大河ドラマ光る君へ・(34)目覚め ~中宮彰子の本音を聞きまひろは~
寛弘3(1006)年、興福寺別当・定澄(じょうちょう)は自分たちの訴えを直ちに陣定にかけるよう要求し、聞かなければ屋敷を取り囲み焼き払うと脅します。大和守の訴状で興福寺が乱暴を尽くしていることを知っていた藤原道長は、やってみよと定澄をけしかけます。「これほどの暴挙は許しがたい。僧どもを動かせばその方が別当で居続けることは叶わぬ。興福寺そのものとてただでは済まぬぞ」
大和守・源 頼親と興福寺が争う中、僧ひとりを殺された興福寺が右馬允・当麻為頼(うまのじょう・たいまのためより)の屋敷と田畑を焼き払い、双方からの訴えを受けて朝廷は、興福寺の筆頭僧・蓮聖の法会参列を禁じる裁きを下したのです。そこに大極殿前の正庁朝堂院に、興福寺の僧たちが押し寄せていると知らせが入ります。
道長は慌てて一条天皇に報告に上がります。なぜもっと早くに知らせなかったのかと帝は道長を叱責しますが、ちょうど陣定に諮っているところだったと弁明します。ともかく自分の判断の誤りだったと道長は非を認め、3,000もの僧たちを追い払うために検非違使を遣わす命令を帝に求めます。帝は慌ててその命令を下します。
中宮太夫・藤原斉信は藤壺に現れ、中宮彰子を奥に避難させるよう命じます。突然のことで女房たちはどうすればいいか分からないと騒然となります。藤式部(まひろ)の進言で、彰子を清涼殿に避難させ帝と一緒にいさせることにします。帝は、斉信は大げさだし、いま道長が陣頭に立っているから安心するようにと、不安げな彰子を落ち着かせます。
夕方。検非違使の力もあり、ようやく騒ぎが沈静化します。後日、土御門殿で道長と対面した定澄は、僧が為頼邸を焼き払った事件の調査、頼親の大和守と為頼の右馬允の解任、蓮聖の法会参列の認可を求めますが、道長は三項目については突っぱね、蓮聖の法会参列の申し文だけを出し直せと言って対面を打ち切ります。「一つでもこちらの望みが通ったならば、上出来だ」と定澄はニヤリとします。
ひと段落ついた道長は、疲れた表情で藤壺の式部の局を訪れます。帝のお渡りがあり物語の話もしているようですが、未だ手付かずで、道長は彰子が不憫すぎると浮かない顔です。彰子が帝に対して心を開かねば前には進まないわけですが、皇后定子の薨去以来6年、どうすればいいのかと道長は焦っているのです。「お前が頼りだ……どうか……頼む」と道長は頭を下げます。
帰り際、道長は式部に弟がいたことを思い出します。式部は弟が中務省で内記として働いていることを告げます。道長は「そうか」と淡白な返答で藤壺を去って行きます。そしてそんな二人の様子を「左大臣さまと藤式部、“足をもむ”仲とも思えませんけども」「お親しそう……ひたひたしてる」と、女房たちの陰口は日を追うごとにひどくなっていきます。
寛弘4(1007)年。年が明けると倫子は四女・嬉子(よしこ)を産んだ。6度目の出産は重く、倫子はしばらく寝込んだ。同じ日、中納言藤原斉信の屋敷が焼けた。柱に寄りかかって呆然とする斉信に、運が悪かったねと藤原道綱は無責任に励ましますが、そっとしておいてほしいと藤原公任にたしなめられます。道長からは見舞いとして、斉信の着替え用に直衣一式が届けられます。
蔵人職が3名欠員で、帝は亡き関白藤原道隆の孫で藤原伊周の嫡男である、従五位下藤原道雅を入れたいと道長に伝えます。ただ道雅はまだ16歳であり、蔵人に年長者を1人入れた方がいいと助言する道長は、式部の弟・惟規を推薦します。帝にも特に異論はなく、話はその方向で固まります。
帝が蔵人職に道雅を希望したことで、伊周はホッと胸をなでおろします。伊周は道雅に自分の思いを託し、この機会を生かせと叱咤しますが、道雅は特段嬉しくなさそうです。与えられた仕事はしっかりこなすつもりですが、父親の復讐の道具にはなりたくないという思いが強いわけです。伊周の妻・源 幾子は、道雅をそっとたしなめます。
藤壺で執筆中の式部の局に、惟規が訪ねてきました。父・藤原為時のおさがりの緑色の直衣を着ての参上に、式部は目を細めます。惟規が蔵人になれたのは道長のおかげと言い聞かせますが、局まで案内してくれた女房のことを「さっきの女房、悪くないな」とまんざらでもない様子です。しかしその女房は大納言道綱の娘と知って、相手にされないか! とどこまで本気か分かりません。
中宮さまのお越しと聞いて、式部も惟規も慌てふためきます。どうやら式部の局が見たいと彰子が言ったそうです。案内した左衛門の内侍を下がらせ、式部と二人きりになった彰子は、式部が書き進める物語のおもしろさが分からない、とつぶやきます。「男たちの言っていることも分からぬし、光る君が何をしたいのかも分からぬ。帝はそなたの物語のどこに惹かれておいでなのであろう」
式部は、帝の心は計り知れないが、と断ったうえで、式部の願いや思い、来し方(こしかた=過去)を膨らませて書いた物語が、帝の考えとどこか重なったのかもしれないと推測します。そこに敦康親王がやってきて、すごろくをしましょうと彰子を連れ出してしまいます。見送る式部ですが、振り返った彰子は式部を見つめます。「また……来てよいか?」
式部の物語は公卿や女房たちに読まれ、次第に人気が上がっていきます。そんな時、帝が急に式部を訪ねてきました。なぜこの物語を書こうと思ったのか──。帝に献上する物語を書けと道長に言われたからに他ならないわけですが、それは単なるきっかけに過ぎず、どういう話が帝の心を打つのか考えているうちに、帝の悲しみを肌で感じるようになりました。
帝に物おじせず、ありのままを語る者はめったにいませんが、式部の書く物語は帝の心にまっすぐに語りかけてきます。恐縮する式部に帝は、また来ると局を後にします。式部は平伏して帝を見送りますが、しかし内心では「私ではなくて、中宮さまに会いにいらしてください」と願っています。
3月3日、上巳(じょうし)の祓(はらえ)の日。土御門殿で曲水(ごくすい)の宴が行われた。曲水の宴とは、曲がりくねった水の流れに沿って座り、和歌や漢詩を詠んで競い合う催しである。水の神によって穢れを払おうとするものであり、道長は中宮彰子の懐妊を切に願ってこの宴を催した。
宴には中宮彰子と供として赤染衛門と式部、ほか多数の公卿たちの参加がありました。彰子の母・源 倫子はいまだ本復ならずで不参加です。お題は『流れに因(よ)って酒をうかぶ』で、参加者はそれぞれ筆を手に頭を悩ませますが、にわか雨が降ってきて一時中断となります。みな母屋(もや)に移動して雨宿りです。
御簾の奥では彰子が休んでいる前で、雨に濡れた身体を拭く公卿たちです。そこに道長が加わって、話に花が咲きます。源 俊賢は、式部が流行の物語を書いている女房と知って、光る君が源氏とされたことで父・源 高明のことと考えていたし、斉信は自分自身のことかと思っていたとニンマリします。しかしそれは他の公卿たちも同じようで、静かな笑いが起きます。彰子はその様子をじっと眺めています。
雨が上がり、再開です。彰子は、父の道長が他の公卿たちと心から笑っている姿を見ていて、正直びっくりしています。殿御は皆かわいいものと式部はつぶやきますが、彰子は帝もそうなのかと式部を見つめます。「帝も殿御におわします。帝のお顔をしっかりとご覧になって、お話し申し上げなされたら」 対面で彰子と式部の様子を見る道長は、下を向いてフッと笑みを浮かべます。
宴が終わり局に戻った式部は、道長に贈られた扇を広げ、昔を思い返します。「小鳥を追っていった先で出会ったあの人。あの幼い日から、恋しいあの人のそばでずっとずっと一緒に生きていられたら、一体どんな人生だっただろう」 何かひらめいたようで、式部は筆を走らせます。『雀の子を犬君(いぬき)が逃がしてしまったの。籠(かご)を伏せて閉じ込めておいたのに』と大層悔しそうにしています。
興福寺の僧を追い払ってからというもの、斉信の屋敷が焼け、道綱の屋敷も焼けてしまいました。その裏で、ニンマリする伊周です。道綱の屋敷が焼けた直後、敦康親王は病に伏せった。伊周は親王を見舞い、『口遊(くちずさみ)』という本を献上しますが、いらぬ! と無下もなく断られてしまいます。そこに現れた道長には自ら近づいていく親王を見て、伊周は愕然とします。
不吉なことが続き、彰子の懐妊もないため、道長は吉野の金峯山(きんぷさん)に行こうと決意します。わが生涯で最初で最後の御嶽詣(みたけもうで)です。嫡男の藤原頼通も同行したいと申し出ますが、8月の出立まで100日にわたって精進潔斎(しょうじんけっさい)し、酒・肉・欲・色を絶たなければなりません。「お前にできるか? おぼつかなければやめておけ」
というわけで、出立前日に彰子に別れの挨拶をする道長です。頼通は彰子のためにもと道長の供に名乗りを上げ、都を出発します。道長不在のまたとない好機……、伊周は閉じていた眼をカッと見開きます。道長は嫡男頼通、中宮権大夫の源 俊賢を伴って京を発った。
作:大石 静
音楽:冬野 ユミ
語り:伊東 敏恵 アナウンサー
題字:根本 知
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[出演]
吉高 由里子 (まひろ/藤式部)
柄本 佑 (藤原道長)
三浦 翔平 (藤原伊周)
高杉 真宙 (藤原惟規)
町田 啓太 (藤原公任)
渡辺 大知 (藤原行成)
竜星 涼 (藤原隆家)
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塩野 瑛久 (一条天皇)
見上 愛 (藤原彰子)
上地 雄輔 (藤原道綱)
秋山 竜次 (藤原実資)
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制作統括:内田 ゆき・松園 武大
プロデューサー:葛西 勇也・高橋 優香子
演出:松本 仁志
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『光る君へ』
第35回「中宮の涙」
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