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2024年10月 9日 (水)

プレイバック炎 立つ・第三部 黄金楽土 (22)義経、平泉へ

【アヴァン・タイトル】

承安3年、時は平氏全盛の世の中である。この時期に源氏の嫡流が平泉へ来るという。源 義家から数えて4代目、その名も九郎牛若、源 義経である。源 義家が陸奥を去ってから80年余り、いま再び源氏の嫡流が舞い戻ってくる。平泉、藤原一族にいかなる影響を及ぼすのか、計り知れない不安が泰衡の頭をよぎるのであった。

「八幡太郎義家、六条判官為義、左馬頭義朝、そして九郎牛若──」


京・平泉第(てい)──。“日の本一の悪僧”と名乗る武蔵坊弁慶が屋敷に到着します。藤原基顕からの依頼で、奥州平泉で預かるという源 九郎義経という人物を調べさせるには、この弁慶を活用するのがいいと、物部一族の末裔・橘似(きちじ)が呼び寄せたのです。正直、藤原泰衡は義経が武将としていい人材であった時、源氏の御曹司が平泉に来て面倒なことになり得ると気にしている部分があります。

橘似が事情を説明すると「断る!」と眉間にしわを寄せます。藤原秀衡のように1,000のものを集めれば宝になると、いま1,000本の太刀を集めているのです。基顕も京に入るとすぐにその怪僧の噂を耳にしたのですが、それが弁慶その人で合点がいきました。「それでいきましょう。1,000本の太刀をお集めなされ。あと3本、頑張って!」

橘似と弁慶の面会中、ずっと待たされていた謡い手はとてもヒマそうです。弁慶との面会後、法住寺殿に移動した橘似と謡い手は、公卿たちの前で謡ってみせますが、これなら後白河法皇の前で披露しても大丈夫だと評判も上々です。法皇の今様好きは、雅仁親王と呼ばれていた天皇即位前からなのです。

基顕は高野山の西行を訪ねます。秀衡から直々に進物をお渡しするように言い遣ってきたのです。基顕は義経を平泉に呼び寄せるつもりであることを西行に伝えますが、「ろくなことはないわな」と厳しい顔です。いまは“平家にあらずんば人にあらず”と言われる時代ですが、平泉はその世の変転とは無縁でなければならず、義経を迎えるのは暴挙だと反対を主張します。

夜、五条大橋には弁慶の姿がありました。橋のたもとでは橘似と基顕の姿もあります。1,000本の太刀の話を聞いた橘似が義経をここに呼んでいるのです。基顕は西行の意見もあり、義経を招くことには後ろ向きですが、もう遅うございます、と橘似はつぶやきます。そこに笛の音が聞こえてきました。義経が現れたのです。「良い月夜でござる」

立ち去ろうとする義経に向かって、弁慶は腰の太刀を置いていけと脅します。取れるものなら取ってみろ と言い終わらないうちに、弁慶は薙刀を振りますが、義経は高く飛び橋の欄干に着地します。どこまでも追いかける弁慶ですが、義経が投げた笛を足のすねに当てられて、あまりの痛さに大橋に転がります。弁慶は義経にいいようにしてやられ、義経は笑って橋を後にします。

見守っていた橘似は義経の度胸と鋭さに感心し、基顕も弓や馬の修練をすればどえらいものになると目を奪われます。呼吸荒く橋に座り込んでいる弁慶は、去ってゆく義経の姿をじっと見つめています。「あれは一体何者じゃ……美しい変化のようじゃ。何としてももう一度会いたい、会うて今夜の無礼を謝らねば!」 欄干に残された被衣(かづき)を手にした弁慶は、橘似に再会できるよう頼み込みます。

 

平泉・中尊寺金色堂での読経を終えた秀衡は、泰衡から義経を招くことを反対されます。橘似は義経について申し分ない若武者と評価する一方で、基顕からは西行が反対を唱えているとの文が届いています。実子泰衡すら京に上らせてくれない秀衡が、なぜこのような際どいことをするのかと泰衡は再考を促しますが、秀衡は聞く耳を持たず、国衡とともに義経を世話せよと、あくまで受け入れる方向です。

橘似からの文には、将来は人を率いていく器量があるなどと誉め言葉ばかりが並び、謙譲の美徳など内面についての記載がなく、義経に平泉で好き勝手にされても困ると、倫子は泰衡の肩を持ちます。「源氏の嫡流がこの平泉に来ては、平和の平泉が台無しになる! 自分にとっては招かれざる客、迷惑千万」と泰衡の代弁をしますが、それすらも聞き入れられないと分かると、泰衡は不満顔で出ていきます。

不貞腐れて横になる泰衡を見た薫子は、父に嫉妬しているのね? とニヤリとします。父が自分以外の誰かに良い関心を持つことがイヤなのだと、妹からは見えるようです。起き上がり慌てて否定する泰衡ですが、薫子の推測は止まりません。「私には兄上の心の動きが手に取るように分かる。面白いわ、その源氏の九郎どのとかが平泉に来て、兄上がどんなにお変わりになるかが見もの!」

 

義経は藤原長成屋敷の常盤に別れのあいさつに出向きます。常盤は、16歳にもなるのに元服も満足にしてやれないまま、遠く平泉に稚児姿のまま送り出すことを詫びますが、再び京に戻った時には名のある武将になって母を安心させたいと約束し、涙を浮かべながら去っていきます。その後ろ姿をじっと見つめる常盤です。

屋敷を出て、木の幹に抱きついて涙を流す義経の前に、弁慶が現れます。橘似から話は聞いているようで、義経は弁慶が従者としてついてきても飯は食えないと口をとがらせますが、主に飯を食わせるのが従者の甲斐性と弁慶は義経を見つめます。勝手にせい! と義経が去って行き、弁慶は大きくため息をつきます。

鞍馬寺の門前で手を合わせた義経は、平泉に向かって出発します。鞍馬寺から一条大路まで出たところに、平泉に向かう商人たちの一隊が待っているはずであった。橘似は九郎をその大将に紛れさせて平泉に送り込む算段だった。途中で野武士に襲撃されますが、弁慶が薙刀で相手をしている間に、義経は裏道を迂回していきます。

その夜、鏡の宿(しゅく)に泊まった九郎は、自ら元服の儀を行った。今日からは源 九郎義経、源氏の片諱(かたいみな)「義」に、道理を意味する「経」──。名前をつぶやいてみた弁慶は良い名だと改めて感じ、義経を見つめます。義経らの一行が平泉へ旅立って間もなく、都から伊豆に向かって密使が走っていた。

 

伊豆の蛭が小島の配所に頼朝が流されて、13年が過ぎていた。平治の乱で平家に滅ぼされ父義朝とともに敗走したが、捕らえられ清盛に命を助けられた。その頼朝も27歳。頼朝を中心に源氏が結集しようとしている時に、秀衡が頼朝の弟を擁したことは由々しきことと、北条時政が九郎の鞍馬寺脱出を妨害したわけですが、失敗に終わっていたのです。

これからは奥州から目が離せないと家臣たちは話し合います。平泉はこの伊豆とは比べ物にならない富裕の地で、無尽蔵に金が産出される土地であり、金に糸目をつけない秀衡は都の各所に寄進しています。その秀衡に抱えられるとは、と頼朝は吐き捨てるようにつぶやきます。家臣たちは頼朝を励ましますが、それにしても平泉は強大すぎるのです。

間もなく義経が平泉に到着するようです。秀衡は基成にそのことを知らさせ、泰衡と国衡には義経を出迎えに行くように命じます。派遣された国衡は、義経をみっちり絞ってやるとニヤリとします。泰衡がふと脇に目をやると、池のほとりに立つ若武者と法師がいますが、泰衡は一瞥してそのまま馬を進めます。

おい! と若武者は声をかけてきます。そこで彼らが義経と弁慶であることに気づく泰衡と国衡です。義経は泰衡が乗る奥州の駿馬に目を奪われ、義経が京から乗ってきた馬との交換を提示します。「ちょっと乗っていいだろ? これに乗って平泉まで行くから、そちは俺の馬に乗れ」 弁慶は申し訳なさそうに泰衡に馬の手綱を預け、その馬に乗った泰衡は義経の後ろ姿を見てムッとしています。

平泉の館では、義経歓迎の宴の準備が進められていました。館に到着した義経は、館には入らず草原を馬で駆け回っています。暴れ馬に頑張って乗っている義経ですが、ついには落馬してしまいます。慌てて駆け寄る国衡と弁慶ですが、泰衡はやれやれ先が思いやられるといった表情で義経を見ています。いつまで待っても義経は姿を現さず、湯を使うてくる! と秀衡は温泉に向かいます。

その温泉には義経の姿がありました。入浴する秀衡にそっと近づいた義経は、これからご対面なのさ、と秀衡のことをあれこれ聞いてきます。奥州藤原家の三代目、度量大きく懐の深いお方……生まれて間もなく父を亡くした義経にとっては、父のように慕わしく感じています。この平泉に来た以上は秀衡を父と思って恩に報いたい。そういう義経の気持ちを聞いて、秀衡はすっかり上機嫌です。

温泉から上がった義経は身なりを整え、基成を秀衡と勘違いして挨拶をします。間違いを指摘され、戸惑っているところに、湯から上がった秀衡が入ってきました。先ほど温泉で本音を語った相手が秀衡だとようやく気付いたのです。「九郎どのとはこれからも裸の付き合いができ申す。我が家と思われて遠慮のう振舞われよ」

秀衡は、天真爛漫で傍若無人な義経が可愛いとすっかり義経を気に入り、そんな馬鹿馬鹿しい宴にはいられないと泰衡は早々に退出してきました。義経のような男を抱え込んで、この平泉はえらいことになると泰衡は危機感を募らせます。その思いを汲み取った基顕は、泰衡を見据えます。「追い出しますか」


脚本:中島 丈博
高橋 克彦 作 「炎立つ」より
音楽:菅野 由弘
語り:寺田 農
題字:山田 惠諦
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[出演]
渡辺 謙 (藤原泰衡)
野村 宏伸 (源 義経(九郎))
時任 三郎 (弁慶)
中嶋 朋子 (薫子)
三浦 浩一 (藤原国衡)
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紺野 美沙子 (橘似)
柳生 博 (西行)
中原 丈雄 (藤原基顕)
松田 美由紀 (常盤)
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長塚 京三 (源 頼朝)
真野 響子 (倫子)
林 隆三 (藤原基成)
渡瀬 恒彦 (藤原秀衡)
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制作:音成 正人
制作・著作:NHK
共同制作:NHKエンタープライズ
制作統括:村山 昭紀
    :NHKアート
    :NHKテクニカルサービス
演出:吉村 芳之

 

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『炎 立つ』
第23回「愛のかたち」

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