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2025年1月 5日 (日)

大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・[新] (01)ありがた山の寒がらす ~江戸のメディア王へ蔦屋重三郎、波乱万丈の生涯~

吉原の町が火に包まれています。明和9(1772)年、半鐘が鳴り響き、人々は逃げ惑います。火の見櫓に登って半鐘を鳴らす男は黒煙に包まれながらも、人々に「逃げろ!」と叫びます。お前もそろそろ逃げろ! と促され、火の見櫓から降りようとする男は、火の手の方向に歩いていく幼なじみの女郎を見つけ、後を追いかけます。

女郎は神社のお稲荷さんにしがみつくさくらとあやめを見つけ、避難するよう促しますが、願い事が叶わなくなると言ってなかなか離れません。「こんなのありんした!」とどこからか背負子(しょいこ)を持ってきた姐さん女郎もいて、姐さんまで大概にしておくんなんし! と叱られる始末です。そのうち男が追いつきました。燃えなきゃいいんだな、と男はお稲荷さんをドブに落とし、祠を背負子に固定して避難を始めます。

目の前は火の海です。男と花魁は火かけ水を浴び、さくらたちにも水をかけ、火の中を駆け抜けます。橋を渡ったところで、男は燃え盛る家に近づく少年を発見します。「べらぼうめ!」と引き止めた男は、背中をポンと叩き一緒に避難することにします。明和9年とは迷惑年であり、盗みを企てた坊主が目黒の大円寺に火を放ったのが発端です。吉原や江戸の町を焼き尽くした大火となりました。

時の将軍は十代将軍徳川家治です。家治が大奥に入ると、側室知保の方と大奥老女・高岳がその後に続きます。偉くなりたい、楽したい、一旗揚げたい、儲けたい。この欲深い世を鮮やかに駆け抜けた一人の男──それが火の見櫓の男で、やがては江戸のメディア王に成り上がる“蔦重”こと蔦谷重三郎。またの名を“蔦唐丸(つたのからまる)”です。

 

作:森下 佳子

音楽:ジョン・グラム

語り(九郎助稲荷):綾瀬 はるか

テーマ音楽演奏:NHK交響楽団
テーマ音楽指揮:下野 竜也
音楽プロデューサー:備 耕庸
タイトルバック:TAKCOM
題字:石川 九楊

 

[出演]

 

横浜 流星 (蔦谷重三郎)

安田 顕 (厠の男)

小芝 風花 (花の井)

宮沢 氷魚 (田沼意知)

中村 隼人 (長谷川平蔵宣以)

高梨 臨 (知保の方)

小野 花梨 (うつせみ)

久保田 紗友 (松の井)
珠城 りょう (とよしま)

山下 容莉枝 (まさ)
中島 瑠菜 (ちどり)

山口 祥行 (磯八)
岩尾 海史 (仙太)
阿部 亮平 (八五郎)
山根 和馬 (熊吉)

島 英臣 (丁子屋長十郎)
千葉 清次郎 (長崎屋小平治)
キン タカオ (桐屋伊助)
会田 泰弘 (伊勢屋九平治)
岡山 和之 (玉屋庄兵衛)
岡 けんじ (万字屋半四郎)
車 邦秀 (泉屋与一)
佐藤 政之 (井筒屋孫兵衛)
真木 仁 (山口巴屋平助)

松下 哲 (松平輝高)
渡邉 斗翔 (唐丸)
大田 路 (音羽)
馬渡 綾 (歌浦)
青山 美郷 (春風)
平尾 菜々花 (はなぞの)
齋藤 さくら (はなさと)
金子 莉彩 (さくら)
吉田 帆乃華 (あやめ)

関 海人
児玉 純一
村上 穂乃佳
木ノ本 嶺浩
石塚 陸翔
伊礼 姫奈
松嶋 健太
高木 波瑠
前田 花
藤間 宏衛門
景井 ひな
吉高 寧々
藤 かんな
与田 りん
安倍 真結
杵屋 五三花
杵屋 五司駒
都築 かとれ

劇団東俳
古賀プロモーション
テアトルアカデミー
オフィス・ミナミカゼ
クロキプロ
劇団ひまわり
リバティー
オフィス海風
舞夢プロ
宝映テレビプロダクション
ジュネス
麗タレントプロモーション
キャンパスシネマ
ピカロエンタープライズ
久世七曜会
アールジュー
スペースクラフト・エージェンシー
AZ PROMOTION
JAE
ビックワンウエスト
エス・エー・シー
ルート
松竹
バニラモデルマネージメント
Dマスタープロダクション
ソードワークス
キャストプラン
ミライ
ストームライダー

 

愛希 れいか (朝顔)

田山 涼成 (和泉屋)

中村 蒼 (次郎兵衛)

正名 僕蔵 (松葉屋半左衛門)

伊藤 淳史 (大文字屋市兵衛)

山路 和弘 (扇屋宇右衛門)

六平 直政 (半次郎)

 

安達 祐実 (りつ)

水野 美紀 (いね)

飯島 直子 (ふじ)

かたせ 梨乃 (きく)

 

冨永 愛 (高岳)

相島 一之 (松平康福)

眞島 秀和 (徳川家治)

時代考証:山村 竜也
版元考証:鈴木 俊孝
戯作考証:棚橋 正博
風俗考証:佐多 芳彦
吉原風俗考証:山田 順子
近世美術史考証:松崎 雅人
古文書考証:大石 泰史
医事考証:若尾 みき
建築考証:三浦 正幸
衣裳デザイン:伊藤 佐智子
九郎助稲荷イメージデザイン:UDA

所作指導:花柳 寿楽
殺陣武術指導:鎌田 栄治
馬術指導:田中 光法
芸能指導:友吉 鶴心
書道指導:金敷 駸房
医事指導:刈谷 育子
江戸ことば指導:柳亭 左龍
廓ことば指導:園 英子
アクション指導:中村 健人
インティマシーコーディネーター:浅田 智穂

撮影協力:つくばみらい市
    :さいたま市
    :京都市
    :京丹波町
    :長岡京市
    :光明寺
    :円覚寺
    :臨心院
    :智積院
資料提供:平賀源内記念館
    :牧之原市史料館

 

高橋 克実 (駿河屋市右衛門)

石坂 浩二 (松平武元)

渡辺 謙 (田沼意次)

 

制作統括:藤並 英樹
    :石村 将太

ブロデューサー:松田 恭典
       :藤原 敬久
美術:神林 篤
技術:小林 浩二
音響効果:佐々木 敦生

撮影:細野 和彦
照明:中井 智行
音声:佐藤 稔
映像技術:両角 剛毅
カラーグレーディング:片山 深冴
VFXブロデューサー:本多 冬人
VFXコーディネーター:角田 春奈
VFXスーパーバイザー:日髙 公平
VFX:大竹 崇文
音楽録音:三浦 真友子

編集:佐藤 秀城
記録:津崎 昭子
助監督:野村 裕人
制作担当:石田 友寛
取材:木口 志帆
美術進行:萩原 春樹
特殊効果:菊池 剛司
装飾:岡田 英樹
衣装:齋藤 隆
メイク:山田 容子
かつら:野崎 徹
特殊メイク:江川 悦子

演出:大原 拓

 

安永2(1773)年。あの大火から1年半、吉原に再び再建された神社には、蔦重が水に沈めた九郎助稲荷も据えられていました。吉原は男が女と遊ぶ町、幕府公認で江戸唯一、天下御免の色里です。浅草のはずれ、田んぼに囲まれた“浮かぶ島”のような感じで、日本橋から1時間程度。遠いわけではないにせよ、辺鄙な場所にあり金はかかるししきたりも多く、気軽には行きにくい場所にあります。

そんな吉原には女郎3,000人を含めてざっと1万人程度が暮らしていました。一見普通の町ですが、女郎の逃亡には厳しく、町は高い塀やお歯黒ドブと呼ばれる堀に囲まれていました。大火の際に九郎助稲荷が沈んでいたのもこのドブです。市中から吉原に続く吉原五十間の途中にあるのが、蔦重が勤める茶屋「蔦屋」です。五十間の茶屋は吉原案内所で、客の刀や荷物を預かり女郎の情報を教えたりしていました。

蔦重は義兄の次郎兵衛の営むこの茶屋で働いていました。蔦重は、刀を取りに来ていない島田と西尾の鞘の色を次郎兵衛に念押ししますが、次郎兵衛からははっきりしない返事です。蔦重とともに出かけた唐丸には、次郎兵衛がなぜあんなに働かないのか疑問ですが、次郎兵衛は蔦屋の実子なのでいずれあの茶屋の旦那になれるのです。ただ蔦重は拾い子なので、旦那になれるかどうかは分かりません。

吉原ただ一つの大門を抜け、蔦重と唐丸が向かったのは女郎屋「松葉屋」です。松葉屋では揃って朝食中で、若い女郎、経験豊富そうな女郎から、世話役の子どもも数名います。茶屋仕事の片手間に営む貸本屋として、蔦重は松葉屋に貸本を持ってきたわけです。子ども向けの赤本、大人向けの青本、浄瑠璃本、洒落本、読本、1冊あたり6~24文、高いもので72文で貸し出します。当時のそば1杯は16文です。

禿(かむろ)のあやめが借りた本がボロボロになって返ってきました。ささやかな小遣い稼ぎといえ、蔦重は大きくため息をつき、1冊6文の本をダメにしたと、呼出花魁の花の井に18文つけると告げます。新品ではなかったのだし、ぼったくりだと花の井は反発しますが、蔦重も商売でやっているわけで引きそうにありません。

花の井は白い袋を蔦重に突きつけ、浄念河岸(じょうねんがし)の朝顔姐さんに届けるよう依頼します。届けたら18文払うか? と交換条件を提示する蔦重ですが、花の井は蔦重に迫り、威勢よく「あんたそんなこと言う男なのかい?」と声を上げます。こう言われては蔦重は折れるしかなさそうです。蔦重は唐丸を先に帰し、ひとりで浄念河岸に向かいます。

 

浄念河岸とは、お歯黒どぶに面した一帯のことで、吉原の場末。女郎たちの揚代(あげだい)は「線香一本燃え尽きる間」一切りで100文。花の井のいる大見世とは比べ物にならないほど安いエリアです。そこの河岸見世「二文字屋」に向かった蔦重は、朝顔が寝ている部屋に入ります。朝顔はコンコンと咳き込み、蔦重は慌てて駆けつけます。

朝顔は元々松葉屋の花魁でしたが、病気を得て店を追われ二文字屋に身を寄せています。朝顔姐さんに恩のある花の井は、だからこそ朝顔のために食べものや薬を用意するのです。折重を渡し、食いなよと勧める蔦重に、むせるのを男前に見られたくないと、後で食べると朝顔は微笑みます。それよりも朝顔が楽しみにしているのは、蔦重の読み聞かせです。耳を傾け、楽しそうに聞いている朝顔です。

朝顔の前では明るく振る舞う蔦重ですが、二文字屋を後にすると足取りも重く。蔦屋向かいの蕎麦屋「つるべそば」半次郎に、その実情を話します。しばらく風呂に入っていなさそうで、飯も粥。確かに女郎たちは3日も客が来ないと嘆いていました。岡場所・宿場という無許可の風俗街には勝てないという話なのかもしれません。ひとっ風呂浴びて女を買うのに、わざわざ吉原まで来ないわけです。

半次郎は唐丸に、千住には連れて行ってもらったか? とからかいます。唐丸は大火の際に助け出した少年で、そもそも唐丸とは蔦重の幼名でしたが、少年が気に入ったのでそのまま名付けたのです。蔦重も、折を見てちょいちょい尋ねはするものの、昔のことは思い出さないようです。その時、蔦屋から「なんだこりゃ! 茶がぬるいじゃねえかよ!」と声が上がります。

慌てて駆けつけた蔦重は磯八や仙太ら三人衆に謝罪し、吉原のルールに則って刀を預かろうとしますが、相手もすんなりとは渡しません。蔦重も引けず、「面倒があってはお上の名を汚す」と言って納得させます。チッと舌打ちし武士は刀を預けますが、刀を差す武士が歩いているのを磯八らが目撃した瞬間蔦重はボコボコにされ、刀は奪われます。「鼻から屁が出る病になりゃいいんだ、あんなやつら」

 

あんまり客が来ない昼見世が終わり、暮れ六つ(19~20時)に吉原の本番である夜見世が始まります。あたりはすっかり真っ暗です。松葉屋でも三味線がしっとりと鳴り響く中、女郎たちが一列に並んで「旦那ァ寄ってってよ」「私と遊んでくんなんし」と色っぽい声を出して勧誘します。一方、鏡の前に座る花魁花の井には、和泉屋三郎兵衛から呼び出しが入ります。「お受けしんす」

1日に1,000両も金が落ちると言われた吉原で、稼ぎ頭となったのは呼出花魁です。客は身元も財布も確かな“選ばれた”金持ちばかりで、まず引手茶屋で一席、その後女郎屋で一席、芸者や幇間(ほうかん)などを呼び、宴席を張ります。最低でも一晩10両、中には100両も張り込む人もいたとか。迎えに来た花の井の姿を見て三郎兵衛は鼻の下を伸ばし、芸者には目もくれず花の井の方ばかり見つめています。

さて、吉原はどこも同じだと嘆く三人衆は、花魁道中で松葉屋に移動する独特な足さばき(花魁歩き)の花の井に目を奪われます。口元の笑みで虜になった武士は、あの女とやりてえ! と松葉屋に駆け込みますが、先客がいるため不可能です。先客の後でと食い下がりますが、女将いねはとても驚きます。「明日の明日の明日の昼までお待ちいただくことになりんすが、よござんすか?」

磯八や仙太はここぞとばかりに立ち上がり、その武士の正体を明かします。れっきとした旗本で、大火の咎人を捕らえた火付盗賊改方(あらためかた)の長谷川平蔵宣雄──の子である宣以(のぶため)、後の『鬼平犯科帳』の鬼平です。成り行きを眺めていた蔦重は、花の井と幼なじみであることを利用して、仕切り直しをさせてもらいたいと出ていきます。「吉原いちの引手茶屋の仕切りで。駿河屋でございます」

平蔵を駿河屋のお座敷に通した蔦重は、主で育ての親の市右衛門に伝えます。粋がっているが、ろくに遊んだこともない血筋自慢の世間知らず。刀は格別だったので、平蔵の というのは間違いなさそうです。蔦重が少しだけ障子を開け、市右衛門が中の様子をうかがうと、説明したままの男が気分よく座っていました。極上々吉、とつぶやく市右衛門は障子をバッと開け、はせがわさまぁ~と猫なで声で登場します。

二文字屋の二階で皿を舐めて空腹をしのぐ女郎ちどりは、隣の部屋から手招きされているのに気づきます。そっと近づくと、手招きした朝顔は花の井から届けられた折重を、手を付けていないからとそのまま渡してしまいます。ちどりは折重を開け食べ物に必死に食らいつきますが、障子の裏では朝顔が遠くを見つめるような虚ろな目をしています。

 

付け火(放火)が発生し、女郎が捕らえられます。火事の後の仮宅では料金が安く、客が押し寄せてくるため、また腹いっぱいに飯が食えると思っての犯行のようです。花の井から事情を聞いた蔦重でも、その女郎を助け出せませんでした。そこにちどりが来て、朝顔に渡した折重を蔦重に返します。ちゃんと食ったんだなと安心しますが、ちどりはうつむきます。「おらが食った。おらが飯食っちまったから……」

蔦重と唐丸は、浄閑寺(さいほうじ)に急行します。そこには朝顔ら女郎の遺体4体が着物をはぎ取られて全裸で捨てられていました。奪われた着物は売って金にするわけで、“この罰当たりがッ”と蔦重は吐き捨て、持参した紫の着物を朝顔にかけます。朝顔のほほをさすりながら、蔦重は唐丸に朝顔との出会いから人となりをポツリポツリと語り始めます。

朝顔は蔦重を救ってくれた恩人でした。7歳の柯理(からまる)はいきなり両親に捨てられ、市右衛門に拾ってもらいます。捨て子の中でも両親がいたせいか、他の捨て子たちからいじめられてきたわけですが、そんな時にずっとそばにいてくれたのが朝顔だったのです。稲荷社で「あいつらに、目からしょんべんが出る病になりますように!」とお願いしていると、朝顔は笑いながら近づいてきました。

朝顔と手をつないでいるのはあざみ、今の花の井です。それからというもの、朝顔は柯理とあざみに赤本を見せ、絵解きなどを一緒にやってくれます。柯理の両親は鬼退治に出かけたのかもしれんせんな、と励ましますが、両親は色に狂って出ていったと柯理は首を横に振ります。ただそれはあくまで噂であり、朝顔は柯理の目を見つめます。「どうせ分からぬのなら、思いっきり楽しい理由を考えてはいかが?」

朝顔はとても優しい女性でした。優しいからこそ、きつい客も引き受けて、食えない女郎には飯も食え食えと譲ってしまうのです。そして最後は……こんな姿です。女郎は口減らしに売られてきているわけで、好き好んで吉原に来る女なんていません。きついお務めですが、飯だけは食える。それなのにろくに食えない。「そんなひでぇ話あっかよ……」と蔦重は朝顔の手を握って涙を流します。

 

吉原の女郎屋の主たちが集まります。彼らの前の膳には日本橋の高級料亭「百川」の豪勢な料理が並びます。女郎屋大文字屋の市兵衛は、河岸女郎にはカボチャを食わせておけと言いますが、そこに蔦重が現れます。女郎たちが、治るはずの病をこじらせて死んでしまうのは、そもそもちゃんと飯が食えてないからだと蔦重は必死に訴えますが、主人たちはまったく聞いておらず、料理に舌鼓を打っています。

カボチャにすら難儀をするいま、河岸に炊き出しを──。そんな提案も相手にせず、私たちは“忘八”(※)なんでね、と返すあたり、蔦重は 親父さまたちは人じゃねえです! と怒りに震えます。それでも食い下がろうとする蔦重に、市右衛門は盃を叩きつけ、蔦重の首根っこを掴んで階段の踊り場へ引きずり出し、蔦重を階下へ蹴落とします。ゴロゴロゴロと階段を滑り落ちた蔦重は、哀れな目で市右衛門を見上げます。
(※)「忘八(ぼうはち)」8つの徳…仁・義・礼・智・信・忠・孝・悌…を忘れた外道のこと。

諦めきれない蔦重は訴状を持って奉行所に訴え出ますが、こういう話は名主から持って来いと門前払いです。蔦重が吐く愚痴が耳に入ったのか、「あいつらはね、金になる仕事しかしやしねえのよ」と言いながら厠から男が出て来ます。「じゃあいっそ、田沼さまのところに行ってみるってのはどうだい? あん人は案外、町場のもんの話も聞いてくれるよ?」

 

田沼屋敷──。その前にはたくさんの輿が並んで待機し、この光景に唐丸も「無理じゃない?」と蔦重に声をかけますが、いま輿から降りて来た三郎兵衛の姿を見た蔦重は、近づいて挨拶します。吉原駿河屋の名を出すと、引手茶屋駿河屋のことや花魁花の井のことなど一瞬にして頭をよぎったのか、辺りを気にしながら「ああ~」と三郎兵衛は引きつります。

「今日は私に荷物持ちをさせていただけませんか。なじみの旦那さまをお見かけしたら、万事を尽くすようにと主人からきつく言いつかっておりまして」と、荷物持ちから三郎兵衛の荷物を奪い取った蔦重は、三郎兵衛とともに屋敷に入ります。三郎兵衛は受付で心づけを渡し、蔦重は百川の印が入った料理箱を2つ受け取ります。飯でも食って待っておれ、ということでしょうか。

田沼屋敷の庭の奥では、“若さま、なりませぬ……” “よいではないか”と怪しげな空気が漂っていますが、その“若さま”は百川印の料理箱を何箱かを風呂敷に包み、下女にこっそり渡していたのです。下女を帰し、戻ろうとした“若さま”が見たものは、三郎兵衛(と蔦重)が田沼意次と対面するところでした。「かの地では、実によい肥やしができまして」

三郎兵衛に促され、蔦重は持ってきた黒い壺を側近の者に託し、意次の元に運ばれます。そのようなもの持ってくるな! と言いつつ、壺の中身を改めると、たくさんの大判が入っていました。実によく効きそうな肥やしじゃの、と意次は鼻で笑います。そこで蔦重がしゃしゃり出てきます。「私もぜひ、田沼さまにお聞き届けいただきたい話がございます」

手短に、と許しをもらい、蔦重は岡場所に警動をお願いしたいと頭を下げますが、できぬな、と断られてしまいます。「吉原のためだけに国益を逃すわけにはいかぬのだ」 警動を実施して五街道沿いの宿場町が1つでも潰れれば、商いの機会が減り大幅な利益を逸する。裏を返せば宿場が栄えて商いの機会が増えれば、莫大な国益を生むわけです。

さらに意次は、高級料亭の百川が吉原の親父たちは上得意と言っていたことから、吉原が儲けていることは確かであり、正すべきは親父たちの不当に高い取り分だと指摘します。吉原に客が足を運ばないのも、値打ちのない場に成り下がっているのではないのか、と痛いところをつかれます。「人を呼ぶ工夫が足りぬのではないか? お前は何かしているのか? 客を呼ぶ工夫を──」

蔦重は、目が覚めるような指摘に「まこと、ありがた山の寒(かん)がらすにございます!」と、去ってゆく意次の背中に叫びます。意次の表情は分かりませんが、そんな一部始終を庭から眺めていた息子の田沼意知は、フッと笑っています。

吉原へ戻ってきた蔦重を待っていたのは、その“吉原の親父たち”でした。まことに警動を望んでいるのか? と奉行所から会所に確認の連絡がきたことで、蔦重の企てが露見したわけです。さんざん殴られ、大きな棺桶を逆さまにして上から重石を乗せ、蔦重を閉じ込めてしまいます。

それから数日、蔦重は棺桶の中でいろいろ考えていました。蔦重の脳裏に響くのは、意次がズバリ指摘した「お前は何をしている? 何かしているのか? 客を呼ぶ工夫を」という言葉です。三日三晩が過ぎ、蔦重の頭にひらめきがきます。「これだ……」 棺桶を取り、よろよろと立ち上がった蔦重が手にしたものは、『吉原細見壽黛色(よしわらさいけん ねびきのまつ)』という小さな冊子でした。

 

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『べらぼう -蔦重栄華乃夢噺-』 第2回「吉原細見『嗚呼御江戸』」

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