大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(10)『青楼美人』の見る夢は ~瀬川、吉原を去る~
そうか。種をまけば──。田安賢丸は宝蓮院に「江戸城に田安の種を蒔くのです!」と提案します。江戸城に赴いた宝蓮院は、将軍徳川家治の嫡男・家基が賢丸と碁盤を囲む姿を見て、家基が将軍になった時には支えたいと賢丸は言っていたのに「ああして盤を囲むのは、あの足軽上がりの息子なのでしょうね」と悔しそうです。 田沼にそうさせないために、知保の方は松平武元に助言を求めます。
瀬川最後の花魁道中は暮れに行われる予定であり、正月であれば細見もさばけたかもしれませんが、暮れでもいいじゃないかとりつは主張します。そういえば市中の地本問屋に合わせる必要もなく、正月に出る鱗形屋の細見は売れないかもしれません。大文字屋の市兵衛は、女郎絵もついでに売ればいいと提案します。瀬川の次をずらっと並べ、『雛形若菜』を潰しちまえと親父たちは鼻息荒いです。
駿河屋を後にした次郎兵衛と蔦屋重三郎は、いねと瀬川が身請け披露の挨拶に各店舗を回っているところを目撃します。いよいよ出ていくのかと感慨深げな蔦重は、とても世話になったので最後に何か瀬川が喜ぶようなはなむけをと考えています。しかし次郎兵衛は、吉原を出入り禁止になったはずの西村屋与八と小泉忠五郎が、人目をはばかりながら歩いていくのを目撃します。
西村屋と忠五郎は女郎屋若木屋に入っていきます。そこには吉原の寄合の者たちが集まっていました。出禁を食らって困っていると窮状を訴える西村屋ですが、「吉原者を市中に入れたくねえって言ったそうじゃないか!」と反発されます。言ったのは自分ではないし、忠五郎も鱗形屋も違うと西村屋は主張します。
若木屋の与八は、経緯はともかくとして、市中の本屋を馴染みに持つ吉原の見世もあるのに、勝手に仕切った駿河屋ら忘八に対しての対抗心から、自分たちは自分たちで、今後も西村屋と付き合っていこうと提案します。寄合の者たちからも そうだそうだ! という声が上がり、西村屋は手をついて感謝します。
市中に足を伸ばした蔦重ですが、吉原細見を求めた客に対して西村屋が出した新細見を渡す場面に出くわします。本屋は、吉原が出した細見は市中には流さず、欲しければ吉原まで買いに来いと吉原の本屋が言っていると客に伝えます。他の取り扱いの店でも、蔦重の細見はもう市中では扱うなという話になったとかでクズ同然に扱われています。
がっくり肩を落とす蔦重は、平賀源内と再会します。そして須原屋の市兵衛も後から合流します。現在置かれている状況を蔦重に相談される源内ですが、話もそこそこに富本午之助(うまのすけ)と市川門之助の芝居小屋に入っていきます。市兵衛も後を追い、全然話聞いてくれない! とふくれる蔦重ですが、せっかくだしな、と芝居小屋に足を踏み入れます。
通りを歩いていると、勝川春章の絵が並べられていました。店に入る蔦重に、だまされたね、と主人は笑います。「いま春章風、流行ってっからね」 ここに並んでいるのは、春章の絵“ふう”に描かれているものなのです。蔦重は、役者やってる役者の姿ではなく、役者してない時の役者を描いてもいいのに、とつぶやきます。
通りを鱗形屋の孫兵衛が通りかかり、蔦重が店を出たところで市兵衛と再会します。源内とも合流して居酒屋に入った市兵衛は、蔦重が慌てるほどことは悪くないと説明します。放っておいても鱗形屋は細見作って売ってくれるし、西村屋も豪華な錦絵を作ってくれるのです。2人が張り切って吉原に客を運んでくれるようになるわけです。「ことを収めるには、おめえさんが元のように改に徹することだ」
飯を食いながら話を聞いていた源内は、やりたいことやったら? と助言します。蔦重がやりたいこと──昔のように吉原を江戸っ子が憧れる場所にしたい。吉原で遊ばなきゃ一流じゃないと“見上げられる場所”に。辛いことよりも楽しいことの方が多い場所にしたい。源内は賛同します。「花魁のために吉原を皆が仰ぎ見るところに変えてやろうぜ。それこそ千代田のお城みてえによ」
作った吉原絵を将軍に献上する、と蔦重はひらめきます。実際に目を通さなくてもいいので、その噂さえあれば吉原の格が上がる! 市兵衛は、将軍にまで届かなくても、少なくても田沼意次までは届くよな、と源内を見据えます。蔦重の考えを面白がる源内は、世の中がひっくり返るようなもんをぶち上げてやろうと張り切ります。
将軍に献上すれば箔がつき本は間違いなく売れる。献上したことで将軍が吉原に来ているとうわさが立つ。吉原の格が上がり、客筋もよくなる。落ちる金は増え、豪気な身請けも出る。その絵本を瀬川の最後の道中で売るのです。本の制作に100両必要と知り、親父たちは身を引こうとしますが、市右衛門はポンと50両出します。「残りを皆にお願いしろ。ただしこれは入銀じゃねえ。貸し付けだ」
蔦重の秘策は、作った本を勝川春章に描いてもらうのです。すでにその算段はついていて、浮世絵師・北尾重政に頼まれれば断れないと絵師の勝川春章は笑います。春章は女が描けないという奴らにギャフンと言わせるいい機会にもなりそうです。そんな春章を連れて、蔦重は松葉屋に現れます。まさに“女郎してない時の女郎”を描いてもらうのです。
客の見ていないところで客への文を書く女郎、花を生ける女郎、三味線の練習をする女郎……。次に売り込む女郎の絵本を作ると説明するいねの言葉に、張見世(はりみせ)に寄りかかって本を読む瀬川は「次か……」とつぶやき、大きくため息をつきます。
重政・春章による吉原絵本『青楼美人合姿鏡』は完成し、扇屋の宇右衛門、市右衛門、蔦重とともに、源内はその製本を持って田沼屋敷を訪れ、将軍に献上を依頼します。本を作る経緯を説明する蔦重に気づいた田沼意次は、瀬川の道中の話は日光社参を見直すきっかけとなったこともあり、恩を返さなければならないと話を受けることにします。
その後、将軍徳川家治と対面し絵本を献上した意次は、田安家の種姫を家治の子、つまり家基の妻にする予定を聞かされます。それはこういった経緯です。
──賢丸の白河松平家ゆきを今度は家基が反対しだして、それができないなら意次は退けろと主張するのです。武元は家基をたしなめつつ、田安家にお慈悲を賜りたいと頭を下げます。家治と家基の間に禍根を残さないためにも、種姫が家基に嫁ぐことを提案。そうなれば賢丸は家基の義兄となり、白河に行っても賢丸は盤石となるのです──。
意次から経緯を聞いた三浦庄司はこれぞ種まきと笑いますが、意次にとっては笑い事ではありません。「田沼のこの先が明るいと思う者はおるまい。人が離れてゆく……白眉毛め」と意次は武元への怒りに震えます。
田安家に赴いた大奥総取締の高岳(たかおか)は、ゆくゆくは“次期将軍の御台所”として大奥に入るであろう種姫に挨拶をします。そして賢丸は江戸城に登城し、これで安んじて白河に身を移すことが出来ると家治に礼を述べます。こうして賢丸が未来への種まきを見事に終えたころ、吉原中に『瀬川花魁落籍 名残の道中』という張り紙が出され、男たちはいよいよ見納めかと残念がります。
蔦重は半左衛門に、瀬川に渡してほしいと『青楼美人合姿鏡』を手渡そうとしますが、半左衛門は忙しいから自分で渡せと返答します。一瞬躊躇する蔦重ですが、なんでだめなの? と瀬川との別れをおぜん立てする半左衛門に、でさぁね! と蔦重は笑って半左衛門の言う通りにします。
売れるものはあらかた売ってしまって、瀬川の座敷はすっきりとしていました。じっと打掛を見つめる瀬川に、蔦重はせんべつとして『青楼美人合姿鏡』を渡します。蔦重が何かくれる時はいつも本だ と笑う瀬川は、本に自分も載っていることにとても驚きます。本を読む自分の姿に涙を浮かべます。「ずるいよ、こんなふうに描かれると、楽しかったことばかり思い出しちまうよ」
蔦重はずっと、吉原を楽しいことばかりの場所にしたいと思って突っ走ってきました。女郎がいい思い出をいっぱい持って大門を出ていく。いい身請けがたくさんあって年季明けまでいる女郎がほとんどいない。バカみたいな話ですが、瀬川も、蔦重と2人で見て来た夢なのかもしれません。
安永4(1775)年12月、ついに迎えた瀬川最後の花魁道中。仲ノ町通りの端から端まで集まった人々から「よっ! 瀬川!」「瀬川! めでてえ!」「幸せにな!」と掛け声がかかり、その中を瀬川は堂々と進んでいきます。そして蔦重や親父たちからの餞別として、松の井花魁も常盤木花魁も、その他数多くの花魁たちが瀬川の後を続き、最後の道中に花を添えます。
大門のところで立ち止まってその道中を見ている蔦重ですが、瀬川は吉原の奥の方に進み、引き返して大門の方へ戻ってきます。瀬川の微笑はとても美しく、見守る蔦重の前で止まります。「おさらばえ」と、瀬川は振り返り居並ぶ者たちに一礼します。そして大門をくぐると、門の外では鳥山検校が待っていました。お待たせいたしんした、と瀬川は手をつなぎ、履物を履き替えます。
蔦重と親父たちは女郎絵本を高く掲げます。瀬川最後の絵姿、女郎すべてを載せ、将軍も見たとのうわさ! お求めは蔦屋まで! と宣伝することも忘れません。
西村屋は須原屋で入手した『青楼美人合姿鏡』を孫兵衛と鶴屋喜右衛門に見せます。蔦重の出した本を書物問屋である須原屋が扱っていることに「ありえねえ」と笑う孫兵衛ですが、山崎金兵衛と相板元で出してそれが可能になったわけです。「ご案じなく。これは……売れません。売れません」とニヤリとする喜右衛門です。
作:森下 佳子
音楽:ジョン・グラム
語り(九郎助稲荷):綾瀬 はるか
題字:石川 九楊
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[出演]
横浜 流星 (蔦屋重三郎)
安田 顕 (平賀源内)
小芝 風花 (瀬川)
宮沢 氷魚 (田沼意知)
高梨 臨 (知保の方)
小野 花梨 (うつせみ(回想))
奥 智哉 (徳川家基)
寺田 心 (田安賢丸)
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市原 隼人 (鳥山検校)
中村 蒼 (次郎兵衛)
本宮 泰風 (若木屋与八)
正名 僕蔵 (松葉屋半左衛門)
伊藤 淳史 (大文字屋市兵衛)
山路 和弘 (扇屋宇右衛門)
安達 祐実 (りつ)
水野 美紀 (いね)
飯島 直子 (ふじ)
橋本 淳 (北尾重政)
尾美 としのり (平沢常富)
風間 俊介 (鶴屋喜右衛門)
西村 まさ彦 (西村屋与八)
冨永 愛 (高岳)
花總 まり (宝蓮院)
眞島 秀和 (徳川家治)
石坂 浩二 (松平武元)
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原田 泰造 (三浦庄司)
片岡 愛之助 (鱗形屋孫兵衛)
高橋 克実 (駿河屋市右衛門)
里見 浩太朗 (須原屋市兵衛)
渡辺 謙 (田沼意次)
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制作統括:藤並 英樹・石村 将太
ブロデューサー:松田 恭典・積田 有希
演出:大原 拓
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『べらぼう -蔦重栄華乃夢噺-』 第11回「富本、仁義の馬面」
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