プレイバック炎 立つ・第三部 黄金楽土 (24)泰衡の決意
【アヴァン・タイトル】
「平家にあらざるは人にあらず」。平 清盛は武士で初めて太政大臣にまで上り詰め、平氏一門が朝廷の高位高官を独占した。時の最高権力者・後白河法皇は当初、清盛と同盟関係にあった。しかし清盛のあまりにも横暴な振る舞いに激怒し、二人の間に大きな溝が生まれた。
1177年、後白河法皇とその側近たちは京の山荘で、平家打倒の策略を巡らせた。後に言う「鹿ヶ谷の陰謀」である。打倒平氏に燃える義経を擁す平泉が取るべき道は? 泰衡にも待ったなしの判断が求められるのである──。
安元3(1171)年。義経が平泉に来て3年が過ぎ、藤原秀衡は藤原泰衡と源 義経を伴って十三湊(とさみなと=現 青森県)に視察に赴きます。陸揚げされた宋からの渡来品(白磁)を手に取って義経に説明します。大きな壺から小さな椀まで、これらは宋より技術的に遅れている日本ではまだまだ作ることが出来ず、ここで仕入れた白磁を都に持っていけば飛ぶように売れます。
白磁のほかにもトラやヒョウの毛皮、サイの角など、奥州の金を使えば宋との直接取引で、奥州にいながら何でも手に入ると説明する秀衡は、平泉の行く末は計り知れないと胸を張ります。十三湊から宋まで大きな船で15日、途中で帆船に乗り換えて風に乗ればあっという間です。これは平泉から京へ馬で行くまでよりも近く、一度は行ってみたいと義経は宋への憧れを口にします。
酒の席で秀衡は、奥州藤原初代である藤原清衡の母でありながら清原に再嫁し、それでも長年にわたって耐え続け藤原再興を果たした結有の話を持ち出します。その話を聞いた義経は結有に母常盤の姿を重ね、涙を流します。義経の母・常盤も、源 義朝の妻でありながら清盛の側室になったのでした。秀衡は義経の肩に手を置き、慰めます。
平泉の加羅御所を藤原基顕が訪ねてきます。亜古耶(あこや)は基顕に端午の節会のちまきを出します。泰衡の妻としてすっかり落ち着き、亜古耶を見て、藤原基顕は泰衡をからかいます。今年の冬には子供も生まれる予定で、泰衡には父となる心構えができていないと照れます。「何を言うておる。そなたの歳では遅すぎるぐらいじゃ」と基顕は、ちまきを泰衡に投げ渡します。
端午の節会ということもあり、庭では義経と藤原忠衡が毬杖(ぎっちょう)に夢中です。その横を病がちの倫子の代理で参拝しに行く亜古耶ですが、目で追う義経に薫子は「なんだかまだ未練がおありのようね」と冷めた表情です。忠衡は義経に鞠を打つよう催促し、義経は無表情で鞠を打ちますが、薫子の追い打ちはまだまだ続きます。
3月には平 重盛が右大臣に昇進したことすら義経は知らず、平家を討とうという人がそのように情勢に疎くては、と薫子にバカにされます。そればかりか、時忠・頼盛・宗盛・教盛など数えきれないほどの平家一族が中納言や参議の座を占め、後ろでは清盛が睨みを利かせている現状、義経が平泉でのうのうと過ごしている間にも平家一族の繁栄は極まり、揺るがない強固なものになりつつあります。
“平家を滅ぼす” “清盛を殺す”とか言っても、もう無理では? と薫子はニヤリとします。「そんなことはない! 全国の源氏が決起すれば必ず!」と義経は目を剥きますが、19歳になったのだから平家を討ちに出て行けと、いつもながらの薫子の主張です。義経は、男の言いなりになる従順な女と、美しさを武器に男に歯向かう女と2種類いる、と謎めいたことを言って、毬杖をやめて忠衡と遊びに行きます。
夕方、湯殿を使っていた義経は急に気分が悪くなったようで、国衡に抱きかかえられて弁慶たちがいる居室に運ばれてきました。ひどい熱を発しているようです。栂の前は風邪でも引いたかと疑いますが、弁慶が義経の懐を開くと、ブツブツができています。風邪ではないと察知した弁慶は、義経を厠へ連れていきます。
泰衡の前の倫子は愚痴が止まりません。秀衡から義経の馬術弓矢の相手をするようになって、なぜか栂の前の御所への出入りが頻繁になり、倫子は鬱陶しく感じているわけです。義経が平泉に来てからというもの、秀衡と泰衡の親子関係も水臭くなり、泰衡と国衡の兄弟関係もギクシャクして、「あの九郎さえいなければ……いっそ病になって死んでくれたらよいのに!」と浮かない表情です。
義経はひどい疫病にかかっていました。憔悴する秀衡はもっと腕の良い薬師を探させ、治癒するまで加持祈祷を続けろと命じます。秀衡自身も中尊寺金色堂で読経して義経の病気平癒を願います。倫子は死んでくれればと口にした途端にこの事態で顔色を失い、あれだけ義経を非難してきた薫子はこれまでの己の残酷な行為を後悔します。せめてもの償いと、薫子は手を合わせ一心不乱に回復を祈ります。
薬師が“今夜がヤマ”と言っていた夜が明け、どうにか持ち直しました。秀衡は喜び、夜通し祈り続けた薫子は歓喜します。義経は重湯を食べ、苦い薬も服用しますが、口直しに何かうまいものをと甘えるところは病気前とちっとも変わりません。泰衡と基顕は、なかなか死なないものだと口にしながら、心からよかったと安堵の笑顔を浮かべます。
平家一族の専横と隆盛に院の近臣たちの反感は募り、後白河法皇による平家打倒の動きが加速していきます。平治の乱で非業の死を遂げた信西の子・靜賢法師(じょうけん)の鹿ヶ谷山荘で、その密議をこらします。法皇に平家を討てという院宣を出してもらい、清盛が福原から戻って来ない隙に六波羅に夜襲をかけるという案を法皇に進言します。
話はもっと盛り上がり、西行法師は清盛の呪詛を提案し、中原基兼は平氏の主だったものを犬殺ししようと言い出します。靜賢法師はそんな物騒なことをと愕然とし、冗談でも我が山荘でそんなことを言わないでもらいたいと訴えます。酒に酔った基兼は瓶子(へいし)を倒してしまいますが、藤原成親は「瓶子が……平氏が倒れたのじゃ」と言って瓶子の注ぎ口を落とし、法皇を喜ばせます。
この鹿ヶ谷の陰謀は、その場に居合わせていた多田蔵人行綱によって、直ちに福原の清盛に密告され、陰謀に加わったものは刑罰が下されます。成親は備前に流され殺害、基兼は陸奥へ、俊寛僧都(そうず)らは鬼界ヶ島に流されます。首謀者の一人である西行法師は見せしめのために朱雀大路を引き回され斬首され、法皇は無念です。「清盛を討つほどの武者は誰もおらぬというのか……!!」
法皇から秀衡への密書を携えて、平泉第に源 資時が橘似を訪ねてきました。資時は平家に漏れないよう気取られぬなと警告し、橘似は自ら秀衡に届けることにします。
そのころ泰衡と基顕は、陸奥に流されてきた基兼を慰問します。基兼は行綱のような胡散臭い者に法皇が心を許したばかりにこんなことになったと怒り心頭です。泰衡は平泉の取るべき道を基兼に尋ねますが、のほほんと黄金にまみれているヒマはなく、今すぐ兵を率いて六波羅を攻め、平氏一族を根絶やしにせよと迫ります。
橘似が密書を持って屋敷を訪れます。屋敷を出る義経・弁慶主従と会いますが、密書の内容は秀衡から聞くように伝えます。「法皇がここまでのう」と、密書に目を通した秀衡は腕を組んで考え込みます。表立って清盛との対立を避けてきた法皇ですが、我慢ならないという印象です。義経を立てれば平泉も影響が及ぶ、秀衡は平泉としての返答を基成に一任します。
基顕によれば、法皇は対立する二者とは別に高みの見物を行い、有利な方へ傾くつもりのようです。平泉と平家を戦わせて自らは様子見をされては敵わぬと泰衡はため息をつきます。ここはあくまで平泉は中立の立場を守り続けるかが大事と感じ、泰衡は平泉を守らなければ戦に巻き込まれると遠くを見据えます。
脚本:中島 丈博
高橋 克彦 作 「炎立つ」より
音楽:菅野 由弘
語り:寺田 農
題字:山田 惠諦
──────────
[出演]
渡辺 謙 (藤原泰衡)
野村 宏伸 (源 義経(九郎))
時任 三郎 (弁慶)
中嶋 朋子 (薫子)
三浦 浩一 (藤原国衡)
中川 安奈 (亜古耶)
──────────
紺野 美沙子 (橘似)
浅利 香津代 (栂の前)
中原 丈雄 (藤原基顕)
──────────
真野 響子 (倫子)
中尾 彬 (後白河法皇)
林 隆三 (藤原基成)
渡瀬 恒彦 (藤原秀衡)
──────────
制作:音成 正人
制作・著作:NHK
共同制作:NHKエンタープライズ
制作統括:村山 昭紀
:NHKアート
:NHKテクニカルサービス
演出:門脇 正美
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『炎 立つ』
第25回「頼朝挙兵」
| 固定リンク
「NHK大河1993・炎 立つ」カテゴリの記事
- プレイバック炎 立つ・第三部 黄金楽土 (35)楽土・平泉 [終](2024.12.09)
- プレイバック炎 立つ・第三部 黄金楽土 (34)泰衡の覚悟(2024.12.04)
- プレイバック炎 立つ・第三部 黄金楽土 (33)秀衡逝く(2024.11.29)
- プレイバック炎 立つ・第三部 黄金楽土 (32)基成の怒り(2024.11.25)
- プレイバック炎 立つ・第三部 黄金楽土 (31)約束の剣(2024.11.20)
コメント