プレイバック炎 立つ・第三部 黄金楽土 (33)秀衡逝く
【アヴァン・タイトル】
藤原基成は、源 義経受け入れに関して秀衡と衝突。ついに袂を分かった。秀衡は義経を擁し、頼朝との戦の準備を進める一方、泰衡は朝廷に和平工作を画策していた。しかし基成は息子・隆実を密かに鎌倉に遣わし、秀衡暗殺計画を頼朝に打診していたのである。それぞれのせめぎ合いの渦中にあった倫子(りんし)は、基成の娘として秀衡の妻として、そして泰衡の母としていずれをもかばうことができず、苦しい立場に置かれていた。
そして暗殺決行の夜、事前に計画を察知した泰衡のおかげで、秀衡は一命をとりとめたかに見えた。が、しかし──。
藤原秀衡が賊に襲撃されたことは平泉館に伝えられ、藤原国衡や源 義経が駆けつけます。企てを聞いていた倫子は藤原基成から源 頼朝を信用させる見せかけに過ぎないと言われ、その言葉を信じていただけに衝撃度合いも高く、その場に座り込んでしまいます。ともかく現在、秀衡は寝殿に運び込んで薬師を呼んでいる最中です。
藤原隆実は、藤原泰衡にすべて悟られてしまったと床に突っ伏します。刺客は全員が討たれたとはいえ、隆実は後をつけられています。基成は、涙で声にならない隆実の背中をポンポンと叩いて、狼狽(うろた)えるなと慰めます。基成は、無傷の秀衡は運が強いとつぶやきますが、企てを遠くから見ていた隆実は、秀衡は傷を負っているようだと訴え、基成は隆実の言っている意味が理解できません。
泰衡に肩を抱えられ寝殿に見舞いに来た倫子は、秀衡が賊に襲われて負傷したのではなく、血を吐いて倒れたことを知ります。もともと内臓の具合がよくなく、今回の襲撃で身体が驚いたのが影響したようです。薬師もしばらくは安静にするようにと言っているし、病なら治せると倫子は安堵します。
再び泰衡に肩を抱えられ寝殿を下がる倫子ですが、そこに基成と隆実が見舞いに訪問します。その二人に顔がこわばる倫子です。泰衡も弥五郎から報告を受けていただけに、平然と姿を現した基成を睨みつけますが、基成はそれに気付いているのかいないのか、素知らぬふりをしてそのまま寝殿に向かいます。倫子は逃げるようにその場を後にします。
母が何かを知っている──そう感じた泰衡は、隆実が刺客を放ったことをつぶやきます。倫子は諦めて泰衡にすべてを打ち明け、泰衡は冷ややかな表情を浮かべます。「鎌倉は、平泉が真っ二つに割れていることを知ってしまったのか……我が平泉は、頼朝にとことん侮られましょうな」 この企てを秀衡には伝えないとしても、基成と隆実に大きな遺恨を抱いてしまう泰衡です。
いかにも頼朝がやりそうなこと、と義経は吐き捨てます。国衡も、向こうから仕掛けてきたのだからこちらも武力に出てかまわない、和平の道も何もないと怒りに震えます。目を閉じていた秀衡はそっと目を開け、義経や国衡らが話している話を聞いています。基成はそっと目を閉じ、見舞いから帰ろうと廊を進みます。
正面に立ちふさがる泰衡は基成と隆実を正寝殿に呼びます。今回のことを鎌倉に何と報告するのかと泰衡に問われた基成は、泰衡に企てを知られていると悟ります。ただ平泉の存亡を考えて仕組んだことと開き直る基成は、泰衡に責任転嫁します。「そなたの手綱さばきでは、平泉は真っ二つに割れよう」 そうはさせませぬ、と泰衡は基成を睨みつけます。
戦を好まない泰衡と、戦をしてこそ価値が出る義経とでは、弁慶から見て折り合いがいいとは言えません。秀衡がいれば義経も弁慶も厚い庇護のもとで暮らしていけますが、それが危うくなったときはどうなるか分かりません。橘似はもし平泉にいられなくなったときには必ず言うように弁慶に伝えます。
鎌倉に赴いた橘似は、頼朝とは3年ぶりの再会です。橘似は今回の件を簡単に報告し、基成が責めを負い隠居したこと、今後は基成とは直接のかかわりを持たないこと、事件の始末を泰衡がすべて担っていることを頼朝に伝えます。このような事件が起こらないよう、平泉も鎌倉も互いに慎むべきと表明する泰衡の言葉を伝えると、「慎むべきは基成どの」と頼朝は橘似を睨みつけます。
後白河法皇からの使者、そして頼朝からの使者が平泉館に向かっているそうです。鎌倉から平泉に戻った橘似によれば、義経のことで頼朝は躍起になって法皇に働きかけたようです。いま秀衡が病に伏せていることは悟られたくない泰衡は、義経を館から出さないように国衡に任せ、自らは弱っている秀衡を支えて対面の場へ移動します。
院の使者、鎌倉の使者を前に、秀衡は義経のことで法皇の叡慮を煩わせた詫びを入れ、内裏へも鎌倉へも何の異心もないことを説明します。院の使者は東大寺大仏の鍍金(ときん)3万両を寄進するよう求めますが、それが頼朝の差し金かと疑いつつ善処を約束します。平泉の街では兵を多数見かけたと鎌倉の使者はニヤリとしますが、泰衡は町を守るのは武門の倣いで鎌倉でも同じことと顔色を変えません。
使者を帰し、秀衡はぐったりしています。駆け寄る橘似に秀衡は、時をかけずに鎌倉に入り1日で戦の決着をつけるため、3万両を持って宋に渡り軍船を求めるよう命じます。しかし風向きの関係で船の用意には3か月ほどかかると難色を示す橘似に、急げと食い下がります。「わしに残された時は、もはや少ない」
平泉館を後にした鎌倉の使者は、鎧を着た馬上の義経を見かけます。義経の顔を見間違えることはなく、実践の訓練に間違いなさそうです。泰衡には和平の道を歩ませ、自らは戦準備を整える秀衡をしたたかだと頼朝は膝を叩きます。頼朝は、平泉では臨戦態勢に入り鎌倉に攻めいる準備を進めていると、できるだけ大仰に法皇に訴えることにします。
泰衡は秀衡の頭を剃っています。自分が病に伏して後、方々に目配せしながら平泉の政を執る泰衡に、大きくたくましくなったと目を細めます。これからの平泉の采配は並大抵のことではないと、しっかり頼むと言葉をかけます。秀衡は首にかけていた数珠を泰衡に手渡します。ありがたくもらう泰衡に、秀衡はすずしそうに告げます。「じゃが……わしはまだ死なぬ」
実は秀衡はけっこう多く吐血しているようです。病床でもがき苦しみながら、自分が死んだら頼朝がすぐに攻めてくるという危機感だけが、秀衡を生かしているようです。まだ死ねぬ……まだ……と声を振り絞りながら秀衡は床で苦しみ、栂(とが)の前らは心配の様子です。
泰衡は、もしものことも考えておかねばなりません。もし秀衡が亡くなったら、力を持ち始めた国衡が義経や藤原忠衡と戦に向かって突進していくのは目に見えているし、基成とは道を違えたままです。正嫡といっても泰衡が孤立してしまい、泰衡はだれに自分の思いをぶつければいいのか、途方に暮れます。
義経は、正嫡の泰衡が出陣の命を下せば、国の兵たちも動くのにとつぶやきます。国衡は、もし秀衡が亡くなったとしても、軍事は自分たちに任されているのだからと、これまでの方針とは変わりないと義経を元気づけます。しかし義経の懸念は、頼朝と義経の兄弟の争いに、国衡と泰衡の兄弟を巻き込んでしまうことであるのです。そう言われては、国衡も言葉をかけられません。
次第に弱り始める秀衡に、倫子はつきっきりで看病します。秀衡は倫子に、自分が極楽に行けるように祈ってくれとつぶやくのが精一杯です。倫子は秀衡の手を握り、涙を流します。朝を迎え、言い残したことがあると秀衡に呼ばれた泰衡らは寝殿に駆けつけます。そこで3人で白山社に行くよう秀衡に求められます。
白山社で支えられて座す秀衡の前に、泰衡、国衡、義経が並びます。秀衡は遺言として、泰衡には「家督を継いで奥州の御館として平泉の政を頼む」、国衡には「平泉の兵を束ねて泰衡を補佐せよ」と言葉を与え、両名は兄弟で争うことなく義経を主君とするよう命じます。衝撃を受ける義経を横目に、泰衡はこれが遺言であるかと秀衡に念押しします。
今ここに泰衡、国衡、義経は神々の前に誓約を成したり。すなわち泰衡、国衡は、前伊予守義経を主君と成すこと。両人は義経に仕え、三人一味して頼朝攻略の策をめぐらし、奥州を守り抜くこと。以上異心あるべからず──。起請文に名と花押を記し、火をつけて燃やした灰に神水を注ぎ、義経、国衡、泰衡の順で飲み干していきます。
文治3(1187)年10月29日、秀衡はあの世へ旅立ちます。
脚本:中島 丈博
高橋 克彦 作 「炎立つ」より
音楽:菅野 由弘
語り:寺田 農
題字:山田 惠諦
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[出演]
渡辺 謙 (藤原泰衡)
野村 宏伸 (源 義経(九郎))
時任 三郎 (弁慶)
中嶋 朋子 (薫子)
三浦 浩一 (藤原国衡)
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紺野 美沙子 (橘似)
浅利 香津代 (栂の前)
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長塚 京三 (源 頼朝)
真野 響子 (倫子)
林 隆三 (藤原基成)
渡瀬 恒彦 (藤原秀衡)
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制作:音成 正人
制作・著作:NHK
共同制作:NHKエンタープライズ
制作統括:村山 昭紀
:NHKアート
:NHKテクニカルサービス
演出:吉村 芳之
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『炎 立つ』
第34回「泰衡の覚悟」
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