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2024年9月15日 (日)

大河ドラマ光る君へ・(35)中宮の涙 ~命がけの道長の旅・まひろは~

寛弘4(1007)年。道長は中宮彰子の懐妊祈願のため京を発って金峯山(きんぷさん)に向かった。薄暗い中、その一行を睨みつける平 致頼……。そして式部は、道長に贈られた扇を広げ、昔を思い返します。

致頼の報告によれば20名ほどで、道長に随行する供の数にしては少なすぎます。己の身が万全であると油断しているのか、と藤原伊周はつぶやきますが、ともかく後日落ち合うことにして解散します。そこに藤原隆家が酒の入った瓶子を持って来ますが、何も聞くなと睨みつける伊周は、一人で考えたいと隆家を帰します。

道長一行は、山中のぬかるんだ山道をただ黙々と進んでいきます。薄暗く足元が見えない中、さらには振り出した雨にも構わず、どんどんと進んでいきます。そして致頼らは、道につけられた足跡をもとに、耳を澄ませながら一行のあとを追いかけていきます。

夜、宿泊も兼ねて夕食を摂る一行です。道長の傍らには金色に輝く経筒があります。道長はよほど疲れたのか箸を置きます。父を心配する藤原頼通をよそに、道長は首を横に振るばかりです。同行する源 俊賢は、もう少し食べるよう道長に勧めますが、いざとなれば背負って登ると豪語する頼通に、頼もしさを感じます。しかし頼通を熟知する道長は、図に乗るからそのへんにしておけ、とたしなめます。

俊賢は、頼通もすばらしいが妹の源 明子の子の頼宗もしっかり者と広報活動に余念がありません。しかし道長は苦々しい顔で明子の至らぬ点を指摘します。「私の心を分かっておらぬ。地位が高くなることだけが人の幸せではない。されど明子は、頼通と頼宗を競い合わせようとする」 俊賢は深くため息をついて、頭を下げます。

一条天皇は藤式部に物語の背景について尋ねます。白い夕顔の咲く家の女はなぜ死ななければならなかったのか。式部は、誰かが心持ちの苦しさに生霊となったのかも、とぼかして答えますが、その答えを聞いた帝は、彰子の懐妊を願って御嶽詣で(みたけもうで)までする道長の思いはどうなのだろう、と想像します。「それは親心にございましょう。左大臣さまが願われるのは、中宮さまの女としての幸せ」

 

あくる日も道長たちの苦行は続きます。狭い山道を歩き、岩場に足をかけながら急な崖を上ります。フラフラになりながら歩を進めていた俊賢は、崖で足を滑らせて落下しそうになりますが、頼通が俊賢の手を掴み引き上げます。ファイトー! 一発!! と某CМの掛け声は出ませんでしたが、BGМも軍隊の進軍のようなもので、イヤでもそれを彷彿とさせます(笑)。

京を発って9日目。道長一行は金峯山寺(きんぷせんじ)の山上本堂(さんじょうほんどう)にたどり着いた。一行は手を合わせて一緒に読経しています。金峯山寺でさまざまな仏事を催した道長は、最後に山上本堂の蔵王権現に自ら書き写した経典を捧げた。道長の祈りはすさまじく、必死に祈り続けます。

その岐路では、伊周率いる一団が道長一行を狙い、弓矢を構えて待っています。まもなくここを通る、と報告を受けた伊周は致頼を見据えます。「必ず射止めよ。首尾よくゆけば、お前を検非違使に推挙いたそう」 致頼は配下の者たちに、射たら杣道(そまみち=きこりしか通らないような細くてけわしい山道)伝いに逃げ、決して捕らえられてはならないと命じます。

矢を引き絞るミシミシという音が響く中、「急がれよ!」と道長の前に現れたのは、誰あろう隆家でした。その姿に驚く一行ですが、隆家は落石が近くで起きるかもしれない、と身を挺して道長の身を守ります。崖の上で愕然とする伊周をよそに、隆家は一行を見送ります。「どうぞご無事で!」

伊周は、なぜ自分の邪魔ばかりするのかと怒りに震えます。あの時──伊周が止めるのも聞かず、隆家は花山院の御車(みくるま)を射ました。あれから伊周の失脚が始まり、何もかも狂い始めたわけです。伊周は隆家を恨んではいませんが、ここまで邪魔をされると敵なのかと問いたくもなります。「兄上を大切に思うゆえ阻んだまで。これが俺にできるあの過ちの詫びなのだ」

 

道長は無事に帰京し、彰子にも帰京の挨拶をします。道長は懐から金峯山寺の護符を取り出し、彰子に献上します。しばらく出仕しなかった道長が久々に出てきたと聞いた敦康親王がそこにかけつけます。道長は、帝や親王、中宮の幸せを祈願していたと説明します。道長不在の間、自分が中宮をお守りしたと胸を張る親王に、道長も、そして彰子も微笑んで見つめます。

式部の局を訪れた道長を、式部は出迎え労わります。執筆する物語はようやく一巻を書き上げ、道長の求めに応じて披露します。小鳥のエピソードを読んだ道長は、このころのお前はこのようにけなげではなかったが? と思わずつぶやきます。確かにうそはつくし、作り話はするし……。共通の思い出に、道長も式部もニヤリとします。三郎(道長)にすればまひろ(式部)とんだ跳ね返り者です。

「こうしてお会いしても、またお会いできるとは限りません。夢の中に、このまま消えてしまう我が身でありたいとむせび泣いている光る君のお姿もさすがにいじらしく、世の語り草として人は伝えるのではないでしょうか。類いなくつらいこの身を、覚めない夢の中のこととしても、と藤壺の宮が思い乱れているさまも、まことにもっともで恐れ多いことです。三月(みつき)になられるとはっきりと分かるようになり、女房たちがお見受けして気にしているので、宮は嘆かわしい宿世(すくせ)のほどを情けなく思われました」

──この不義の話はどういう心づもりで書いたのだ? 道長の脳裏にふと疑問が浮かびます。式部は、これはわが身に起きたことであり、それはすべて物語の種になると道長を見据えます。物語になってしまえば、わが身に起きたことなぞ霧のかなたに消え、本当に起きたことかどうかも分からなくなってしまう、と式部はつぶやきます。「すぐに写させよう。預かってゆく」

 

この年の10月、あかねの思い人・敦道親王が27歳で世を去った。涙にくれるあかねを、そっとそばに寄り添う式部は慰めます。為尊(ためたか)親王も敦道親王も、あかねが好きになった人はみな旅立っていく。あの世から自分を見守ってくれようと、二度と見て触ることができない……。
ものをのみ
 乱れてぞ思ふ たれかには
  今はなげかん むばたまの筋

式部はあかねに、亡き親王との日々を文章で書き残すことを勧めます。書くことで己の悲しみを救ったという藤原寧子(藤原道綱母)の話を思い出し、書くことで親王の姿を後々まで残せるのではないかと考えたのです。現に寧子は『蜻蛉日記』を書き残しています。

ある夜、追手に追われる藤原惟規は身を隠そうと塀を上って越え屋敷の中に忍び込み、斎院の中将と再会。かたく抱きしめ合います。しかしそんな幸せな時間は長くは続かず、追手が惟規に追いつき、斎院の中将から引き離して連れ出していきます。「中将の君!」「惟規さま!」

斎院は男子禁制の場所であり、その塀を惟規が越えて中将に会ったことを惟規本人から聞いた式部は、目を丸くして驚きます。禁忌を犯すからこそ燃え立つのだと惟規は胸を張りますが、捕らえられた時にとっさに詠んだ歌が、斎院の選子(のぶこ)内親王の目に留まり、よい歌だから許してやれと解き放たれたわけです。天智天皇の引用歌でしたが、式部は「何がなかなかなのよ」と呆れています。

式部の物語は中宮彰子を前に朗読され、女房たちと楽しみますが、“娘”が光る君に引き取られるシーンでは女房たちは賛否両論です。彰子は“娘”に自分の姿を投影しているようで、“娘”は光る君の妻になるのがいいと考えています。「帝にまことの妻になりたいと仰せになったらよろしいのでは。帝をお慕いしておられましょう?」と式部に言われ、彰子の頬を涙が伝います。

ちょうどその時、帝が彰子のもとにやって来ます。帝は敦康親王に会いに来たわけですが、親王は物忌みでここには来ていません。彰子は食い気味に帝を呼び止め、「お慕いしております!」と目に涙をいっぱいためて訴えます。一瞬息をのむ帝ですが、フッとほほ笑みを浮かべると、また来ると約束して戻っていきます。彰子は泣き崩れ、式部は目を閉じてうつむきます。

 

粉雪が降る冬となりました。道長と正月の打ち合わせを済ませた帝は、道長が行った御嶽詣でのご利益があったのかと尋ねます。言葉を濁す道長ですが、帝は「今宵、藤壺に参る。その旨伝えよ」とお渡りを宣言します。報告を受けた彰子付の女房たちもどこか表情が明るく、帝を迎える準備に余念がありません。

彰子は二十歳になり、いつの間にか大きくなっていたことに帝は驚きます。ずっと大人だったと彰子は少し膨れますが、ずっと寂しい思いをさせてきたのは変わりありません。すまなかったと詫びる帝は、彰子を抱き寄せます。ふたりのシルエットが燭台でぼんやりと写し出され、長い長い夜が更けていきます。

道長は式部の手柄かと尋ねますが、式部が直接何かをしたというわけではありません。彰子が自分の力で帝の心をつかんだのです。「きっと金峯山の霊験にございましょう」 ともかく道長は、よかったとホッと胸をなでおろします。並んで月夜を見上げる式部と道長を、こっそりと覗く女房の姿がありました。

 

作:大石 静
音楽:冬野 ユミ
語り:伊東 敏恵 アナウンサー
題字:根本 知
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[出演]
吉高 由里子 (まひろ/藤式部)
柄本 佑 (藤原道長)
三浦 翔平 (藤原伊周)
高杉 真宙 (藤原惟規)
竜星 涼 (藤原隆家)
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塩野 瑛久 (一条天皇)
見上 愛 (藤原彰子)
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制作統括:内田 ゆき・松園 武大
プロデューサー:葛西 勇也・大越 大士
演出:中泉 慧

 

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『光る君へ』
第36回「待ち望まれた日」

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