プレイバック春日局・(28)和平か決戦か
【アヴァン・タイトル】
天正14年、豊臣秀吉が京都東山に建立した方広寺。本尊は身の丈19mの巨大な仏像でしたが、後に地震と火事でこの寺は倒壊。秀頼が再び立て直したのは慶長19年の夏でした。現在の方広寺。すでに大仏はなく、ただひとつこの大きな鐘が、建て直された当時の面影を今に伝えています。
この鐘には銘文が刻まれています。「京都の東の山すそに、空にそびえる美しい寺が再建(さいこん)された」という意味で始まるこの文章は、南禅寺の清韓長老の作品です。国家の平静や子孫の繁栄など、いわば救世の願いを込めた内容でした。しかしこの銘文が、東西の緊張を一気に高める大問題となり、ついには開戦の危機を迎えることとなるのです──。
「駿府派」本多親子と「江戸派」大久保忠隣の対立は、岡本大八の収賄事件が表沙汰になり、本多親子の権威は失墜します。しかし慶長19(1914)年1月、忠隣に謀反の疑いありと徳川家康に密告する者があり、キリシタン禁圧のために京へ出陣中の忠隣を、家康は京都所司代板倉勝重に命じて取り押さえさせたのです。お江与の侍女・おくには、忠隣が失脚すれば本多親子が再び力を持つと危機感を持ちます。
忠隣は家康の家老大久保忠世の嫡子であり、10歳のころから徳川に仕えた譜代の大名ではありますが、権力を持ち私腹を肥やしたとなれば処分は免れません。大久保家をつぶすには忍びず、改易の上 近江国へ流罪としますが、家康の胸中など誰にも分かってもらえそうにありません。そこにお江与が対面を求めてきますが、今日は誰にも会いたくないと申し出を断ります。
「大御所さまに目通りを願い出たとはまことか!」 徳川秀忠はお江与の居室へ怒鳴り込みます。忠隣謀反の件、何をもって謀反と判断したのか、直に聞きたかったとお江与は弁明しますが、家康はお江与が忠隣をそそのかして岡本大八のことを表沙汰にし、本多親子を陥れようとしたのではないかと疑っているのです。お江与は一瞬目を泳がせますが、表情を変えずに身動き一つしません。
秀忠はお江与を信じたいと思っています。ただ、本多親子がいて初めて、江戸は家康の思うとおりに動かすことが出来るわけで、家康にとって本多親子は忠隣よりも大事な家臣なのです。お江与は忠隣謀反は家康の言いがかりかと歯を剥きますが、秀忠は冷静にお江与を諭します。「大御所さまが謀反と言われたら謀反じゃ。他の者が口を挟むことは許されぬ。たとえ将軍とて、我らの勝手にはならぬ」
家康とともに駿府に戻るお勝が、おふくの居室を訪れます。お勝は、幕閣の対立に巻き込まれたおふくの苦労を察し、労わりますが、今は竹千代と国千代の世継ぎ問題を表出って争う時ではないと、辛抱するよう勧めます。おふくは、家康の気持ちが“竹千代を世継ぎに”という点から変わっていないことを信じて、精いっぱいお勤めに励むつもりです。
そこに、成人を機に元服した千熊(稲葉正勝)が挨拶に訪れます。お勝が千熊と初めて会ったのはわずか8歳のころ、今は18歳の凛々しい若武者になったことに、お勝は目を細めます。正勝も、国千代に仕える高丸も、竹千代と国千代のいい鳥もち役になるだろうと、お勝は立派な息子たちを持つおふくを幸せ者だと羨ましがります。
慶長19(1614)年4月、秀忠とお江与の五女・和姫の入内宣下がありました。徳川から朝廷への入内が正式に決まったことで、徳川と朝廷の関係に不安はなくなります。しかし家康には、最後に残る不安の火種──豊臣家の存在がありました。7月、家康は強引に豊臣つぶしのきっかけを作ります。それが「方広寺の鐘銘事件」でした。
方広寺の大仏殿は、家康の勧めで5年の年月を費やし莫大な費用を注いで造営したものです。しかし鐘銘の中にある「国家安康」「君臣豊楽」の文字が気に入らないと言ってきたのです。茶々はこれを一蹴し、京都所司代板倉勝重に弁明を聞き入れられずすごすご戻って来た片桐且元を、豊臣に他意がないことを家康に直接申し開きをして来いと、再度派遣することにします。
銘文は変えるが、詫びることはない──。茶々の主張に、且元は家康がそれで果たして承諾するか疑問視します。家康が何を欲しているのか? それは茶々にも且元にも分かりません。豊臣秀頼は、いよいよ豊臣をつぶす腹かもしれないとつぶやきます。ともかく、徳川の挑発に乗せられて戦にすることだけは避けねばなりません。秀頼は且元に、それだけはわきまえるよう伝えます。
茶々は、家康が目付として送り込んだ且元を信じてはいません。茶々は大蔵卿の局、饗庭(あえば)の局の2人を、片桐とは別行動で駿府へ向かわせることにします。表向きはご機嫌伺い、裏では家康の本心を探らせる。豊臣が家康と且元に騙されないようにするために、2人で家康に対面させ、決着させることを目的とします。
豊臣の不運は女たちが城の実権を握ったことにありそうです。しかも且元と大蔵卿の2組が別々に駿府に赴き、そのことを家康につけいられた結果、豊臣は進路を誤ってしまうのです。且元には対面を許さず、大蔵卿と饗庭にはすぐに会って機嫌よくもてなしたのです。家康は、弁明する大蔵卿には、豊臣と徳川の間に行き違いがあり聞き流しているところと、安心するようにと伝えます。
「ただ」と家康は続けます。豊臣が今後徳川とどのように和を保ってゆくかを、徳川についてよく知っている且元と計らうように、と家康は忠告します。家康の手にはネコが抱かれていて、その手の中でじゃれています。大蔵卿は家康を見つめます。「せっかく駿府までおいでになったのじゃから、どうじゃ、ゆるりと見物などされては?」
大坂城に戻って来た大蔵卿と饗庭は、会話のあらましを茶々と秀頼に報告します。茶々は2人を駿府に派遣してよかったと笑顔です。そして且元が、2人に遅れて大坂城に戻って来ました。その表情は暗く、迷いながらの帰還でした。20日ほど駿府に逗留し、徳川方と話し合っていたと弁明する且元は、重く口を開きます。「家康どののご内意は──」
豊臣が無事残りたければ「秀頼が大坂城を明け渡し他国の領主になる」「秀頼か茶々が江戸へ詰める」が条件──。これを断れば徳川は力に物を言わせて豊臣を潰すだろう、と且元は告げます。大蔵卿は、駿府で会った自分たちには鐘の件は水に流すと言っていたのに、家康に会っていない且元がなぜそんな偽りを言うのかと問いただします。「家康がそなたたちに何を言うたかは知らぬが、家康を信じてはならぬ」
しかし信じられないのは且元だと方々から怒りの言葉を浴び、場は紛糾します。茶々は且元に出仕停止を命じ、命が惜しければ城を出よと睨みつけます。且元は進言を聞き入れられないと悟り、城を去る決意を固めます。出ていく且元を大野治長はそっと追いかけますが、且元という大事な家臣を失った秀頼は、治長に命じます。「且元の命奪うこと許さぬ!」
大雨の中、且元は城門のところで「裏切り者!」と数名の武士から襲撃を受けます。右腕を斬られた且元は落馬しますが、ここで果てるは本望と座り直します。そこに城内から数名が駆けつけ、勝手に成敗することは許さぬ! と止めに入ります。抱き起された且元は、それでも城内に帰ることはせず、とぼとぼと歩いて去っていきます。
且元の追放により、豊臣が徳川の命に従わないことを知った家康は、10月1日、大坂城攻撃の命を下します。お江与はおくにや家臣たちが止めるのも聞かず、許可を得ずに秀忠が政務を行う御座所に上がります。御座所では秀忠と本多正信、土井利勝が大坂城の地図を囲んで軍議を開いていました。秀忠は目配せし、正信と利勝が下がっていきます。
大坂城には姉の茶々、娘の千姫、婿の秀頼という身内がいるから、戦をやめるようお江与は頼み込みます。しかし秀忠は、秀頼が大坂から他国に移れば穏便に済むものを、徳川に盾突くから力で分からせるしかないと突き放します。3者を討つのが目的の戦ではなく、その上で秀忠はお江与に、茶々を説得してほしいと諭します。お江与は豊臣を潰させはしないと、力を尽くすことを約束します。
豊臣は、和平を願って徳川の意のままになってきましたが、徳川の一大名になることだけは承服できません。平和が崩れますが、治長は好機と主張します。太閤秀吉恩顧の大名はたくさんあり、関ヶ原で敗れて浪々し再起を願う浪人衆もたくさんいます。難攻不落の大坂城に彼らを集め、諸大名から援助を得て戦えば、老齢の家康のほうが先に寿命が尽きるとニヤリとします。
徳川と話し合いを求める秀頼の声は、戦国を生き抜いてきた茶々や治長の前ではかき消されます。そこに常高院(お初)が駆けつけます。息子の京極忠高は今回も徳川方として戦うわけですが、姉の茶々と妹のお江与が敵味方に分かれるのがいたたまれず、茶々と秀頼を救うために入城したのです。すぐにでも帰れと勧める茶々ですが、食い下がる常高院に茶々は何も言えなくなってしまいます。
稲葉正成も大坂出陣のため江戸に下向します。美濃青野に5,000石を拝領して直参となった長男正次と、尾張徳川義直に仕える三男正定とともに、正成は大坂へ参陣するのです。おふくは出陣の門出に、正次と正定にお守りを手渡し、正成に手をつきます。「ご武運を、お祈りいたしております」
慶長19(1614)年9月27日、豊臣秀頼は片桐且元に、寺に入って隠居するよう命じて執政の任を解く。
寛永6(1629)年10月10日、おふくが上洛して昇殿し「春日局」名号を賜るまで
あと15年──。
原作・脚本:橋田 壽賀子「春日局」
音楽:坂田 晃一
語り:奈良岡 朋子
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[出演]
大原 麗子 (おふく)
長山 藍子 (お江与)
中村 雅俊 (徳川秀忠)
山下 真司 (稲葉正成)
東 てる美 (お勝)
大和田 獏 (大野治長)
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渡辺 徹 (豊臣秀頼)
中条 きよし (土井利勝)
松原 智恵子 (お初)
前田 吟 (本多正純)
津嘉山 正種 (片桐且元)
馬渕 晴子 (大蔵卿の局)
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大空 眞弓 (茶々)
丹波 哲郎 (徳川家康)
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制作:澁谷 康生
演出:小見山 佳典
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『春日局』
第29回「大坂攻め」
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