大河ドラマべらぼう -蔦重栄華乃夢噺-・(47)饅頭(まんじゅう)こわい
蔦屋重三郎(蔦重)が見た“鼻の立派なお侍”に驚愕していると、「替え玉だ」と松平定信は説明します。長谷川平蔵宣以が芝居町で大崎を探していた時、二八そばの前を歩く一橋治済(はるさだ)を見かけたのです。思わず声をかける平蔵ですが、治済は意外な言葉を返します。「阿波蜂須賀家お抱えの能役者、斎藤十郎兵衛と申しますが」
平蔵は十郎兵衛を連れて定信と対面させます。うり二つと驚く定信は、事故や拐(かどわ)かしに見せかけて“傀儡好き”を亡き者とすれば大騒ぎになるが、替え玉がいれば騒ぎを避けられると仇討ちに踏み切ります。癖や好みを教えるなど取り繕いは必要ですが、それを任せることと引き換えにして大崎をこちら側に引き込んだわけです。
傀儡好きとは将軍の父・治済です。「それは謀反にございませんか!?」と蔦重は声を荒げ、それでいいのかと十郎兵衛に尋ねますが、定信が蜂須賀の殿さまと話をつけ、主命として替え玉となるよう命じられたため、十郎兵衛は断れません。ただ、事は露見してしまいました。蔦重がそれを指摘すると、定信は色を成します。「命が惜しくば、息をひそめ店をたたんでおれ!」
蔦屋に戻った蔦重は、当分の間 店を閉めて表に出ないように手代たちに指示します。なぜそんなことを言いだすのか手代たちには理解不能ですが、蔦重は事情を説明できず、言葉を濁します。しばらく休みをもらったと思って……とみの吉は具合が悪く突っ伏してしまいます。蔦屋の何人かは毒饅頭を食らっていて、まだその毒を吐き切れていないのです。
写楽をやろうと言い出したことに責任を感じるていですが、蔦重は釣られた自分が悪いとていをかばいます。これが浮世だと諦めるしかないわけですが、今は嵐が通り過ぎるのを待つしかありません。ただ、店を閉めていても井戸に毒を入れられたり火つけされたりする危険性はあります。
たかは、気を付けるにも限度があり、ていにも、奉公人の身を危うくしておいて、それでも女将かと咎めます。手代たちも、毒饅頭がこわいから店を辞めたいと言い出します。みの吉は、仕込んだそいつが毒饅頭をうっかり食ってぽっくり、というのは面白くねえですか? と苦しみながら蔦重に伝えます。
治済は、芝居町で白河の者が多く食あたりで落命したらしいな、と定信に尋ねます。弁明する定信ですが、質素倹約・風紀粛正を旨とする定信の家中がと皮肉たっぷりです。治済を糾弾するはずが、逆に定信がやり玉に挙げられて言われたい放題です。松前道廣には遊興を理由に隠居を命じていた過去を持ち出し、治済に隠居を迫られるありさまです。「聖人君主もわが身はかわいいものよのう」
怒りに震える定信は、殿中を狙って治済と差し違えると正気ではありません。末代までの恥さらしと平蔵は引き止め、白河藩は断絶すると栗山も反対します。そこに蔦重はのこのこ現れ、本屋の相手をしている暇はないのだが!? と定信は苛立ちます。「そうおっしゃらず。何せヒマなもんで。どなたさまかの不手際で店を休むことになりまして」
蔦重は、傀儡好きに毒饅頭を食わせることを提案します。毒饅頭の仇は毒饅頭で取る。ふざけるのもいい加減にしろと定信に怒鳴られますが、きっちり分務めてればよい世がくるのではなかったかと言って定信を黙らせます。かといって一橋の奥女中などに頼めば、その奥女中の命が危険にさらされます。蔦重が言うには、誰にいくつ毒饅頭を食わせても、許される人がひとりいる──。
許される唯一の人物とは、将軍家斉です。平蔵は驚愕し、定信も烈火のごとく怒りますが、将軍は世に太平をもたらすためにいるわけで、太平を乱す輩がいるのなら、毒饅頭を食らわせるのが将軍の務めと説明します。下々の者には分を分をと求めておきながら、頂点に立つ将軍が自らの分には知らんぷりというのは、さすがに道理が通らないわけです。
定信は例の“毒の手袋”を持って御三卿清水重好を訪問し、仇討ちに力を貸してほしいと頭を下げます。ちょうど兄(家治)と甥(家基)に冥途の土産を考えていた重好は、“あの日”からずっと仇を討てない不甲斐なさを感じていました。“あの日”とは、兄家治が亡くなる際の「天は……天の名を騙(かた)るおごりを許さぬ!」と叫んだ場面で、家斉も幼少ながらその場にいたわけです。その時のことを思い出してもらえれば……。
重好は将軍家斉と対面し、夢枕に立った家治が自分と家基の無念を晴らすと言った話をしますが、そこに治済が入ってきました。身体の加減が悪く先も長くないと悟った重好は、清水家家督について相談するよう定信に勧められたと弁解して慌てて下がっていきます。夢枕の話に震えあがる家斉は法要を考えますが、治済は相手にしません。「おいたわしや、もはや中納言さまは夢か現もお分かりにならぬように……」
重好は治済を恐れるあまり、家斉と話をできなかったばかりか、定信の名前まで出してしまい、すべてが台無しです。そこに現れた蔦重は、物事は思った通りに運ぶわけはなく、どう立て直すかが腕だと定信を落ち着かせます。続いて入ってきた平蔵は、大崎殺しを調査していますが、判明したのは、大崎が傀儡好きの他にやり取りをしていたのは、蔦重が最後らしいということぐらいです。
大崎が最後にしたやり取り……、代金とともに文らしいものを手渡してきました。それは将軍家斉に宛てての文でして、栗山を通じて家斉に届けられます。
上様お久しゅうございます。とは申せ、お手許にこれが届いた時には私はこの世におらず、地獄への道中を歩んでいることと存じます。人を殺めてきたからにございます。先の公方様、家基様、田安治察様、右近将監(松平武元)様、名も知らぬ数多の民、女子ども、関わり方は様々ですが、全てはお父上様のお指図にございました。
と打ち明けます。
お父上様は、生身の人をまるで傀儡のように操ることがお出来になる、比類なき才をお持ちにございます。あのお方は天、この世の者はみな傀儡。私も傀儡、ご無礼にはございますが、上様こそ最たる傀儡にございます。上様、どうかお父上様の悪行をお止めくださいませ。あのお方を止められるのは、この世にただお一人、上様しかいらっしゃいませぬ。
読みながら、家治の最期がフラッシュバックします。しかもこの文の字は確かに乳母大崎のものです。家斉は、この文に書かれていることは本当のことだと知っています。家斉は栗山の助言を交えて、重好が家督について相談したいが、体調がすぐれないため清水屋敷の茶室に招きたいと言っていると治済を誘い出します。ふーん、とあまり興味がなさそうに反応する治済です。
そして当日、三浦庄司は蔦重と碁盤を囲みながら、企てを蔦重から聞き出します。家斉と重好でうまくやれるのかと庄司は不安でしかありません。蔦重も、そこは信じるしかないと運を天に任せます。
清水屋敷内の茶室回りには数多くの家来が並び、物々しい雰囲気です。家斉は、重好の御台所貞子には年に金3,000両と米500俵を給付する代わりに、清水家の家督は自分の弟に継がせたいと提案します。清水の家名を残してもらえるのなら、重好には何の不服もありません。話もひと段落つき、重好は家斉と治済に茶を点てることになりました。添えられた菓子をほおばる家斉ですが、治済は手を出しません。「わしも腹具合がようないゆえ、どうぞ上様が召し上がってくださいませ」 さようにございましょうか、と家斉は治済の分も食べてしまいます。
えっ!? という表情で家斉を見つめる治済ですが、出されたお茶も、家斉はゆっくりと味わいます。それをじっと見つめていた治済は、家斉の後に続いて茶を飲み干します。けっこうなお手前で、と落ち着いた時、力が抜けたように家斉がその場に突っ伏します。「まさか……まさかもろともに!?」と立ち上がるも、治済はバタンと倒れてしまいます。
毒は毒でも、命をとる毒ではなく、眠る“毒”です。治済が眠っている間に十郎兵衛と入れ替えてしまおうというわけです。本物の治済は生きたまま阿波の孤島に閉じ込めることになっています。殺さぬのか? と庄司は不思議がりますが、親殺しは大罪で、義はあっても家斉は大罪を犯すことになり、仕掛けた蔦重たちも外道に成り下がる、という栗山の考えです。うまくいったとの報告を受け、庄司は涙を流して田沼意次・意知の位牌に手を合わせます。
本物の治済が長持に寝かせられ、ふたを閉じて厳重に錠までかけられて阿波に送られているころ、蔦屋は営業を再開します。そして定信は白河へ下ることになり、道中に日本橋の蔦屋に立ち寄ります。定信は幕府の政に戻るのだろうと蔦重は考えていましたが、今戻れば要らぬ噂を呼び、将軍の父をはめた定信は謀反の罰を受けねばなりません。そういうとこは筋を通されるのですね、と蔦重は呆れます。
ともかく、将軍を引き込んだ蔦重の提案は秀逸だったと定信は評価しますが、本当は『イキチキドコキキテケ ミキタカカカッタカノコダカ』と暗号を送ります。『金々先生』より黄表紙はもれなく読んでいるし、恋川春町は我が神、蔦屋耕書堂は“神々の集う神殿(やしろ)”の存在です。定信にとって唯一の不覚は、春町を死に追いやってしまったことです。「揚がった凧を許し笑うことができれば、全てが違った」
春町を唆(そそのか)してでっかい凧を揚げさせたのは自分だと、彼の死には蔦重も責任を感じていまして、もともと写楽は春町への供養のつもりで取り組んだのでした。そういう意味でお互いの思いを共有でき、蔦重は感謝します。「今後は随時、良き品を見繕い、こまめに白河へ送るよう。抜け目ない商人に1,000両も取られたゆえ、倹約せねばならぬ」
この後定信は、白河で民の暮らしの向上に努め、その政は後世にも大きな影響を与えます。同時に文化振興にも努め、自ら『樂翁』と名乗り、硬軟兼ね備えたオタクとしてもその名を歴史に残すことになります。蔦屋を出て白河へ向かう定信を、蔦重とていは、これまでの定信に対してのものとは別の思いで、定信を見送ります。
作:森下 佳子
音楽:ジョン・グラム
語り(九郎助稲荷):綾瀬 はるか
題字:石川 九楊
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[出演]
横浜 流星 (蔦屋重三郎)
橋本 愛 (てい)
中村 隼人 (長谷川平蔵宣以)
城 桧吏 (徳川家斉)
中川 翼 (みの吉)
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島本 須美 (たか)
映美 くらら (大崎)
井上 祐貴 (松平定信)
嶋田 久作 (柴野栗山)
矢島 健一 (本多忠籌)
眞島 秀和 (徳川家治(回想))
生田 斗真 (一橋治済/斎藤十郎兵衛)
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原田 泰造 (三浦庄司)
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制作統括:藤並 英樹・石村 将太
ブロデューサー:松田 恭典・積田 有希
演出:大原 拓
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『べらぼう -蔦重栄華乃夢噺-』 第48回「蔦重栄華乃夢噺」(最終回)
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