大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(04)『雛形若葉』の甘い罠(わな)
安永3(1774)年秋、御三卿田安家当主・治察(はるあき)が亡くなります。弔問に訪れた松平武元(たけちか)に賢丸(まさまる)は頼みごとをし、武元はさっそく大奥総取締の高岳に取り次ぎ、将軍徳川家治に口添えを依頼します。田沼意次から取り次ぐのが筋と高岳はそっけないですが、武元はそっと翡翠(ひすい)の香炉を差し出し、見据えます。
賢丸の頼みごととは、白河松平家への養子縁組の件を取り消して田安家に戻りたいというものです。それを屋敷を訪れた意次に聞いた一橋治済(はるさだ)は、その頼みごとは意次には災難だとニヤリとします。
賑わいを取り戻し始めた吉原、親父(主)たちは次なる一手として“女郎の錦絵でも出しちゃどうかニャ? って”と蔦屋重三郎に話を持ち掛けます。錦絵は墨摺りに比べて金がかかるわけですが、それは親父たちが持つと聞いても蔦重はあまり信用していません。“ネコに二言はニャー”と大笑いする親父たちに、蔦重は腹を決めます。「分かりやした! やらせてもらいニャす」
とはいえ、女郎たちは蔦重の都合で入銀ばかりしていられないと反発します。花の井によれば、蔦重が錦絵を出すから入銀しろと親父たちから女郎たちに話があったそうです。ひとり5両──。「女郎は打ち出の小槌じゃありんせん。やるならやるで、わっちらにお鉢が回ってこないような工面の手を考えておくんなんし」と女郎たちは蔦重を睨みつけます。
5両程度払えるのでは? と唐丸は疑問ですが、客の支払いが10両以上あったとしても、そこから店の取り分を引かれ、着物や小間物などの代金も引かれます。支払えなかったら店への借金となるわけです。稼いでも稼いでも金が出ていくのが花魁さ、と次郎兵衛はそばを食いながら唐丸に説明します。唐丸は愕然とします。「地獄のようだね」
将軍家治は、“もしものことが起こった折には賢丸を田安に呼び戻してよい”と生前に治察と約束していたこともあり、意次に賢丸養子の件を断るよう命じます。でなければ田安家は絶えてしまうかもしれず、賢丸も安心して白河へ行くことが出来ないであろうとの慈悲の心からです。大奥からも同様の願い出があり、意次は承諾します。
ともかく、家治という大きな力が加わったことで、賢丸の思い通りにことが進んだわけで、賢丸は武元に感謝してもしきれません。武元は治察の慧眼のたまものと笑いますが、賢丸は自分が当主となった暁には、兄治察や祖父徳川吉宗に恥じない人物になろうと決意します。武元はそっと、今後は田沼にお気を付けをと進言します。そもそも賢丸の白河ゆきも、意次が提言した事案だったわけです。
意次が賢丸を田安から出したかった理由は、田安を潰してしまいたかったのです。すでに御三家があるのに御三卿がある。幕府財政緊縮の折、10万石を3家分抱える幕府としても、ここは御三卿をなくして無駄を省きたいわけです。三浦庄司は青ざめますが、意次は「やるか」と田沼意知を見据えます。
鱗形屋を訪れた蔦重は、孫兵衛に『一目千本』を絶賛されますが、俺にも一言ほしかったなと言われて謝罪します。孫兵衛としても蔦重の力になりたいわけで、蔦重は女郎の錦絵をタダで作る相談を持ち掛けますが、金銭が絡むとするりと相談を交わします。藤八が浄瑠璃本を持ってきて蔦重は確認をしていますが、そっとその場を離れた孫兵衛は蔦重をギロリと睨みつけます。
本屋に用事があったという平賀源内と合流した蔦重は、両国に向かいます。大道芸人が披露する中、すれ違った娘を見つめる源内です。源内が好きだった瀬川菊之丞が、舞台でやったことで流行した路考髷(まげ)、路考結び、路考茶色……。この着物で呉服屋は大儲けしたのです。蔦重はそこからヒントを得て、源内を置いて駆けだします。「あっ先生! あなたやっぱり天下一の才です!」
蔦重が去り、両国に残った源内のところに、お忍びで意知がやって来ました。このことは源内でしかできないからと、内密の仕事を依頼しています。
蔦中は、呉服屋の売り込みたい着物を女郎に着させることで広告塔にし、その金を入銀させることを思いつきます。そうすれば呉服屋から入銀させて吉原は一文も払わずに済みます。錦絵を作るのに絵師、彫(ほり)、摺(すり)で1~2両200枚ほど、吉原の親父たちは呉服屋の座敷があったら蔦重に声をかけるからと、話をつけて回るよう指示します。
蔦重は呉服屋が訪れる吉原中の座敷を飛び回りますが、中丸屋佐兵衛や尾張屋彦次郎とも話に乗ってくれず、市右衛門に助言を求めます。市右衛門は菊之丞だから流行るのであって、名の通った女郎がいないからだと鋭い指摘をします。そして蔦重も名が知れ渡っているとは言えず、そんな男がまともな錦絵を上げてくるとは思えないとも。蔦重は悔しい思いをしますが、至極ごもっともなご意見です。
そこに地本問屋の西村屋から与八が蔦重を訪ねてきます。西村屋は錦絵を扱い、蔦屋でも仕入れています。与八は大文字屋で女郎錦絵の話を聞きつけ、一枚噛みたいというのです。蔦重は完成した錦絵を呉服屋の店先と吉原で捌くつもりですが、そこに西村屋でも扱うことにし、ほかの本屋との取引も取り計らいたいというわけです。
西村屋が参加したおかげで効果は絶大で、蔦中は呉服屋たちから入銀を得ることに成功します。西村屋の計らいで絵師は美人絵を得意とする礒田湖龍斎が担当することになりました。湖龍斎の下絵の出来上がりに大喜びの蔦重ですが、与八から板元印(はんもといん)を考えてみては? と提案されます。「これだけの錦絵を出しゃ、お前さんはもう立派な板元だよ」
蔦重は源内を訪ね、板元としての名(堂号)を考えてもらいたいと頼みます。しばらく考え込む源内は、バッと羽織を脱ぎ捨てると紙に向かいます。こうして“すごい名”をもらった蔦重でしたが、蔦屋にいざ帰ると文箱に直しておいた錦絵が猫の敷物に使われてしまっていました。蔦重は絶叫します。何も事情を知らない次郎兵衛が、ちょうどいいと考えなく使っていたようです。
責任を感じた唐丸は、試しに自分で直してみたいと言い出します。唐丸に描けるわけないとつぶやく蔦重ですが、唐丸の目は真剣です。一筆一筆丁寧に模写を続けていくその姿に、蔦重はじっとその様子を見つめます。そして出来上がった仕上がりを見て、次郎兵衛は息をのみ、蔦重は驚嘆します。「俺には元の絵にしか見えねえ……お前はとんでもねえ絵師になる! 間違いなくなる!」
書き直した下絵で板木を彫り、試し摺りした絵を見て、湖龍斎も納得の出来です。与八が促し、板元印を記した紙を渡します。
意次は源内に依頼していたものの仕上がりを見て驚きの声を上げます。文書に記す文字を、他の部分から拾い出して似せ、墨の色を合わせて紙に圧を加えなじむように書き記すという細工を仕上げてきたのです。この吉宗の文書を賢丸に見せて白河へ送ろうという意次の魂胆です。書庫では分厚くほこりをかぶっていた文書で、事前に賢丸が読んだ可能性もゼロに等しいです。
その文書『覚 両家處置之事』に目を通した賢丸は、田安家と一橋家の両家を継ぐ者がいない時は、そのまま当主を置かずお家断絶という部分を読み、言葉を失います。将軍家治もこの文書のことは知らなかったわけですが、賢丸がどうしても田安に戻りたければ約束は守ると言っているそうです。意次は賢丸を見据えて頷きます。「あとは賢丸さま次第かと」
意次が颯爽と下がり、武元は将軍がお構いないと言っていることもあって、堂々と田安に戻ればいいと進言しますが、それでは吉宗の定めに反して田安に戻った賢丸が後ろ指をさされることになってしまいます。「なぜ足軽上がりにここまで愚弄されねばならぬ! 今に見ておれ……田沼……!!」
錦絵が完成し、そこに入った板元印『耕書堂』に蔦重は言い知れない喜びを感じます。耕書堂とは、板元として書をもって世を耕し、この日の本をもっともっと豊かな国にするという思いが込められています。蔦重は、次郎兵衛や唐丸に「耕書堂!」と声をかけられて、蔦屋を後にし吉原の大門をくぐります。
駿河屋で呉服屋店主の前に並べられた錦絵の改めが始まります。鮮やかで人目を惹く美しさに感嘆の声があちこちで漏れます。今後は『雛形若菜初模様』と銘打ち、西村屋とともに作り続けていく意向を示した蔦重ですが、与八が“今後は西村屋単独の板元としたい”ととんでもないことを言いだします。自分が入っていれば蔦重も板元でいいと考えていた与八は、「定」を軽く見ていたと蔦重に詫びます。
地本問屋の仲間内で認められた者しか板元(発行人)はやってはならないという定めを孫兵衛が披露します。りつは鱗形屋の『吉原細見』もやっていると指摘しますがあれは改訂版であり、『一目千本』も吉原の中での配り物なので問題ありません。ただ今回の『雛形若菜初模様』を市中の本屋や絵草紙屋で売るとなると話は別です。「あなたが板元となっているこの絵は扱うわけにはいかぬ、とこういう理屈に」
鶴屋喜右衛門の説明に、この本の板元は共同で西村屋も入っていると噛みつく蔦重ですが、与八は言いにくそうに補足します。「だからその……手前ひとりなら売り広めができる、ということでねえ」 後から板元になりたい者も板元にはなれない……耕書堂が今後、地本問屋の仲間に入ることはない……。蔦重の目の前が真っ暗になります。
つまりこの本から蔦重が手を引けば、本も市中に出回り呉服問屋も助かるというわけですが、発案から各地を駆けずり回り、一から十までやったのは蔦重です。こんなおかしな話あるかよ! と思いを吐露すると、市右衛門は厳しい表情でつぶやきます。「吉原のためだ。錦絵が広く出回ることが、吉原のためだ」 蔦重は静かに話から手を引きます。いいものに仕上げてくださいと──。
もちろん、これは孫兵衛が考え出したことで、その話に与八が乗っかったものでした。うまくいったなと酒を酌み交わす二人ですが、与八はふと蔦重の扱いについて疑問が浮かびます。孫兵衛は酒をグッと飲み干します。「俺はよ、あいつごとこの吉原を丸抱えにしてえのよ」
抱え込みたい、儲けたい。一山当てたい、稼ぎたい──。山師の仕事から戻った源内は小田新之助に、吉原の女郎うつせみに会いに行ってやれよと大判を手渡します。しかしそのころ秩父の中津川鉱山が火災で大変なことになっていました。知らせを受けた源内は、状況を呑み込めないまま現地に向かうことにします。
作:森下 佳子
音楽:ジョン・グラム
語り(九郎助稲荷):綾瀬 はるか
題字:石川 九楊
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[出演]
横浜 流星 (蔦谷重三郎)
安田 顕 (平賀源内)
小芝 風花 (花の井)
宮沢 氷魚 (田沼意知)
井之脇 海 (小田新之助)
寺田 心 (田安賢丸)
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中村 蒼 (次郎兵衛)
正名 僕蔵 (松葉屋半左衛門)
伊藤 淳史 (大文字屋市兵衛)
山路 和弘 (扇屋宇右衛門)
安達 祐実 (りつ)
徳井 優 (藤八)
尾美 としのり (平沢常富)
風間 俊介 (鶴屋喜右衛門)
西村 まさ彦 (西村屋与八)
映美 くらら (大崎)
花總 まり (宝蓮院)
生田 斗真 (一橋治済)
冨永 愛 (高岳)
眞島 秀和 (徳川家治)
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原田 泰造 (三浦庄司)
片岡 愛之助 (鱗形屋孫兵衛)
高橋 克実 (駿河屋市右衛門)
石坂 浩二 (松平武元)
渡辺 謙 (田沼意次)
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制作統括:藤並 英樹・石村 将太
ブロデューサー:松田 恭典・積田 有希
演出:深川 貴志
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『べらぼう -蔦重栄華乃夢噺-』 第5回「蔦に唐丸 因果の蔓」
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