プレイバック春日局・(43)さらば吾子(わがこ)よ
【アヴァン・タイトル】
「改易」すなわち大名の取り潰し。世継ぎとなるべき男子がいない時や幕府への反逆を理由に、徳川幕府は改易を次々に断行しました。家康は関ヶ原以降41大名を改易、377万石を没収。二代将軍秀忠は41大名を改易、439万石を没収。そして三代将軍家光は49大名を改易、398万石を没収。三代に渡る131大名、1,200万石の改易は、実に江戸時代全体の6割も占め、30万人の浪人を出したといわれています。
それは改易の最大の目的が、豊臣恩顧の大名の取り潰しだったからです。特に秀吉子飼いの福島正則を築城違反の罪で、加藤清正の子・忠広を謀反のかどで改易したことは、豊臣への完全勝利となりました。改易という手段によって、徳川は大名統制力の強さを天下に知らしめ、300年の安定の基礎を築いたのです──。
寛永10(1633)年12月6日、徳川忠長は幽閉先の高崎で自害して果てます。徳川家光は年寄たちを呼び集め、忠長を死に追いやったのはお前たちだと涙を流して訴えます。乱世を生きた土井利勝は骨肉の争いをいくつも見て来て、上に溺れてはならないと冷静ですが、酒井忠勝は何を血迷ったかと呆れていて、家光は忠長の気持ちも自分の気持ちも分かりはしないと捨て台詞を吐いて出て行ってしまいます。
おふくは家光の胸中を察します。将軍として強い幕府を作った時は忠長を赦すつもりでいた家光ですが、それまで生きながらえてほしいという願いは叶いませんでした。稲葉正利も今となっては救うこともできません。おふくは忠長は徳川の男子の誇りを通した立派な最期だったし、正利も己を全うした人生だからと家光に気遣います。家光は年寄たちの言うままにならない強い幕府を作ると決意します。
家光が何としても命は助けると言った正利は、高崎城内の一室で身柄を預けられていました。忠長の位牌を前に、短刀を抜き自害しようとしますが、刀を抜く音に気付いた監視役に見つかって、自害を止められてしまいます。「罪人には自害することも殿のお供も許されぬのかッ!」と涙を流します。
正利は高崎を発ち、いったん江戸に立ち寄った後、熊本へ配流となって細川家へお預けとなります。まだ生きながらえておるのかと吐き捨てるおふくですが、家光のおふくを気遣って正利を死なせてはならないとの厳命であり、江戸ではおふくと正利の対面を許すという格別の配慮です。稲葉正勝も、正利へのせめてもの餞(はなむけ)と、おふくには正利と対面してお別れするよう勧めます。
おふくは江戸細川邸に入った正利と対面しますが、「私に母はおりませぬ」と正利は目も合わせようともしません。大御所秀忠の逝去を待ちかねたように忠長を改易し、家光とおふくが忠長の命を奪ったのだと涙を流します。もし哀れに思うならこの場で命を奪ってほしいと訴えますが、おふくはそのまま立ち去ります。「正利にはやはり母はおりませなんだ」という正利の言葉が、おふくの胸をえぐります。
江戸城に戻ったおふくですが、対面のことは帰城してから正勝に報告することになっていて、祖心尼に表へ使いを頼みます。しかし正勝は気分がすぐれないとかですでに城を退出しているようです。おふくは近ごろ正勝の様子がおかしいと気になっていて、宿下がりをして正勝の屋敷に向かうことにします。
江戸の稲葉屋敷では正勝が床について休んでいます。おふくが見舞いに訪れたと知るや、着替えを済ませて現れます。正勝の子・正則と対話していたおふくは、正則の母親として、そして正勝の世話をする妻として後添えを勧めますが、妻の機嫌を取っている暇はないと正勝は笑います。やはり正勝はお春のことが心に残っていて、家光も紫のことがあって側室には手を出さず、おふくは顔を曇らせます。
正利と対面を済ませてきたことも正勝に報告します。「正利は不憫じゃ」と泣き顔になるおふくを見て、正勝は逆につらい思いをさせてしまったとおふくを慮ります。家光を恨み、自分を恨んで果てていくのが正利の節を通すことだとおふくは理解します。そういう意味では正勝はおふくのそばでここまでこれて果報者だと笑います。おふくはやがて小田原へ戻る正勝の身体を労わります。
12月末に自領小田原へ帰還した正勝は、翌寛永11(1634)年1月25日に急死してしまいます。38歳でした。おふくも、江戸屋敷に残っていた一子正則も、江戸で正勝の訃報を聞くことになります。稲葉屋敷に駆けつけたおふくは、母に続き父も亡くした孤独な正則を抱きしめます。「父上はそなた一人を置いて……おばばがついておる……おばばがついておる」
家光は、自分の右腕であり誰よりも大事な男をと、正勝の死を悼みます。まもなく江戸へ戻り、新しい幕閣づくりに励む矢先のことで、正勝も無念だったかもしれません。家光は心配しますが、おふくは気丈にふるまい笑みを浮かべます。「ふくには上さまがおられます。正勝が果たせませなんだこと、正勝に代わって上さまにお尽くしするが、霊を慰めることと思うておりまする」
正勝の葬儀は将軍の老職として盛大に行われ、久しぶりでおふくの一族が顔を合わせます。おふじには正勝も正則も面倒を見てもらい、一方で堀田正盛は正勝に世話をしてもらっていました。おふくの兄の斎藤利宗や、正勝の弟の稲葉正定も、正勝の早すぎる死を悼みます。そこに突然利勝が現れます。
利勝は家光の考えとして、正勝の遺領である小田原85,000石を、正則が継ぐことを認めたと伝えに来たのです。幕閣にはもちろん異論はありませんが、正則はまだ12歳で若年であるため、利宗を後見役として付家老を任されることになりました。利宗も妹の孫のためならと老骨に鞭打って励むと表明します。これでおふくは、安心して正則を任せることが出来ます。3月、正則は江戸を去り小田原へ入ります。
最愛の息子を失い、お勝がおふくを見まいに江戸城に訪れます。お勝はおふくの気晴らしにと、城下で行われていた花見の祭りに誘い出します。これまで花見できる暇がなく過ごしてきたおふくには、貴重な機会です。お勝は、家光に子が生まれるまではまだまだ隠居は出来ないと意地悪そうな笑みを浮かべます。
「ちょいと!」とおふくは声をかけられます。振り返るとそこには、かつて家光が愛し、愛されたがゆえに自害して果てた遊女の紫にそっくりな町娘が古着の小袖を売っていました。いつもは冷静沈着なおふくは、この時ばかりは町娘にくぎづけになっています。この時のおふくとの出会いが、この町娘の運命を大きく変えることになります。
原作・脚本:橋田 壽賀子「春日局」
音楽:坂田 晃一
語り:奈良岡 朋子
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[出演]
大原 麗子 (おふく)
江口 洋介 (徳川家光)
若村 麻由美 (お楽)
唐沢 寿明 (稲葉正勝)
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中条 きよし (土井利勝)
東 てる美 (お勝)
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制作:澁谷 康生
演出:一井 久司
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『春日局』
第44回「おんなの目」
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