プレイバック春日局・(38)無常の風
【アヴァン・タイトル】
徳川秀忠は将軍職を家光に譲るにあたって、江戸城を大幅に作り変えました。中でも最も大きく変化したのが天守閣です。左が改修前の天守閣、右が改修後の天守閣です。2つの天守閣の最も大きな違いは、その位置にあります。それまで本丸の中央部にあった天守は、200mも北に移されたと言われます。
その分、本丸の建物は増築され、中央官庁である“表”、将軍の公邸である“中奥”、そして将軍の私邸“大奥”というふうに、役割が分けられました。幕府の権威の象徴としてそびえ立つ天守閣は、家光がこの世を去って6年後、明暦の大火で焼け落ちました。その後、天守は二度と建てられることはありませんでした。世の中は治まり、幕府はすでに権威の象徴すら必要としなかったのです──。
寛永3(1626)年9月15日、お江与は波乱に満ちた54年の生涯を閉じました。夫の徳川秀忠と子の家光・忠長は上洛中で、身内には看取られない孤独で静かな死でした。急いで江戸城に戻って来た秀忠でしたが、すでに遺骸は荼毘に付され位牌が祀られていました。秀忠よりも先に戻ってきていた忠長と、家光は位牌の傍らで秀忠を迎え入れます。これから余生を楽しませてやりたかったと、秀忠は後悔の涙を流します。
天下の安泰を支えたお江与の半生があるからこそ今の徳川はあると、秀忠は家光と忠長にその思いに背かないよう諭します。訃報を聞いて駆け付けたお初は、三姉妹いつも助け合っていこうと誓った日のこと、豊臣秀吉から徳川に輿入れを命じられた時のことを思い出します。最期を看取ったおふくは、家光と忠長が兄弟仲良くと願っていたことを打ち明け、家光も忠長も肝に命じます。
今までお江与が務めた大奥総取締役は、おふくが引き継ぐことになりました。稲葉正勝は、おふくが本丸と西の丸の両方で多くの女性たちを束ねる激務を心配し、身体をいたわるよう言葉をかけます。おふくは、側室として送り込んだお振には未だにお手がつかず、将軍世継ぎの問題が解決しないと焦りを見せています。おふくは正勝に、それとなく側室を勧めてくれと頼みます。
幼いころはあれだけおふくを頼りにしていた家光が、最近ではおふくが必要ないように見えることに、「乳母とは切ないものよの」と寂しい思いです。人はおふくが大奥で権勢を振るっていると陰口をたたき、女の幸せなど捨てなければできない務めと理解してもらえない悔しさもあります。涙声になるおふくですが、「大御台さまの分まで、生涯 命をかけて将軍家をお守りする」と決意を新たにします。
正勝の新しい屋敷が完成し、隠居の稲葉正成が正勝の所領の常陸から出て来ました。今日は家光がお忍びでこの屋敷に来るとのことで、とんでもないときに来てしまったと正成は困惑しますが、こういう時でなければゆっくり話もできなかったと正勝は笑います。そこに家光が到着し、正勝は正成に同席を勧めます。「わしは御免被る。もはや仕官する気もない。今さら上様に機嫌を取るなどまっぴら御免じゃ」
案内してもらった家光は、好きな妻を娶り屋敷も建てられる正勝とは違って、妻すら勝手にはできない苦しい立場を吐露します。正勝は側室お振のことを持ち出しますが、紫を失った胸中は誰よりも正勝が知ってくれていると思っていただけに、家光は聞きたくないと顔を背けます。家光の求めで松平信綱が手配した芸者たちが来て、どんちゃん騒ぎが始まります。
その間、鶴千代の面倒は正成が見て、食事を摂らせています。家光の座敷からの騒ぎ声が癇に障りますが、将軍という職務の慰めとお春に聞いてぐっとこらえます。しかし酔って障子を押し倒し、芸者や正勝が駆け寄っている醜態を見るにつけ、黙ってはいられず家光の座敷に向かいます。
「上様はご乱心召されましたか!」 家光が将軍になるために、周囲の者たちがどれだけ苦労してきたか。この姿を見れば、何のために半生を家光に捧げてきたのかとおふくも嘆くだろうと訴える正成は、憂さとは心の驕った者の甘えと突き放します。これが最後のご奉公と言い置いて、正成は出ていきます。立腹した家光は江戸城に戻ります。「正成には追って沙汰する」 正勝はうつむいて涙を流します。
江戸城に戻り、正勝は事の次第をおふくに報告します。正成が諫めたのなら覚悟があってのことだろうとおふくは慮ります。関ヶ原の合戦でも自分の説を通した正成です。たとえどんな沙汰があっても悔いはないだろうというおふくに、正勝は驚きの声を上げます。家光が奥に渡ると知らせが来て、おふくと正勝は顔を見合わせます。
おふくの表情が固いまま、家光を迎えます。家光は正成に説教をされたことを笑みを浮かべながら話し、徳川にはあのような男はいなくなったと、秀忠にも願い出ていずれ所領を与え、徳川に奉公してもらうようにしたと報告します。「ふくのことを誰よりも思うておるのも、正成じゃ。ふくはその正成と別れて、わしに仕えてきた。わしもふくを大事にせねばの」
12月、本多忠刻と死別し嫡男なく家を失った千姫が、一人娘の勝姫を連れて江戸に戻って来ました。対面してすぐ、秀忠は千姫の元に歩み寄り、許せと頭を下げます。秀忠は千姫のために竹橋に屋敷を作らせ、その世話はおふくに頼んであります。髪を下ろして豊臣の者たちの菩提を弔いたいという千姫に、秀忠は千姫にはむごいことをしてしまったと涙を浮かべます。
千姫が移った竹橋御殿におふくとお勝が集まります。髪を下ろして御仏にお仕えすれば救われるとつぶやく千姫に、お勝は「戦乱の世に生まれた者の悲運」であり千姫の罪ではないと諭します。よろしゅうお願いいたします、と手をつく千姫にお勝は静かに頷き、髪を下ろす準備に入ろうとするとき、家光が駆け込んできました。「姉上……間に合いましたか」
家光は、千姫が落飾するという話を聞いて駆け付けたようで、千姫も本多忠刻に嫁ぐ際に守ってくれた家光に感謝の念があります。もし自分を無残と思うのなら、女がこのような目に遭わずに済むよう和平を守ってほしいと訴えます。千姫は手を合わせながら、お勝の手によって出家します。
乳母として江戸城に上がる時から世話になったお勝も家康の死で、そして千姫も夫の死で尼になったと、諸行無常を感じています。明日は我が身がどうなるか分からない……そうつぶやいたとき、お春が危篤で屋敷にきてほしいという急報が舞い込みます。病などとは聞いておらず、何かの間違いではないのかと思いながら、おふくは正勝邸に急ぎます。
正勝が言うには、今朝お春は流産し、薬師ももはや手の施しようがないという有り様だそうです。枕元に赴いたおふくは、鶴千代の母という役目があるではないかとお春を励ましますが、お春は最期を悟ったのか、鶴千代のことを頼みたくて来てもらったわけです。「義母上にご養育いただけましたら……鶴千代……おばあさまの言うことをよう聞いて……立派にお育ちくだされ……」
正勝はいたたまれず、その場から廊下に出て涙を浮かべます。正勝と夫婦になってわずか6年、お春は短い生涯を閉じました。正勝邸に赴いた正成は、下野真岡に2万石をいただいたとおふくに報告します。お春の死を乗り越えて、鶴千代は正勝を凌ぐ徳川を支える家臣になってくれるに違いないと、正成は鶴千代を抱きしめてかわいがります。
おふくはお春の死を悲しんでいる暇はありませんでした。お江与の死を境に家光と忠長の対立が表面化し、おふくは否応なく巻き込まれることになります。
寛永4(1627)年、稲葉正成が下野真岡藩2万石に封じられる。
寛永6(1629)年10月10日、おふくが上洛して昇殿し「春日局」名号を賜るまで
あと2年──。
原作・脚本:橋田 壽賀子「春日局」
音楽:坂田 晃一
語り:奈良岡 朋子
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[出演]
大原 麗子 (おふく)
山下 真司 (稲葉正成)
江口 洋介 (徳川家光)
斉藤 隆治 (徳川忠長)
唐沢 寿明 (稲葉正勝)
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東 てる美 (お勝)
野村 真美 (千姫)
真璃子 (お春)
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松原 智恵子 (お初)
中村 雅俊 (徳川秀忠)
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制作:澁谷 康生
演出:小見山 佳典
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『春日局』
第39回「兄弟は他人」
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