大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(22)小生、酒上不埒(さけのうえのふらち)にて
田沼意知を吉原に呼び出した花魁誰袖(たがそで)は、松前家が抜け荷(密貿易)をしている証拠探しの手助けをする代わりに、自分を身請けしてほしいと見据えます。間者のようなことは危ない役目だけにやめておくよう伝える意知ですが、誰袖はあの日座敷で聞いたことを、松前家側に伝えることもできると脅しますが、花魁の吉原の格を落とすような振る舞いに意知は構わず出ていきます。
意知は、田沼意次の家臣・土山宗次郎に誰袖の行為を報告しておきます。抜け荷の証となる絵図は、湊 源左衛門によれば上方で騒ぎになっています。蝦夷と取引する商人は近江者が多いようで、宗次郎は、絵図とともに松前家の抜け荷を訴え出てくれる者も合わせて平秩東作に探させるつもりです。意知は『赤蝦夷風説考』を著した仙台藩江戸詰め藩医・工藤平助と対面し、源左衛門の訴えをどう考えるかと問いかけます。
耕書堂では、唐来三和(とうらいさんな)の話に大笑いする蔦屋重三郎(蔦重)ですが、目の前にある折られた筆を見つめる喜多川歌麿は、断筆宣言をした恋川春町のことが心配で、そろそろ迎えに行った方がいいと勧めます。あの宴の日、「俺たちは屁だァ!」という大田南畝の叫び声が耳に残っているのか、春町はうつろな目で「屁」の字だけを書き続けていますが、そこに蔦重が現れます。
蔦重は朋誠堂喜三二の新作『長生見度記(ながいきみたいき)』の画付けをお願いしたいと原稿を持って来ました。さらには次の戯作をと求める蔦重に、筆を折ったと春町は主張を繰り返します。“てめぇはただの盗人”と暴れた春町と、みんなまたご一緒したいと言っているそうですが、彼らと席を共にしたくないと春町自身が距離を置きたいわけです。
政演が酔っていたのもありますが、歌詠んでといったところに食って掛かった春町にも非があると蔦重は諭します。青本が元ネタを引っ張ってくるのは当たり前だし、それを盗人呼ばわりされた北尾政演がかわいそうだと蔦重に言われて、春町はさらに心を閉ざします。「ただの遊びに拙者一人がカッカきておるのだろうな。俺は戯(たわ)けることに向いておらぬのだ!」
耕書堂に戻った蔦重は、自分のいい方が良くなかったかと反省しますが、いちいち考えすぎる春町にも……。そこが春町のいいところと笑う歌麿に、蔦重は春町が受けてくれなかった『長生見度記』の画付けを“春町風”で託します。『友人恋川春町が作りし無題記をよみつつ……いやましに治まれる御代のさまを見侍りしが、無題記の趣きに少しも違うことなし』 その文章に、喜三二の春町への思いを感じる歌麿です。
大文字屋市兵衛は、誰袖の話し相手になってやってくれと蔦重を大文字屋に呼びます。手すさびに青本を書いているという誰袖は、抜け荷の証を立てるにはどうするかと助言を求めます。そうだなぁ……と考えているちょうどその時、松前の家老(松前道廣の弟)からの呼び出しが来たと志げと市兵衛が騒いでいて、考えている蔦重を置いて誰袖がその相手をすると名乗りを上げます。
花魁を呼んだのは松前家の江戸家老・松前廣年でした。廣年はずっと江戸詰めで絵も学びつつ、自由に使える金は少ないといいながら、その腕には美しい石を腕飾りにしてつけています。誰袖はそれに目をつけ、初会で口を聞かないという暗黙の了解を破って廣年に近づき、その手を握ります。「これは……何という石でありんす?」
『長生見度記(ながいきみたいき)』に画を付けるなら喜三二と打ち合わせたいと言って耕書堂を出てきた歌麿は、喜三二と春町の屋敷を訪問していました。喜三二も春町のことが気になっていたので、ちょうどよかったです。春町の文机には“恋失” “川失” “春失” “町失”と造られた文字が書かれていて、喜三二は「何だこりゃ」と見つめます。
めんどくさそうに対面に現れた春町に、喜三二は「俺のこれ、お前さんの無題記を元にしたおっかぶせなんだけど、怒んない?」と許可を求め、“春町風に”画付けを頼まれた歌麿も「真似ていいですか」と尋ねます。喜三二作・春町画のタッグをみんな楽しみにしていると説得する歌麿に、勝手にすればいいと春町はそっけない態度です。
ならばと歌麿は膝を進め、ここのページは春町ならどういう絵をつけるかと助言を求めます。春町そっくり! が蔦重の指図なのです。蔦重都合で人まねばかりさせられる歌麿に、いやにならないのかと春町は尋ねますが、ふと火事の映像がフラッシュバックします。「己の内から出てくる色って……あまりいいものになる気もしねえんですよね」
喜三二も春町に復帰を促しますが、世の中は自分を求めていないと感じていて、その一歩が踏み出せません。『御存(ごぞんじの)商売物』は『辞闘戦(ことばたたかい)』の百倍面白いと評価するだけに、負け惜しみだったわけです。絵もうまくなく重い春町は、『御存商売物』を読んだ時に引導を渡された気がしたのです。『無題記』も政演が手掛ければ倍は面白くなっていたと感じられて仕方がないのです。
春町先生の絵、好きですよと歌麿は口を開きます。どこか童のような幼さが残っていて、理論抜きに好きなのです。喜三二も春町の作品が面白いから真似したがると説得します。『御存商売物』には地口(じぐち)の化け物が出てこず寂しかった──歌麿と喜三二が共感して盛り上がる前で、春町は涙を浮かべます。「俺のような辛気臭い男がいてよいのか……明るく戯けることこそ上々な笑いの場に」
耕書堂には大田南畝や朱楽菅江(あけらかんこう)、元木網(もとのもくあみ)が来ています。春町が筆を折ったと言っても、その原因となったことが思い出せません。所詮周囲はそんなものと蔦重はため息をつきますが、南畝は春町の皮肉が聞いた歌がえらく気に入っているようです。蔦重はひらめきます。これまでにじみ出ていなかった皮肉の味を利かせた春町の作品で、「そうきたか」と言わせるのです。
歌麿が春町と喜三二を連れて耕書堂に戻って来ました。木網は気を利かせて南畝と菅江を連れて耕書堂を出ていきます。春町の前に座った蔦重は折られた筆を置き、もう一度書いてほしいと手をつきます。皮肉と聞いて春町は、懐から紙を取り出します。“恋失”と書いて未練と読む。“川失”で枯れる。“春失”ははずす。“町失”で不人気。そして「屁」の字に囲まれた「屍」で“ひとり”と読む──。
こういう作り文字に蔦重は大爆笑です。『小野篁歌字尽(おののたかむら うたじづくし)』は往来物の一種で、同じ部首を持つ漢字を並べそれを調子よく覚えられるように工夫したものです。
春つばき 夏はえのきに 秋ひさぎ 冬はひらぎに 同じくはきり
“春つばき”→椿、“夏はえのき”→榎、“秋ひさぎ”→楸、“冬はひらぎ”→柊(ひいらぎ)、“同じくはきり”→桐、という『小野篁歌字尽』の体裁で、春町はその作り文字をやってみたいわけです。
蔦重は、これを吉原を舞台にしてやってみないかと持ち掛けます。吉原がらみのあれこれを皮肉の利いた春町文字にするわけです。門がまえに“絵本”で「大門の本屋」つまり蔦屋と読む。本の問屋→ほんとんや→「調子がよくてホントいや!」 春町のその即座の再現力にみんな脱帽です。
こうして春町の吉原取材が始まりました。“女男”と書いて「見立て」。吉原格子を境に座る女郎と見つめる男の姿です。“男女”と書いて「後朝(きぬぎぬ)」、“金死”で「野暮」、“金生”(金を生かす)で「通」、“金無”(金を無くす)のは「息子」で、“金番”は「親父」といった具合。きくに引き込まれて二文字屋に入り込んだ春町は、女郎たちにもヒントをもらいながら次々と春町文字を生み出していきます。
宗次郎は意知に綺麗な腕飾りを渡します。それは廣年がつけていたオロシャ産の琥珀石でつくられた腕飾りで、これこそ抜け荷をしている証として誰袖が宗次郎に送りつけたものです。しかし意知は抜け荷の証にはならないと誰袖に突き返します。蝦夷と交易する商人を通じて手に入れたと言われるだけで、蝦夷を通さずに品を手に入れてこそ抜け荷の証拠となるのです。
間者ごっこはよしにしておけと意知は諭しますが、誰袖は廣年に抜け荷をさせるよう仕向けてはと提案します。自由に使える金があまりない廣年は、儲け話に乗ってくるのではないかというのです。誰袖が思うよりきな臭い話と意知はやんわり断りますが、吉原は騙し合い・駆け引き・修羅場と日々が戦場なわけです。意知は誰袖を見込み、証を立てれば誰袖を落籍すると約束します。
その年の暮れ、蔦重は世話になった戯作者や絵師、職人たちを労う会、いわば出版社の忘年会を開きます。蔦重は一人ひとりに酒を注いで回り、“富士より高いありがた山”と頭を下げています。その中には職人四五六や、西村屋で細見改めをしていた小泉忠五郎もいました。西村屋でさんざんな扱いを受けていた忠五郎に、蔦重が声をかけて移ってきたようです。
こっちがよかった、と春町の『廓𦽳費字尽(さとのばかむら むだじづくし)』を見て北尾政演は悔しがります。春町と酒を呑んでいた喜三二は、政演と話してきたらどうだと勧めます。勇気を出して春町は、それのおっかぶせでも作ってくれと政演に告げます。吉原の浅いところしか見れておらず、政演のもっと深くうがった目で見たものを読みたいというのです。「盗人呼ばわり、すまなかった」
作も絵もやる春町と政演、もっと仲良くなれそうだと蔦重と歌麿が胸をなでおろしたころ、春町の放屁踊りが始まります。初めこそ快調に屁を出していた春町でしたが、ついに力尽きたか、口で「ぷっぷー」と言ってみなを笑わせます。「烏帽子着る 人真似猿の 尻笑い 赤恥歌の 腰も折り助……狂名、酒上不埒(さけのうえのふらち)!」
外は雪が舞っていました。店から出てきた意知をちらりと見た蔦重は、“花雲助(はなのくもすけ)”と呼ばれていた男を、以前田沼屋敷で見たことを思い出します。とはいえ蔦重は田沼の家老と勘違いしていたようで、実は跡取り息子と聞いてとても驚きます。意知は国を開き鉱山を開いて幕府の御金蔵を立て直すため、蝦夷地を上知しようとしていることを打ち明け、蔦重に仲間に加わるよう勧めます。
作:森下 佳子
音楽:ジョン・グラム
語り(九郎助稲荷):綾瀬 はるか
題字:石川 九楊
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[出演]
横浜 流星 (蔦谷重三郎)
染谷 将太 (喜多川歌麿)
福原 遥 (誰袖)
桐谷 健太 (大田南畝)
宮沢 氷魚 (田沼意知)
木村 了 (平秩東作)
栁 俊太郎 (土山宗次郎)
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安田 顕 (平賀源内(回想))
中村 蒼 (次郎兵衛)
伊藤 淳史 (大文字屋市兵衛)
六平 直政 (半次郎)
山村 紅葉 (志げ)
かたせ 梨乃 (きく)
橋本 淳 (北尾重政)
古川 雄大 (北尾政演)
岡山 天音 (恋川春町)
尾美 としのり (朋誠堂喜三二)
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原田 泰造 (三浦庄司)
渡辺 謙 (田沼意次)
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制作統括:藤並 英樹・石村 将太
ブロデューサー:松田 恭典・積田 有希
演出:深川 貴志
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『べらぼう -蔦重栄華乃夢噺-』 第23回「我こそは江戸一利者なり」
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