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2025年3月 4日 (火)

プレイバック八代将軍吉宗・(08)綱引き

元禄12(1699)年6月、草いちごを食べすぎた藩主綱誠公の急死は、尾張家にとって痛恨の不祥事にござった。これにて将軍の後継者争いは、甲州綱豊公および紀州綱教公の2人に絞られたと申しても過言ではござりますまい。尾張家の家督はご嫡男・五郎太どのが継ぎ、綱吉公の諱(いみな)をいただいて「吉通(よしみち)」と名乗り申した。この時吉通公わずか11歳。

ここで諱と申すは、信長・秀吉・家康といった個人の名前でござる。目上の諱を1字頂戴いたすゆえ「片諱」とも申す。家光公の「光」をいただいて光友・光貞・光圀、家綱公の「綱」をいただいて綱誠・綱教・綱條・綱豊。綱吉公の「吉」をいただいて吉通・吉宗・吉孚(よしざね)といった塩梅でござる。あらら、呼び捨てご免──


尾張藩主綱誠公の急逝は、江戸城大奥にも微妙な影を落とし申した。“後継は紀州”と宣言するよう桂昌院は勧めますが、情では綱教、血筋では綱豊と徳川綱吉は決めかねています。家臣たちも様子見をしていて、桂昌院は綱教をなぜ婿養子に取らなかったかと怒りを露わにします。意見を求められた鶴姫は、生類憐れみの令により町方衆はただただ将軍の代替わりを望んでいると訴えます。

さて噂の松平綱豊どのは、甲府25万石のご当主にてこの時38歳。御簾中熙子さまは関白近衛基熙(もとひろ)公のご息女、1つ年上の姉さん女房でござった。熙子は自分にはもう子は授からないと、側室もお手付きもない綱豊のためにお好みの上臈を差し上げると言い出します。「甲州の家督はどなたに……? もしもの折、綱吉公の二の舞はお見苦しい限り。一日も早くご嫡男をお挙げなされませ」

この夏、紀州綱教公は藩主として初めてのお国入りをなされ申した。綱誠逝去により将軍の座が近づいたと考える三浦為隆は、公然と甲州を推す水戸光圀に対抗して、紀州は尾張家を味方につけるべきと進言します。綱教は、将軍の前に紀州藩主であらねばならぬと、尾張家に対して無礼がないよう為隆をたしなめます。頼方は兄の将軍就任のために自ら隠密の訓練をします。

屋敷の床下に潜るうち、方角を見失って出てきたところ、そこは千草の居室でした。厄介者と卑下する頼方に、もし光貞が亡くなれば自分も厄介者になるとつぶやく千草は、綱教が将軍になれば頼職が藩主になるわけで、そうなれば志保の方は鼻高々、ますます自分やお紋の方を見下すようになるだろうと不安げです。頼方は志保を急須に例え、千草を笑わせます。「横から口を出し申す」

湯殿に入る頼方ですが、湯殿番の侍女に背中を流してもらいながら、かつて頼職から言われた「お前の母は湯殿番であった」という言葉が脳裏を駆け巡ります。ふと侍女を見ると、汗が流れる胸元、艶めかしい太ももと頼方には刺激が強いです。とっさに頼方は侍女の胸をわしづかみします。じっと動かない侍女に何も言わず、頼方は素っ裸のまま湯殿を飛び出して行きます。

 

そして10月、光貞公は74歳というご高齢にもかかわらず江戸へご下向あそばした。察するに将軍家の後継問題が気がかりでならず、御三家およびご老中に工作せんがためと存ずる。紀州江戸屋敷に入った光貞ですが、さっそくに照子と夫婦喧嘩です。綱教が和歌山、鶴姫が江戸と離れ離れでは子ができないと言っただけなのに、紀州に引っ込めと言うのかと光貞は激怒します。

参勤交代は大名の宿命であり、自分も何度も繰り返したと胸を張る光貞ですが、江戸にも紀州にも何人も側室がいました。綱教はうっかり側室を持つこともできず、窮屈だと照子は同情します。しゃしゃり出るのは下の下だという光貞に、小賢しついでにと、照子は頼職にしかるべき姫との縁組を勧めます。「まだ早い。綱教が将軍家を継ぐと決まれば頼職は紀州藩主! 縁組みは思いのまま!」

颯爽と罷り出でましたるは、甲州藩きっての知恵者・間部宮内(くない)詮房どのでござる。そもそもは喜多流の能役者にござったが、綱豊公のお目に留まってお小姓となり、今ではれっきとしたお側御用人。つまり腹心、秘書室長。将軍綱吉の眼中には綱豊はいないことは本人もよく理解しており、6代将軍に固執するでもなく、紀州綱教でいいなどとつぶやきます。

詮房が考えるに、綱吉自身が学者であり筋道が通った将軍継承を考えていること、宮家(朝廷)との結びつき、そして母桂昌院への親孝行がしがらみとなっているようです。詮房は、御簾中熙子の父・基熙は宮中きっての有職故実の達人であり、水戸光圀に加えて基熙を味方にすれば、綱吉への説得も可能かもしれません。詮房は綱豊に、側室を迎え嫡男をあげるよう進言します。

その年の暮れ、頼職どのと頼方どのは神田明神の年の市をご覧になられた。案内役は従兄弟頼致どのでござった。頼職に不格好をたしなめられた頼方は、単独で帰っていきますが、柳沢屋敷近くを歩いている時、水戸家を名乗る武士たちが屋敷に向かって“なめし皮”(動物の皮)を投げ入れるところを目撃します。明らかに生類憐れみの令への当てつけと思われます。

報告を受けた柳沢保明は、このような嫌がらせは日常茶飯事であり、この事件を捨て置きます。その時客人として光貞を迎えていました。水戸家は尾張家と紀伊家に匹敵するほどの力はなく、政道に盾突いてきました。それが綱豊推挙につながると考えている保明は、光貞に光圀と昵懇にするよう、そして尾張家は後回しで大丈夫と助言します。

 

元禄13(1700)年正月、在府の大名・旗本は新年拝賀の礼にご登城なされた。鬼の形相の光圀は、綱吉に御三家とはどの家のことを指すのか問い、尾張・紀伊・水戸との回答を得ます。光圀が言うには、御三家とは将軍家・尾張家・紀伊家を指すものであり、水戸家はこれに準ずると言っている輩がいるそうなのです。

光圀が退室すると、不埒者は誰だ? と綱吉は立腹します。保明はかねてから“将軍家は尾張家と紀伊家と同格”と公言している尾張光友だろうと答えます。綱吉は、尾張と紀州が将軍家と同格にされたことに衝撃を受けます。「相分かった。されば将軍家がいかなるものか、思い知らせてくれん!」

尾張藩主の吉通どのはこの時12歳、ご生母本寿院さまは36歳。2月27日のこと、江戸城に召し出された尾張藩のご家老たちは、たちまち青くなって藩邸にお戻りでござった。光友たちが将棋崩しを楽しんでいるとき、成瀬隼人正正親が駆け戻ります。吉通に九条内大臣輔実の息女輔子姫との縁組を命じられたとのことです。九条家と聞いても光友も本寿院もピンときません。

うーんと考えて思い出した本寿院ですが、そのあまりの仕打ちに悔しさをにじませます。九条輔実卿は位こそ高いが、どちらかと申せば地味なお公家さま。しかも輔子姫は仏門を志し、一旦は尼寺へ入られた。それを引き戻しての御縁組みでござる。御三家筆頭の尾張藩としては面目丸つぶれにござった。

なぜその場で断らなかった!? と本寿院の怒りは家老に向かいますが、将軍の意向とあっては断る方が無理です。紀州家には将軍息女を遣わし、水戸家には関白息女を遣わし、将軍は尾張家をお見限りか! と、怒りを通り越して笑うしかありません。その時、光友は正親に向かって呼びかけます。「綱誠? 綱誠はどこじゃ?」

水野重上が放った隠密によれば、光友は老衰著しく朦朧として言語が判然とせず、本寿院と家老たちの確執があるようです。そして松平頼純は光圀に進物を贈りますが突き返されたそうです。光貞は光圀を相手にせず、藩主綱條に食い下がるよう命じます。老中たちも旗色をはっきりとさせず、光貞は頼職に他藩といざこざを起こさないよう若い者に伝えさせます。

“用もないのに出歩くな”と頼職にくぎを刺されたはずですが、頼方は久通と夜桜見物です。悲鳴が上がり振り返れば、重箱を猛犬が食い荒らしています。そして睨みつける頼方に噛みついてきました。久通が止めるのも聞かず、頼方はこぶしで猛犬を殴りつけ、猛犬はしっぽを巻いて逃げていきます。お花見を楽しんでいた民衆たちは、頼方に酒や食い物を提供し、もてはやされます。

翌朝、どこで情報を仕入れたか頼職傅役の内藤忠元は、頼方がお犬さまを殴ったことを耳にし、久通を問い詰めます。最初はとぼけていた久通ですが、隠し通すことが出来ないと分かると土下座して内密にしてもらうよう依頼します。傅役のよしみだと笑う忠元は、自分の一存で頼職には報告しないことにしますが、頼方に仕える久通をかわいそうだと同情します。

大名にとって何より大事はお家の存続、堅物で知られる甲州綱豊公に子作りのための側室が初めて献上され申した。御簾中熙子さまが侍女の中から選りすぐった19歳の美女、お古牟(こん)どのでござる。綱豊公が堅物なら、こちら紀州からお戻りの綱教公とてすこぶるつきの堅物でござった。

満開の桜が咲き誇る中、久しぶりの再会の鶴姫は寂しかった思いを綱教にぶつけます。紀州へお供したいという思いでいっぱいの鶴姫は、御簾中の江戸住まいのしきたりに不満をあらわにします。鶴姫は桜の木のそばで綱教の胸に顔をうずめ、綱教もしっかりと抱きとめます。その桜の木の上には、木に登って行き場を失った頼方が降りるに降りられず、顔をドギマギさせていました。

 

作:ジェームス 三木
音楽:池辺 晋一郎
語り・近松門左衛門:江守 徹
題字:仲代 達矢
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[出演]

阪本 浩之 (頼方(吉宗の少年時代))
大滝 秀治 (徳川光貞)
小林 稔侍 (加納久通)
山田 邦子 (お紋)
辰巳 琢郎 (徳川綱教)
野口 五郎 (頼職)
榎木 孝明 (柳沢保明)
黒沢 年男 (水野重上)
竜 雷太 (三浦為隆)
根上 淳 (徳川光友)
藤岡 琢也 (松平頼純)
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斉藤 由貴 (鶴姫)
夏木 マリ (お伝の方)
三林 京子 (志保)
五月 みどり (本寿院)
草笛 光子 (天英院 ※)
藤村 志保 (照子)
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藤間 紫 (桂昌院)
長門 裕之 (徳川光圀)
細川 俊之 (徳川綱豊)
石坂 浩二 (間部詮房)
津川 雅彦 (徳川綱吉)
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制作統括:高沢 裕之
演出:清水 一彦

※ 本編役名では「熙子」

 

◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆

NHK大河ドラマ『八代将軍吉宗』
第9回「刃傷松の廊下」

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