プレイバック春日局・(34)初恋
【アヴァン・タイトル】
江戸城本丸で最も広いスペースを持つ建物が、大広間です。大広間では幕府のさまざまな公式行事が行われました。コンピュータ・グラフィックスで再現した、その大広間を覗いてみましょう。
大広間は画面一番奥の上段の間を頂点にして、いくつかの続き部屋からなっています。その広さは合わせてタタミ400畳、俗に千畳敷とも呼ばれました。部屋の中は豪華な装飾に満ちています。天井の格子には鳳凰の模様がはめ込まれ、ふすまや壁には鶴と松を題材にした絵が描かれています。上段の間は将軍が座る場所です。将軍はここで全国の大名と対面し、外国からの特使を迎え、数々の公式行事を行いました。
徳川の権威を象徴する大広間。ここはまさに幕府政治の表舞台だったのです──。
徳川家康の死から4年後、元和6(1620)年。徳川秀忠の五女和姫が天皇の女御として入内する、念願の日が近づいていました。江戸城には三条西実条(さねえだ)が訪れ、和姫が入内すればおふくが望む和平の道が永遠に続くと微笑みます。とはいえ、ひとり残っていた実子和姫が入内すると、お江与の周囲には誰もいなくなり、寂しくなるとおふくは案じています。
勅使・実条は朝廷から遣わされた武家伝奏で、入内の準備を万端にしてくれます。それに将軍の名代として土井利勝が、お江与の名代として阿茶の局が同行することになりました。お江与は入内の件をずっと反対してきましたが、和姫は生まれた時から政仁(ことひと)親王に入内させる約束で育ててきたのです。秀忠は、慣れない場所で暮らす和姫に辛抱を説き、諸事は利勝と阿茶に任せます。
お江与は、徳川は強大な力を持ったというのに、秀忠はまだ朝廷を恐れるのかと不満顔です。和姫が入内の覚悟を固めているとはいえ、今回の入内は、朝廷が幕府の力に屈して帝が仕方なく許したらしく、それだけに和姫の宮中での暮らしは風当たりが強くなることが容易に想像できます。お江与は二度とは会えない和姫の髪を撫でながら、堅固でいてくだされ、と涙を浮かべます。
5月8日、江戸を発した和姫入内の行列は豪華を極め、6月18日に無事入内を果たします。さらに慶事は続き、家康の死で延び延びになっていた竹千代・国千代の元服の儀が行われたのです。これを機に、竹千代は家康の諱を受け「家光」、国千代は秀忠の諱を受け「忠長」と名を改めます。そして家光には従二位権大納言、忠長には参議従四位下 右近衛権中将の位を授けられます。
改めて家光に挨拶するおふくは、家来たちと共に祝いたいと酒の用意を求める家光に、首を横に振ります。元服した後の行状こそ大事と、稲葉正勝ら家臣たちの緒を締め直すおふくに、家光は大きくため息をつきます。そしておふくは、義孫にあたる堀田正盛が小姓として仕えることになったと、家光に目通りさせます。おふくと正盛が下がった後、家光は正勝らに「いつものように城を抜け出す」と指示します。
片諱を与えた秀忠は忠長を大事と思っているとお江与は笑顔ですが、そうであればなぜ忠長は、家光が将軍世継ぎなのに自分は甲斐18万石の一大名と、同じ徳川の子でありながら扱いの違いに疑問を持ち始めていました。お江与は、ゆめゆめ口にしてはならないと忠長をたしなめます。忠長は己の分をわきまえて兄を助ければいいのです。
忠長は憂さ晴らしに、江戸城西の丸の堀にいる鴨を鉄砲で撃ち仕留めていきます。直後、このことで忠長は秀忠から叱責を受けます。西の丸は時期将軍たる家光の居城であり、西の丸に向けて家臣が発砲する、分をわきまえない行動に秀忠は大激怒なのです。他意はないと弁明する忠長をかばい、高丸改め稲葉正利は鴨猟は自分が言い出したことと、存分な成敗を求めます。「追って沙汰する」
正利には蟄居の命が下ります。たかが西の丸で鴨を撃っただけと、家光は秀忠に寛大な処置をお願いしたのに、徳川のけじめと聞き入れてもらえませんでした。家光と忠長は主従の関係であり、家光をないがしろにした正利の罪は許せないと、おふくははっきり答えます。正利はおふくの子ですが、主君の行状は家臣の不始末だと、おふくは蟄居は当然という考えです。
柳生宗矩の屋敷に剣術の稽古に向かったということにして、実際には家光は正勝の屋敷に赴きます。いつものように膳の支度をしてもらう正勝の侍女・お春を見て、西の丸の奥にはろくな女がいないと失望する家光ですが、ならば城の外で見つけるまでと、家光は吉原に行きたいと言い出します。正勝は必死に止め、見物するだけと譲歩しますが、松平信綱に押し切られてしまいます。
吉原独特の賑わいの中、町人姿に身をやつす家光と信綱、そして浮かぬ顔の正勝が歩いていきます。呼び込みの女中に手を引かれるまま、家光主従は座敷に通されます。見るだけと言ったのに! と正勝は信綱を責めますが、気に入った女がいなければ帰るし、見るだけでいいのだとニッコリします。正勝は家光に、見るだけとくどいほどに念押しします。そのうち幇間(ほうかん)が入ってきて、家光に酒を勧めます。
夜遅く、おふくは人目を忍んで正利が蟄居している屋敷へ入ります。自分の不行き届きを詫びる正利ですが、正利がかばったおかげで忠長には傷がつかず、秀忠もけじめをつけられたとおふくは正利を褒めます。おふくは正利にあげる乳を家光に差し上げ、母らしいことは何ひとつしてやれず、かわいそうなことをしたと思っていますが、正利はひとすじに忠長に仕えると返答します。
家光の座敷では派手に踊って盛り上がっていました。家光は踊り手たちに手を引かれ、座敷の真ん中でよく分からない踊りを踊って憂さ晴らしです。正勝も誘われますが、本気で嫌がっているのか踊り手を突き飛ばしてしまいます。そこに、“観音さま”、“菩薩さま”、“弁天さま”が座敷に入ってきて、家光たちは息をのみます。正勝は帰ろうと家光に言いますが、すでに門は閉まって出られなくなっている時間です。
家光の相手をするのは遊女・紫です。口調で、紫は家光を侍かと尋ねますが、身分を明かすなと信綱に忠告を受けていたのを思い出し、武家に出入りする商人と偽ります。「“旦那”って呼ぶにはまだ若すぎるねぇ、どうせ親の銭なんだろうが……親泣かせるんじゃないよ」と、まるで姉のような母のような愛情を持つ紫に、家光はどんどん惹かれていきます。
正勝のところにも別の遊女がいますが、正勝は座敷の端の方に座ってじっとして、夜が明けるのを待つつもりです。遊女はからかって正勝にちょっかいを出したりもしますが、正勝はまた遊女を突き飛ばし、遊女はいじけてひとり酒をあおります。
紫は家光の手を取り、自分の懐に差し入れます。「はっきり言っとくよ。あたしは銭をもらうからあンたの相手をするだけ」 ここを出たら忘れるんだよ、と優しく諭します。忘れなければ身を滅ぼしてしまうと、遊女でありながら家光のために忠告するのです。紫の手が家光の背中に回り、家光は夢中で紫を抱きしめます。
朝を迎え、江戸城に戻った家光主従を、おふくは待っていました。おふくは正勝を呼び、昨夜のことを厳しく詮索するつもりはないが、家光の行状が目に余るようなら必ず報告をと忠告します。正勝は神妙に頭を下げますが、おふくは井上正就(まさなり)の娘を嫁にという話を持ってきました。正勝はすでに24歳、適齢期と思ったのですが、正勝は役目うんぬんと話をはぐらかして出ていきます。
「なんでまた来たんだい!? もう来ちゃいけないって言ったじゃないか」 家光の姿に紫は驚愕します。家光は毎日でも来ると真剣ですが、目を覚ますんだよ、あンたが好きだから言うんじゃないか、と紫は家光を平手打ちします。母親に疎まれて頬を叩かれたこともなかったと打ち明ける家光に紫は慈しみの目を向け、母親のように守る気持ちで満たされています。「あンたも不幸せな人なんだ……」
おふくは寝ずに家光の戻りを待っていましたが、昨夜も戻って来ませんでした。侍女のきくは家光の行状が人のうわさに立つようになり、いずれ秀忠の耳に入ることを危惧しますが、それはおふくも充分分かっていることでした。その時おふくは利勝に呼び出しを受けます。「家光さまのご行状ご承知か? ご承知で黙って見過ごされておられるのか、いかなるご所存じゃ!」
元和6(1620)年6月18日、和姫が後水尾天皇の女御として入内する。
寛永6(1629)年10月10日、おふくが上洛して昇殿し「春日局」名号を賜るまで
あと9年3か月──。
原作・脚本:橋田 壽賀子「春日局」
音楽:坂田 晃一
語り:奈良岡 朋子
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[出演]
大原 麗子 (おふく)
江口 洋介 (徳川家光)
若村 麻由美 (紫)
斉藤 隆治 (徳川忠長)
唐沢 寿明 (稲葉正勝)
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中条 きよし (土井利勝)
橋爪 淳 (三条西実条)
和田 幾子 (阿茶の局)
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中村 雅俊 (徳川秀忠)
長山 藍子 (お江与)
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制作:澁谷 康生
演出:富沢 正幸
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『春日局』
第35回「秋の悲恋」
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