大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(12)俄(にわか)なる『明月余情』
げこんかしころうさこんけがきこなかさかいこと……。『金々先生栄花夢』を手にした松平定信は、どこの言葉かと家臣に尋ねます。遊里の言葉で、カ行を抜いて話すと教えてもらうと、定信はさっそく試します。「げんしろうさんがきなさいと(源四郎さんが来なさいと)」 ほう、と笑みを浮かべた定信は、遊里にもこのような優れた符号があることに関心を持ちます。“子どもの読み物”と見下げていた定信ですが、元来、勉学好きの定信は、こうして未知の世界を生き生きと描き出した読み物に夢中になっていきます。
安永6(1777)年の年明け、馬面太夫はめでたく『富本豊前太夫』を襲名し、直伝の富本本は売れ行きもよく、吉原の蔦屋まで足を運ぶ客も出て来ます。半次郎は、女が吉原まで来て買うことに驚きですが、蔦屋重三郎は思ったほどの売れ行きではないと表情は暗いです。芝居町に卸す分や師匠方がまとめ買いして弟子に売る分で、ちまたに行きわたるからだと留四郎は説明します。
本屋の体裁はとってはいますが、市中の本は扱えないだけあって、かなり寂しい店内です。貸本はお咎めなしなのに、本を売ることはできない。ため息をつく蔦重に、半次郎は自分で本を作ればいいと提案します。恋川春町や朋誠堂喜三二(ほうせいどうきさんじ)の名を挙げますが、戯号(ぎごう=戯作者のペンネーム)だからどこの誰か分からないわけです。
このころ、富本本ブームとともに青本ブームもきていました。青本のスター作家である春町や喜三二を囲い込んでいるのは鱗形屋でした。青本は鱗形屋、錦絵は西村屋でお互いにムフフと笑う孫兵衛と与八ですが、こちらの与八──若木屋与八は、西村屋与八に合力してもらいたい話があると打ち明けます。
半年前、吉原で祭りをやろうと大文字屋の市兵衛が提案しますが、それに難色を示した若木屋の与八が“俄祭りのご案内”と廻状(回覧板)を作ったのです。“吉原において俄を祭りとして盛大に執り行うべし”と、吉原俄祭総代の肩書で与八の名が記されています。さらには錦絵『青楼俄狂言』を売り出すと西村屋与八の名も加わっています。「合力くださる店は、錦絵含みの金2両を添え、申し出を」
吉原に来ていた平沢常富(つねまさ)は異変を感じていました。松葉屋、扇屋、大文字屋、丁子屋などで女郎を頼んでも、よその見世の妓(こ)を勧められるのです。蔦重は、俄祭りのことで吉原が分裂していることを打ち明けます。常富は、吉原で祭りはやったほうがいいと蔦重に勧めます。一般的な祭りは男ばかりが出て来ますが、吉原で祭りとなると、歌舞伎に女郎が出せるかは分かりませんが、芸者や禿(かむろ)が出れば“女歌舞伎の復活!”と面白そうです。また町が割れているのも、うまく使えば競い合って盛り上がりそうです。
市兵衛は若木屋与八を非難するビラを作ってきます。それを見た蔦重は、祭りまで潰す必要はないとクシャクシャに丸めます。丁子屋の長十郎は、蔦屋に常富がいることに気づきます。“宝暦の色男”平沢常富は、秋田佐竹家の留守居役なのです。常富は、蔦重がいうように一番の出し物を見せつけては? と市兵衛に提案します。市兵衛は、常富が知恵袋につくなら百人力と、その話に乗ります。
祭りの総代を自負する若木屋の与八と、祭りはこうするんだと教えると鼻息荒い市兵衛の意地の張り合いから始まった吉原「俄」の祭り準備ですが、忘八のほうには常富がいていろいろと助言します。吉原のことをよく知っていると舌を巻く蔦重ですが、せっかく祭りで人が来るのだから耕書堂から何か出さないのかと常富が提案します。もちろん蔦重もとびきりでかいのを考えてはいるようです。
西村屋の与八は忠七を密偵として送り込み、錦絵を出しそうかを調べさせます。調べたところ錦絵はなさそうですが、忠七は蔦重がしきりに会っている常富のほうに注意が向かいます。
平賀源内の家に向かう蔦重ですが、そこには小田新之助たちがいるだけで源内は不在です。エレキテルの注文がたくさん入って、新之助たちはその製作にかかりきりなのです。源内は千賀道有の屋敷に行っていて、エレキテルで電気を発生させる実証実験をやっています。身体の中の悪い気が病を引き起こすわけで、電気でそれを外に放出して病をたちどころに治してしまうと源内は胸を張ります。
源内と対面した蔦重は、吉原で祭りをするにあたり、源内におもしろおかしく書いてもらいたいと依頼します。しかし源内はエレキテルのことで忙しく、それどころではありません。源内は蔦重に朋誠堂喜三二を推薦します。「お前も会ってんじゃない? ほら、あの俺が松葉屋行ったとき──」と言われて、蔦重は記憶を手繰り寄せ「ああっ!」と思い出します。喜三二は常富のことなのです。
自分の正体を知られてしまった常富は珍しく大慌てで、食い扶持以外の稼ぎはまかりならぬ建前であると蔦重に口止めします。内緒にすると約束する蔦重は、耕書堂で青本を書いてほしいと依頼しますが、たくさん書きすぎてネタは尽きたとすげなく断られます。それで引き下がる蔦重ではありませんで、祭りの裏側をネタにすることを提案します。「このケンカを例えば……源平合戦なんかに見立てて」
喜三二は蔦重のヒントを元に、吉原版の竹取物語を思いつきます。いにしえの花魁・高尾の霊がかぐや姫……。絵の描けない喜三二作品の絵は全て、春町が仕上げていました。喜三二と春町はとても仲良しで、絵に合わせて文章を変えるなど阿吽(あうん)の呼吸でトントンと進んでいきます。
文章を書く喜三二を別室に呼び出した孫兵衛は、妻子とともに土下座をします。春町と喜三二がタッグを組んだ青本を出すのは、鱗形屋だけにしてもらいたいというお願いなのです。鱗形屋への義理立てか、蔦重の希望を叶えるか。恩を仇で返す蔦重と組む気にはなれないとそっけない春町の意見を捨てるわけにもいかず、喜三二は板挟みになってしまいます。
祭りが近づくと、西村屋から礒田湖龍斎の錦絵『青楼俄狂言(せいろうにわかきょうげん)』が大々的に売り出されます。そして喜三二は、多忙を理由にしばらく吉原には来られないと蔦重に文を送ります。蔦重も孫兵衛の手前、耕書堂で青本を出すのはやりにくかったかと同情します。
百人力の見方を失いかけ、蔦重も市兵衛も失意のどん底にいる時、ふらりと豊前太夫が蔦屋に現れます。雀踊りを演目にしている市兵衛ですが、若木屋が演目をかぶせてきて、しかも藤間勘之助に振り付けを頼んでいるのです。市兵衛は太夫に助けを求めます。「じゃあこっちは西川扇蔵(せんぞう)を担ぎ出すしかねえな」と太夫は考え、市兵衛は見世でその打ち合わせをすることにします。
仲の町通りでは市兵衛と与八がいがみ合い、芸者や禿たちは踊りの稽古で猛特訓です。一方、花魁たちは祭りには出られません。松の井花魁は不服そうですが、女将のいねによると、お馴染みの客とともに茶屋から祭りを見てもらうという役割があるのです。松の井はうつせみに耳打ちします。「新さま、来るかもしれんすなぁ」
いよいよ祭り開きです。祭りはひと月続き、通行切手は不要とあって女性客も吉原に足を踏み入れてきます。祭りの主役は芸者に禿、そこに忘八も加わって仲の町を埋め尽くします。『曽我兄弟の敵討ち』の五郎時致(ときむね)の段、美声を聞かせるのは豊前太夫で、女たちは黄色い声を上げます。
続いて大文字屋の踊りが始まりますが、向かいからも若木屋が踊りながら近づいてきます。2つの踊りがぶつかりそうになった時、踊っていた面々が一人去り二人去り、気が付けば仲の町通りのど真ん中で単独で踊り続ける市兵衛と与八です。「祭りと喧嘩は相性がいいって教えてくれた方がいまして」と、踊りの後で蔦重は微笑みます。
勝川春章は、西村屋から出版された錦絵が湖龍斎のものだったことにショックを受けています。蔦重は春章に、俄の絵を描きますか? と持ち掛けます。祭りはひと月続くのです。錦絵は無理としても、墨摺りの冊子ならできるわけです。「今日のが春章の手にかかればどうなんのか……。先生が見たのを描いてくだせえよ!」 そこに偶然現れた常富に絵本の序をお願いします。
祭りの興奮を閉じ込めたその冊子は『明月余情』と名付けられ、俄の土産にと飛ぶように売れます。町方の者が新之助に『明月余情』を渡すと、それを眺めながら思い出すのはやはりうつせみのことでした。うつせみも、祭りのどこかに新之助の姿がないか、探しているかもしれません。
連日盛況のまま、ついに終(しま)いの日を迎えます。喧嘩の踊りも名物になっているようで、昨日はふんどし姿にまでなったようです。視線バチバチの市兵衛と与八ですが、30日も続くともうやることはありません。市兵衛と与八は手を上げ、手にしていた笠と扇を交換します。そして大文字屋と若木屋がともに並び、踊ります。
鳥が啼(な)く 東(あずま)の華街(いろざと)に
速戯(にわか)をもてあそぶこと
明月の余情(よせい)を儲(もう)けて
紅葉葉の先駆けとせんと
ある風流の客人(まれびと)の
仰せを秋の花とす
我と人と譲りなく
亻(ひと)と我との隔てなく
俄(にわか)の文字(もんじ)が調(ととの)いはべり
朋誠しるす
最終日です。茶屋から見続けた花魁たちですが、店主に笠を渡されて仲の町通りに出て来ます。うつせみは通りの向こうで立っている新之助の姿が目に入ります。松の井は後ろからポンと背中を押します。「祭りに神隠しは付き物でござんす。お幸せに」 うつせみは踊りの人垣の中を進み、新之助の腕を掴んで2人大門をくぐっていきます。
どうしても常富と本を作りたい蔦重は、しつこいのですが、と断った上で、吉原の案内本を作らないかと常富を誘います。この店はどんなだ、こんな女郎がいる、そういう情報は常富は持っているはずで、それを面白おかしく書いてあるだけ。そんな本を吉原大好きな馴染みとして……。「“どうだろう、まぁ” 戯号! 吉原大好きな馴染み客の!」
──我と人との隔てない幸せな時。けれどそれは俄のこと、目覚めれば終わるかりそめのひと時。その裏側で、世の仕組みはきしみ始めていました。
作:森下 佳子
音楽:ジョン・グラム
語り(九郎助稲荷):綾瀬 はるか
題字:石川 九楊
──────────
[出演]
横浜 流星 (蔦屋重三郎)
安田 顕 (平賀源内)
小芝 風花 (瀬以)
井之脇 海 (小田新之助)
小野 花梨 (うつせみ)
寛一郎 (富本豊前太夫)
寺田 心 (松平定信)
───────────
市原 隼人 (鳥山検校)
中村 蒼 (次郎兵衛)
本宮 泰風 (若木屋与八)
正名 僕蔵 (松葉屋半左衛門)
伊藤 淳史 (大文字屋市兵衛)
山路 和弘 (扇屋宇右衛門)
六平 直政 (半次郎)
安達 祐実 (りつ)
水野 美紀 (いね)
飯島 直子 (ふじ)
橋本 淳 (北尾重政)
岡山 天音 (恋川春町)
尾美 としのり (平沢常富)
西村 まさ彦 (西村屋与八)
───────────
片岡 愛之助 (鱗形屋孫兵衛)
高橋 克実 (駿河屋市右衛門)
──────────
制作統括:藤並 英樹・石村 将太
ブロデューサー:松田 恭典・積田 有希
演出:小谷 高義
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『べらぼう -蔦重栄華乃夢噺-』 第13回「お江戸揺るがす座頭金」
| 固定リンク
「NHK大河2025・べらぼう」カテゴリの記事
- 大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(49-5)総集編巻之五(2025.12.29)
- 大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(49-4)総集編巻之四(2025.12.29)
- 大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(49-3)総集編巻之三(2025.12.29)
- 大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(49-2)総集編巻之二(2025.12.29)
- 大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(49-1)総集編巻之一 ~大河ドラマ【べ】らぼう総集編1-5【ら】いねんは豊臣兄弟!【ぼ】うねん前に蔦重をも【う】一度目に焼き付けて【に】しき絵や黄表紙も!【あ】の名シーンを振り返【り】年の瀬の思い出話に【が】才なくとも商才あり【た】くさんの仲間と共に【山】あり谷ありの人生!~(2025.12.29)


コメント