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2025年1月 3日 (金)

プレイバック花へんろ -風の昭和日記- (連続七回)・[新] 第一回

──昭和とは どんな眺めぞ 花遍路──

大正12(1923)年9月1日──。裏口から辺りを見回しながら家を出て、入り口で頭を下げる東山静子は、すれ違ったお遍路さんとは真逆の方向に自転車で走り抜けていきます。海沿いの道を抜け、松山にたどり着きます。商家富屋の前で乞食行をし、施しをいただくお遍路さんに自転車で突っ込み、女遍路は「女子が自転車に乗るやなんて」と驚かせます。

店に上がり込んだ静子は叔母で富屋の実質的主人の富井ウメの腕を掴んで部屋に入ります。東京上野の音楽学校に入り歌手になりたいので、旅費を貸してほしいと頭を下げます。静子が歌が好きだというのはウメの兄(静子の父)から聞かされていますが、それでも父は反対だったはずです。食い下がる静子に、ウメは日本の歌を歌ってほしいと告げます。

命短し恋せよ乙女……と静子が歌いだすと、ウメの夫・富井源太郎はじめ、照一やフサ子、勝二、幸三たちが聞きに集まってきます。突然の拍手にビックリする静子ですが、ウメは立ち上がり「揺れんかった?」と照一らに聞き回ります。そんなウメを座らせ、頭を下げる静子に、ウメは大きくため息をついて微笑みます。「そうやな。行って……みるかえ?」 壁の振り子時計が12時を知らせます。

静子が目指していた東京では、今まさに大地震に襲われていました。関東大震災です。街頭の時計が11時58分に止まっているところを見ると、ウメが揺れに気づいたのはこの地震によるもののようです。各地で火災が発生し、多くの人が屋根にのぼり、上がる煙をただ呆然と眺めるしかなく、広場にはたくさんの人が避難してごった返しています。地面は割れ、家財道具を抱えて逃げ惑う人もいます。

松山から小さな船に乗って広島宇品に渡るしかなく、ウメに借金した静子は東京に向かうために汽船のりばに来ました。勝二や幸三が見送りに来ますが、そこにフサ子が走って駆けつけます。「静子さん! 大ごとじゃ! あんたの行こうとしとる東京……のうなってしもうた」と、新聞記事を見せます。そこには『東京市内に大火災』『水道鐵管破裂』『鐵橋墜落列車顚覆』と書かれてありました。

東京がのうなってしもうた──と静子は絶望し、その場に座り込みます。ラジオもなかったこの時代、昭和が間もなく開けようとしていたころ、若い女が川のような海を渡るだけでも、容易ではなかった時代です。大きな津波が来て、日本列島が洗われるという噂がしきりに立っています。
──この海を 河と思いし 人があり──

仕方なく戻ってきて涙ぐむ静子に、ウメは富屋勧商場(かんしょうば)の絵を見せます。勧商場とは東京でいえば百貨店のようなもので、富屋はここの家です。今回、3階建ての勧商場を作る予定で、この絵は完成予定図というわけです。3階の展望台からは瀬戸内海が見え、ここから歌えばいい気持ちになるとウメは静子を励まします。おもしろそう、とつぶやく静子は、その絵を食い入るように見つめます。

ウメは店から兄に電話をし、静子が来ていることを告げます。東京行きは諦めざるを得なくなり、しばらく住まわせるとして、次男勝二の嫁としてもらえないかと相談します。兄は勝二はボーッとしていると難色を示しますが、ウメは“おとなしい”と言い換え、俳句の「壺中(こちゅう)」という号も持っていると胸を張ります。

「壺中」という名前は、源太郎に連れられて俳句の会に行った時、「木枯らし」という題で句を作ることになり、
──こがやしや 富屋の店の 壺の中──
という句を思いついた勝二ですが、「ウチの店で“こがらし漬”を売っておりますので」と言ったところ、参加者の升屋、立川巡査部長、井原院長らに「冬の木枯らしのこと!」と大笑いされたことから付けられた俳号です。

 

大正15(1926)年12月25日、富屋勧商場が完成。その開店の祝いに軒先に提灯が提げられ、日の丸の旗や紅白幕などの準備、そして富屋の面々は紋付き袴に着替えて大わらわです。誰が呼んだかチンドン屋もやってきますが、ウメは慌ててチンドン屋たちを店の中に入れます。この日は大正天皇崩御の日で、歌舞音曲は禁じられていたのでした。たちまち無人になる店先です。

家の中でひっそりと集まり、主として挨拶する源太郎は、花火も打ち上げられず餅も配れず、どうする? と困惑しますが、ウメは「表は大正で悲しんどるが、ウチは昭和でお祝いすることにします」と笑顔を見せます。売り出しは明後日からにし、今日のところは店を閉めて内々でお祝いです。心配する源太郎をよそに、ウメはいざとなれば自分が捕まりますと笑います。

調子に乗った静子は爆竹に火をつけ、庭に投げてバンバン鳴らしますが、祝賀ムードが一瞬で静まり返ります。「あれ? ええんでしょ? いけんの?」と静子は顔を引きつらせます。ウチの中ではどんちゃん騒ぎになっている中、店の外では枯葉が舞い人通りの皆無な、静かな通りです。
──昭和とは なって七日で 年暮るる──

振る舞われた酒で酔っ払ったチンドン屋や番頭たちが陽気に振る舞う中、富屋の長男・照一の姿がありません。ちょっと……と言葉を濁していた妻のフサ子ですが、すぐに連れてきなさいとウメに叱られ、仕方なく照一を呼びに行きます。しかしその足取りは重そうで、静子は代わりに呼びに行きます。すぐ先の瀬戸家で芸者遊びをしているらしいのです。

瀬戸家に向かい、照一を呼んでほしいと頭を下げる静子ですが、主の和江は「2階です。連れて帰ってください」と意外な答えです。歌舞音曲が禁止され、店側も芸者をどこにも送れないわけで、そんな中を照一は意地張って2階で待っているわけです。静子は促されるまま2階に上がります。店の前では様子を見に来たフサ子が、チンドン屋の音が聞こえると知らせを受けて来た立川にいろいろ聞かれています。

2階に上がると、頭に日の丸の扇をつけた照一と、芸者の蝶子がいました。座敷に押し入った和江は、音を出したら自分が警察に引っぱられると困惑しきりですが、気分よさげに踊る照一と、三味線を抱えながら楽器の音を口で言う蝶子に、これならいいかと黙認し、半ば呆れて階下に降りていきます。

しかし静子はそうはいきません。呼んでくるという使命を抱えた以上、なんとしても連れて帰らなければなりません。しかしここで蝶子とふたりで開店祝いをすると聞かない照一は、フサ子が死んだら蝶子が妻になるわけで、(ウメが勝二と結婚させるつもりの)静子は蝶子の義妹になるかもしれないと、照一は蝶子に静子へ挨拶をさせます。

なんやかんやあって、富屋に戻ってきた静子を座らせたウメは、今度はあんたの嫁入りです、と話を切り出します。承知やな? と迫るウメに、静子は相談したい人がいると口ごもります。「じゃあ待ちましょう。どのぐらい待ったらいいぞなもし?」

静子の相談相手は海の向こうにいるようで、自転車に乗って実家を通り過ぎ、向かった先は汽船のりばでした。追ってきた勝二は、静子が逃げるんじゃないかと心配しますが、それでも何もできずじまいです。悔しさで足を振り上げ、下駄が飛んで行ってしまいました。やっぱり静子は東京の音楽学校に行く気だ……。真後ろでそんな葛藤が行われていることを知らない静子は、海をまっすぐに見つめていました。

静子は翌日帰ってきました。井原病院で健康診断を受け、どこにも悪いところはないと太鼓判をもらった静子は、いとこの勝二と結婚して子どもが生まれたら……と心配事を相談します。そこに井原院長の亡き妻の妹・文子が入ってきました。文子の胸には亡き妻の子が抱かれています。博多出身ですが、同志社大学英文科を出た文子が引き取ったのです。女で同志社大の本科に? と静子は文子に興味を持ちます。

 

昭和2(1927)年3月3日、富井勝二と東山静子の結婚式が、町でただ一つの劇場・大正座で行われます。舞台で手をつき頭を下げている勝二と静子ですが、升屋に促されて勝二が頭を上げたところ、舞台が突然回り始めて大騒ぎになります。回されながら立ち上がることもできず、声も上げられない静子です。なんでこうなったかは──また次回に。


作:早坂 暁

語り:渥美 清

音楽:桑原 研郎
演奏:東京室内楽協会
時代考証:小野 一成

[出演]

桃井 かおり (静子)

河原崎 長一郎 (勝二)

中条 静夫 (照一)

佐藤 友美 (文子)

森本 レオ (幸三)
殿山 泰司 (升屋)

谷村 昌彦 (立川巡査部長)
田武 謙三 (留三)

樹木 希林 (女遍路)

下條 正巳 (源太郎)

小林 亜星 (井原院長)

磯野 洋子 (蝶子)
イッセー 尾形 (花井靴院長)

中西 敦子 (花奴)
鯨岡 きよみ (千鳥)
斉藤 洋介 (番頭)

及川 ヒロオ (チンドン屋)
林 寸奈保 (看護婦)
峯田 智代 (かつぎ屋の女)
高杉 哲平 (老人)

梅津 秀行 (番頭)
鷹取 順雅 (番頭)
角川 真一 (小僧)
大塚 良平 (小僧)
関 章三 (金魚屋)

白岩 久尚 (座員)
大塩 武 (座員)
山脇 登美子 (女中)
香山 エリ (女中)
寺井 恵美 (女中)

劇団ひまわり
鳳プロ
愛媛県
 北条市の皆さん
 内子町の皆さん
資料提供:愛媛新聞社

方言指導:天野 陽子
    :佐伯 赫哉
    :大原 穣子
遍路指導:福永 智聖
伊予万歳指導:扇崎 秀薗

加藤 治子 (和江)

藤村 志保 (フサ子)

沢村 貞子 (ウメ)

 

制作:岡田 勝

美術:岸川 淳一
技術:八城 徳治
効果:加藤 宏
編集:高室 晃三郎

照明:川原崎 賢明
カメラ:奥村 重喜
音声:太田 進潑
記録:松田 和子

演出:深町 幸男

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