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2025年2月11日 (火)

プレイバック八代将軍吉宗・(05)江戸の迷子

覚えておいでかな? 近松門左衛門でござる。
さて、江戸幕府において羽振りを利かすお歴々と申せば、「老中」「若年寄」といった表向きの重鎮と、将軍の腹心とも申すべき「側用人」がおり、互いに権力を競いおり申した。こうした権力とは別に、なかなか侮りがたい役職と申せば、この「高家」ならびに「奏者番(そうじゃばん)」でござろうか。高家は朝廷と幕府の間を取り持ち、奏者番は幕府内の儀式典礼を司る文官でござる。

さればでござる。高家の筆頭・吉良上野介義央(よしなか※)どのは知行2,000石なれど、足利将軍の流れを汲む名門のお家柄にて、見識高くなかなかのやり手と専らの評判でござった。上野介どのは上杉15万石の二代藩主定勝公のご息女・三姫(みつひめ)さまを正室としてお迎え申し、儲けたご嫡男綱憲どのを上杉家4代藩主として送り込みなされた。まあ『海老で鯛を釣った』、つまり2,000石を以て15万石を乗っ取ったと陰口をたたかれし所以もそこにござる。
(※放送当時は「よしなか」読みが通例だったが、『易水連袂録』におけるふりがなから、現在では「よしひさ」読みが正しいとされる)

そして……もうお分かりかな。紀州藩光貞公のご息女・栄姫のお輿入れ先が、この上杉綱憲公。つまり光貞公と吉良上野介どのは親類なのでござる。


元禄9(1696)年4月。将軍徳川綱吉が御三家の屋敷を訪問、しかも筆頭尾張家を差し置いての訪問は、綱吉がいかに紀州家を昵懇に感じているかが分かります。徳川綱教は高家の吉良上野介に助言を求めますが、上野介は「御成御殿」の造営を第一に挙げます。能舞台も設(しつら)えて猿楽の用意もし、引き出物も唐天竺の名物茶わんや敷物がよいと提案します。聞き取る綱教はみるみる青ざめていきます。

それだけでもたいそうな物入りですが、それだけにとどまりません。将軍来訪とは別日に、御三家や甲州加賀の面々を招待して祝宴を催し、さらに日を改めて老中諸大名を招き、ここでの引き出物は砂金や蒔絵、屏風、掛け軸など。細かいところはおいおいとして、水野重上は助言のお礼として、大判を包んで差し出します。

上野介はこういうことに金をかければ必ず返ってくると言ったそうで、重上はそれが6代将軍の座だと勝手に解釈しますが、めったなことは言うなと徳川光貞はたしなめます。財政窮乏はひとり紀州藩のみならず、上には諸国大名の繁栄を恐れる幕府の締め付けあり。下には元禄の太平に浮かれた華美贅沢の風潮あり。各藩の台所は次第に傾きつつござり申した。

懐妊した報告に鶴姫が江戸城三の丸を訪問します。綱吉は鶴姫も綱教も偉いと大喜びです。桂昌院は、生類憐れみの令がここにきて効いてきたと安堵の表情を浮かべます。鶴姫の目がきつくなったことから、桂昌院は鶴姫が身ごもったのは男の子だと推測しますが、綱吉はもし生まれてくるのが男の子であれば、その行く末は将軍だと断言します。

鶴姫さまご懐妊の知らせは、大奥にもさざ波を立て申した。紀州綱教どのが次の将軍候補に急浮上し、鶴姫さまのご生母お伝の方の一派が勢いを増すにつれ、御台所さまに仕える公家派の側室たちは、心中穏やかならざるものがござる。鷹司信子に報告した右衛門佐はお伝の台頭を阻止すべく、一案があると柳沢保明邸に向かいます。

公家の娘を柳沢屋敷に送り込んで綱吉の目に留まるようにし、綱吉のお手がついたら改めて大奥で引き取り、綱吉のそばに仕えさせるわけです。綱吉にわなを仕掛けるようであまり乗り気ではありませんが、お染のことで痛くもない腹を探られて正直迷惑している保明は、この話について一肌脱ぐことにします。

 

紀州江戸屋敷では「御成御殿」の造営が始まりました。その一角に立ち図面を見る頼方ですが、そこに松平頼純(よりずみ)がやって来ました。松平頼純どのは光貞公のご実弟にて、紀州藩の分家・伊予西条藩の藩主でござる。頼純は五男頼致(よりよし)を連れてきていました。

頼純もかつては部屋住みの身分であり、頼職や頼方に部屋住みのことは何でも聞けと胸を張ります。頼方は、父光貞が555,000石に対して頼純が3万石とがっかりしますが、紀州本家にも所領があると頼純は色を成し、力むことはないと光貞にたしなめられます。頼方が13歳、頼致が15歳、同世代で部屋住み同士、江戸の地理にも詳しい頼致に頼方を案内させます。

6月の江戸は祭りの季節。紀州江戸藩邸の近くでは、山王権現の再現がござった。頼致とともに祭りを回る頼方は、火吹きや居合抜きに夢中になっているうちに加納久通とはぐれ、猿回しが終わって立ち上がると頼致もいなくなり、広い江戸の町で迷子になってしまいます。草履の鼻緒が切れ、その割には呑気に神社の手水鉢に並んでいるところを、久通に腕を掴まれます。

恥を知れ! と久通は珍しくご立腹です。紀州藩の御曹司が祭りに浮かれて迷子になり、身分もわきまえず家来の立場も斟酌せず、紀州へ帰れと言い放ちます。自分は悪くないと主張する頼方は反発しますが、久通は神妙な顔になります。「傅役はご免被ります。お気に召さずばこの場にてお手討ちになされませ。かかる主人にはお仕えする甲斐もなし。生きて殿に会わせる顔もなし」

紀州江戸藩邸に戻った頼方は、今後は神妙にすると久通に約束します。だから父光貞には迷子になったことを黙っていてほしいとうつむき、久通は頼方の足の裏をくすぐり、笑わせます。その時廊下をドタバタと家臣たちが走り回っていました。何が起こったのか分からない頼方は、偶然通りかかった頼職に何があったのか尋ねます。「ご流産じゃ。鶴姫さまがご流産あそばした」

頼方はそっと鶴姫の居室前に近づきます。鶴姫の枕元には綱教、光貞と照子が心配そうに座っていました。「お気を安らかに。ご養生がが何より大切」と綱教は穏やかに諭しますが、鶴姫は綱教の手を握ると涙を流します。

江戸城では、桂昌院やお伝の方が落胆します。気に病むこともあるまい とつぶやく綱吉ですが、薬師の話では身ごもっていたのが男の子と聞き、綱吉はくやしそうです。「祟りかもしれぬ」と桂昌院は言い出します。首に矢を負った鴨が城のお堀端を飛んでいるらしく、生類憐れみの令を何と心得る! と、桂昌院は下手人を捕らえて獄門に処せと綱吉に命じます。

なんと、元禄の御代にも江戸城下に矢ガモの騒動がござった。『徳川十五代史』によれば騒動の結末は次のごとし。元禄9年夏、小普請奉行飯田次郎左衛門、矢を負いし鴨のこと偽言せしとて大島に流罪せらるる。いかなる偽言ありしかは、さすがの近松も知り申さず。

さて、徳川光貞公は悲壮の決意を胸に秘めてご登城あそばされた。御成御殿はあらかた仕上がり、今は内部の造作を進めていますが、幕府からは期日も含めて何の沙汰もありません。大久保忠朝は、いずれと言葉を濁します。「上様のお成りは鶴姫さまのご流産をもって立ち消えと、かような噂は真か嘘か」

光貞が迫っても、忠朝や土屋政直は直接の返答を避けます。それどころか、仔細は側用人が……と言い訳をする始末です。幕府の大元締めは老中であろうが! と叱責する光貞はへそを曲げます。「ならば致し方なし。御成御殿の造営は本日をもって取りやめ、直ちに打ち壊しにかからん!」 政直は、忠朝が止めるのも聞かず将軍お成りの一件を引き受けます。

柳沢保明邸を訪問した綱吉は、光貞がご立腹と聞いて、行かぬとは申しておらぬと笑います。お染は懐妊したらしく、保明は代わりに町子への目見得を求めます。右衛門佐どのが京より差し回しの姫君は、正親町実豊卿が小間使いに産ませた子にござった。しかし綱吉は拒絶します。「誰も分かってはくれぬ。どうしても子を作らねばならぬかと思うと、この胸がズシリと重くなる」

 

そして元禄10(1697)年4月11日。五代将軍綱吉公は紀州江戸藩邸にお成りあそばした。光貞公のご正室照子さまは伏見宮家の出にて、四代将軍家綱公の御台所さまとは御姉妹にござった。綱吉は完成したばかりの御成御殿に満足げです。保明は次の間に控える親族や家臣たちを紹介し、拝謁させます。

そこに鶴姫が来ました。紀州みかんの色の打掛は綱教の見立てです。流産の気落ちもすっかり良くなり、“弟たち”と論語を読んだりして過ごしています。そこで目通りを許された頼職は、手土産に越前丹生高森に3万石を与えられます。しかし頼方は黙っていません。頼方の咳払いに気づいた鶴姫は、頼方にも目通りを求めます。

卒爾ながら綱吉公はじめこの場に居合わせた面々、まさか頼方どのが後の将軍吉宗公にお成りとは知る由もござらぬ。これぞ五代将軍と八代将軍の初顔合わせにござった。光貞が四男、松平主税頭頼方にござりまする──。見据える綱吉は、ほうほうとほほ笑みます。「保明。この弟にも3万石じゃ。頼職に3万石、頼方に3万石、これで2人は大名じゃ!」

夜、広間に頼方の姿がありました。入ってきた久通に“目通り許す”とふざける頼方ですが、久通でさえ驚くような出世です。しばらく頼方と久通で殿様ごっこをして、2人とも大笑いします。

 

作:ジェームス 三木
音楽:池辺 晋一郎
語り・近松門左衛門:江守 徹
タイトル題字:仲代 達矢
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[出演]

阪本 浩之 (頼方(吉宗の少年時代))
大滝 秀治 (徳川光貞)
小林 稔侍 (加納久通)
辰巳 琢郎 (徳川綱教)
野口 五郎 (頼職)
榎木 孝明 (柳沢保明)
柳生 博 (吉良上野介)
黒沢 年男 (水野重上)
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斉藤 由貴 (鶴姫)
夏木 マリ (お伝の方)
松原 智恵子 (鷹司信子)
中田 喜子 (右衛門佐)
藤村 志保 (照子)
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藤間 紫 (桂昌院)
久米 明 (大久保忠朝)
名古屋 章 (土屋政直)
藤岡 琢也 (松平頼純)
津川 雅彦 (徳川綱吉)
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制作統括:高沢 裕之
演出:尾崎 充信

 

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『八代将軍吉宗』
第6回「親の七光り」

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