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2024年12月17日 (火)

プレイバック夢千代日記 (連続五回)・[新] 第一回

──あんなに表日本は晴れていたのに、山を抜けたら一ぺんに鉛色の空になっている──
11月20日、どう書けばいいのだろう。晴のち曇。
──久しぶりの旅なので、目がくらむ。流れ落ちるように、血が引いていく──

急行「但馬」が長いトンネルを走り抜けていきます。その列車に乗って神戸の病院から帰る夢千代は、立ち上がろうとしてふらつき、手で顔を覆って座席に座り込みます。足元をみかんが転がってきました。隣の座席の男が「少し買いすぎたんですよ」とみかんを勧めてきます。それを断ると、夢千代はそっと目を閉じます。

この音が山陰の音です。これを聞くと帰って来た気がします。

急行列車は余部鉄橋を通過します。先ほどの男が「この鉄橋はどこですか」と尋ねるので、余部です、と夢千代は答えます。その時、車掌による車内放送が流れます。「神奈川県川崎警察の山根刑事さん、おられましたら5号車の車掌室までおいでください。連絡が入っております」 男はぶつくさ言いながら5号車に移動していき、夢千代は先ほどの男が神奈川県警の刑事であると知ります。

警察手帳にとったメモを見ながら戻ってくる山根ですが、先ほどまでいた女性がみかんを残していなくなっていました。車内をキョロキョロしているうち、急行列車は浜坂駅に到着します。駅前には出発を待つ路線バスが並び、通学途中の高校生がたくさん行きかっていました。山根は人に尋ねつつ、温泉街をひとり歩いていきます。

突然前方からローラースケートを履いた女がぶつかってきました。こういうところでローラースケートとは、道路交通法違反じゃないのかな? とつぶやく山根ですが、女は警察からそんな指摘を受けたことはありません。それを言うと、山根は思い出したように女に尋ねます。「警察署どこ?」

 

鐘の音が響き、浜坂の町も日が暮れます。山根は置屋(おきや=芸者を抱える家)の「はる家」を訪ね、女中のスミが対応します。山根は警察手帳をチラリと見せ、女将に聞きたいことがあると伝えますが、女将は煙草屋旅館に行っていて遅くなるようです。そこに芸者・雀が女中に出かける用意を手伝ってもらいにやってきました。雀とは昼間にローラースケートでぶつかった女のことです。

どうやら別の芸者が熱を出して寝込み、人が足りなくなって女将自ら煙草屋旅館に出向いているようです。雀も今から煙草屋旅館に行くというので、ついでに山根を案内することになりました。雀は山根が川崎署の刑事と知って、市駒さんのことか? と口走ってしまいます。市駒のこと知ってるのかと山根が尋ねると、「んーん。ウチはあんまり」と言って先を急ぎます。

はる家に芸者を依頼する電話が入ります。スミはみんな出払っていると断ろうとしますが、休んでいた芸者・金魚が行くといって用意を始めます。先ほど雀から「アコのお母ちゃんまた仮病やなぁ」と娘のアコちゃんに言われているのを聞いて、仮病扱いされたのがよっぽど悔しかったのでしょう。

6時を回りました。煙草屋旅館では膳の支度が急ピッチで進められています。お座敷では芸者・菊奴が三味線を弾き、千代春が「貝殻節」を歌っています。中央で舞うのは女将の夢千代です。初めこそテンポよく舞っていた夢千代ですが、足元がふらつき始めます。異変を感じた菊奴が夢千代を座敷から下がらせ、千代春が歌って間をつなぎます。

──今日、三度目のめまい。踊ることも無理なんだろうか──

廊下でうずくまっているところに、旅館の仲居頭・かねが心配して声をかけます。そして夢千代を訪ねて誰かが来ていることを伝えます。階下に降りていくと、そこにいたのは急行列車で会った刑事でした。山根もはる家の女将があの女性だと初めて知り、驚きます。

ちなみに雀は同じ煙草屋旅館の別の部屋で初老の男性客と歌を歌い、金魚は別の旅館でひとりの男性をもてなしています。その間、アコちゃんは別室で人形と遊んで、金魚の仕事が終わるのを待っています。客から5,000円札をもらった金魚は、それをアコちゃんに手渡します。金魚に似ておらず、娘と信じない客に、金魚はさらりと言ってのけます。「死んだ亭主に似とるだわ」

山根と煙草屋旅館からはる家に戻って来た夢千代は、山根の求めに応じて市駒の情報を伝えます。5月25日まではる家に在籍して、26日に行方不明になったようです。“すみません。ちょっと旅してきます。必ず帰ってきますので、部屋はこのままにしておいてください”との書き置きがありました。「こう書いていますけど、市駒さんは帰ってこないと思います。何となくそんな気がします」

何も持たずに出ていったのかという山根の問いには答えず、夢千代は市駒が何をしたのか山根に尋ねます。殺人です、とあっさり言う山根に、市駒はそんなことが出来る人ではないと夢千代は必死に訴えます。「何を持って出ましたか」と食い下がる山根に、夢千代はうつむき、お仏壇です、と答えます。市駒の母の位牌が入っている、とても大事そうにしているお仏壇です。

市駒は帰ってこないと思うと夢千代が言ったのは、その大事なお仏壇を持って出ていっているからです。ちなみに川崎の市駒のアパートにはお仏壇はなく、警察が踏み込んだ時にはすでにもぬけの殻でした。ただここの宛先を書いてある、裏面は無記入のはがきが残されていて、山根は市駒がここに帰ってくるとふんでいます。市駒が戻ったら知らせるようにと山根は湯里警察署の電話番号を教えます。

具合の悪い夢千代の診察に木原先生が飛んできました。夢千代は自分より、具合が悪いのにお座敷に出ている金魚を診てやってほしいと伝えます。隣に見ない顔の男が立っていて、夢千代から警察の方と紹介を受けますが、木原は山根を気にしながらはる家の勝手口から外に出ます。「何を調べとるだら?」

──市駒さんが人を殺した。もしほんとうなら、こんな悲しいことはありません。市駒さんがうちに来る前に働いていた所を調べるのだろうか──

 

「湯里銀座」というスナック街、八代亜紀の『雨の慕情』が流れています。見回りの警官に睨まれながら、山根はそのうち「湯里ヌード劇場」に入っていきます。もう閉店時間だからと半額で入館した山根ですが、劇場内は無人で、呼び込みの青年はめんどくさそうにステージを始めるよう促します。しばらくすると悲しげな音楽が鳴り、ステージ上にスポットライトが当たります。

セーラー服姿のストリッパー・アサ子が出て来ました。もういいよ、と山根はステージを止めようとします。アサ子に聞きたいことがあるのです。ここでストリッパーをしていて、芸者になった女、と聞いて、アサ子は「スーザン?」と返します。ストリッパー・スーザンは芸者・市駒のことです。劇場は営業を終了し、山根はアサ子と隣のスナック喫茶・白兎に入ります。

すでに先客として木原がいて、山根の顔を見るとそそくさと店を出ていきます。アサ子はママの寄子に、オーナーの山倉(=山本倉次郎)にスーザンのことを聞きたいらしいと伝えます。山倉は湯里ヌード劇場とスナック白兎、もう一軒パチンコ屋のオーナーをやっている、いわば町の顔のような存在です。山根が川崎から来た刑事と聞いて、寄子は顔色を変えて家まで呼びに戻ります。

まさかスーザンが殺されたのかとアサ子は山根に問いただします。「何となくあるでしょう? 切羽詰まると人を殺してしまいそうな人間と、人に殺されそうな人間と」 とはいえ特段根拠があって言ったわけではなく、アサ子は話をうやむやにします。そこに金魚とアコちゃんが店に入ってきました。しつこい客の男につきまとわれて、逃げて来たようです。

金魚はアコちゃんに約束のアイスクリームを買ってあげます。ヌード劇場の照明係・あんちゃんも、アサ子に呼ばれて合流します。その時山根の耳には、日本海の波の音が聞こえていました。それに耳を傾けていると、山倉がやって来ました。山根は山倉にスーザンのことを尋ねますが、そのほとんどはアサ子が答えます。7か月ぐらい在籍して、九州出身……。

男はいなかったかね? と山根は男の顔写真を懐から取り出します。山倉もアサ子も見たことのない顔です。山根はこの男が殺された男だとあっさり認めますが、スーザンが「たぶん」殺したということに、表情が固まる山倉とアサ子です。スーザンを見かけたらすぐに連絡するよう言って帰ろうとしますが、アサ子はあることを思い出します。「おっちゃん! この間スーザンに会うた言うとったじゃない?」

山倉は半月ほど前に島根に行く用事があり、浜坂駅を利用したわけですが、その時駅でスーザンを見かけたとしぶしぶ白状します。もしこの町にスーザンがいるとしたら、戻ってくるのはここかはる家か。山根はお代をテーブルに置くと白兎を飛び出して行きます。山倉は軽口なアサ子に平手打ちし、もみ合いになって、寄子やあんちゃんが止めに入ります。

山根ははる家に戻りますが、すでに電気が消えていて、寝てしまったようです。山根はしばらく迷ってうろうろしますが、諦めて今夜のところは引き揚げることにします。

そのころ、はる家に電話が入ります。しかし相手は無言で、夢千代はそのまま電話を切ります。そこに菊奴と、お座敷で酒を飲まされ泥酔状態の千代春が帰ってきました。夢千代はスミに水を持っていくように伝えていたところ、再び電話が鳴ります。「はる家です。もしもし……もしもし……夢千代ですけど、どなた? 市駒さん? 市駒さんでしょ? これ、どこからかけてるの?」

──市駒さんから電話があった。元気ですか、市駒です。たったそれっきり。電話の向こうに、波の音が聞こえていました。あれは、山陰の波の音です。市駒さん、いま帰って来たらいけん。そういう間もなく、電話が切れてしまった──

「本当に、いま帰って来たらいけんよ……」電話を見つめてつぶやく夢千代は、居間の電気を消します。

──夜になって、零下二度になった──


作:早坂 暁

音楽:武満 徹

演奏:東京コンサーツ
方言指導:高橋 ひろ子

三味線指導:豊 藤美
踊り指導:松浦姉妹
協力:兵庫県美方郡温泉町

 

[出演]

吉永 小百合 (夢千代)

秋吉 久美子 (金魚)

中条 静夫 (藤森刑事)

樹木 希林 (菊奴)

緑 魔子 (アサ子)

ケーシー 高峰 (木原)

水原 英子 (寄子)
あがた 森魚 (あんちゃん)

夏川 静枝 (スミ)

楠 トシエ (千代春)

大信田 礼子 (雀)

佐々木 すみ江 (かね)

大熊 なぎさ (アコちゃん)
内藤 路代 (クーちゃん)
菅沼 赫 (客)

高橋 ひろ子 (房子)
香山 えり (トシ子)
竹内 靖 (車掌の声)
鳳プロ

長門 勇 (山倉)

加藤 治子 (泰江)

林 隆三 (山根刑事)

 

制作:勅使河原 平八

美術:水速 信孝
技術:設楽 國雄
  :藤井 義信
効果:大八木 健治

照明:小貝 通泰
カメラ:曽我部 宣明
音声:金光 正一
記録:水島 清子

演出:深町 幸男

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