大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(13)お江戸揺るがす座頭金
安永6(1777)年 秋。蔦屋重三郎(蔦重)は「道陀楼 麻阿(どうだろう・まあ)」こと朋誠堂喜三二(ほうせいどうきさんじ=平沢常富)と、吉原の案内本づくりに明け暮れていました。蔦重は吉原の町を国に見立てて紹介するという手法を提案します。松葉郡には瀬川という美しい川の流れがあって──という具合です。実に面白そうな案で、喜三二はいっそ『日本書紀』で遊ぼうと言い出します。
その松葉屋からはうつせみが俄(にわか)祭りの最終日に姿を消し、女将のいねは小田新之助を探して平賀源内のところに赴きます。知るかよ! と涼しい顔の源内を見下すいねは、傍らに置いていたエレキテルの箱を取り上げて手下に渡します。「身代金だよ! あの子が捕まったら返すよ!」と走って出ていきます。
俄祭りでわだかまりが解けた若木屋の与八は、忘八の親父たちの会合に顔を出しています。来年正月の細見は蔦重が発行したものを仕入れると言い出し、蔦重は戸惑いますが、なんでも鱗形屋の孫兵衛が前と同じ偽板づくりで捕まってしまい、曰くつきの細見は扱えなくなったというのが正直なところです。このどさくさに紛れて蔦重のほうに乗り換えようという者もいたわけです。
孫兵衛への二度目のお裁きは、板木と摺本の召し上げは当然として、実行役の徳兵衛は江戸十里四方からの追放、監督不行き届きの鱗形屋は罰金20貫文で、年が明けても店が開けられないままでした。こっそり訪問した鶴屋の喜右衛門と西村屋の与八は、孫兵衛を助けようとほんのわずかですが青本を仕入れて励まします。
同じくこっそり訪れた蔦重は、孫兵衛次男の万次郎にすっかり疫病神扱いされてしまっていますが、出て来た孫兵衛に鱗形屋板の細見を500冊買いたいと申し出ます。それを憐れみと感じた孫兵衛は、店をたたんで鱗形屋から奪い取った商売を返せと蔦重に掴みかかります。蔦屋は本を売らなくても茶屋があり、しかし鱗形屋は本屋しかないのです。ケッと吐き捨てて孫兵衛は奥に入っていきます。
蔦重は須原屋市兵衛に頭を下げ、鱗形屋の細見を買ってほしいと頼み込みます。直接買うと孫兵衛も気分が悪いだろうし、市兵衛が間に立てば角が立たないわけです。もちろん費用は蔦重持ちで、借金があるのにと市兵衛は心配しますが、身内から借りているからと笑います。蔦重は鱗形屋がなぜまた偽板に手を染めたのか疑問に思い、市兵衛は「座頭金(ざとうがね)だよ」と詳しく説明してくれます。
「座頭」というのは──当道座に属する盲(めしい)には、頭(かしら)から検校、別当、勾当(こうとう)と続き、下位に属するのが座頭です。そして当道座は幕府から金貸しを許されていましたが、一部の座頭はあくどい貸し付けや取り立てを行う者がいて、あちこちにツケを溜めていた鱗形屋の証文が座頭に流れてしまったわけです。
すぐに借金を返してもらいたいという座頭の取り立てに、難色を示す手代の徳兵衛ですが、“この店は哀れな盲の金を借り倒す” “鱗形屋は我らの金を返さぬ”と言われてしまい、青本で持ち直そうとしている大事な時に何とか乗り切りたい徳兵衛は、孫兵衛には知らせずに内緒で偽板を作ってしのいでいたというわけです。「もしかしたら、今この世で一番強えのは盲かもしれねえ」
瀬以の前に反物や簪(かんざし)、櫛などが並べられ、好きなだけ頼めと検校に言われます。瀬以は松葉屋の女郎たちに着物を作ってもらうことはできないかと相談します。女郎たちは次々に着物を作らねばならず、うまくいかなければ見世に借金を増やす仕組みなのです。「どのみちわしは、そなたの姿を見ることはできぬしな。では然様に計らおう。そなたの望みならばな」
検校の計らいで、松葉屋の女郎たちに花見用の見事な反物が贈られてきました。みな歓声を上げて喜んでいます。貸本で訪問した蔦重は、半左衛門を待つ男と旗本の娘の姿を見つけます。恐らく借金を返せなくなった旗本が、その代金への足しにするため娘を吉原へ売られようとしているものと思われます。蔦重は複雑そうな表情を浮かべます。
そのことは幕府でも問題になっていました。どうなっているのかと松平武元は田沼意次に問いただします。意次は、武家の借金を救いたければ、札差のみならずすべての高利貸しを禁じなければ意味がないと主張します。武元はさっさと米の値を上げろと無理難題を言い、睨みつけて去って行きます。足軽上がりにはうってつけの役目だと考えているようです。
夜の田沼屋敷に甥の意致(おきむね)が訪問してきました。先日江戸城西の丸で進物の窃盗騒ぎがあり、結局は盗まれておらず他に紛れていただけなのに、目付が緩んでいるからだとお役御免になったと報告します。西の丸には田沼嫌いがたくさんいて、体よく西の丸を追い出されたわけです。「次から次へと……」と意次は吐き捨てます。
その意致の救済に名乗りを上げたのは一橋治済です。治済は一橋家の家臣に意致を取り立てると意次に告げます。西の丸で嫌われている田沼はそのうち干されてしまうのでは? とニヤリとする治済ですが、それを認めつつ意次は大博打を打ってみるつもりだと治済に明かします。それは、座頭金の実情を明らかにすることなのです。
検校らの家屋敷や身代を改め、不当な取り立てを行う者たちを洗い出せと松本秀持に命じます。意致は進物番の長谷川平蔵宣以(のぶため)を連れてきます。平蔵は西の丸を出たがっているのですが、親の七光りにやっかみがすさまじく、外向きの仕事を希望しているのです。意次はその仕事ぶりを見定めるため密命を与えます。「西の丸に務めている者で、座頭金に手を出している者を探ってくれ」
北尾重政の家を訪問した蔦重は、門下の政演(まさのぶ=のちの山東京伝)が描いた浮世絵に感嘆します。重政は鱗形屋から出版された恋川春町の『辞闘戦新根(ことばたたかいあたらしいのね)』を出します。しかし鱗形屋の名が入っているだけで避けられているようで、重政は蔦重に板木を買い取って出し直すよう勧めますが、「俺なんてお呼びじゃねえでしょ」と笑って断ります。
平賀源内のエレキテル作業場を訪問した蔦重ですが、いつもにも増してノリが悪いです。蔦重は、誰かのつまずきの上にツキが成り立つことに納得がいっていない様子です。源内は、世の人をツキまくらせりゃいいとほほ笑みます。「本ってなぁ人を笑わせたり泣かせたりできるじゃねえか。本屋ってなぁずいぶんと人にツキを与えられる商いだと、俺ゃ思うけどね」
本が運んでくる幸せ──蔦重の脳裏に、ほんの面白さを教えてくれた亡き朝顔とのやりとりがよぎります。
瀬以のためにたくさんの本を提供する検校ですが、検校は瀬以の腕をつかみ、吉原に戻りたいのか? と問い詰めます。吉原の者たちが折る時のように声が弾まず、検校はそれが不満なのです。瀬以は、吉原の者は親兄弟に似た親しみがあるからと弁明しますが、「所詮、わしは客ということか? 嘘ばかりの女郎声など聞きとうない!」と、検校は書庫に瀬以をとじこめてしまいます。
瀬以が身請けに伴い吉原から持ち込んだものを検校は改めさせます。身の回りの物の他は本の類いで、古い赤本、『一目千本』『細見嗚呼御江戸』『青楼美人合姿鏡』……。検校は、かつて屋敷を訪問した蔦屋重三郎という男のことを思い出していました。「それらは……蔦屋重三郎の関わったものであるか?」
秀持の報告書を読んだ意次は、検校たちの財力に“思ったよりすさまじい、無法の証だ”とつぶやきます。段違いに重大なものでは、家督乗っ取りというケースがあり、借金のかたに嫡子を出家させ、送り込んだ別人に後を継がせるというものがありました。絶句する意次に、後から入ってきた平蔵は、西の丸小姓組の森 忠右衛門が逐電(行方をくらませる)したかもしれないと報告します。
意次に伴われた忠右衛門は、将軍徳川家治と家基に逐電に至った経緯を話します。20年間小姓役のまま禄高も増えず、息子震太郎の御番入りを考えた忠右衛門は、賂(まいない)のための金を座頭から借り入れました。ただ当てが外れて御番入りは叶わず、扶持米支給の前に支払期日が設定され、たちまち借金が膨れ上がったのです。家財を売り払い、家人に暇を出し、倹約を重ねてしのいできたものの……。
西の丸の進物に手を出したのは、実は忠右衛門だったのです。この時はなんとか言いつくろってごまかせたものの、忠右衛門は家督乗っ取りに遭ってしまいます。不始末を詫びる意味で切腹を試みましたが、震太郎に止められ出家した──というわけです。遊興とは無縁の、質素倹約を心掛けた者でさえここまで追いつめられている、と意次は家治と家基に訴えます。
忠右衛門と同じ道をたどるかもしれない者がこんなにいる、と意次は座頭金に手をつけている者のリストを家基に提出します。武元は余計なことを将軍の耳に入れるなとたしなめますが、意次はその声を無視し、高利貸しを行う検校たちを一斉に取り締まらせてほしいと家治の判断を仰ぎます。「今や真に徳川が守らなければならぬ弱き者は、どこのどなたにございましょうや」
夜遅く。蔦屋を男が訪問し、蔦重に『塩売文太物語』を見せ、そなたの物か? と尋ねます。本の最後には“からまる”と書いてあり、蔦重のものに間違いありません。主人が呼んでいると聞かされて、瀬以に何かあったのか!? と不安に襲われますが、ゆっくり振り返った男は「来れば分かる」とだけ伝えます。
瀬以を閉じ込めていた書庫の鍵が開き、ゆっくりと検校が足を踏み入れます。検校は瀬以と蔦重が不義密通を行ったと疑っているのです。誰に聞いてもいい、2人の間には何もないと必死に弁明する瀬以ですが、検校は心の目で瀬以を蔑みます。「けれど心だけはある。いくら金を積まれようと心は売らぬ。お前は……骨の髄まで女郎だな」
そう……と瀬以は話し始めます。重三(=蔦重)は自分にとって光だった、と白状します。吉原に売られたことも悪いことばかりではないと思わせてくれた男だったのです。ただ、自分をこの世の誰よりも大事にしてくれるのは主さん(=検校)だと思っている瀬以は「人の心を察しすぎる主さんを、わっちのいちいちが傷つけているということも」と涙を流し、信じられぬならどうぞ、と検校が手にする刀を自らの胸に突き立てます。
男に連れられて蔦重が検校の屋敷に到着しますが、門には陣屋の役人が立っていて入ることが出来ません。異変を察知し、外から検校を呼ぶ男ですが、役人に押し返されてしまいます。蔦重は圧倒されてその場に立ち尽くします。
作:森下 佳子
音楽:ジョン・グラム
語り(九郎助稲荷):綾瀬 はるか
題字:石川 九楊
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[出演]
横浜 流星 (蔦屋重三郎)
安田 顕 (平賀源内)
小芝 風花 (瀬以)
宮沢 氷魚 (田沼意知)
中村 隼人 (長谷川平蔵宣以)
奥 智哉 (徳川家基)
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市原 隼人 (鳥山検校)
中村 蒼 (次郎兵衛)
本宮 泰風 (若木屋与八)
正名 僕蔵 (松葉屋半左衛門)
伊藤 淳史 (大文字屋市兵衛)
山路 和弘 (扇屋宇右衛門)
愛希 れいか (朝顔(回想))
安達 祐実 (りつ)
水野 美紀 (いね)
橋本 淳 (北尾重政)
古川 雄大 (北尾政演)
尾美 としのり (朋誠堂喜三二)
徳井 優 (藤八)
風間 俊介 (鶴屋喜右衛門)
西村 まさ彦 (西村屋与八)
吉沢 悠 (松本秀持)
相島 一之 (松平康福)
眞島 秀和 (徳川家治)
生田 斗真 (一橋治済)
石坂 浩二 (松平武元)
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原田 泰造 (三浦庄司)
片岡 愛之助 (鱗形屋孫兵衛)
高橋 克実 (駿河屋市右衛門)
里見 浩太朗 (須原屋市兵衛)
渡辺 謙 (田沼意次)
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制作統括:藤並 英樹・石村 将太
ブロデューサー:松田 恭典・美濃 里亜
演出:深川 貴志
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『べらぼう -蔦重栄華乃夢噺-』 第14回「蔦重瀬川夫婦道中」
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