大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(26)三人の女
米がない! と松本秀持は老中らに報告します。浅間山の大噴火(浅間焼け)による灰と夏の寒さで著しい不作となっているのです。大坂堂島で米の値が吊り上がり、米問屋や仲買人、札差らが売り惜しみ、百文で六合という倍の相場になっています。水野忠友は、来年豊作になれば米の値は戻ると楽観視しすぎますが、田沼意次は米問屋らに米の値を下げさせ、仕入れ値で売り渡せと命じさせます。
この上は
なほたぬまるる 度毎(たびごと)に
めった取込む とのも家来も
という狂歌が出回り、三浦庄司は笑い、田沼意知は「一理あるな」と頷きます。
田に沼を
変へる手妻で 六合の
米を得させて 消ゆる百文
に至っては、さすが狂歌が流行しているだけあって、実に秀逸と笑い続ける庄司ですが、その手からその紙を取り上げ、笑っている場合か! と意次は激怒します。「天下のご政道が揶揄されておるのだぞ! ここを乗り切らねば……わしはもう終わりじゃ!」
そのころ、日本橋に移り晴れて大店(おおだな)の旦那となった蔦屋重三郎(蔦重)ですが、奉公人のかかりがすごいと驚きます。ていは、蔵の米が最後の1俵になったと伝え、これまた蔦重は大驚きです。このころの奉公人は基本的に住み込みで、その食事は店(たな)で賄う習わしでした。おかずが少ない分、米の消費量がとても多く、大店にとって米代は馬鹿にできない支出だったのです。
蔦屋では、蔦重とてい、奉公人だけであれば年内は大丈夫と言う試算でしたが、思わぬ伏兵──蔦屋が抱える者、付き合いのある者たちがかまわず飯を食いまくるのです。ていは、吉原でのもてなしをやめるとか、気軽に蔦屋に立ち寄るのを遠慮してもらうなど、付き合いを見直してはと提案します。しかし蔦重は、お抱え作家から新しい作家を紹介してもらえたり、新しい縁につながるとていを諭します。
おかわり! と茶碗を出す髪結いの女の横顔を見て、蔦重は表情が一変します。いつもの蔦重にしては珍しく「今さら何しにきやがった」と豹変します。うるせえババア! 出てけコラ! と女の襟をつかんで店から追い出そうとしますが、おっかさんを捨てんのかい!? と言われて、先に捨てたのどっちだよ! と売り言葉に買い言葉です。髪結いの女とは、蔦重の母・つよでした。
僭越ではございますが、と進み出たていは、『孝行したいときに親はなし』『鳩に三枝の札あり、烏に反哺(はんぽ)の孝あり』と言葉を並べ、つよは勝ち誇った表情を見せます。あ……とうつむいた蔦重は、やってられないという顔をしながら「入れ! べらバアめ!」とつよに言葉をあびせ、当面はていの部屋を使ってもらうことにします。
さっそく蔦重は駿河屋の市右衛門につよのことを報告します。ふじは嫁(てい)と姑(つよ)は合うのかと心配しますが、人の懐に入るのに長けているので、心配なさそうです。蔦重は独立してみて、米やお仕着せ、給金小遣い、薬代と、主の大変さを身に染みて感じたところですが、米のことで市右衛門に相談します。「米を安く売ってくれる馴染みの札差のお方、いませんかねえ?」
蔦屋に戻ってきた蔦重ですが、つよが通行人を引っ張って来て髪結いをしています。勝手に商いをするなと注意する蔦重ですが、お代はもらわないのだからとつよは気にしません。そこにていが錦絵を持ち込んで、結っている間に客に見てもらいます。眉間にしわを寄せていた蔦重は「なるへそ」とつぶやき、客に作者情報から物語のあらすじまで説明して、丁寧に売り込みます。
夕飯時、ていは“品の系図”を作っては? と提案します。客に対する蔦重の本の説明はとても面白く、それを奉公人みんなができるようにするために、手引きとして作るのです。賛成した蔦重は、その作成をていに任せることにします。ともかく、江戸に来た者は長旅で髪が乱れていて、その間に本を売り込むというアイデアはつよが出したようで、私に手合わせなよ! とニヤリとします。
喜多川歌麿は、蔦屋から出て行くと言い出します。歌麿がいなくても店は回るし、店にいてもやることがないからです。何も米が高い時に出ていくこともありませんが、いなくなれば多少は助かるだろ? と変な遠慮をします。お前は俺の義弟(おとうと)なんだから、と蔦重は肩を叩き、出ていくことは許しません。
ていは、蔦重と歌麿が義兄弟ということは、そういうことかと真面目に思い違いをしています。蔦重は笑って否定し、歌麿は“当代一の絵師”なのだから図々しくいてくれればいいのにと打ち明けます。それより蔦重は、ていが部屋をつよに取られ、イヤイヤ蔦重の部屋で寝起きをしなければならず、店を出ていきたいと思っているのではないかと心配しますが、別々に寝て変なうわさが立つよりはマシです。
雲助の名で吉原に通う意知を見かけた松前廣年は愕然とします。意知は遊興は控えろと言われたようで、誰袖(たがそで)を呼んだ意知は、しばらく吉原に来られそうにないと伝えます。米の値が上がり田沼批判が渦巻く中、若年寄になる予定の意知に批判の矛先が向かないようにするためかもしれません。誰袖にとっては出世話よりも身請けが大事なわけですが、それは蝦夷次第と大文字屋市兵衛は諭します。
蝦夷のほうですが、平秩東作たちは松前領に無事に入りました。合力する商人のもとに身を寄せて、湊 源左衛門らと抜荷の証しを得られやすい場所の打ち合わせをしています。そこに、勘定所で下働きをする善吉が合流し、源左衛門から頼みがあると依頼を受けます。
札差・大引赤蔵を招いた蔦重は、四方赤良直筆の狂歌扇を引き出物として贈り、米を安く卸せないかと相談します。おおよそ昨年の値段にと提案する蔦重に、おととしの米であればもっと安く卸せると赤蔵は笑顔を見せます。
米は本当はたくさん余っていて、米を持つ者たちが売り惜しみして値を吊り上げているのではないかと大田南畝(四方赤良)は考えています。意次が出させたお触れにもほとんどが従わない中、従った米問屋には民衆が押しかけ、「今日はここまで!」と断りを入れる店主に民衆は文句の嵐です。その騒ぎを見ていた蔦重は、米の値が上がれば本どころではなく、自分たちにも何かできることはないかと考え始めます。
搗(つ)く音に
無限の米を 降らせよや
ここに三俵 かしこに五俵
青天を見上げた南畝は詠み上げます。「言霊(ことだま)よ! 来い! 米来い!」と天に向かって叫ぶ南畝ですが、民衆たちも同じように天を見上げて叫び出します。その様子に蔦重は何かを思いつきます。
蔦屋ではていとみの吉が系図を作っていますが、それを眺めていた歌麿は、系図というより目録ですねとつぶやきます。作者と絵師で並べられているわけですが、それを内容でつなげてみては? と提案します。そして名前も記号化して、作者は○、絵師は□などすれば見やすくなりそうです。ていは、とびきりの才と歌麿を評価します。
そこに帰ってきた蔦重は、仕事だ仕事! と歌麿を呼びます。南畝と宿屋飯盛も一緒です。正月に狂歌集を出すらしいのですが、今から間に合うはずがありません。しかし蔦重は米の値を下げるためのものだから何としても出したいです。米粒ひとつ作れない自分たちができることといえば、天に向かって言霊を投げつけることだけです。歌に絵をぶつけて、黄表紙仕立ての狂歌集にするわけです。
江戸城では、御三家のひとつ・紀州徳川家の治貞が、下がらない米の値について意見していました。まさかの時のために城に備えたり町々に備えさせている“囲い米”を市中に開放すれば、この事態は収まるのでは? と言われてしまいます。「田沼主殿頭! 米はあれどまったく流れぬわけだが……足軽上がりがかような世を作り出した責めをどう負うつもりか? いつまでも紀州が支えると思うなよ!」
蔦屋では、みな黙々と製作に励んでいます。歌麿が描き上げた絵も、入銀する狂歌師が歌を変えたいと言い出せば、蔦重でも従わざるを得ません。「歌の都合でいちいちこっちが描き替えろってこと?」と歌麿はふくれますが、頼んだぞ、と蔦重に言われれば、仕方ないなあという表情になる歌麿です。
意知が蔦屋を訪ねてきました。御髪直しをしようとするつよを追い出し、応対する蔦重に、意知はどうすれば米の値が下がるか助言を求めます。ニヤリとした蔦重は、いま作っている『歳旦狂歌集』を意知に差し出します。次から次へとよく思いつくものだと意知は感嘆しますが、地本問屋に認められるために蔦重はいろいろやってきたのです。
あの当時、仲間なんて潰れてしまえばいいのに、と思っていました。そうすれば自分は本を勝手に売れるのに。だからこそ……と言いかけた時、意知は目をらんらんと輝かせます。「恩に着るぞ蔦重! この礼はそのうち! ありがた山だ!」と蔦屋を飛び出して行きます。慌てて来て頭を下げるていは、相当に偉いお武家様でも蔦重はつながりを持っていることに驚き、尊敬します。
みんなの努力の甲斐あって、何とか正月に間に合わせることが出来ました。どこを見てもめでたい仕上がりです。出来上がりを眺めながら、蔦重は歌麿のおかげだと労います。まぁ蔦重のいうことを何でもかんでも聞くのは歌麿しかおりません。蔦重は、出てくか? と挑むような眼をして聞いてみますが、歌麿は澄ました表情です。「俺、いないと困りそうだから……いてやるよ」
ていに依頼していた系図も出来上がりましたが、文を置いてていの姿が消えました。『つたないものですが、お約束の系図、出来上がりました。皆様のご多幸と蔦屋の繁盛を心よりお祈り申し上げます』 系図の出来上がりを見て顔を上げた蔦重は、ていを探しに行きます。歌麿はどこか気まずそうな表情です。
蔦重はていを追いかけ、ようやく発見しました。蔦重を見ていて、“江戸一の利者の妻は私では務まらない”と考えての家出でした。歌麿、つよ、作家仲間、偉いお武家様が集まる蔦屋の女将には、もっと華やかで才が長けた人がふさわしい。蔦重は、ていのことをつまんないと思ったことはないと微笑みます。真面目な顔をして面白いことを言うし、縁の下の力持ちのところも好きです。
出会っちまった、と思ったのです。自分と同じ考えを持ち、同じ辛さを味わってきた人がいたと。この人なら、この先山があっても谷があっても、一緒に歩いてくれるのではないか。「一緒に歩きてえって。おていさんは、俺が俺のためだけに目利きした、俺のたった一人の女房でさ」 蔦重が差し出した手を、ていは重ね合わせてしっかりつなぎます。
蔦重とていが迎えた“初夜”の、隣の部屋には歌麿が(笑)。よかったな蔦重……よかった。歌麿は涙ぐみ、布団に丸まります。
作品の一部が、“哥麿画”ではなく“哥麿門人 千代女画”となっていることに、蔦重が気づきます。もちろん描いたのは歌麿本人ですが、めでたいことが作品のテーマなら、歌麿に弟子がいるという、いかにも売れている感じでめでたいわけです。なるほど、と蔦重は頷きます。ちなみに女名である理由は……歌麿が生まれ変わるなら女がいいからです。
意次は、米に関わる米仲間をしばらく廃止してはどうかと治貞に提案します。株仲間は本来、物の値段を抑えるはずのものでしたが、今は株仲間が結託し、値を吊り上げている元凶になっているわけです。これを一旦ないものとし、誰でも米を売っていいということにすれば、安く売って儲けたい、この機に乗じたいと考える欲深な者が出てくると思われます。結果、そうはさせないとみんなが値を下げる方へ向かうのではないかと、意知は説明します。
こうしてひとまず難局を乗り切った田沼親子、ここからが正念場です。しかしその意知の姿を見送るふたりの男がいました。ひとりは系図を渡しておいた佐野政言、そしてもう一人は松前廣年です。そのころ、一橋治済のもとには松前道廣が訪問していました。
作:森下 佳子
音楽:ジョン・グラム
語り(九郎助稲荷):綾瀬 はるか
題字:石川 九楊
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[出演]
横浜 流星 (蔦屋重三郎)
染谷 将太 (喜多川歌麿)
橋本 愛 (てい)
福原 遥 (誰袖)
桐谷 健太 (大田南畝)
宮沢 氷魚 (田沼意知)
木村 了 (平秩東作)
中川 翼 (みの吉)
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林家 たい平 (大引赤蔵)
島本 須美 (たか)
高岡 早紀 (つよ)
伊藤 淳史 (大文字屋市兵衛)
飯島 直子 (ふじ)
又吉 直樹 (宿屋飯盛)
古川 雄大 (北尾政演)
えなり かずき (松前道廣)
矢本 悠馬 (佐野政言)
吉沢 悠 (松本秀持)
相島 一之 (松平康福)
生田 斗真 (一橋治済)
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原田 泰造 (三浦庄司)
高橋 克実 (駿河屋市右衛門)
高橋 英樹 (徳川治貞)
渡辺 謙 (田沼意次)
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制作統括:藤並 英樹・石村 将太
ブロデューサー:松田 恭典・廣瀬 温子
演出:大原 拓
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『べらぼう -蔦重栄華乃夢噺-』 第27回「願わくば花の下にて春死なん」
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