プレイバック炎 立つ・第三部 黄金楽土 (23)愛のかたち
【アヴァン・タイトル】
奥州の覇者・藤原秀衡には、国衡・泰衡・忠衡という息子がいた。長男の国衡は武芸に優れ父太郎と呼ばれたが、母は貴族の出ではなかった。それに比べ前の陸奥守であった藤原基成の娘を母に持つ泰衡は母太郎と呼ばれ、学芸に優れ嫡子とされていた。そんな平泉へやって来たのが源 九郎義経である。
泰衡は義経に敵対心を抱いている。平泉が義経を抱えたことは、京の平家や後白河法皇に戦乱の火種を与えるとともに、奥州藤原家にも波紋を呼び起こすのであった──。
承安4(1174)年、義経が平泉に来て3か月が経っていました。藤原泰衡は父の言いつけ通り源 義経に国史を教えていますが、義経はそれに飽きてしまい、むずがゆい背中を書くようにせがみます。不満顔ながら言われるがまま背中を掻く泰衡です。気持ちよさそうな表情を浮かべる義経にとって、平泉はまさに極楽世界そのもののようです。
泰衡は弥五郎を連れて鍛冶職人の鬼丸のところへ向かいます。出来上がりの刀の刃文(はもん)の美しさに泰衡は目を奪われます。すべて買い取ると言い出す泰衡に、鬼丸は選りすぐりのものをひと振り差し出します。それを手にして、しっくりすると見つめていると、目の前を若く美しい娘が横切ります。鞘作りにかかる鬼丸は意匠をどうするか泰衡に尋ねますが、娘を見つめる泰衡は話を聞いていません。
鬼丸の美しい娘が「亜古耶(あこや)」と知ってご機嫌な泰衡は、居室の私物が持ち運ばれていることに激怒します。家臣の藤原成親は御館(みたち=藤原秀衡)からの言いつけと弁明します。泰衡を西の館へ引っ越させ、この部屋を義経に使わせるつもりなのです。あまりのことに泰衡は悔し涙を浮かべます。
馬場では藤原国衡が見守る中、義経が秀衡と藤原基成に笠懸を披露します。義経は難なく的に射て、みるみる上達していくその筋のよさに、秀衡も基成も関心を持ちます。武門の棟梁の家柄ではありますが、あの身のこなしは天性のもので、秀衡は義経の豪放な性格からも将来を楽しみにしています。
基成は秀衡に、義経を持てはやすのは結構ながら、たまには泰衡のことも目をかけるように告げます。基成にとって泰衡は孫にあたり、泰衡をかわいがっているわけです。秀衡から見て泰衡は晩稲(おくて)で堅物です。秀衡が泰衡の年齢のころには女の尻ばかり追いかけていたと笑います。基成は泰衡に嫁取りを勧めます。「変わり者には嫁を持たせよ、と言いますな」
まるで狭い屋敷に追いやられ、泰衡は衝撃を受けます。そこに先ほど義経に声をかけられた薫子が入ってきました。見た感じ身体も華奢で落ち着きがなく、源氏の嫡流でも行き場のない浮浪児だとこき下ろす薫子は、泰衡への助力を言い出します。「九郎どのにうんと意地悪をして居心地悪くさせてやる。針でチクチク刺すようなことをして、この平泉に居づらくさせるの。任しといてちょうだい」
下働きの女たちが井戸の周囲で洗い物をしている横で、弁慶も義経の下着を洗っています。それだけでなく、秀衡の側室・栂(とが)の前が義経のために仕立てた直垂を試着させる横で、縫い物までする始末です。栂の前は私がやってあげますと、弁慶の手から取り上げようとしますが、布を引っ張り合っているうちに破ってしまいます。「不浄な手で触るでない! うじゃうじゃ抜かすとたたき出すぞ!」
そのような出来事もあり、弁慶に対するイライラを、飯を食らう実子国衡に愚痴る栂の前です。しかし国衡は義経に気に入られているし、秀衡から武術鍛錬を任されているだけあって、国衡に頑張るよう発破をかけます。国衡は飯をほおばりながら眼光鋭くなります。「いずれ戦の世の中になるやも……平泉が九郎どのを抱えたということは、そういうことかもしれぬ。その時こそ俺の出番が……!!」
義経が縁側で気持ちよさそうにお昼寝していると、チラチラと義経を意識しながら、薫子が庭園を通り過ぎていきます。義経がフッと目を開けると、薫子は扇を落として行ったようです。思わず駆け寄ろうとする義経ですが、弁慶は義経を引き止めます。「あの女子は魔物ですぞ。構われぬほうがよい」 しかし、と義経は、扇を拾って薫子のところへ届けに行きます。
薫子は、こんなもの持ってきていただかなくても、と庭園内の小川に扇を捨ててしまいます。そればかりか、陸奥の冬の厳しさを教えたり、常盤の悪口を言ったりと、義経に嫌がらせします。「九郎どのだって、源氏の嫡流だなんてこの平泉では有難がられているけれど、結局のところ脇腹のお生まれではありませんか。この平泉に拾われなければ、今ごろ野良犬のように都をうろついているだけの宿なしね」
呑気な義経も、さすがに母のことを悪しざまに言われて腹を立てます。母の人生は平家にめちゃくちゃにされたわけで、義経はいつか平家を討ちたいと思っているのですが、義経を平泉から追い出すために薫子は挑発します。「じゃあさっさと平家を討ちに行きなさいよ! こんなところでのんびりしてないで、清盛の首を取ってくれば?」
そのころ泰衡は、母倫子と祖父基成から結婚相手の話をされます。胸の中に亜古耶の面影がありながら、それを言葉に出せず戸惑う泰衡に、基成は自分にまかせてほしいと告げます。泰衡は遠回しに縁談を遠慮しますが、倫子に好きな人の存在を聞かれ、基成に側室にすればいいと言われ、声を荒げます。「嫁はひとりでたくさん! 父上のようにごちゃごちゃと女子はいりませぬ!」
後白河法皇は法住寺殿で今様を楽しんでいます。そんな法皇の耳に、義経が奥州に入ったという事実が伝わります。なるほどそれは面白いのう、と法皇はニヤリとします。「伊豆には頼朝、木曽には義仲、平泉にも源氏の末裔が擁されているとなれば、何ぞのときには連鎖して火花が走るな」
法皇は平家に対しての良い思いは全くなく、鬱陶しさを打ち破らなければと考えているようです。そこに源 資時がオウムを連れてやって来ました。資時はオウムに言葉を覚えさせたらしく、それを披露します。「ヘイケキライ、キヨモリノバカ、キヨモリシネ……」 座は大いに盛り上がります。オウムなら清盛も取り締まりようもないわけです。法皇は機嫌よく次の今様を謡わせます。
夜、眠っている泰衡は夜伽に来た女の姿にのけぞります。秀衡が寄越したと知り、「戯れが過ぎまする!」と秀衡の居室に怒鳴り込みます。酔っている秀衡は酒の席に泰衡を誘いますが、自分には自分の考えがあると主張する泰衡は、そんな父とは同席できないと涙を浮かべて出て行ってしまいます。「……打つ手を間違えたかの?」
馬上の義経が弁慶を連れてお散歩です。途中の湧き水のところで水を汲む亜古耶を見かけ、水を所望します。汲む杓がないと断ると、その白い手でと言い出します。亜古耶が手ですくった水を堪能した義経は名前を尋ねますが、亜古耶はそれには答えず桶を抱えてスタスタと行ってしまいます。義経は諦めずしばらく後を追いかけますが、亜古耶は見向きもしないで山道を消えていきます。
恋ごころが芽生えたようで、義経は放心状態です。弁慶は国衡に娘の心当たりがないか尋ねますが、父の名前も居場所も分からないでは探しようがないとキッパリ断ります。薫子は義経には同情なんてしませんが、義経が思い悩むほど思われる娘が気になるようです。薫子にその娘のことを聞いた泰衡は、ハッと気づきます。「九郎め……」
「鬼丸という刀鍛冶の娘で、名は亜古耶」と弁慶は義経に教えます。すぐにでも亜古耶のところに向かう義経が御所を出ると、御所に向かう亜古耶とすれ違います。身構えた亜古耶は逃げるように御所に入り、義経も後を追いかけます。途中で御簾の中に隠れて義経をやり過ごすと、亜古耶は泰衡のところに駆け込みます。
亜古耶は鬼丸に注文していた刀を納品に来たのです。そこに義経が現れますが、泰衡は亜古耶をかばい、しばらく義経を睨みつけます。状況が呑み込めない義経に、泰衡は亜古耶を抱き寄せ、亜古耶も泰衡の胸に顔をうずめます。目の前の悲劇に後ずさりする義経は、あまりの衝撃に走って出て行ってしまいます。義経が去っても、固く抱き合ったままのふたりです。
泰衡はそのまま亜古耶を連れて秀衡の居室に向かいます。何ごとじゃ! と驚く秀衡に泰衡は亜古耶を紹介し、自分の嫁にすると宣言します。都の公卿の娘とか何とかいう話はした覚えはなく、この女に決めたと泰衡は一歩も引きません。「そうか。そういうことか」 秀衡は泰衡の顔を見、亜古耶の顔を見、柔和な笑みを浮かべます。
脚本:中島 丈博
高橋 克彦 作 「炎立つ」より
音楽:菅野 由弘
語り:寺田 農
題字:山田 惠諦
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[出演]
渡辺 謙 (藤原泰衡)
野村 宏伸 (源 義経(九郎))
時任 三郎 (弁慶)
中嶋 朋子 (薫子)
三浦 浩一 (藤原国衡)
中川 安奈 (亜古耶)
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真野 響子 (倫子)
中尾 彬 (後白河法皇)
浅利 香津代 (栂の前)
林 隆三 (藤原基成)
渡瀬 恒彦 (藤原秀衡)
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制作:音成 正人
制作・著作:NHK
共同制作:NHKエンタープライズ
制作統括:村山 昭紀
:NHKアート
:NHKテクニカルサービス
演出:吉村 芳之
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『炎 立つ』
第24回「泰衡の決意」
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