大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(11)富本、仁義の馬面
これは売れません とニヤリとする鶴屋の喜右衛門に、悔しいけど と西村屋の与八はあっさり負けを認めます。ただ喜右衛門は全く動揺しません。自分たちは本屋であるからハッとすると認めつつ、世の人はどうだろうかというのです。「ただなら喜んでもらいますよ。しかし金を出すとなると……よほどの浮世絵好きか吉原好きだけじゃないですかね」
果たして喜右衛門の予想通り、瀬川最後の姿と銘打っていても、金を出し渋って買うところまではいきません。蔦屋の重三郎(蔦重)は、そのうち評判が立って火がつくと、さほど気にしていない様子です。気分を入れ替えて駿河屋2階での会合に向かう蔦重ですが、そこには珍しく若木屋の与八が出席していました。もしかしたら蔦重の細見を仕入れる気になったのかもしれません。
蔦重が来春の細見を出そうとすると、俺たちは耕書堂の細見は入荷しないと若木屋が言い出します。鱗形屋板の細見を取り扱って、市中の本屋と付き合いたいというのが本音です。親父たちは一斉に反発しますが、親父たちの中にも桐屋伊助のように若木屋側に味方する者もいて、分裂の危機です。『雛形若菜』をぶっ潰せるほど売れてるんだろうな? と大文字屋の市兵衛は蔦重を見据えます。
蔦重が蔦屋に戻ってくると、『青楼美人』をべた褒めする平沢常富(つねまさ)がいました。平沢のようなマニアはごく一部で、渾身の『青楼美人』は一向に売れる兆しはなく。蔦重は、りつに三味線を習う親父たちに『青楼美人』を配って実入りにつなげてもらえれば、と大量に運んできました。これで借金なしという蔦重の魂胆もあってか、親父たちは三味線をガチャガチャかき鳴らして反発し、市右衛門に階下へ突き落とされます。
安永5(1776)年4月、江戸城では八代将軍吉宗以来48年ぶりの日光社参が出立します。暗いうちから始まったのに、この出立だけで12時間もの時間を要した日光社参というだけあって、田沼意次が江戸城を出立したのは日も上がった真っ昼間でした。長い行列は江戸っ子たちを喜ばせ、途切れなく永遠と続く社参の列を一目見ようと街道近くに集まり、出店も出る始末です。
市右衛門に突き落とされ右足を負傷した蔦重は、結局『青楼美人』のほとんどを廓(くるわ)のお馴染みさんに配り、手元に残ったのは借金のみです。身内とはいえきっちり取り立てる親父たちに借りたと嘆く蔦重の肩をポンと叩き、激励します。「吉原をよ、もいっぺん憧れの場所に戻してえんだろ? 1回ぐらいのつまずきでしょげることはねえじゃねえか」
親父たちに呼び出された蔦重は、社参行列を見物した市兵衛に、俄(にわか)を祭りにすることを提案されます。俄とは吉原で小さく行われていた催しで、“いきなり” “にわかに”歌舞伎のまねごとをし出すというお座敷芸でした。市兵衛は社参を見て、客を引くには見世物だとひらめいたわけです。老若男女楽しめるものにすれば、吉原の評判も上がるかもしれません。
蔦重は良案と身を乗り出します。りつは、その祭りの目玉に馬面太夫を呼びたいと言い出します。しかし親父たちには馬面太夫に見知りがおらず、蔦重を使って平賀源内や勝川春章あたりから当たってほしいと話を持ち掛けたのです。馬面太夫とはいま人気の富本節の太夫です。蔦重の頭の中は“???”ですが、次郎兵衛が謡っていた、アレです。
りつは蔦重と次郎兵衛を連れて浄瑠璃の正本(芝居のパンフレット)が売っている店に行きます。その中には浄瑠璃の語りが書かれていて、単に芝居を楽しむだけではなく浄瑠璃をたしなむ人たちの稽古にも使われているものです。特に“直伝”と書かれているものは、浄瑠璃の本元の太夫の許しを得て販売しているもので、りつはこっちのほうが間違いがないし、よく売れると笑顔を見せます。
りつら3人は芝居小屋に向かいます。若い役者の門之助目当てに女たちも大勢入っているようです。柝(き)の音が鳴り響きいよいよ幕開きです。富本豊志太夫の姿もあります。「富本は艶っぽくてねえ、色っぽくてねえ。あれが馬面太夫、しかも前の名は午之助(うまのすけ)ってんだよ。できすぎだよね」
千草の中に恋草は 月の桂の男ぶり
続いて舞台に上がるのは滝野屋 市川門之助です。蔦重は目を奪われて、たちまち浄瑠璃の世界に引き込まれます。若い女たちとともに出待ちをする蔦重は、豊志太夫に接近できる好機に恵まれます。さっそく吉原の祭りに招待するのですが、俺は吉原は好かないと断られてしまいます。鱗形屋の孫兵衛は、相変わらず無礼だな、とたしなめます。
なぜ豊志太夫に鱗形屋が? りつは「正本でもやるのかね?」とつぶやきます。富本には直伝がなく、豊志太夫に近づいて直伝を出すのかもしれません。豊志太夫はもうすぐ『豊前太夫』を襲名するらしく、それだ! とりつは思い当たります。襲名を機に直伝本を出すつもりなのでしょう。もし富本の直伝本を耕書堂で出せば、いま吉原では面白いことになっていると評判になるかもしれない……。
実際は、豊志太夫の豊前太夫襲名の件は、ほかの流派の者たちが横やりを入れてきて、“また”流れてしまったと三味線方の名見崎徳治が教えてくれます。豊志太夫の人気がうなぎ登りで、他の者たちにすれば何としても潰しておきたいわけです。心配顔の孫兵衛に、徳治はもう一度根回しするからしばらく待っててくれと訴えます。
蔦重は、吉原嫌いの太夫に吉原の祭りに出てもらうために源内に取り持ってもらいたいと相談します。源内は怪しげな道具のハンドルを回して火を出そうとして失敗します。火が出たら悪い箇所(病)が治ってしまうシロモノです。源内は蔦重を引っ叩きますが、手についた汗からひらめきます。「汗? ……水、水か」 新之助は、源内がああなってしまっては話をするのは難しいと、話を中断させます。
蔦屋に戻ってきた蔦重は、りつから豊志太夫が吉原嫌いの理由を聞かされます。豊志太夫が売れてないころ、門之助と身分を偽って吉原に遊びに来たらしいのですが、他の客に素性がばれて“おれの女を役者に抱かせてんのか”と言い出したわけです。それで若木屋与八に追い出され、出入り禁止を食らったのです。
役者の“もぐり”はよくある話なのですが、そもそも役者が吉原への出入りを禁じられているのか? と蔦重は疑問に思います。次郎兵衛は役者は四民(士農工商=世間さま)の外だからと説明しますが、能役者も浄瑠璃の太夫も士分の者もいます。りつは、役者は売れれば千両給金も夢ではないが、みんなが役者を目指さないよう四民の外の分だと決めたと教えます。つまりお上の都合というわけです。
とはいえ、その相手が若木屋なら簡単には謝ってもらえそうにもありません。そこに駆け込んできた市兵衛は、豊志太夫を吉原に呼ぶいい方法を思いついたと鼻息荒いです。浄瑠璃の元締めである当道座とは、つまり検校のことだと教えてくれます。検校といえば……そう、瀬川を身請けした鳥山検校──。
というわけで、市兵衛と蔦重は検校の屋敷を訪問します。瀬川は花魁を卒業し、お瀬以(せい)と名乗っています。検校は、豊志太夫への土産として当道座の襲名の許しを持っていきたいと聞き、他流の三味線が多いからと難色を示します。蔦重は、豊志太夫の素晴らしい声を聞きに芝居小屋へ行ってみては? と勧め、瀬以もこんど一緒に行きましょうと検校の背中を押します。
しかし目の見えない検校は、余計な人の声まで拾ってしまうことから人が多すぎる場所が苦手なのです。俺が考えなしでした、と蔦重はこの話をなかったことにし、市兵衛の首根っこを捕まえてさっさと屋敷を後にします。検校は瀬以に優しい蔦重のことが気になるようで、瀬以の手を掴んだ検校は瀬以の脈が速くなっていることを察知します。
大文字屋に戻ってきた市兵衛は、簡単に引いてしまった蔦重に怒り心頭です。大文字屋の女郎かをりは「連れてってくださんし!」と蔦重にぴったりとくっつきます。そこに現れた志げは仕置き棒を叩きつけ、無理やり離れさせます。かをりは本物の芝居を見たことないから、いつか芝居町へ! と蔦重に頼み込みます。「これだ……かをり、それだ!」
豊志太夫は門之助を誘って向島を訪問します。かつて吉原に赴いたときに指名した女郎が、身請けされた後で会いたいと連絡をよこしてきたのです。うまくいけばご贔屓(ひいき)になってくれるかもしれないと淡い思いを抱きながら案内された座敷に入ると、そこにいたのは蔦重とりつ、市兵衛です。「師匠方、お待ち申し上げておりました。その節は申し訳ございませんでした」
豊志太夫は引き返そうとしますが、りつは若木屋のかつての非礼を詫びます。蔦重は、身請け云々は偽りだが、会いたがっている者がいるのは本当だと襖を開きます。そこにはぜひ二人に会いたい、詫びも含めてもてなしたいと挙手した女郎や禿たちが並んでいました。3人はわざわざ大門の外に連れ出したのです。豊志太夫は目の前の光景に息を呑みます。「こりゃ吉原の妓(こ)たち……かい?」
目隠し鬼をして遊ぶ女郎たちと2人ですが、とても楽しんでくれています。市兵衛とりつは、夜見世もあるからこのへんでお開き! と言うと、あと少しだけ! と残念がる女郎たちです。蔦重は豊志太夫に頼みごとをします。「ほんの少しでいいので、女郎たちに富本をお聞かせいただけませんか」 豊志太夫も門之助も、楽しませてくれた礼にその頼みごとを引き受けます。
千草の中に 恋草は
月の桂の 男ぶり
こちの思いは 恋のやみ
恋の黒木の くらがりに
引き出す牛の 角文字や
色を野がいの 花すすき
まねけばそれと おもい草──
女郎たちは自らの日日を思い浮かべ、すすり泣きします。こんな座興で……と門之助は戸惑いますが、吉原の女郎たちは芝居を見に行けないから慣れてないのだと弁明します。「この江戸にいながら一度も芝居を見ず、この世に別れを告げるものもおります。女郎たちのためにも、祭りでその声を響かせてはくださいませんか」
豊志太夫は二つ返事で引き受けます。「やろうじゃねえか。こんな涙見せられて、断れる男がどこにいる?」 女郎たちはフッと笑います。そこに留四郎が入って来て、鳥山検校からの使いが来たと書状を蔦重に渡します。その書状には『検校率いる当道座は太夫の「豊前太夫」襲名を認める』とあり、豊志太夫は感激します。蔦重は思い切って、豊志太夫の直伝をいただけないかと相談します。
それを知った孫兵衛は楽屋まで押しかけ、耕書堂は市中の本屋と諍(いさか)いを起こしているし、耕書堂に任せれば市中に売り広めできなくなると考え直しを求めます。らしいね、とすべてを聞いている豊志太夫は微笑みます。「だったらなおさら、あいつを助けてやりたいね。それが男ってもんだろ?」
鱗形屋に戻ると、万次郎に絵を描いて問題を出す倉橋 格(くらはし いたる)がいました。彼は小島松平家の内用人で、恋川春町の筆名で活躍する浮世絵師です。鱗形屋から出す春町の作品について孫兵衛に相談があったようなのですが、孫兵衛はろくに礼もできないのにと恐縮しきりです。格は、小島松平家の家老が孫兵衛にひどいことをしたのを忘れていなかったのです。
これより蔦重は富本正本に、鱗形屋は青本に、それぞれ力を入れていくこととなりました。そして八丁堀の白河松平家では、養子に入った松平定信が「これは市井の子どもが読むものであろう? よい大人がかようなものでよう笑えるな」と家臣を叱りつけます。その定信が手にしているのは、春町が描いた『金々先生栄花夢』でした。
作:森下 佳子
音楽:ジョン・グラム
語り(九郎助稲荷):綾瀬 はるか
題字:石川 九楊
──────────
[出演]
横浜 流星 (蔦屋重三郎)
安田 顕 (平賀源内)
小芝 風花 (瀬以)
井之脇 海 (小田新之助)
小野 花梨 (うつせみ(回想))
寛一郎 (富本豊志太夫)
寺田 心 (松平定信)
───────────
市原 隼人 (鳥山検校)
中村 蒼 (次郎兵衛)
本宮 泰風 (若木屋与八)
正名 僕蔵 (松葉屋半左衛門)
伊藤 淳史 (大文字屋市兵衛)
山路 和弘 (扇屋宇右衛門)
六平 直政 (半次郎)
安達 祐実 (りつ)
山村 紅葉 (志げ)
飯島 直子 (ふじ)
岡山 天音 (倉橋 格)
尾美 としのり (平沢常富)
風間 俊介 (鶴屋喜右衛門)
西村 まさ彦 (西村屋与八)
───────────
片岡 愛之助 (鱗形屋孫兵衛)
高橋 克実 (駿河屋市右衛門)
里見 浩太朗 (須原屋市兵衛)
渡辺 謙 (田沼意次)
──────────
制作統括:藤並 英樹・石村 将太
ブロデューサー:松田 恭典・藤原 敬久
演出:小谷 高義
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『べらぼう -蔦重栄華乃夢噺-』 第12回「俄なる『明月余情』」
| 固定リンク
「NHK大河2025・べらぼう」カテゴリの記事
- 大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(49-5)総集編巻之五(2025.12.29)
- 大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(49-4)総集編巻之四(2025.12.29)
- 大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(49-3)総集編巻之三(2025.12.29)
- 大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(49-2)総集編巻之二(2025.12.29)
- 大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(49-1)総集編巻之一 ~大河ドラマ【べ】らぼう総集編1-5【ら】いねんは豊臣兄弟!【ぼ】うねん前に蔦重をも【う】一度目に焼き付けて【に】しき絵や黄表紙も!【あ】の名シーンを振り返【り】年の瀬の思い出話に【が】才なくとも商才あり【た】くさんの仲間と共に【山】あり谷ありの人生!~(2025.12.29)


コメント