大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(23)我こそは江戸一利者なり
田沼意次・意知親子らによる蝦夷地の上知について、仲間に加わるよう意知に勧められた蔦屋重三郎(蔦重)ですが、少し考えた後、自分のことで手いっぱいだと断ります。意知は無理に引き込むようなことはせず、花魁のためにも他言無用で頼むと言いおくことを忘れません。花魁のため──? 意知の敵娼(あいかた)は花魁誰袖(たがそで)で、蔦重は誰袖に抜け荷のことを聞いてきた理由を問いただします。
しかし誰袖はとぼけて答えてくれません。睨みつけた蔦重は大文字屋の二代目市兵衛に伝えようとしますが、市兵衛は「“ぬクけケにキ”のからくり」のことで頭がいっぱいです。ぬクけケにキ……ぬ け に! 蔦重はきな臭い話だと市兵衛に言い寄りますが、市兵衛は誰袖が花雲助(はなのくもすけ=意知)に身請けされればどれだけ金が入って、どれだけ名が上がるかと、あくまで経営者としてしか考えていない様子です。
須原屋市兵衛は、須原屋で刊行した四方赤良編『万載狂歌集』を100部、蔦重へ横流しします。これは抜け荷のようなものだから店先で捌くなと注意喚起します。せっかく抜け荷という言葉が出てきたので、蝦夷地のことを市兵衛に尋ねます。蝦夷地の地図を開いた市兵衛は、松前家と蝦夷地、そしてその先のオロシャを指し示します。地図に印がついている理由を蔦重が尋ねると、市兵衛はコッソリと耳打ちします。
高き名の
ひびきは四方(よも)に わき出て
赤良赤良と 子どもまで知る
あからなのに赤くない! と幼子がつぶやけば、大田南畝は赤く染めた筆をほほに塗ってみせます。天明3(1783)年、大田南畝(=四方赤良)が大ブレーク。その勢いに乗って蔦重も大ブレークします。狂歌の指南書『濱乃きさご』は飛ぶように売れ、その他の品もとても評判が良く。このころから青本は『黄表紙』と呼ばれるようになっています。時間が経つと青い表紙が黄色に変色したからだそうで、とにかく蔦重は江戸一の目利き、「利者(ききもの)」と言われるようになったのでした。
話があって耕書堂を訪ねた駿河屋の市右衛門と大黒屋のりつですが、蔦重はひっぱりだこで、駿河屋のふじや松葉屋のいねが代わってお客さんの相手をしています。ちなみに蔦重、今日は太夫の贔屓筋と相撲見物に出かけ、富本本の打ち合わせがあり、土山宗次郎との宴席と予定が詰まっています。ふじは“風雲児”と蔦重を評しますが、市右衛門は「吉原におんぶに抱っこでなにが風雲児だ」と不満顔です。
こちらの風雲児──児というより“爺”ですが、田沼意次は今や要職を田沼派で固め終え、息子を特例で奏者番に抜擢するなどの無双ぶりを見せつけていました。長谷川平蔵宣以らはみな『濱乃きさご』を持っていて、狂歌をたしなみ宗次郎にコネを作りにいくありさまです。それを持っていない佐野政言(まさこと)は戸惑いを見せます。
その夜、土山邸酔月楼では芸者たちが舞う中、酒が振る舞われていました。政言は、これが350俵組頭の屋敷なのかと衝撃を受けます。意次から目をかけられれば350俵取りであってもこういうこともできるといういい例です。それにしてもなかなか宗次郎に近づけない平蔵は、和泉屋と楽しげに会話している蔦重の姿が目に入ります。見知りを作ってやりたいという平蔵の頼みで、蔦重は宗次郎に仲介します。
宗次郎は、江戸一の利者は350俵取りの武士を後回しかと冗談を言います。蔦重は平蔵や政言らを紹介しますが、政言の言葉を折って南畝は「かの有名な火付盗賊改方のご子息」平蔵に食いつきます。平蔵はモテそうな狂名を依頼し、稀代のモテ男・在原業平にちなみ、「あり金はなき平」と命名します。政言もその波にあやかりたいのですが、引っ込み思案でなかなか思うように前に出ることが出来ません。
蔦重は政言に声をかけ、宗次郎の元に連れて行こうとしますが、こういう場に慣れない政言はそれを断り、親の加減もよくないことを理由に土山邸を後にします。宗次郎は意知の誘いを断った蔦重に、蝦夷地で本屋商いを取り仕切ることもできるだろうにと笑います。「買ってやろうか、店。日本橋などにでも。その方が赤良の本ももっと売れようし」
耕書堂に戻ってきた蔦重は、日本橋に店を出さないかと宗次郎に言われたと喜多川歌麿に伝えます。それはみんなに言われてきた蔦重ですが、宗次郎の場合は毎年自分に運上(税金)を納めれば、出店の金も面倒見てくれるというのです。歌麿は、得するのは土山さまだけだ、と分析します。「蔦重は吉原にいるからちょいとかっこよしなんだよ。江戸一の利者が江戸のはずれの吉原にいる、それが粋に見えんだよ」
市右衛門とりつに呼ばれた蔦重は、名が上がったのだから店の引き札や品を入れる袋やら作ってもらいたいと話を持ち掛けます。孫のために赤良に狂歌集を作ってほしいという声には、無理でさね! とあっさり断ります。市右衛門は、最近の蔦重は調子に乗っている、吉原のおかげで蔦重はここまでなれているんだと説教します。蔦重の乱雑な返事に市右衛門は怒り、りつは慌ててとりなします。
一方、宗次郎と吉原で酒を呑む意知は、宗次郎が蔦重に日本橋出店の話を持ち掛けたと知ります。江戸一の利者の本屋は土山のもの、となればおのずと蔦重を蝦夷の話に引き込めると宗次郎は胸を張ります。いずれは蝦夷での本屋商いのうま味も懐に入れてしまおうという、宗次郎の魂胆に意知は苦笑します。すると隣室から叫び声が聞こえます。「は? 琥珀がたくさん欲しい!?」
意知らは襖を少し開けて隣室の様子をうかがいます。隣室には松前廣年と誰袖、市兵衛がいるわけですが、これも買収された市兵衛による手配です。琥珀の腕飾りの美しさに、市兵衛は揃いのかんざしにしてつけさせたいというのです。琥珀は相当値が張るわけで、誰袖は廣年が直接オロシャから買い付ければ安く手に入ると微笑みます。しかし廣年は、それでは抜け荷になってしまうと首を振ります。
異国と勝手に取引するのはご法度であり、下手すればお取り潰しですが、あまりに誰袖がしつこいので、さすがの廣年も「差し出口を聞くな! 女郎ごときが!」と叱りつけてしまいます。誰袖は、廣年の手元に金が残ればもっと会えると思ったのにと涙を落とし、廣年はなぐさめた後、考えてみるとの返事を引き出します。意知は、色目を使って見つめてくる誰袖の視線をじっと受けています。
西村屋から引き抜いた小泉忠五郎は、蔦重がまだ摺物屋の請負仕事をやっていることに呆れます。蔦重も吉原から言われれば断れないわけです。忠五郎は、鶴屋の向かいの店が空くらしいと情報を持ち込みます。千両ぐらいと聞いて蔦重はたちまち暗い顔になりますが、いっそ日本橋のほうから言ってきてくれないかなぁなどと思っているところに、日本橋のお偉方が話があるとりつが呼びに来ました。
蔦重は、りつと市右衛門とともに呉服屋の白木屋彦太郎と駿河屋で対面します。西村屋の『雛形若菜』がもっと人気になるよう、吉原に町を上げて力を貸せ──。耕書堂の『青楼名君』も負けていないと蔦重は主張しますが、鶴屋や西村屋には諸国の本屋から大口の買い付けが来るわけで、名古屋、京・大坂、北は仙台にまで流れています。そこが耕書堂と西村屋の違いというわけです。
吉原の女郎の名が日本各地に広まるのはいい話だし、『青楼名君』を扱わないというわけでもないし、話を受けるよう勧めるりつですが、蔦重は『青楼名君』が江戸の外まで流れればウチを盛り上げようとしてくれるかと彦太郎を見据えます。「見ててくだせえ。あっという間に日の本中に流して見せますから」 彦太郎はしばらく待つと返事して帰っていきます。
市右衛門は、吉原あっての蔦屋だと言い張りますが、近ごろは耕書堂に金を出したいという人もいると明かされ、市右衛門は蔦重につかみかかります。そのとき座敷に入ってきた松葉屋の半左衛門は、和泉屋が亡くなったと話を持ち出し、世話になった蔦重に見送りに行くかと尋ねますが、出てる暇なんてねえだろと市右衛門に言われ、蔦重はカチンときます。「じゃあそうさせてもらいまさ」
西村屋の盛況ぶりは見てわかるほどで、蔦重は何人かに声をかけてみますが相手にされません。蔦重は須原屋市兵衛に、錦絵を書物で流すことを提案しますが、無理だと即答されます。そんな市兵衛に、日本橋に出る気はないかと尋ねられます。日本橋に出ればこの錦絵は一発で方々の国に出回ることになるわけです。日本橋に店が出せるのは一流もの、そこの品物なら間違いないと買っていくわけです。
蔦重にとっては吉原を怒らせることは何よりも恐れていることです。多額の借金があるし、催しに出られなくなってしまう可能性すらあります。いろいろ考えた蔦重は、無理ですねとうなだれますが、それでも市兵衛は蔦重に日本橋に出店してほしいわけです。「江戸で一番面白えものを作ってるんだ。そいつをこの日の本の津々浦々まで流すということは、この日の本の人々の心を豊かにすることじゃねえのか?」
須原屋からの帰り、和泉屋の近くを通った蔦重は、屋敷に向かって黙って手を合わせます。中では吉原の親父たちも参列していますが、市中の人たちが吉原の者と同じ扱いなら帰ると言い出したようで、長男の主は庭に場所を移るよう促します。親父たちはその点を何度も確認したうえで参列していますが、扇屋宇右衛門は「いくぜ」と立ち上がり、雨の降る中を庭に立って葬儀を見つめます。
思い返せば、蔦重は和泉屋の荷物持ちをしたから意次に会えたわけで、蔦重にとっては和泉屋と出会ったことがすべての始まりでした。
「(意次)お前は何かしているのか? 客を呼ぶ工夫を」
「(平賀源内)お前さんはさ、これから板元として書をもって世を耕し、この日の本をもっともっと豊かに国にすんだよ」
葬儀から戻ってきた親父たちはびしょ濡れで、いつもの“吉原もんとは”って扱いを受けたのを知った蔦重は、文箱から源内が書いた『耕書堂』の紙を取り出し、見つめます。蔦重に茶を入れた歌麿は、その背中を押します。「行きなよ蔦重。何がどう転んだって、俺だけは隣にいっからさ」
親父たちの会合では、先の和泉屋の葬儀で受けた仕打ちから、宇右衛門の怒りは相当なものでした。そこに蔦重がやって来て、日本橋に店を出させてほしいと頭を下げます。今の吉原の店は、人に任せたり畳んだりいろいろやりようがありますが、蔦重自身が日本橋に移りたいと力説します。それを聞いた市右衛門は逆上し、半左衛門に止められますが、いつものように階段を蹴落とされます。
蔦重は、俺ほどの孝行息子もいないと階段を見上げます。江戸外れの吉原者が日本橋の真ん中に店を張る。商いを切り回せば誰にも蔑まれたりしない。生まれや育ちは人の値打ちとは関わりない。それが、この吉原に育ててもらった拾い子の恩返しなのだ。理不尽な仕打ちを受けたばかりの親父たちは、身につまされる思いがして何も言い返せません。
りつは、しくじれば“所詮吉原者は”と言われるだけと、勝ち目を尋ねます。蔦重には歌麿がいるし、朋誠堂喜三二、恋川春町、四方赤良、北尾重政、北尾政演らお抱えのほか、富本豊前太夫、唐来三和、志水燕十ら最強の仲間がいます。「俺の抱えは日の本一に決まってる! 俺に足んねえのは……日本橋だけなんでさ」
政言は父親・佐野政豊の世話をしていました。政豊に肩を貸して、庭に咲く桜の木の元に連れていきます。幸せそうに桜の木を見上げる政言ですが、佐野の桜はいつ咲くのだ? と政豊はつぶやきます。一瞬表情が固まる政言ですが、控えめに振り返り、微笑みかけます。「もう……咲いておりますよ、父上」
日本橋の鶴屋の向かいの本屋「丸屋」が売りに出されることになりました。富は屋(おく)を潤し、徳は身を潤す──。丸屋の娘・ていは、この売りに出した建物が日本橋のためになる人に譲れれば本望だと鶴屋喜右衛門に伝えますが、「吉原耕書堂の蔦屋重三郎だけは、1万両積まれようともお避けいただきたく」と付け加えるのも忘れません。
吉原駿河屋での親父たちの会合では、耕書堂の往来物が丸屋の息の根を止めたらしいと蔦重が岩戸屋から聞いた話もあり、ていの元婿が扇屋の花扇に入れあげたからだと半左衛門が聞いた話もあり、ともかくていには吉原にも耕書堂にもいい印象は全くないようです。そんな時、宇右衛門はひとりの“俺たちの奥の手”を連れてきます。
作:森下 佳子
音楽:ジョン・グラム
語り(九郎助稲荷):綾瀬 はるか
題字:石川 九楊
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[出演]
横浜 流星 (蔦谷重三郎)
染谷 将太 (喜多川歌麿)
橋本 愛 (てい)
福原 遥 (誰袖)
桐谷 健太 (大田南畝)
宮沢 氷魚 (田沼意知)
中村 隼人 (長谷川平蔵宣以)
栁 俊太郎 (土山宗次郎)
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安田 顕 (平賀源内(回想))
小芝 風花 (瀬川(回想))
峰 竜太 (熊野屋)
堀内 正美 (白木屋彦太郎)
田山 涼成 (和泉屋)
本宮 泰風 (若木屋与八)
正名 僕蔵 (松葉屋半左衛門)
伊藤 淳史 (大文字屋市兵衛)
山路 和弘 (扇屋宇右衛門)
安達 祐実 (りつ)
水野 美紀 (いね)
飯島 直子 (ふじ)
矢本 悠馬 (佐野政言)
吉見 一豊 (佐野政豊)
風間 俊介 (鶴屋喜右衛門)
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高橋 克実 (駿河屋市右衛門)
里見 浩太朗 (須原屋市兵衛)
渡辺 謙 (田沼意次)
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制作統括:藤並 英樹・石村 将太
ブロデューサー:松田 恭典・廣瀬 温子
演出:深川 貴志
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『べらぼう -蔦重栄華乃夢噺-』 第24回「げにつれなきは日本橋」
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