大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(15)死を呼ぶ手袋
ここは開店したばかりの耕書堂。朝餉のいい匂いが蔦屋重三郎(蔦重)の鼻をくすぐります。「いつまで寝てんだい! 借金あんだよ、店つぶれるよ」とたたき起こすのは瀬以です。嬉しくなって蔦重は飛び起きますが、そこにはもちろん瀬以の姿はありません。店を開ける蔦重ですがまるで無気力です。“正月明けて極楽から地獄”となったわけで、つるべ蕎麦の半次郎は「ほっといて大事ねえのかね」と蔦重の様子を伺います。
しょんぼり歩く蔦重は、エレキテルが見世物に落ちぶれてしまってため息をつきます。その時遠くから平賀源内の叫び声が聞こえてきます。エレキテルはイカサマ、平賀源内は口だけだと言われて逆上したのです。慌てて引き止める蔦重ですが、源内は蔦重を突き飛ばし、武光を振り回して逃げていく母子を追いかけていきます。
源内の悪い噂と様子がおかしいことは、須原屋の市兵衛も知っています。偽物を作られ、イカサマだとののしられ、源内の気持ちも分からなくもないわけですが、須原屋の客・杉田玄白は「エレキテルはイカサマじゃないとも言い切れない」といろいろ教えてくれます。悪い気が出て万病に効くというのも源内の売り文句で、大きく出過ぎたかもしれないとつぶやきます。
玄白は源内の弟子のようなもので、今や当代一の蘭方医です。源内はそこも気にしているかもしれません。なぜなら源内も元は学者だからです。そこに蔦重が頼んでいた鱗形屋の吉原細見を大量に買い取ります。客にあげたり師匠たちにあげたりするのです。蔦重は今でも鱗形屋の孫兵衛を心配していますが、「来年はもう青本は出せねえんじゃねえかって」と市兵衛は蔦重に伝えます。
江戸城西の丸では、徳川家基が金の流れについて講義を受けています。大奥総取締の高岳(たかおか)は、種姫から家基に贈り物をしたいと相談されていて、田沼意次の懐紙入れが洒落ていると目をつけ、この懐紙入れのような細工の手袋を贈り物にしてはどうかと提案します。家基の鷹狩りの日が近く、それに間に合うように、意次は急いで五郎蔵に手袋づくりを命じておくことにします。
耕書堂には朋誠堂喜三二が来店していました。青本作りを提案する喜三二ですが、耕書堂で作れば市中には出回らず、売れる見込みはありません。しかし喜三二は、売れる売れないは関係なく、こういうのは遊びなのだから楽しければそれでいいし、誰とやるのが楽しいかといえばそれは蔦重なのです。感動する蔦重ですが、「何たってお前さんの礼は吉原だからな」と喜三二はニヤリとし、蔦重はがっかりします。
そこに蔦重を訪ねて来た北尾政演(まさのぶ)は、絵師の仕事はないかと猫なで声をあげます。誰の入れ知恵か「払いは吉原でいいんで」と笑っていると、喜三二と意気投合します。さらに次郎兵衛は、遊びましょうか! と話に乗っかります。「だって俺茶屋だもの。遊びてえ人たちを前に放っておくわけにゃ」 蔦重は、お代を自分につけられるのだから、と次郎兵衛を睨みつけます。
大黒屋のりつが突然、女郎屋をやめて“芸者の見番”をやろうかと言い出します。建前で禁じても、女芸者が色を売ってしまう・売らされてしまうというのは後を絶たず、差配する者がいれば女芸者の一人座敷は避けられるわけです。一方、丁字屋の長十郎は女郎屋の寮を活用し、病気にかかったときにちゃんと休ませてしっかり治させるという方針を提案します。
いつものおふざけな親父たちとは違い、真剣に吉原のために考える会合になっています。それは蔦重に“吉原も変わらなきゃいけない”と言われたのが市右衛門の胸に刺さり、やれることはささやかだけど吉原をましな場所にしていこうと親父たちに呼びかけたようです。蔦重は、目の前の光景が夢を見ているようで、うれしくなります。
さっそく蔦重は、耕書堂の店先に「青本 洒落本 求作者」の張り紙を出します。書きたいやつが来るかもしれないと考えてのことです。耕書堂を面白いものでいっぱいにすれば、面白いことが好きな人が集まってくるし、面白い客が増えれば女郎も楽しくなる……。蔦重は、いよいよ青本に挑んでみることにします。
特別あつらえの手袋が完成し、家基はさっそく着用します。近ごろは金の勉強ばかりで種姫との縁組のことはとんと……と感じていた松平武元は驚きます。家基が金の勉強をしていたのは、意次を無用の者とするためです。意次のような知恵が自分にあれば、わざわざ意次を取り立てずに済むのです。家基は徳川吉宗のように、自ら政の舵を取る将軍になるのが夢です。
鷹狩りに出た家基ですが、放った鷹が獲物を取り逃がしてしまい、ギュッと爪を噛んでくやしがります。しかし次の瞬間、荒い息になった家基はその場で倒れます。安永8(1779)年2月、将軍嫡男・家基が急逝します。こんな時の通例として“急な病にて”とされましたが、母の知保の方はガリガリと爪を噛み、お前が毒を盛ったのであろ! と発狂します。
源内は、オランダの「量程器」を真似て作ったものを意次に披露します。国内でも作れるものを高価で異国に売りつけられているわけで、幕府は異国に金銀を吸い上げられていると源内は言い換えます。日本津々浦々の値打ちあるものを掘り起こし、売り出していかなければ豊かにならないと訴えます。そんな源内から献上された『物類品隲』を手に取ります。今は本草学者を名乗る源内です。
夜、『物類品隲』を見つめながら、何やってんだろうね俺ゃ、と源内はつぶやきます。そこに平秩東作が現れ、エレキテルのことを慰めます。とはいえ東作もおちおち出歩ける人間ではないのですが、おもしろいものに当たったと、袋に入ったものを源内に見せます。えっ? という表情で見つめる源内に、ニヤリとする東作です。
日ごろから意次と家基が不仲であったことは周知の事実であり、家基が亡くなった東海寺に、和尚を黙らせるため意次が寄進をしたという噂がくっついて、家基の死は意次の謀(はかりごと)という話になって広く駆け巡ります。どうしても真実を知りたい将軍家治は、家基の死について徹底的に調べるよう武元に命じます。武元は、謀に一番に疑われている意次をその詮議に加えることに難色を示します。
こうして右近将監(武元)指揮の下、徹底的な洗い出しが行われます。その結果、西の丸では水一滴、匙で出す薬にまで毒味が入るほど特に配慮してあり、毒を盛る隙が見つかりません。鷹狩りの場で茶坊主が出した茶にまで、毒味が入っていたとのことです。そこに源内が訪ねてきました。
蝦夷にご興味はございませんか? と突然の提案です。そして東作が持ち込んだ袋をそのまま意次に示します。その中身は砂金です。すぐにも考えたいところですが、洗い出しの最中である今の状況では難しいです。意次は、源内の非凡な頭で家基にどうやって毒を仕込んだのかを考えてみてほしいと依頼します。「お任せください。この一件、平賀源内が見事、解き明かしてみせましょ」
源内と東作は、鷹狩りが行われた場所を詮索します。源内が考えているのは“たまたま生き物の毒にやられた”線です。ヘビの毒なら大きすぎて見てわかりますが、例えば気づかないぐらいの小さな虫では……? ただ、心臓を止めるほどの強い毒となると、小さな虫がそんな毒を盛っているのかと東作は疑問ですが、そんなの調べてみないと分からない! と源内は怒鳴ります。
武元は、勢子(せこ)の吾作の取り調べで出て来た“御鷹 獲物を取り逃し後お苦しみになり、心の臓を押さえ”という部分に少しの違和感を感じます。悔しい思いをしたとき、家基は右手親指の爪をガリガリと噛んでいたことを思い出します。同じころ、源内たちも吾作のところに行きついていました。家基が倒れた瞬間のことを詳細に再現してもらうと、悔しそうで親指を噛んで……。
田沼屋敷に戻った源内は、家基が着けていた手袋に毒が仕込まれていたのではないかと報告します。手袋を作らせた意次は顔面蒼白です。もし手袋に毒が仕込まれていたら、家基に渡る道すじを辿れば下手人が浮かび上がってくるかもしれません。意次は源内を帰した後、三浦庄司に命じて西の丸の長谷川平蔵に手袋を取り返すよう伝えさせます。
蔦重のもとを喜三二が訪れます。蔦重は自分が描いてみた戯曲を喜三二に見せ、これをもとに一作仕上げてもらいたいと頼みます。ある人と考えていた物語ながら、自身には文を描く才能がないと笑う蔦重に、喜三二はもう少し粘って自分で書いてみたほうが、その相手も喜ぶと告げます。「どうにもならなきゃ最後は仕立ててやるからさ」
毒が仕込まれた疑いのある手袋は、家基が亡くなった後は知保の方が手元に持っていたわけですが、調べたいことがあると武元が引き取ったとのことで、今では手に入れられなくなっています。これはつまり、武元も同じ罠に気づいたということです。意次は膝から崩れ落ち、終わったか……と絶望します。「高岳に頼まれてな。手袋に毒を、ということになる。いやされてしまうということじゃ!」
武元からの呼び出しを受けて屋敷を訪問した意次は、茶室に案内されます。武元は手袋に毒が仕込まれていたことも、意次が手袋を作らせ高岳に仲立ちしたことも、その手袋を種姫から家基に届けられたこともすべて調査済みでした。毒を盛った外道とは意次以外の誰か、と武元は笑います。「わしに疑われると思うておったか?」
仮に毒を盛ったのが意次であれば、手袋を早々に引き上げるなど手を打つべきなのに、武元に証拠を押さえられる無様を考えれば、意次は知らなかった証だというのです。むしろ武元が危惧するのは、意次を犯人扱いすることで気に入らない意次を追い落として、本来捕らえるべき下手人を取り逃がすことです。武元は意次の考え方は気に入りませんが、幕府への忠義は買っています。
武元が茶室に意次を誘ったのも、この件をどうするか意次と話し合うためでした。結局のところ、いったん調査の幕引きを図って油断を誘い、誰が次の西の丸を狙ってくるか尻尾を出すのを待とうということになりました。家治には意次の関与も含めて全て報告し、知保の方には武元から話をしてくれるようです。
武元の夏風邪が悪化しているようで、咳き込んで寝苦しい夜を迎えています。そこにかぶさる黒い影──。一橋治済は暗がりの舞台で人形を操っています。ひとりの侍女が武元の部屋から手袋を持ち出していきますが、その時にはすでに、武元は命を奪われていました。
作:森下 佳子
音楽:ジョン・グラム
語り(九郎助稲荷):綾瀬 はるか
題字:石川 九楊
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[出演]
横浜 流星 (蔦屋重三郎)
安田 顕 (平賀源内)
小芝 風花 (瀬以)
宮沢 氷魚 (田沼意知)
中村 隼人 (長谷川平蔵宣以)
高梨 臨 (知保の方)
奥 智哉 (徳川家基)
木村 了 (平秩東作)
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中村 蒼 (次郎兵衛)
本宮 泰風 (若木屋与八)
正名 僕蔵 (松葉屋半左衛門)
伊藤 淳史 (大文字屋市兵衛)
山路 和弘 (扇屋宇右衛門)
六平 直政 (半次郎)
安達 祐実 (りつ)
飯島 直子 (ふじ)
古川 雄大 (北尾政演)
尾美 としのり (朋誠堂喜三二)
冨永 愛 (高岳)
相島 一之 (松平康福)
眞島 秀和 (徳川家治)
生田 斗真 (一橋治済)
石坂 浩二 (松平武元)
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原田 泰造 (三浦庄司)
片岡 愛之助 (鱗形屋孫兵衛)
高橋 克実 (駿河屋市右衛門)
里見 浩太朗 (須原屋市兵衛)
渡辺 謙 (田沼意次)
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制作統括:藤並 英樹・石村 将太
ブロデューサー:松田 恭典・積田 有希
演出:大原 拓
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『べらぼう -蔦重栄華乃夢噺-』 第16回「さらば源内、見立は蓬莱」
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