プレイバック炎 立つ・第三部 黄金楽土 (25)頼朝挙兵
【アヴァン・タイトル】
平治の乱以降、源氏の一党は諸国に流されていた。源 頼朝は北条時政のもと伊豆の蛭ヶ小島に、頼朝の従兄弟である義仲は信濃の木曽に、頼朝の弟・希義(まれよし)は土佐、そして末弟・義経は藤原秀衡の庇護のもと奥州平泉に、それぞれ長い流人生活を余儀なくされていたのである。
一方京では、鹿ヶ谷の陰謀が発覚してもなお、後白河法皇を筆頭に平氏打倒の計画が練られていた。人々の反平氏感情は頂点に達し、諸国の源氏の挙兵を促す院宣が密かに出されていった。やがてこのことが奥州平泉の藤原氏をも、歴史のうねりに巻き込むことになるのである──。
治承元(1177)年・秋。後白河法皇より送られた密書への返事を1か月も引き延ばし続ける藤原秀衡に、藤原泰衡は“源 義経を頭として挙兵するつもりはない”と意向を示すべきと進言します。引き延ばせばいらぬ憶測を生み、密書を出した法皇もまた期待するばかりだというのです。しかし秀衡は、駆け引きばかりが政ではないが、駆け引きもまた政だと泰衡を諭します。
そろそろ返事を出すかと秀衡はようやく重い腰を上げ、藤原基成から出された返書を持って橘似が都へ帰ることになりました。1か月も待たされましたが、おかげで弁慶と一緒の時を過ごせたと笑顔です。平泉に来て3年が経つ武蔵坊弁慶も、橘似とともに都に戻りたくなったと本音を吐露します。それは時間を無駄に過ごす焦りからで、それを聞いた橘似は“なーんだ”と残念そうです。
義経を訪れた薫子ですが、あいにく外出中です。弁慶は橘似を栗原寺まで送りに行き、無人となった義経の居室に入った薫子は、衣紋掛けにかかる義経の直垂に触れます。亜古耶に義経を好きなのかと問われた薫子は、家柄も格下の義経のことで格上の自分の心がかき乱されるのが悔しいのです。ここは義経に自分をどうしようもないぐらい好きになってもらうしかないと、亜古耶に助言を求めます。
亜古耶は特殊な配合を施した香炉を焚きます。この香りをきけば男性は夢見心地になる媚薬らしいのです。そこに義経が戻って来ました。9月9日の重陽の節句であり、亜古耶はその宴のまねごとをしてみたと披露します。これまでとは違ってお客様のようなもてなしに戸惑いつつ、義経は亜古耶に求められるまま着座します。
良い香りに包まれ、義経は注がれた酒を呑みます。盃には花びらが浮かび、極楽の花園に迷い込んだような、頭の芯がもうろうとするような感じです。目の焦点が定まると、亜古耶のいた場所には薫子が座っていました。薫子は義経に歌を献じます。
こいごろも
ぬぎてかけたる よいことの
のこるかほりの おもひこそきけ
薫子の義経への心境の変化に、泰衡は兄として少し心配です。義経が病気で倒れていた間の、薫子の取り乱しようといったらありません。だらしのない、と泰衡は吐き捨てるように言いますが、それよりも亜古耶の腹の子が蹴っているようで、それを触って感じた泰衡は亜古耶と笑い合って、父としての実感を少しずつ噛みしめています。
この香りが薫子の香り……義経の欲が止まらなくなってきました。返歌を求める薫子に「そのようなまどろっこしいことは無用じゃ」と薫子を抱きしめます。薫子は義経を突き飛ばし、雰囲気も何もありゃしないと拒絶しますが、義経は思わず薫子の頬を打ちます。「何て言うてよいのか。残念ながら良い言葉が……言葉なくてもこの熱い思いは同じじゃ!」 それでよいのです、と薫子は義経を受け入れます。
伊豆では、後白河法皇の逆鱗に触れてこの地に流されていた僧文覚が、頼朝と会っていました。千葉胤頼は、頼朝に気合を入れてもらいたい一心で、荒法師文覚を頼朝に対面させたのです。平家を討つ考えなのかすでに忘れてしまっているのか、郎党たちははっきりしない頼朝にもどかしい思いです。
文覚は、源氏平氏に武将は数多くいても、大将軍たる相を持っているのは頼朝だけと持ち上げます。早く謀反を起こせと勧めますが、冗談を言っては困る、と頼朝は真面目です。亡き池禅尼に命を助けてもらい、父義朝をはじめ一族郎党の菩提を弔いながら生きながらえる頼朝は、法華経を唱えることが使命と揺るぎません。
文覚は、平氏の専横増長は目に余るものがあり、都の上も下も平家の滅亡を願っている説得します。しかし、法皇より刑罰を受けて流された文覚が、法皇のために清盛を討てというのはおかしな話だと頼朝は指摘します。「御辺は清盛を討った後、日本国を手中にするのじゃ。それこそ決起の真の目的」 文覚は義朝の髑髏(しゃれこうべ)を取り出し、父義朝の無念を晴らせと見据えます。
治承3(1179)年11月19日、清盛は法皇の側近39人の解任を断行。翌20日、法皇の法住寺御所は平 宗盛率いる一軍に包囲され、法皇は御所を出されます。いったいこの身をどこへ連れてゆくのか──。睨みつける法皇に、さほど遠くではないと宗盛はニヤリとします。「鳥羽へ……父入道の意向でございます」
清盛はなぜこのような挙に出たのか。7月に嫡子平 重盛が死去し、その領地を法皇が召し上げて院の所領にするなど、後の法皇の行動がよほど清盛の癇に障ったのでしょう。橘似からの報告を受け、秀衡は清盛がどこまでやるつもりなのかと険しい表情です。いま平泉には義経という駒を抱えて、軽挙なことがないよう手綱を締めていく必要があります。
義経と薫子は草原の中に隠れてべったりくっついています。以前の自分には考えられなかったことだと、薫子は笑います。義経は、目を離したスキに薫子が逃げて行ってしまいそうだと心配顔ですが、他の女を抱いたくせにと薫子は意地悪そうな表情を浮かべます。そこに弁慶と藤原国衡が笠懸をすると義経を連れ戻しに来ました。義経は薫子を抱いて反応せず、弁慶と国衡は諦めて帰ってしまいます。
この義経と薫子の関係について、倫子が何度秀衡に忠告しても効果はありません。藤原基顕は、2年も続いた間柄だからいっそ義経と婚礼を挙げて正妻にしてもらえばいいとのんきです。倫子の怒りは泰衡に向き、もう少し薫子のことを考えろと説教を受けます。泰衡は伴丸(ともまる)を抱きながら、薫子が幸せならいいのだが、とつぶやきます。
基顕は、義経と2人で末永く平泉にいさせればいいのだと諭しますが、「それは違う!」と泰衡は目を剥きます。義経は平泉で生きていけるような男ではないし、平泉にとってもやっかいな火種なのです。それは薫子も知っているはずなのになぜ、という思いが、兄としてはあるのかもしれません。泰衡は悔しそうな表情です。
治承4(1180)年4月、伊豆の頼朝のもとに都から密使が遣わされます。全国の源氏に向かって発せられた「以仁王の令旨」(謀反の呼びかけ)です。法皇の第二皇子・以仁王を擁し、源氏唯一の生き残りとして従三位まで上り詰めた公卿の源 頼政が立ち上がります。しかし頼政軍は平家の大軍にあえなく敗れ、頼政親子は討ち死に、以仁王も南都に逃げる途中で敗死してしまいました。
平家は令旨の持ち回り先を厳しく詮議し、その追及の手は頼朝のところにまで及ぶことは必至です。頼朝の命を考える安達盛長と自らの保身を主張する北条時政が口げんかを始めますが、頼朝は頭を抱えます。「ことここに至っては引くも進むも地獄よ。同じ地獄ならどれだけの者がわしについてきてくれるか。どれだけの兵が集まるか。宗時! 藤九郎! すぐに走ってくれい」
平家の追捕に追い詰められてかえって決意を固めた頼朝は、伊豆目代・山木兼隆を襲って石橋山の合戦へ。その知らせは早馬で平泉にも届きますが、秀衡は義経の耳には入れないよう家臣たちに口止めを命じます。泰衡は、隠していてもいずれ知れることと訴えますが、それでも秀衡は、無駄口をたたいて耳に入れることのないようにと忠告します。
「あほらしい!」と泰衡は腹を立てます。義経を平泉から追い出したい立場の泰衡にとっては、早く義経に伝えて兄・頼朝の元に駆けつけさせたいわけです。平泉にとっても義経にとってもどんなに良いことか秀衡に理解してもらえない悔しさがあります。薫子は、義経に教えるために琵琶を借りに来ました。泰衡は薫子に何か言いたそうな顔をしていますが、何かあったのだなと薫子は気づきます。
夜が明け、自分が卑怯だと強く感じた泰衡は、やはり言うべきことは言わなければならないと義経の御殿に向かいます。館の人たちの用が変だと感じていた義経は、弁慶に探らせていたようで、頼朝決起の話は義経の耳に入っていました。今度こそ兄のもとに駆けつける! と眼光鋭く見つめます。ただ泰衡に、石橋山の合戦で頼朝が敗れ、安房に逃れたところまでは知りませんでした。
源氏が敗れたという事態に、義経は衝撃を受けます。ただ、この館の人たちが義経に書くそう書くそうとする中で、泰衡だけが包み隠さず打ち明けてくれたことに、義経は感謝します。「負け戦ならなおのこと、この九郎が行かねば。どんなことがあっても兄を助けねばならぬ。御館に願い出て今日にも出陣いたす!」
脚本:中島 丈博
高橋 克彦 作 「炎立つ」より
音楽:菅野 由弘
語り:寺田 農
題字:山田 惠諦
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[出演]
渡辺 謙 (藤原泰衡)
野村 宏伸 (源 義経(九郎))
時任 三郎 (弁慶)
中嶋 朋子 (薫子)
三浦 浩一 (藤原国衡)
中川 安奈 (亜古耶)
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紺野 美沙子 (橘似)
本郷 功次郎 (北条時政)
中原 丈雄 (藤原基顕)
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長塚 京三 (源 頼朝)
真野 響子 (倫子)
中尾 彬 (後白河法皇)
林 隆三 (藤原基成)
渡瀬 恒彦 (藤原秀衡)
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制作:音成 正人
制作・著作:NHK
共同制作:NHKエンタープライズ
制作統括:村山 昭紀
:NHKアート
:NHKテクニカルサービス
演出:三井 智一
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『炎 立つ』
第26回「秀衡動かず」
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