大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(25)灰の雨降る日本橋
丸屋買い取りの場にいた柏原屋が突然耕書堂を訪れ、「ウチからあの店買いまへんか」と言い出します。もともと鶴屋からの依頼で買い取ったわけですが、そこまで乗り気でなく執着していないということと、今年の江戸は冷夏で米の値がとても上がるのではないかという話から、ならばと蔦屋重三郎(蔦重)に話を持ってきたわけです。無論蔦重にも異論はなく話を受けますが、吉原者が……ということが気がかりです。
かつて松前家が躍起になって探していた「抜け荷の絵図」ですが、騒ぎになった時に須原屋市兵衛が所有者から譲り受けていて、市兵衛はそれを田沼意知に提供します。買い受けよう! という意知に、お代は結構と断る市兵衛ですが、その代わり、仲立ちした蔦重が日本橋に出店するので助けてもらいたいと条件を出します。安永時代の例のお達しの事情を聞いた意知は、取り計らいを約束します。
蔦重は、日本橋と揉めずに仲良くやる方法を考えています。その時江戸の町を大きな爆発音と揺れが襲います。天明3(1783)年 夏の「浅間焼け」、浅間山の大噴火が起きたのです。噴煙は成層圏にまで達し、江戸の町にはその灰が降る始末です。蔦重は降り続く灰を見て、「恵みの雨……こりゃ恵みの灰だろ」とニヤリとします。
昼間だというのに薄暗く、困惑するていですが、そこに家財道具を背負った蔦重が現れます。家屋敷を買い取ったことを伝え、自分の店は自分で守ると言って、古着物を瓦の隙間に差し込んで灰が入り込まないようにします。みの吉は、ていに言われて着物をはがそうと屋根に上りますが、蔦重に止められます。咎めに来た鶴屋喜右衛門も、蔦重のように着物をかき集めることにします。
大文字屋の前で火山灰の除去にあれこれ指示を出す意知を、二階から花魁誰袖(たがそで)が見つめています。そこに女郎わかなみが近づき、ひとっ風呂いかがでありんす? と声をかけます。「わっちはその方の“色”でありんす!」と誰袖は表情を一変させ、二階から飛び降りわかなみを突き飛ばします。「この盗人女郎が!」
わかなみの言う通り、1年半も経つのに色だと騒ぎ立てるのは自分だけで、誰袖は不安でいっぱいです。役目に感謝している意知は誰袖の手を握り、身請けの籍は果たすと返答しますが、籍だけ? とこれまた不安に襲われる誰袖です。そこに志げがかけつけ、松前廣年が来たと告げます。
廣年が持参した琥珀を大文字屋市兵衛が改め、証文を作ることにしますが、名前は松前ではなく「越中屋」でと言ってきました。女郎遊びはやめたはずの廣年は、誰袖を指名し呼ぶよう求めます。このような商いの種まで仕込んだのだから、誰袖は自分に夢中のはずだと聞きません。琥珀が来た、関係を断ったではいらぬ疑いを抱かせると、誰袖は廣年の座敷に向かいます。
あくる日も丸屋に来て、作業の続きをしようとする蔦重に、みの吉は握り飯を用意します。言われるままに手を洗い、握り飯にかぶりつく蔦重は「んめぇ!」と顔をほころばせます。最初こそ少し堅苦しい態度のみの吉でしたが、そんな前向きな蔦重と会話していて、おのずと笑顔がこぼれます。蔦重とみの吉の笑い声を聞きながら、ていは漢籍を読んでいます。
今すぐ川や海、空き地に灰を捨てるようにと奉行所から指図が来ました。蔦重はみんなでやろうと提案し、通りの真ん中に箒で線を引きます。左組と右組、先に灰を捨てたほうが勝ち。遊びじゃねえと声が上がりますが、「遊びじゃねえから遊びに変えるんです!」と言い返します。勝った組には蔦屋から10両出すと聞き、喜右衛門は25両出すと張り合います。蔦重はいたずらっ子の笑顔で作業に入ります。
蔦重も喜右衛門も全力疾走で、桶に入った灰を堀に捨てていきます。そして最後の一杯になった時、喜右衛門より先に捨てたい余り、堀に飛び込んだ蔦重はいつまで経っても浮かんできません。おぼれてないか? と何人かが堀に飛び込み、蔦重を引きずり上げます。蔦重が無事でよかったと喜右衛門は笑顔を見せますが、それを蔦重に指摘されてムッとします。「私はいつだって、にこやかです」
勝負は引き分け。打ち上げが終わり丸屋に戻ると、ていは屋敷内の畳を拭き上げていました。手伝います、ここは俺の店なんで、と蔦重も雑巾を手に取り掃除を始めます。ていは陶朱公(とうしゅこう=范蠡(はんれい))という、中国の越の武将ながら引退後は国を移り、商人としてその地を栄えさせた人物を挙げ、蔦重にそのような才覚があると見抜きます。「店(たな)を譲るならばそういう方にと思っておりました」
みの吉ら奉公人の面倒を見てほしいというてい自身は出家を考えています。蔦重は思い切って、陶朱公の女房になりませんか? と声をかけます。ていが人づきあいが苦手なら、蔦重は人づきあいしか能はなく学はありませんが、こんなに大きな店で過ごしてきたていと力を合わせれば、いい店ができると思うのです。「日本橋では、店ではなく“店(たな)”の方が馴染みます。日本橋の主に“俺”はそぐいません」
夜遅く、大文字屋に入った意知は、誰袖に扇子を贈ります。袖に寄する恋──。かつて意知と誰袖が初めて出会った“土山宗次郎主催の花見の会”で、お題として出されたものです。あの時の意知(花雲助)は何も詠まなかったのですが、それを今回詠んできたのです。
西行は
花の下(もと)にて 死なんとか
雲助袖の 下(もと)にて死にたし
意知も誰袖に心を奪われつつあり、身体の関係にならないのは間者としての働きをさせている後ろめたさからです。好いた女に何をさせているのかと、意知の中でも葛藤が続いていたのかもしれません。蝦夷のこともやめてしまえば楽ですが、蝦夷は蝦夷で自分の思いがあるわけです。私の弱さを許してほしいという意知を、誰袖は見つめます。「ちょいとわっちの袖の下(もと)で死んでみなせんか。形だけ」
初めこそ躊躇する意知ですが、求められるままに誰袖に膝枕をしてもらいます。まるで望月のようだ、とつぶやくと、
願わくば
花の下(もと)にて 春死なん
その如月の 望月の頃
という西行の辞世の句を誰袖は口にします。ふたりきりの永遠の時間です。
のちに意知は上知(あげち)の下調べのために間者を蝦夷に放ち、田沼意次は将軍徳川家治にそれを報告します。家治は意次に、意知を若年寄にせぬかと提案します。田沼派で固めてきた意次ですが、それはさすがに早すぎると固辞します。しかし家治は、現在の奏者番では表立って活動することもできず、若年寄であればいずれ蝦夷のことを意知に一任することもできるのです。
蔦重は、ていを妻に迎えることにします。ただし、商いのあれこれを教える関係だけならという条件付きです。いろいろあって男にはこりごりしているようです。喜多川歌麿は雇いにすればいいと至極もっともなツッコミです。夫婦になれば自分はどこに住めばいいのかとか、歌麿もいろいろ考えるところがあるようです。「お前は俺の義弟なんだから、堂々と一緒に住みゃいいんだよ。な!」
というわけで、駿河屋2階の座敷で蔦重とていの祝言が執り行われます。参列したのは市右衛門・ふじ夫妻、次郎兵衛・とく夫妻とその子のぶ・こう・忠吉です。こっそり覗く丁字屋長十郎や若木屋与八は、蔦重の隣に座る美しい女性が、あの眼鏡をかけたていとは信じられません。ただ、眼鏡がないと盃もとれず、手許不如意につき、と許可を得て眼鏡をかけると、やっぱり丸屋の女房です(笑)。
そこに喜右衛門がやって来ました。これまでのこともあり親父たちは反発しますが、お通しくだせえ! と蔦重は迎え入れます。喜右衛門は、お祝いの品として蔦屋の暖簾を納めます。灰の始末など、江戸一のお祭り男は、きっとこの町をいっそう盛り上げてくれよう……と町の総意が落ち着いたのです。「日本橋通油町は蔦屋さんを快くお迎え申し上げる所存。灰降って地固まる。これからはよりよい縁を築ければ」
こうして日本橋に『蔦屋耕書堂』の店が開店します。店先には通油町から贈られた酒樽が積まれ、いただいた暖簾もかかって、いい感じの店に仕上がっていますが、ていは蔦重をじっと見つめて無言です。もしかしたら、蔦重が言っていた「丸屋さんののれんは残しますよ」という約束は? と思っていたのかもしれません。客の入りもよく活気があふれています……が、その先で思わぬ伏兵が待ち受けていました。
作:森下 佳子
音楽:ジョン・グラム
語り(九郎助稲荷):綾瀬 はるか
題字:石川 九楊
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[出演]
横浜 流星 (蔦屋重三郎)
染谷 将太 (喜多川歌麿)
橋本 愛 (てい)
福原 遥 (誰袖)
宮沢 氷魚 (田沼意知)
井之脇 海 (小田新之助)
小野 花梨 (ふく)
木村 了 (平秩東作)
栁 俊太郎 (土山宗次郎)
中川 翼 (みの吉)
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伊藤 かずえ (マツ)
中村 蒼 (次郎兵衛)
本宮 泰風 (若木屋与八)
正名 僕蔵 (松葉屋半左衛門)
伊藤 淳史 (大文字屋市兵衛)
山路 和弘 (扇屋宇右衛門)
六平 直政 (半次郎)
丸山 礼 (とく)
安達 祐実 (りつ)
山村 紅葉 (志げ)
飯島 直子 (ふじ)
風間 俊介 (鶴屋喜右衛門)
眞島 秀和 (徳川家治)
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高橋 克実 (駿河屋市右衛門)
里見 浩太朗 (須原屋市兵衛)
渡辺 謙 (田沼意次)
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制作統括:藤並 英樹・石村 将太
ブロデューサー:松田 恭典・積田 有希
演出:大原 拓
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『べらぼう -蔦重栄華乃夢噺-』 第26回「三人の女」
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