« プレイバック八代将軍吉宗・(04)殿様の子 | トップページ | プレイバック八代将軍吉宗・(05)江戸の迷子 »

2025年2月 9日 (日)

大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(06)鱗(うろこ)剥がれた『節用集』

鱗形屋お抱えの改(あらため)となった蔦屋重三郎は、さっそく『吉原細見』の改良に知恵を絞りますが、なかなかいい案が浮かびません。オシャレに見せたい恰好の男たちは、「疫病本多」という細い髷(まげ)を結い長い着物を引きずって歩く姿に感嘆の声を上げます。こんな近世風の装いのキンキンの男たちが、吉原の中を通ぶって歩くということが大流行していたのです。

お座敷で、前座?の男がクネクネと舞っています。そこに花魁が入ってくるのですが、客の男は“花魁は初会は花魁は口を聞かぬ”といったルールは一通り頭に入れているようで、野暮な気遣いは不要だといいたげです。しかし振袖新造はなぞのは、花魁はこちらで、と手を差し出します。男が振り向いた視線の先には、花魁の花の井が多少ムッとした顔で座っています。

そんな出来事があったと、昼間の女郎屋松葉屋で話が上がります。田舎者が聞きかじりで通を気取るからそういうことになるわけで、最近そういう客が増えたと呆れるばかりです。読む本がないとつぶやく花の井に、蔦重は『楠末葉軍談(くすのきばつようぐんだん)』という青本──昔からある良く知られた話に挿絵を入れた漫画のようなもの──を紹介しますが、「青本ってつまんないんだよね」と花の井は背中を向けて行ってしまいます。

市中に出た蔦重は、うつせみから預かった文を小田新之助に渡します。その文中にある「花のさわりのなきようにいたす」の部分について、蔦重は女郎が自腹で揚代(あげだい=遊興代金)を払うこともできると説明します。つまりうつせみはそこまでして新之助に会いたいと言っているわけです。蔦重は新之助に、客が来る本に工夫したいから知恵を借りたいと『吉原細見』を手渡します。

主の孫兵衛は、細見より派手な入銀ものを考えてほしいと蔦重に伝えます。出資を募って本を作れてパッと評判になるような……。「地本は当たってこそだから」と言う孫兵衛次男の万次郎は、地本問屋ではなく書物問屋になりたくて勉学に励んでいます。『早引節用集』のような物之本は地本の10倍20倍の値で売れるし、割りよく儲かるわけです。

番頭の藤八は、摺り損じの紙を半分に切って厠(かわや)紙に加工しています。前の火事で蔵が焼け、板木(はんぎ)・摺り出し・紙・墨・糸も失ってしまい、鱗形屋に奉公する者たちに多く暇(いとま)を出したので、人手が足りずこういうことも番頭でありながらせざるを得ないのです。「茶屋も大変だろうが、ひとつウチのこともよろしく頼むよ、蔦重」

 

尾張熱田の古本屋で見つけた『早引節用集』を手にした柏原屋は、板元にある丸屋源六という名を見つけます。

そのころ孫兵衛と嫡男長兵衛は、青本『鉦男金紙屑(しゅっせのかみくず)』と『悟乳柑子(さとりのくねんぼう)』を買ってくれた小島松平家の家老・斎藤茂右衛門から依頼を受けます。「例のアレをさらに倍、頼むことはできるか?」 名産のない小家では、アレが相当な実入りとなるようで、孫兵衛は近いうちに持ってくると約束します。

つるべ蕎麦でそばを食らう蔦重は、子どものころは赤本を読んでいた次郎兵衛がいつしか本を読まなくなった理由を考えてみます。絵ばっかりの赤本に対し、大人の本は文字ばかり。青本もつまんないわけです。蔦重はそこを逆手にとり、つまらなくない青本があれば読むかもしれないと考えると、いいアイデアが浮かんできたようです。

夜、せっせせっせと『早引節用集』を摺り上げる者たち、その中には孫兵衛の姿もあります。そして朝早く鱗形屋に蔦重がやって来てみると、藤八は店先で居眠りしています。そこを静かにすり抜け二階に向かうと、孫兵衛たちは作業していたものを慌てて隠します。蔦重はそれにはさほど気にも留めず、孫兵衛の前に数冊の青本を並べて見せます。

蔦重は孫兵衛に、花の井や次郎兵衛の話から世間では“つまんない”と認知されている青本で、とびきり面白いものを作ろうと提案します。鱗形屋でも火事の前までは青本を出していたせいか、孫兵衛はムッとして話を聞いていますが、分かり切った昔ばなしでカビくさい青本ではなく、活きのいい話を作り出そうという蔦重の話に、孫兵衛は乗っかります。

蔦重は花の井に、近ごろ面白かった逸話を取材します。女郎たちは「そりゃあやっぱり“金々野郎”たちでありんすなぁ」と大笑いします。次郎兵衛からは、どこかの半可通(はんかつう)に教えられたであろう、今では禁止となったはずの“目ばかり頭巾”かぶった野郎が、大門で頭巾をひん剥かれたという話など、エピソードが続々集まります。

 

勘定吟味役の松本秀持は、倹約指導や出費切り詰め、株仲間の冥加・運上の増加・南鐐二朱銀の利益などにより、御金蔵(おかねぐら)の金は明和9年の大火の前の状態にまで持ち直したと報告します。松平武元は、田沼意次の金への執着を見上げたものだと皮肉を言います。武元はそんな意次に「この辺りで日光社参を執り行いたいのだ」と依頼します。

日光社参とは徳川将軍家のお墓参りのことで、徳川家・旗本・諸大名が連なって参詣するため、莫大な費用がかかる催しでした。明和9年の大火で延期されていたのです。意次は、御金蔵はようやく立ち直ったばかりであると難色を示しますが、武元は「上様のご威光を天下に知らしめる大事!」と、何としても将軍徳川家治に取り次ぐよう手をつきます。

依頼の通り家治に取り次ぐ意次ですが、幕府の御金蔵は持ち直しても、高利貸しや大名貸しに借金を抱える諸大名や旗本も多く、金策に奔走させるのは慈悲ないことだと進言します。しかし家治は、側室知保の方との間に産まれた嫡男家基(いえもと)が、社参を望んでいると打ち明けます。しかし社参は20万両もかかる催しでもあり、己の理(ことわり)ばかり通すのもな、と家治はため息をつきます。

家治に御台所・倫子姫がいたころまで大奥は田沼びいきでしたが、御台所が亡くなり側室知保の方が力を握ると風向きが変わり、知保の方は白眉毛(=武元)に手を貸して田沼の思い通りにさせないわけです。意次は舌打ちし、貧乏旗本や大名による「社参取りやめ」の嘆願を集めるしかないと、三浦庄司に秀持へ手配するよう命じます。

 

面白い青本作りのため、孫兵衛は源四郎という悪人を設定することを提案します。当時、店の金をちょろまかす手代を、隠語で源四郎と言っていたのです。次々とアイデアが生まれ、蔦重は孫兵衛が本を作るのがホントに好きなんだとつくづく感じます。それもそのはず、孫兵衛の曾祖父は上方から流れて来た赤本を江戸の気風に合わせて青本に作り替えた男なのです。蔦重が青本を生き返らせろと言った時、孫兵衛は運命を感じていたのです。

須原屋の店先では、手代が塩をまいています。市兵衛によれば、大坂の柏原屋という本屋が、偽板(にせはん=海賊版)の節用集を出したのは市兵衛ではないかと言ってきたのです。確かに万次郎も“物之本は地本の10倍20倍の値で売れ、割りよく儲かる”と言っていました。もし板元の丸屋源六が見つかったら、柏原屋は役人に訴えると思われます。

実はその丸屋源六、蔦重は鱗形屋ではないかと疑っています。隠れて何かを摺っていたし、儲かってもいないのに摺り損じの紙もたくさんありました。金繰りが厳しい鱗形屋は、訴えられればつぶれてしまうかもしれません。蔦重は告げ口して自分が鱗形屋に取って代わることを一瞬考えますが、告げ口するなんてクズがすることだし、まずは確かめてみることにします。

鱗形屋を訪れた蔦重は、急に腹痛を起こしたふりをして厠へ飛び込み、紙を探します。その中に“丸屋源六”の名が入った紙を見つけ、やっちまってたかと舌打ちします。その時、西村屋の与八の笑い声が聞こえてきました。どうやら孫兵衛と結託して蔦重をいいように使い、儲けようとしているようです。そのまま須原屋に向かう蔦重ですが、言おうと思って言えず、そのまま帰ってきました。

茂右衛門は秀持に社参取りやめの陳情書を提出しますが、その下には大判が包まれていました。家臣の一人が偽板本の売りさばきに手を貸し、大坂の板元が探していると知った茂右衛門は、仮に訴えが上がっても小島松平家は関わりないこととしてもらうのです。秀持は茂右衛門を見据えます。

意次はたくさんの嘆願書を家治に提出します。いずれの大名や旗本も勝手向きが苦しく、10年後の年貢まで借金返済にあてなければならないほど困窮しているのです。家基は家治が意次の言いなりで、意次は幕府を骨抜きにする成り上がりの奸賊(かんぞく)と考えているらしく、いずれ家基が将軍となった時、田沼一派は真っ先に排斥されると家治は警鐘を鳴らします。

結局、社参は家治の強い意向により行われることになりました。武元は、田沼の家中の者たちは馬には乗れるか? だの、兜はどこで誂(あつら)えるか知っているか? と暴言を吐きます。「仰せの通り、右近将監さまには“高家吉良様”よろしく、ご指南願えればと存じまする」と意次は冷静に返答し、一本取られたの と武元は笑います。

その時田沼屋敷には旗本の佐野善左衛門政言(まさこと)が訪問していました。佐野家系図の巻物を持参していて、政言は田沼家の祖先はかつて佐野家の末端の家臣だったことから、由緒は好きに改ざんしていいのでよい役につけてほしいと主張しているのです。帰ってきた意次は話を聞き、系図の巻物を庭の池に放り投げてしまいます。「由緒などいらぬ!」

蔦重が鱗形屋にお邪魔していた時、長谷川平蔵が字引を求めて入店します。手に取って末尾の丸屋源六の名を見て、偽板だ! と立ち上がります。上方の板元である柏原屋与左衛門から訴えがあったのです。孫兵衛が止めるのも聞かず、一斉に家宅捜索が始まります。孫兵衛は蔦重が漏らしたと疑いますが、蔦重は誰にも言っていません。「必ず後悔させてやるからな!」と叫びながら、孫兵衛は連行されます。

孫兵衛が連行され、鱗形屋は閉業します。俺、知ってたんすよ、と蔦重は平蔵に打ち明けます。一言、危ねえと言ってやればこうはならなかったわけですが、蔦重は心のどこかでこうなることを望んでいたのかもしれません。濡れ手に粟、棚からぼた餅、話を聞いていた平蔵は、食っていた粟餅を蔦重にあげます。「濡れ手に粟餅、粟とぼた餅を一緒にしてみたぜ。とびきりうまい話に恵まれたってことさ」

 

作:森下 佳子
音楽:ジョン・グラム
語り(九郎助稲荷):綾瀬 はるか
題字:石川 九楊
──────────
[出演]
横浜 流星 (蔦谷重三郎)
小芝 風花 (花の井)
宮沢 氷魚 (田沼意知)
中村 隼人 (長谷川平蔵宣以)
井之脇 海 (小田新之助)
高梨 臨 (知保の方)
小野 花梨 (うつせみ)
───────────
中村 蒼 (次郎兵衛)
六平 直政 (半次郎)
飯島 直子 (ふじ)

徳井 優 (藤八)
尾美 としのり (平沢常富)
西村 まさ彦 (西村屋与八)
矢本 悠馬 (佐野政言)
吉沢 悠 (松本秀持)
相島 一之 (松平康福)
眞島 秀和 (徳川家治)

石坂 浩二 (松平武元)
──────────
原田 泰造 (三浦庄司)
片岡 愛之助 (鱗形屋孫兵衛)
里見 浩太朗 (須原屋市兵衛)
渡辺 謙 (田沼意次)
──────────
制作統括:藤並 英樹・石村 将太
ブロデューサー:松田 恭典・積田 有希
演出:深川 貴志

 

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『べらぼう -蔦重栄華乃夢噺-』 第7回「好機到来『籬の花』」

|

« プレイバック八代将軍吉宗・(04)殿様の子 | トップページ | プレイバック八代将軍吉宗・(05)江戸の迷子 »

NHK大河2025・べらぼう」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« プレイバック八代将軍吉宗・(04)殿様の子 | トップページ | プレイバック八代将軍吉宗・(05)江戸の迷子 »