プレイバック花へんろ -風の昭和日記- (連続七回)・第三回
──昭和とは どんな眺めぞ 花遍路──
──日本は 一等國ぞ 春おぼろ──
春。富屋勧商場は夜と言えども大賑わいです。1階では勝二が忙しく動き回る中、お得意様の女性客にはウメ自ら接客をし、その横で源太郎がお茶を客に差し出します。店内にはレコードがかかり、多数の買い物客の一方で、一部の女性客は3階にまで上がって勧商場から見える海に歓声を上げていました。フサ子はサザエを静子の部屋に持ち込み、ふたりで波の音を楽しみます。
そこに来たのは花井靴院長です。沖の相島遊郭で“おじょろ(女郎)”をしていたおこうを、ひょんなことで引き取ることができ、その挨拶に来たわけです。身請けの金はウメが支払ってくれたようで、月々少しずつ返済していくことになりました。世の中は不景気で、日本はまだまだ貧しかったのです。
──日本は 三等国ぞ 春さむし──
富屋の庭で洗濯物を干していた静子は、勝手口から入ってきた子どもに手を引かれて表へ連れていかれます。そこには女遍路が座り込んでぐったりしていました。どうやら子どもの母親のようで発熱があり体力が弱っていたため、静子は男手を借りて屋敷の中にお遍路さんと子どもを引き入れます。
診療に来た井原院長は行き倒れて死んでしまうからと2~3日休むよう告げ、静子には薬を取りに来るよう伝えます。女遍路は手を合わせ、助けてくれた静子に感謝します。富屋の前は遍路道で、ひっきりなしに通っていくのです。昭和2(1927)年の春はいつもの年よりは大勢のお遍路さんが歩いていきます。
──辛そうな ものを背中に 遍路かな──
静子は2人のために食事を用意します。食べるよう促すも8歳の女の子はまったく口を聞けません。小学校に入る前に治そうと、女遍路は88箇所回ることにしたわけですが、何回回ってみても女の子が口を聞くことはなく、女遍路は哀しくなって涙を流します。そんな会話を部屋の外で聞いていたウメは、黙って戻っていきます。
京都の日本海側の町から巡礼に来た親子ですが、帰る家がありません。聞けばこんな子を産んだから追い出されたと言うわけですが、それは単なる口実でしかなく、不細工な自分に姑や夫は気に入らなかったに違いありません。誰も使わない離れだからと静子はしばらく養生するよう勧めますが、一晩だけ甘えさせていただきますと女遍路は頭を下げます。
夜になり、番頭たちが銭湯に出かけても、勝二は帳面と在高を計算しています。どうやらキケに遭ったようです。それでも夜食用に作ってくれた静子のうどんをツルツルッと口にし、「あー、うまいな」と勝二は笑顔を見せます。静子は黙ってお遍路さんを泊めたことを詫びますが、勝二には全く気にする様子はなく、親子が逆打ちしていることにむしろ興味を示します。
88箇所巡礼は、一番札所から回るのが順番ですが、八十八番から回るのが“逆打ち”です。夫婦そろってうどんを食べていると、奥から大正琴の音色が聞こえてきました。足が不自由な幸三が弾いているのですが、2歳の時に小児麻痺となった幸三は、やることがないわけです。作詞や作曲がしたいと考えていますが、ここでそんな需要があるわけではなく、その才能も埋もれてしまうかもしれません。
翌朝、桶を持って離れに行くと、女遍路の姿はありません。部屋には女の子と“この子をよろしく”という置き手紙がありました。母親が子どもを捨てるのはよほどのことだし、いい人や優しい人を探し回って見込まれたのなら私は嬉しいと、静子は引き取りたいとウメに訴えます。勝二の相談もいりますが、源太郎は首を横に振ります。「あいつは優しい奴やから、あンたの言うとおりにする」
ぐったりする女の子を連れて、静子は井原医院に駆け込みます。ひととおり診察を終えた井原は、耳もしっかり聞こえているが、何か大きな出来事が起きて気持ちが凍ってしまったようだと説明します。どちらにしても名前がいるという井原に、静子は「巡子です……巡礼の巡」と返答します。その名に井原も賛成してくれました。
待合室では先に戻った巡子が看護婦とお手玉で遊んでいました。待合室に戻った静子は、井原の亡き妻の妹・文子に呼ばれて応接室に向かいます。文子は思いつめた表情で、人目に付かないところはないか尋ねます。静子は風早港の沖合にある鹿島の名前を挙げますが、くれぐれも内緒にと文子に頼み込まれて、静子は戸惑いつつ頷きます。
その帰りに小学校に立ち寄った静子は、巡子を引き受けてほしいと松野教頭に求めます。松野は井原はヤブ医者だと決めつけます。いくら九州帝国大学を出た医者であっても、自分の妻を亡くすような医者は医者ではないというとんでもない理論です。それを主張するのに机をバンと叩く待つのですが、その音にびっくりした巡子を見て、耳は聞こえているようだと教頭は小学校での引き取りを許可します。
富屋に戻って巡子の通学に必要なものを揃えだす静子ですが、勝二やウメは慌てています。客間には井原が待っていました。井原の話では文子は困った男と逢引きをしているようで、文子に何を教えたのか教えてほしいと静子を問い詰めます。文子との約束があって静子は何も言いませんが、代わりに“困った男”というのを詳しく聞きたがる静子やウメには、井原はハッキリとは男のことを伝えません。
助けると思って! と土下座して頼み込む井原に、静子は文子の居場所を言わない代わりに、自分が今からそこに行くと立ち上がります。井原は、話の分からん大男のところに行くのだからと、井原医院まで駆け戻り、文子が置いてきた赤子を連れてきます。
離れで幸三から赤いランドセルを受け取り、巡子が背負って見せると、とてもかわいらしくて思わず微笑みます。そこに照一が来て、巡子に興味を示します。巡子はサッと幸三の影に隠れますが、大きくなったらべっぴんさんになるとつぶやく照一を、フサ子はたしなめます。フサ子は照一に代わって目線の高さを合わせて謝りますが、巡子の心はまた閉ざされてしまいます。
鹿島の納涼台は瀬戸屋の経営でした。そこに静子が赤子を抱いた井原とともに現れます。話の分からない大男──とは外国人のことで、神戸の領事館に勤めるハリー・ハミルトンという人物でした。大学で英文学を学んだ文子はハリーと英語でも会話できるのです。井原は妻の妹である文子のことが大切で、遠く離れていってしまうのが非常に残念なわけです。
気を利かせて静子はハリーを散歩に誘い、井原と文子、そして赤子だけの空間にします。心配する和江ですが、今はそれどころではありません。このことがまさか17年後に大きな事件になって返ってくることになろうとは……。しかし当の静子は、外国人と会話するのは初めてで、見上げていたために首が凝ったと無邪気です。
作:早坂 暁
語り:渥美 清
音楽:桑原 研郎
演奏:東京室内楽協会
時代考証:小野 一成
[出演]
桃井 かおり (静子)
河原崎 長一郎 (勝二)
中条 静夫 (照一)
佐藤 友美 (文子)
森本 レオ (幸三)
田武 謙三 (留三)
金井 大 (松野教頭)
イッセー 尾形 (花井靴院長)
樹木 希林 (女遍路)
下條 正巳 (源太郎)
小林 亜星 (井原院長)
永島 暎子 (おこう)
小 きりん (巡子)
リチャード キャリー (ハリー・ハミルトン)
高品 正宏 (藤松)
中西 敦子 (花奴)
林 寸奈保 (看護婦)
斉藤 洋介 (番頭)
梅津 秀行 (番頭)
鷹取 順雅 (番頭)
角川 真一 (小僧)
大塚 良平 (小僧)
宮村 栄一 (ヤクザ風の男)
山脇 登美子 (女中)
寺井 恵美 (女中)
上原 恵子 (女店員)
山下 由美恵 (女店員)
美輪 明子 (女郎)
平塚 奈々 (女郎)
春名 登代子 (女郎)
浅沼 典子 (女郎)
市来 まさみ (女郎)
松田 真知子 (女郎)
峯田 智代 (客)
恩田 恵美子 (客)
森 康子 (女遍路)
大月 優子 (女遍路)
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鳳プロ
劇団いろは
方言指導:天野 陽子
:佐伯 赫哉
:大原 穣子
医事指導:村瀬 敏郎
大正琴指導:川上 琴昌
加藤 治子 (和江)
藤村 志保 (フサ子)
沢村 貞子 (ウメ)
制作:岡田 勝
美術:岸川 淳一
技術:八城 徳治
効果:加藤 宏
編集:高室 晃三郎
照明:川原崎 賢明
カメラ:奥村 重喜
音声:佐藤 重雄
記録:水島 清子
演出:深町 幸男
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