小姓にもらえまいかと相談します。千熊の奉公ぶりを見て、おふくの子ならばと期待しての持ちかけです。
家臣の婚姻には将軍の認可が必要で、それが出るまでの間おふじはおふくの下で花嫁修業することになりました。おふくは、一家が江戸で暮らせるようになることを、果報が過ぎて夢のようだと顔をほころばせます。おふじは、おふくが“辛いことのあとには必ずいいことがある”と日ごろから言っていたことを思い出し、報われる時が来たのだと感じています。
美濃谷口村に戻った正成は、これまで一家を支えてくれたお安に感謝の言葉を述べます。来年の春には一家は江戸に移ることになる見込みで、その時に正吉とおふじの婚儀も挙げたいと考えています。お安は孫の婚儀に感慨深げです。「稲葉の家にも一時(いちどき)に春がやってくる……長い長い冬を耐えて、やっと春が」
12月3日、お江与は男子を出産し、国千代と命名されました。乳が足りない時のことを考えて乳母のお悠を召し抱えましたが、当初の宣言通りお江与は手元で国千代を育て、乳を与えています。お悠はやることがなくておろおろするばかりです。おふくは国千代に心を奪われるお江与に不吉なものを感じていました。この国千代の誕生が、おふくと竹千代の前途に暗い影を落とすことになります。
慶長12(1607)年3月、稲葉一族は晴れて江戸屋敷に入ります。それに合わせておふくは宿下がりを願い出て、おふじや千熊とともに屋敷を訪れます。黒髪に白いものが混じり始めたお安はおふくと久々の対面を果たし、千熊の成長した姿に目を細めます。おふくは君丸、七之丞、高丸との再会を喜びますが、母の顔を覚えていない高丸はおふくを拒絶しお安のもとへ歩み寄ります。おふくはショックを受けます。
正吉とおふじの祝言、そしてお江与から高丸を国千代の小姓にとの話もいただいています。正成もお安も異存はありません。生後間もなくおふくが江戸城に出仕したため、お安が高丸の母親代わりを務めましたが、小姓として出仕させても恥ずかしくない程度には厳しくしつけたつもりです。お安が“役に立てば”と思ってやったことながら、正成もおふくも、お安のおかげだと感謝します。
おふくのショックが尾を引いています。高丸がいずれ分別のつく年になればおふくを母と認識するだろうし、国千代の小姓として江戸城に詰めれば、共に仕えるおふくが母としての愛情をかけてあげる。お安はおふくに、焦ってはならぬと諭します。これまで尽くしてくれたお安に、おふくは好きなことを存分にと勧めますが、お安は仏門に入って夫や子らの菩提を弔いたいと打ち明けます。
婚儀前日、母代わりに育ててくれたおふくと、深い慈しみで接してくれたお安と共に眠ったおふじが、正吉に嫁ぎます。婚儀を終えて、やはりお安は出家の決意を揺るがせません。正成はお安のために、美濃の領国に寺を建立することにします。お安にとって美濃は生まれ故郷であり、何よりの餞と涙を流します。「私のことなど案ずることはない。そなたは己の選んだ道を全うなされ」
お安が江戸を出立する日の早朝。高丸がお安に抱きつき一家の涙を誘います。お安は高丸を諭し、後ろ髪引かれる思いで駕籠に乗ります。その行列は静かに屋敷を去ってゆき、おふくは大泣きしながら追いかけます。これが母と娘の最後の別れとなります。おふくは江戸を離れることを許されず、お安は江戸の土を二度と踏むことがなかったのです。
慶長11(1606)年12月3日、国千代が二代将軍徳川秀忠とお江与の三男として江戸城西の丸にて生まれる。
寛永6(1629)年10月10日、おふくが上洛して昇殿し「春日局」名号を賜るまで
あと22年10か月──。
原作・脚本:橋田 壽賀子「春日局」
音楽:坂田 晃一
語り:奈良岡 朋子
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[出演]
大原 麗子 (おふく)
長山 藍子 (お江与)
山下 真司 (稲葉正成)
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東 てる美 (お勝)
せんだ みつお (開田孫六)
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丹波 哲郎 (徳川家康)
佐久間 良子 (お安)
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制作:澁谷 康生
演出:富沢 正幸
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『春日局』
第22回「名ばかりの将軍」
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