大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(20)寝惚(ぼ)けて候
蔦屋重三郎(蔦重)は次郎兵衛とりつから、大田南畝が書いた『菊寿草』という本を受け取ります。それは今年出た青本の番付で、そこには『極上上吉 見徳一炊夢 蔦や座』とあり、つまり蔦重が出した『見徳一炊夢』が第一位、“極上上吉”との評価なのです。ずいぶんと褒めてくれてるねえ、と作者の朋誠堂喜三二は笑いが止まらず、恋川春町も冷静に分析します。「次はいよいよ耕書堂の天下、というようにも読めるな」
しかしこの評価が面白くないのは地本問屋たちであり、ほかに板元がいないみたいだと不満を唱える者もいれば、まぐれ当たりと気にしない者もいます。酔っぱらった西村屋与八は「この上は私が、錦絵で一矢報いてやるからさ」と大口を叩き、細見も大事にしてくださいと喜右衛門に諭されます。とはいえ、客からの問い合わせの多い『見徳一炊夢』を市中の本屋で取り扱えないことに、本屋から愚痴が出ます。
田沼意次は一橋治済(はるさだ)に、次の将軍として子の豊千代をと伝えます。これは将軍徳川家治の意向で、将軍には豊千代、御台所には田安家の種姫を希望しているのです。この話を受けることにした治済ですが、豊千代には島津の茂姫と縁組を結んでいます。意次はその縁組をなしとし、茂姫には豊千代の側室として江戸城大奥に入ってもらうことを提案します。
須原屋市兵衛と蔦重は、『菊寿草』の作者で幕臣の大田南畝(四方山人)を訪ねます。畳が焼けていることにも、障子が破れていることにも「めでてぇこった」と表現する南畝に、蔦重は耕書堂でお書きになりませんかと勧めます。南畝がやりたいもの──狂歌。興味を示した蔦重に、南畝はひざを叩きます。「一度覗きに来るか? 狂歌の会」
りつは、その場のノリの狂歌を大層にも本にするようなもんじゃないと難色を示します。喜多川歌麿は、あまりの売れ行きに『見徳一炊夢』を100部刷り増しを提案します。そこに現れた本屋の岩戸屋源八も50部欲しいと言ってきました。耕書堂の本を仕入れて江戸市中の本屋仲間への影響を心配する蔦重ですが、難癖をつけられても今年一番の『見徳』が置いていないのは本屋としてどうなのだ? という言い訳が立つと微笑みます。
吉原細見の改(あらため)を取材中の与八と小泉忠五郎ですが、錦絵の絵師を礒田湖龍斎から鳥居清長に代えて華やかに仕立てるつもりのようです。その情報を知った蔦重は、歌麿に清長風の別の絵を描いてほしいと依頼します。本屋が耕書堂の本を仕入れる言い訳が立つようにしてやりたいわけです。
薩摩の茂姫の件は、あくまで御台所でなければと申し訳が立たないと不服を申し立ててきました。豊千代と茂姫の縁組は亡き浄岸院の遺言らしいのです。浄岸院とはかつて島津に嫁いだ吉宗の養女で最愛の女性・竹姫のことです。「はっ……浄岸院さまを使ってきましたか」と意次は呆れます。
一橋屋敷で意次と対面した島津家当主の島津重豪は、種姫を御台所にすることのどこにうまみがあるのかと意次をけん制します。種姫の後ろに控えるのは白河松平家であり、意次が目指す世の形の邪魔にしかならないというのです。この言葉にうろたえる意次ですが、これは実は治済の企てです。重豪は側室でも構わないわけですが、治済が何としても田安を取り除きたいという意向がちらりと垣間見えます。
江戸城西の丸では、一橋を抱き込んで島津が申し立てを起こすよう意次が裏で糸を引いているという噂があると、知保の方から宝蓮院に伝えられます。「またあやつの田安外しということか!」と宝蓮院は激怒します。その宝蓮院が将軍家治に宛ててしたためた書状は、実は松平定信が書いたものではないかと高岳(たかおか)は見ています。
定信自身が白河松平家へ出された件、西の丸徳川家基、右近将監松平武元の死、豊千代ご養子の件、そして今回も島津をそそのかしたと意次の謀(はかりごと)だと糾弾するものでした。意次は大奥取締の高岳に尋ねます。「正直なところ、大奥としてはどちらがよい? 種姫さまか島津の茂姫か、御台さまとして迎えるには」
蔦重は尾張屋彦次郎に、清長の錦絵を『雛形若菜』の半分の入銀でと話を持ち掛けます。ただ蔦重は、歌麿が描いたとバラすわけですが、彦次郎は大いに感嘆します。第二の『雛形若菜』、第二の清長──。耕書堂の本は吉原でしか流れないという心配も、年明けにはなんとかできるとのりつの援護射撃に、彦次郎は「今度は任せた」と受け入れることにします。
一方、清長が描くということで、高額の入銀となった西村屋の錦絵ですが、はじめこそいい返事だったものの辞退が続出します。呉服屋の手代から入手したという『雛形若“葉”』の絵を見て、与八は耕書堂に怒鳴り込みます。しかし汚いやり方もありと教えてくれたのは西村屋だと、蔦重に悪びれる様子はありません。錦絵商いとは甘くないからね、と捨て台詞を吐いて与八は出ていきます。
西村屋では忠五郎が表情をなくして与八の帰りを待っていました。忠五郎は女郎屋に取材して手直ししていたわけですが、今回やたらと手直しの量が多く、変に思って確かめてみたところ、『吉原細見嗚呼御江戸』の時の女郎名を答えられていたことが判明したのです。もういない女郎ばかり……。与八は開いた口がふさがりません。
西村屋が7月の細見を出さないと聞き、喜右衛門は駆けつけます。西村屋としては錦絵を軸に、ついでに細見を販売するつもりだったのですが、『雛形若菜』をつぶされ細見どころではなくなったのです。喜右衛門は細見をうちで出すと、改のことを聞き出しますが、それも半分ぐらいはやり直さないといけません。「細見も大事にしてくださいってお願いしたじゃないですか」と責められ、与八は何も言えません。
地本問屋の会合では、西村屋が7月の細見を出さないと聞き、どこから買えばいいのだと岩戸屋の源八が騒ぎ立てます。日本橋と蔦屋との争いにうんざりした源八は、そろそろ蔦重との取引を認めてほしいと訴えます。喜右衛門は「(取引を)認めます」とあっさり翻し、これからは堂々と蔦屋の本を仕入れることが出来るようになります。さっそく耕書堂には、あらゆる本屋からの注文が殺到します。
これで地本問屋の仲間入りができた──かを確かめるために、蔦重は鶴屋に向かいます。喜右衛門は、確かに市中の本屋と蔦屋の取引を認めたものの、鶴屋が耕書堂の本を扱うかどうかは別問題とそっけないです。それが聞けて、蔦重もあっさり帰っていきます。北尾政演は、喜右衛門と蔦重が仲直りしたのかとニヤニヤしますが、喜右衛門は政演に本気で戯作に取り組んでみないかと提案し、闘志を燃やします。
高岳の居室に宝蓮院がわめき散らします。一言の断りもなく種姫の縁組が決まったと聞いたのです。しかし種姫は将軍家治の養女であり、今は田安家の姫ではないと高岳は涼しい顔です。嫁ぎ先は紀州徳川家、吉宗の故郷でもあり、田安にとってもこれ以上の嫁ぎ先はないわけです。悔しい表情の宝蓮院です。
その居室の外では、知保の方が「新しい西の丸さまの養母となるのじゃ!」と騒いでいます。豊千代とその生母が西の丸に入るため、知保の方が西の丸から出るように意次から引導を渡されたのです。宝蓮院は意次に対し、いつか天罰が下ろうとつぶやきます。こうして豊千代が正式に家治の養子となります。のちの十一代徳川家斉です。
西の丸には茂姫、生母・富の方、家老として田沼意致(おきむね)が入り、一橋は着々と豊千代の周りを固めてきました。家治としては、意次が後世に残る仕事をしてくれることが願いです。意次は、誰が将軍の座に就こうと揺るがない政を行うために、幕閣、その時々に選ばれた才能ある役人たちの手で行う形を作り上げたいと考えていて、「余のことはうまく使え」と家治は意次に全般的に信頼を置いています。
蔦重は南畝の招きで狂歌の会に参加します。形式は和歌の会と違いありませんが、ふざけた内容をいたって真面目に論評する感じです。会主は元木網(もとのもくあみ・湯屋の主人で狂歌師)というし、朱楽菅江(あけらかんこう・狂歌師)の詠んだ「わが恋は 鰻の見えぬ 桶のうちの ぬらぬらふらふら 乾く間もなし」という狂歌に、“ふらふら”を“むらむら”に、鰻はやはりむらむらありたい、と南畝が指南する場面に、蔦重とともに参加した次郎兵衛はプッと吹き出します。
会が終わり呑み会です。次郎兵衛は南畝から“お供のやかまし”という狂名をつけてもらいます。会合のかかりは会主の木網が払うこともあり、ご贔屓筋(ひいきすじ)が払うこともあるようです。そこに遅れて入ってきたのは“軽少(けいしょう)ならん”こと土山宗次郎、勘定組頭を務めています。宗次郎は初めて見る蔦重に、「鰻に恋して」の狂歌を求めます。
ひらめくまま詠み上げる蔦重ですが、つかみはいいにしても歌になっていないと笑われます。そこで南畝は蔦重の発句をいただき「あなうなぎ いづくの山の いもとせを さかれて後に 身を焦がすとは」と詠み上げ、すげえ!と蔦重もびっくりします。蔦重は南畝に“なきの一杯”を勧められ、朝方に泥酔して帰ってきます。「狂歌……ありゃ流行る。俺が流行らせるぞ!」
この年、狂歌のほかに世の注目を浴びはじめたものが、蝦夷(えぞ)でした。
作:森下 佳子
音楽:ジョン・グラム
語り(九郎助稲荷):綾瀬 はるか
題字:石川 九楊
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[出演]
横浜 流星 (蔦屋重三郎)
染谷 将太 (喜多川歌麿)
桐谷 健太 (大田南畝)
高梨 臨 (知保の方)
木村 了 (平秩東作)
栁 俊太郎 (土山宗次郎)
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中村 蒼 (次郎兵衛)
安達 祐実 (りつ)
古川 雄大 (北尾政演)
岡山 天音 (恋川春町)
尾美 としのり (朋誠堂喜三二)
風間 俊介 (鶴屋喜右衛門)
西村 まさ彦 (西村屋与八)
映美 くらら (大崎)
冨永 愛 (高岳)
花總 まり (宝蓮院)
眞島 秀和 (徳川家治)
生田 斗真 (一橋治済)
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原田 泰造 (三浦庄司)
里見 浩太朗 (須原屋市兵衛)
渡辺 謙 (田沼意次)
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制作統括:藤並 英樹・石村 将太
ブロデューサー:松田 恭典・美濃 里亜
演出:大嶋 慧介
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『べらぼう -蔦重栄華乃夢噺-』 第21回「蝦夷桜上野屁音(えぞのさくら うえののへおと)」
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