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2024年11月 6日 (水)

プレイバック炎 立つ・第三部 黄金楽土 (28)兄と妹

【アヴァン・タイトル】

「藤原秀衡が2万騎を率いて白河の関を越えた」 これは藤原兼実(かねざね)の日記『玉葉』に記された、京でのうわさ話である。平 清盛亡き後、平氏政権は衰退の兆しを見せ始めていた。清盛の跡を継いだ宗盛にとって、頼朝をはじめとする諸国の源氏の上洛が、目前の脅威となっていた。

一方、頼朝の背後には秀衡が大軍を抱え奥州に君臨している。頼朝にとって秀衡こそ不気味な存在であった。それゆえ宗盛は、秀衡の支援を得ることで頼朝をけん制する道を選ぶことになる。しかし平泉のとるべき道は……? 泰衡は、その答えを得るべく鎌倉に立ち寄る決心をするのであった──。


治承5(1181)年・京の平泉第では、出家して伊勢の西行の庵に移り住むと聞かない藤原基顕を、藤原泰衡が必死に説得していました。一度平泉に戻ってからでもと引き止めても、それほど強い人間ではないと自覚する基顕は、決心が揺らぐかもしれないと抵抗し、泰衡の目の前で髻(もとどり)を切り落とします。「奥州の命脈はすべてそなたの肩に……。鎌倉へ行って、頼朝の正体を見極めて来なされ」

鎌倉の義経館に赴いた泰衡は、相変わらず男ばかりで染まっていると笑います。婚礼から戻った源 義経は北条義時を泰衡に紹介します。木曽義仲が北陸道で勢力を伸ばしているというのに、鎌倉ではのほほんと時が過ぎ、今日も義時の末妹と畠山重忠のように、やたら婚礼が流行っていると嘆きます。

泰衡が鎌倉にお忍びで来ていることは、重忠から源 頼朝に伝えられます。特に用があって来たわけではないと言いつくろってはいますが、用がないなら立ち寄る必要もないだろうに、と頼朝はフンと鼻を鳴らします。前触れもなく奥州の嫡子が鎌倉に足を踏み入れるとは、礼儀もわきまえないにもほどがあるというのです。

従者弥五郎は、泰衡が鎌倉に来ていることはとっくに頼朝に知れていると泰衡に告げます。頼朝に会わないわけにはいかないだろうと泰衡も考えていますが、そこに義経が御所に案内すると名乗り出ます。泰衡は義経を呼び止め、薫子からの文を手渡そうとしますが、まずいのだと義経は受け取りません。読みたくないのではないとあやふやな態度のまま、義経は泰衡を御所に案内します。

 

頼朝と対面した泰衡は、都からの帰途に思い立って立ち寄ったと、土産のひとつもない非礼を詫びます。頼朝は、都を訪問した意図や法皇に対面したかなど、まるで取り調べのように尋ねますが、自分より内裏との絆を強めたことになると目を細めます。鎌倉と奥州とが縁組みで結ばれようとする中、泰衡が鎌倉に来たことは何かの因縁だと、頼朝はつぶやきます。

奥州を出てはや3か月、泰衡はその縁組みが何なのか全く知りません。頼朝から藤原秀衡に、薫子との縁組みを申し入れたのです。鎌倉と奥州が手を携え、結束して困難に立ち向かっていけると期待してのことです。だからこそこの縁組みを、平家にも内裏にも早急に示す必要があります。頼朝に「どうかな?」と同意を求められても、泰衡にとっては寝耳に水の話で、答えに窮してしまいます。

義経館に戻った義経は、薫子と好き合っていたことぐらい調べれば分かるのにと悔しい思いでいっぱいです。泰衡は、これは縁組みというよりは人質だと受け取り、鎌倉殿とはそういう人物であったかと愕然とします。泰衡は改めて薫子からの文を義経に押し付け、命がけでしたためた女の文を命がけで読まねばならないと諭します。

みちのくの
 かりばかなしき うつせみの
  なみだの川に みをばすてつつ

もはや相会うことはない。再び平泉に参ることはない。薫子に対して自分のことを忘れてほしいとつぶやき、義経は涙を流します。泰衡は再び平和の世になれば、平泉に戻ることもできると励ましますが、第二の故郷である平泉には戻らないという義経の決意は固いです。その証として義経は、泰衡の腰刀を所望します。

 

いやです! と薫子は頼朝との縁組みを拒絶します。平泉と鎌倉の友好の証で、それ相応の扱いを受けると倫子がなだめますが、聞く耳を持ちません。倫子は、初めは頼朝の言うことを聞くふりをして、理由をつけて断る方法を提案しますが、そのためには誰かに嫁ぐ必要があります。それもいやだと言い出す薫子に、それなら頼朝のところに行くしかないとあきらめ顔です。

薫子にとっては、こんなひどい縁談を押し付けられるなら髪を下ろして尼になった方がいいと言い出します。亜古耶は、髪はいつでも切れると、しばらく様子見することを勧めます。「男というものは、政のためなら女の気持ちなんてどう踏みにじってもよいと思っているのです」と、薫子はもはや秀衡のことすら信じることが出来ません。

倫子の侍女・雛菊が、最近秀衡の閨(ねや)に呼ばれているらしく、その情報は瞬く間に薫子や栂(とが)の前、そして倫子へ伝わります。そんな中、なまはげ姿の武者が侍女たちを脅かしていて、通りかかった薫子はその武者を咎めます。比内から御所の材を郎党に運ばせる役割の河田次郎守継という男で、薫子はその仮面を「いただいておくわね」と持って行ってしまいます。

 

泰衡が平泉に戻って来ました。久々の我が家で泰衡の顔にも笑みがこぼれます。薫子の様子も気がかりな泰衡ですが、亜古耶から近々祝言を挙げると聞かされ、頼朝との縁組を秀衡は承知したのかと驚きます。しかし相手は頼朝ではなく河田守継です。頼朝のところに嫁ぐぐらいなら身分違いも仕方ないと、自ら望んで守継のところへ嫁ぐと決心したようです。

秀衡に勝手に鎌倉に行ったことを詫びる泰衡ですが、頼朝と会って、彼が陸奥に対して並々ならぬ遺恨を抱いていること、縁組みを友好の証と言いながら人質の扱いであることははっきりと分かりました。承知しなくてよかったと胸をなでおろす秀衡と藤原基成です。薫子にほかの縁談が調ったため叶わぬと、はっきり返事したのでした。

泰衡は、基顕が出家し斬った髻を基成に預けます。基成には基顕から文が届いていて神妙に髻を受け取りますが、基成は深くため息をつきます。泰衡は西行の教えにより、清衡・基衡・秀衡が築いてきた陸奥の文化の力で国を守る考えを持つようになっていました。それができるかと国衡は泰衡を見下しますが「あくまでも辛抱強く和平の道を貫けば、相手も戦の大義を失いまする」と泰衡は反発します。

民と話したいと思った泰衡は、鬼丸を介して金山職人猿丸と犬女(いぬめ)夫妻と対面します。子どもも4人いて暮らし向きも苦しいながら、何とか生きていっているようです。猿丸に村の祭りに来てほしいと懇願された泰衡は、来てくれればどんなにウキウキと元気づけてくれるかと犬女に背中を押され、祭りに行くことを約束します。泰衡は、猿丸に酒を持たせて帰します。

 

8月、平 宗盛から秀衡に頼朝追討の要請がなされ、それに続いて秀衡に、陸奥守任官の命が内裏から届きます。宗盛は、頼朝・義仲を背後から突く勢力として、奥州を取り込もうと必死だったのです。

奥州で地元の豪族が陸奥守になるというのは空前絶後のことで、秀衡は喜んで話を受けたわけです。秀衡が陸奥守を受けたことを知り、平家に味方させるためになりふり構わず官位を与える宗盛、そして秀衡の器の小ささを、頼朝はあざ嗤います。この時頼朝ははっきりと、秀衡が自分に敵対したと感じ取ります。奥州平泉は鎌倉を威圧する恐るべき強大な敵──。頼朝は文覚を使って秀衡を調伏します。

村人の格好に身をやつして村の祭りに赴いた泰衡は、明るく楽しそうに舞い、踊る村人たちの姿に、おのずと笑顔になります。「人が力いっぱい生きるということはこれか! こういうことなのか!」 そう感じた泰衡は、民も国の力だと感じるだけに、戦に巻き込んではならないと強く心に誓います。


脚本:中島 丈博
高橋 克彦 作 「炎立つ」より
音楽:菅野 由弘
語り:寺田 農
題字:山田 惠諦
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[出演]
渡辺 謙 (藤原泰衡)
野村 宏伸 (源 義経(九郎))
時任 三郎 (弁慶)
中嶋 朋子 (薫子)
三浦 浩一 (藤原国衡)
中川 安奈 (亜古耶)
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紺野 美沙子 (橘似)
浅利 香津代 (栂の前)
本郷 功次郎 (北条時政)
寺泉 憲 (藤原基房)
中原 丈雄 (藤原基顕)
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長塚 京三 (源 頼朝)
真野 響子 (倫子)
林 隆三 (藤原基成)
渡瀬 恒彦 (藤原秀衡)
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制作:音成 正人
制作・著作:NHK
共同制作:NHKエンタープライズ
制作統括:村山 昭紀
    :NHKアート
    :NHKテクニカルサービス
演出:三井 智一

 

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『炎 立つ』
第29回「兄弟の宿命」

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