大河ドラマ光る君へ・(47)哀しくとも ~まひろ無事祈る道長の焦り~
船越で草むらから賊の襲撃を受け、追い詰められたまひろと周明は、双寿丸たち為賢の軍勢が賊と斬り合う中を逃げていきます。岩に足を取られ倒れたまひろに手を差し出した時、周明の胸を矢が貫きます。周明は息も絶え絶えに「逃げろ……」とまひろに伝えますが、まひろは悲鳴を上げて周明のそばから離れようとしません。戦う双寿丸の声に押し出されるように、乙丸がまひろの手を引き逃げていきます。
寛仁3(1019)年。政務を執り行う藤原頼通の元に、大宰権帥藤原隆家から解文(げぶみ)が届きます。刀伊(とい)の賊が対馬と壱岐に来着し、子どもや老人は殺され男女を船に乗せ穀物とともに運び去った模様、と聞き頼通は驚愕します。藤原行成は太閤藤原道長に知らせると立ち上がりますが、頼通は行成を止めます。「父はもはや政に関わってはおらぬ。心配をかけてはならぬ。黙っておれ」
頼通の口止め工作もむなしく、藤原実資から情報は道長に伝わります。実資は、なぜ頼通は太閤に相談しないのかと訝(いぶか)ります。解文が届かなかった事態を考えた隆家は、別に実資に書状を送ったようで、それだけでもとんでもない事態なのです。
大宰府と隆家を朝廷が見捨ててはならないと、道長は警固の武者の派遣を実資に命じますが、事件が起きてすでに11日、賊がすでに大宰府を落とし、京に向けて海路を向かっている可能性もあり、実資は京に至る街道筋にも警固の武者を派遣すると陣定に諮るつもりです。実資が陣定に向かい、冷静を保っていた道長は、大宰府にいるまひろのことを心配しています。
陣定では、公卿たちは「前例がなく分からない」「敵は討つべし」「朝廷が武力をふるってはならない」「大宰権帥が解決すべき」とさまざまですが、遅れて到着した実資は、街道筋に警固の武者派遣と、不足する兵を補うため各地の武者を手配すべきと提案します。ただ、事は急を要すると主張するも、公卿たちはあんまり考えたくないのか、のんきに問題を先延ばしするありさまです。
陣定の内容は頼通に報告されますが、敵が都まで攻めてくることすら分からない状況では判断のしようがありません。頼通は仕方なく、しばらく様子を見ることにします。
道長のところに赴く頼通ですが、街道筋の警固まではやりすぎと考えています。民があまた死んでおるのだぞ! と道長は声を荒げますが、頼通は自分が摂政であり、父であろうとそのように言われる筋合いはないと突っぱねます。去ってゆく頼通に、口出ししないから備えだけは固めるよう、道長は頼通に頭を下げます。
源 倫子とすれ違う頼通は、父とぶつかったと打ち明けます。皆、道長の顔色を伺っていますが、前例がないことだけに道長自身もよく分かっていないわけで、父の判断がすべて正しいとは限らないわけです。そうね、と納得する倫子は、頼通の思うようにやりなさいと励まします。道長も若いころはいろいろなことで迷っていたはずです。「上に立つ者は、誰よりも苦しいものなのではないかしら」
大宰府に戻ってきたまひろは屋敷でしばらく養生し、顔色も前よりは少し良くなったようです。様子を見に来た隆家に、自分も周明とともに死んでいればよかったと後悔を口にするまひろです。無理に周明のことを忘れなくてもいい、菩提を弔いたければ大宰府にいてもいい、と隆家は泣き声をあげるまひろを励まし、そっとすべく出ていきます。御簾の外では乙丸も涙をぬぐっています。
実資は隆家から届いた書状を道長に渡し、報告します。敵は対馬の先まで追い払ったようで、隆家たちも無事とのことです。実資には、隆家がここまで優れた将であったことが驚きです。隆家がかつて言っていたように、朝廷も武力を持たなければやっていけないようになるかもしれないと考え始めますが、「武力に頼る世になってはならぬ」と道長は突っぱねます。
理想としては確かにそうなのですが、935年から940年にかけて起こった『平 将門の乱』以降、朝廷は軍を持たなくなりました。80年が経過した今、こうして異国の賊に襲われることになるとは思わなかったわけです。実資には、前例にこだわっていては政はできないと思い直すいいきっかけになったようです。
ではこれにて、と下がる実資を、道長は呼び止めます。大宰府の隆家に文を返すなら、消息を聞いてもらいたい人がいる──。頼めぬであろうか? と言ったところで、誰でございますか? と実資から聞かれると、道長は気後れしたのか慌てて思い直します。「いや……いい。よい。すまぬ」
刀伊撃退の功労者である隆家たちの褒章について、陣定が行われたのは2か月後の6月末。公卿たちはすでに大宰府への興味を失っていた。藤原行成は、刀伊の撃退は4月13日ですが、朝廷が刀伊襲来を知ったのは17日で、翌18日に敵の追討を命じているため、13日の戦は朝廷に関係ないと言い出し、藤原公任も、朝廷の命がないままに戦をしたわけで、前例を見ても褒章に値する戦いではないと主張します。
実資は、刀伊が民1,000人を連れ去り、数百の民や牛馬を殺し、壱岐守さえも殺めた出来事であると激怒します。その敵を撃退した者に褒賞を与えなければ、事が起きた時に奮戦する者がいなくなる恐れがあります。「都であぐらをかいていた我らが、命を懸けた彼らの働きを軽んじるなぞ、あってはならぬ!」 しかし公卿たちの間には、どうでもいいやんという虚しい空気が流れています。
しかし、実資の力説も力及ばず、褒章はわずかに一人のみというさんざんな結果になってしまいました。実資は道長のもとを訪れ「無念の極みであります」と力を落とします。国を守るために決死の思いで働いてくれた隆家と、その配下の者たちの報いに答えることができませんでした。そこに公任が現れ、空気を読んだ実資は黙って下がっていきます。
公任は、道長が実資と通じていたことが驚きだったわけですが、道長の方も「政に関わって以来、こたびほど驚いたことはない」と言わしめるほどの出来事です。しかし公任には、悪びれる様子はありません。「隆家はお前の敵ではなかったのか!? ゆえに俺は陣定でもあいつをかばわなかった。お前のためにあいつを認めなかった!」
しかし道長は、国家の一大事にあって、隆家をどうこう言う前に起きたことの重大性を考えるべきだと主張します。何が起き、どう対処したのか。今回の公卿らのありようは、あまりに緩み切っていてあきれ果てたわけです。公任は、道長が自分たちをそのように見ていたのかと、半ば仲間割れするような形で怒って出ていってしまいます。
そんな公任のところに、行成が訪ねてきました。公任は、行成が心配して訪ねてきたということは、自分が道長とやり合ったことが公卿たちの間でもう噂になっているのかと察知しますが、自分でもなぜあんなことを言ったのか分かりません。道長を大切に思うがゆえと行成は励ましますが、公任の思いは道長には伝わっているとは到底思えません。
「こんなことだろうと思った」と隆家はため息交じりです。配下の者たちを集め、獅子奮迅の働きは生涯忘れないと言ったところで、身を粉にして働いた配下の者たちはしらけムードが漂っています。ともかくこれからは武者が国守となり、各国の要となって働けるように調停に働きかけるつもりです。「為賢、お前を肥前守に推挙する。慣れぬ船戦で先陣を務め、敵を見事に打ち破った功績は絶大である!」
ゆっくりと過ごすまひろのところに、双寿丸が様子を見に来ました。今回、主の為賢が肥前国を褒美として賜り、双寿丸もそれに従って赴くことになったのです。武功を立て続けるぞ、と決意表明する双寿丸に、まひろは武功を立てることは人を殺めることではないのかと尋ねます。「殺さなければ殺される。敵を殺すことで民を守るのが武者なのだ」 まひろは何とも言えない表情を浮かべます。
土御門殿に出仕する賢子ですが、すれ違いざまに道長に、母(藤式部)から文が来たか? と尋ねられます。確かに先ごろ“まだ大宰府にいる”という文をもらったばかりです。それを聞いた道長は静かに息を吐き、安心した様子です。太皇太后さま(彰子)にはお目をかけていただいておるか? などと、道長にしか分からない気遣いをかけます。
冬になり、大宰権帥の役目を終えた隆家は京に戻ることになりました。隆家はまひろに一緒に帰るか、もしもうしばらく大宰府にいたければ次の権帥に頼んでおくと言ってくれますが、迷うまひろに乙丸が「帰りましょう! 帰りたい! 私は帰りたい!」と珍しく子どものように駄々をこねます。その様子にフッと笑みをこぼしたまひろは、結局京に戻ることにします。
寛仁4(1020)年、まひろはみんなの待つ自分の屋敷に戻って来ました。異国の賊が攻め寄せたと聞き、太皇太后や道長らも心配していたと賢子が教えてくれます。藤原為時は、大宰府で恐ろしい目に遭ったのかと心配しますが、まひろはそれには答えず、双寿丸に会ったことを賢子に伝えます。賢子は「私、光るおんな君となって生きようかしら」と深くため息をつきます。
自分の部屋は、大宰府に旅立つ前のままです。賢子は源氏の物語を何度も読み、人とはどういうものかを考えさせられたと話します。まひろのことを自分の母としてはなっていなかったけれど、物語を書く才能を持つのは途方もなく素晴らしいと敬いもしたと打ち明けます。「されど誰の人生も幸せではないのですね。政の頂に立っても好きな人を手に入れても、よい時は束の間。幸せとは幻なのだ、と」
賢子が先ほど“光るおんな君”と言ったのは、どうせそうなら自分の好き勝手に生きてやろうかしらとも思ったからです。よいではないの、好きにおやりなさい、とまひろは賢子の背中を押します。意外な反応で少し驚く賢子に、まひろはニッコリとほほ笑みます。
彰子に呼び出しを受けた藤式部はさっそく土御門殿に上がります。彰子に大宰府での土産話を求められるも心がまとまらずに話せず、物語にすることも書く気力もなく固辞します。すっかり衰えた藤式部に、彰子は自分の相談役として再び仕えてほしいと告げますが、考える時間が欲しいと返答を避けます。
彰子の元を辞し、廊を歩いていると出家した道長とバッタリ再会します。見つめ合うふたりの時間が長く感じられます。藤式部を呼び出した北の方倫子は、まひろとして土御門殿に来た日のことを思い出していました。誰よりも聡明で“偏(へん)つぎ”を一人で取ってしまい、五節の舞では倫子の代わりに舞台に上がってくれた……。「それで、あなたと殿はいつからなの? 私が気づいていないとでも思っていた?」
作:大石 静
音楽:冬野 ユミ
語り:伊東 敏恵 アナウンサー
題字:根本 知
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[出演]
吉高 由里子 (まひろ/藤式部)
柄本 佑 (藤原道長)
黒木 華 (源 倫子)
町田 啓太 (藤原公任)
渡辺 大知 (藤原行成)
竜星 涼 (藤原隆家)
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見上 愛 (藤原彰子)
上地 雄輔 (藤原道綱)
秋山 竜次 (藤原実資)
松下 洸平 (周明)
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岸谷 五朗 (藤原為時)
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制作統括:内田 ゆき・松園 武大
プロデューサー:葛西 勇也・大越 大士
演出:田中 陽児
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『光る君へ』
第48回「物語の先に」(最終回)
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