大河ドラマ豊臣兄弟!・(27)本能寺の変
このようなものが舅どのの宛てに──と織田信澄に渡された密書には、足利義昭の花押で『可討取信長候也』とありました。……が、それは明智光秀の思い込みで、実際は信澄がしたためたものでした。なぜそんなことをしたのかと愕然とする光秀に、信澄は“父を殺された子が仇を討とうとするのは不思議なことではない”と開き直ります。「すべては生き残るため。その時が来るのをじっと待ち続けておりました」
信澄をその気にさせたのは、20年以上前の母ちよの言葉でした。信長を討って父の無念を晴らせ。お前が織田家を統べ、父の果たせなかった下剋上を成し遂げよ。結果、信長を討つことだけが信澄の生きがいとなったのです。自分は織田家筆頭家老だと光秀は眉間にしわを寄せますが、であれば密書のことをなぜ信長に伝えなかったのか。信澄は光秀を見据えます。「時は今じゃ」
天正10(1582)年3月、戦国最強といわれた甲斐の武田家は織田に敗れ、その歴史に幕を下ろします。東国の一統は成ったも同然で、あとは柴田勝家が上杉を討つのを待つばかりです。光秀によると長宗我部元親からは和睦の申し入れは未だになく、信長は自分の軍勢を織田信孝に預けて、信澄とともに四国攻めを命じます。あとは……毛利方との境界にある備中高松城を攻撃中の、羽柴秀吉です。
湿地に囲まれた難攻不落の高松城を落とすために、堤防を築いて川の水を引き込むという前代未聞の水攻めを行ったのです。これで毛利は攻めも助けもできず、その総仕上げをやってもらおうと秀吉は長秀に信長を連れてくるよう求めます。長秀はこの場を離れることを不安視しますが、和睦の談判は黒田官兵衛がやるし、秀吉の代わりができるのは長秀しかいないと肩に手を置きます。
長秀は270kmもの距離を、浅野長吉、前野長康、藤堂高虎とともに安土へ。しかし信長は、備中に行くなどと言った覚えはないとまさかの返答です。確かに総仕上げを自分がやるとは信長も言ったことですが、出向くのは自分ではなく毛利の方なのです。とんぼ返りすることになり、尻が持たないとみな悲鳴を上げます。もしかしたら光秀や勝家の鼻を明かすため、秀吉は分かっていて長秀を派遣したのかもしれません。
その間も和睦の協議が行われています。城主清水宗治の切腹と、備中・備後・美作・伯耆・出雲の割譲を官兵衛は主張しますが、さすがにその条件は呑めないと安国寺恵瓊は冷ややかです。毛利輝元からは割譲は3か国までと言われているのです。談判は決裂し、官兵衛は去ります。その根底には、荒木村重を唆し官兵衛を土牢に閉じ込めさせた、恵瓊を信用できないという事情があったわけです。
信長は安土を訪れた徳川家康をもてなしていました。接待役は光秀です。鯉の煮つけを出した時、歓喜する家康や石川数正らを横目に、信長は自分の鯉の方が大きいと指摘し、家康の分と取り換えさせます。そこまで気にしていない2人でしたが、家康は交換してもらった煮つけを匂います。「いや、少し前に川魚にあたって腹を下してしまいましてな……この匂いは毒かもしれませぬ」
信長は、自分を狙ったということかとつぶやき、念のために鯉をネズミに食わせてみます。ネズミはあっという間に死んでしまいました。毒味は済ませているはずで、その後での犯行となりますが、光秀は信澄の顔がちらつきます。光秀に心当たりがないと知るや、信長は厨(くりや=台所)にいた者を皆殺しにするよう命じ、あの者たちは違いますと弁明しますが……。「ほう。では誰なのじゃ」
答えない光秀に往復ビンタをし、足蹴にし、胸ぐらをつかんで庭に蹴飛ばします。調べさせていた丹羽長秀によると、台所方のひとりが口を割り、毒混入を手引きしたのは信澄であると信長に報告します。信じていた信澄のまさかの裏切りに、信長は愕然とします。四国攻めに向かっている信澄の後を追いかけさせ、切腹させることにします。
控えの間に戻ってきた家康と数正ですが、3年前に正妻築山殿と嫡男松平信康が信長に謀反を疑われて、その命を絶たれたということがあり、表向きは信長にすり寄っている徳川方でも、少々構えている部分があったのかもしれません。家康は懐から毒を取り出しますが、信長本人に使うつもりは毛頭なく、家康はお守り代わりに所持していたわけです。でなければ自分を抑えられない気がしていたのです。
一方の光秀ですが、長秀とすれ違います。家康への饗応役はお役御免となり、その代わりに長秀らとともに西国攻めに加わることになりました。光秀が軍勢に加わるなど長秀にとっては心強い援軍ではありますが……。光秀はその出陣準備のため坂本城に戻りますが、備中の戦場での再会を約し、別れます。
信長を暗殺しようとした信澄へ、市は静かに怒りをたぎらせます。とはいえ信長は、真の心を隠して20年間も自分を恨み続けた信澄を評価もしています。どこかで道を間違えたのかもしれないと珍しく弱気ですが、安寧の世を一日も早くと市は信長を鼓舞します。信長は盃を床に叩きつけます。「たやすく言うでない! 血塗られたこの手でそのような世を……わしには壊すことしかできぬ!」
市はそのまま部屋を後にしますが、代わりに市に行くよう言われたのは長秀でした。信長に酒を注いでもらい、尋ねられます。“兄を憎んだことはあるか? 殺したいと思うたことはあるか?” 侍になりたてのころはしょっちゅうで、できもしないことを軽々しく引き受け、こちらはおかげで何度死ぬ思いをしたか。今思い出しただけでも憎らしく思えてきた長秀です。
信勝の位牌を見つめる信長に気づき、長秀は続けます。弟としては兄を放ってはおけず、憎いというのは慕っていることの裏返し──。信勝は恨んではいないと長秀は断言しますが、このたわけが! と信長は怒鳴ります。「うぬの口車に乗るこの信長ではない。が、間もなく茶会を開くため京へ行く。そのついでじゃ。備中まで行ってサルの尻をたたいてやるとするか」
そして信長は、5月29日、わずかな供回りを連れて本能寺に入ります。
坂本城でじっと待つ光秀、手には信澄がしたためた密書、時は今しかないと発破をかける信澄。そこに足利義昭と対面した斎藤利三が戻って来ました。もうわしを巻き込むな、との義昭の返答に光秀は愕然とします。義昭にも見放され、がくがく震えて涙があふれてきました。ああああ! と雄叫びをあげます。「利三、みなに伝えよ。出陣じゃ……これは上意である。敵は本能寺にあり!」
茶会を終えた信長が寝所で休んでいると、夜明け前に森 乱が駆け付けます。「寺が取り囲まれております。白の桔梗紋、明智光秀どの!」 利三が指揮官となって寺を襲撃します。出てきた信長は鉄砲をぶっぱなします。矢の攻撃を受けると槍を手にします。見事な槍さばきで応戦し、明智勢を次々と倒します。乱は刀を差しだし、自分たちが防いで時間を稼いでいる間、信長は裏手へ回ります。
利三の指示で火矢が射られ、一気に燃え上がります。敵を防ぎつつ信長は奥の間に進んでいきます。光秀が立ち、信長と対峙します。お前じゃないとつぶやく信長は、敵を一刀で切り伏せます。斬ってしまえば、相手は光秀ではありませんでした。そして浅井長政も立っています。これも戦って倒せば兵士です。赤子の鳴き声に振り返れば、これまで殺してきた者たちの姿が並んでいました。
最後には信澄が立っていました。死ね! と斬りかかる信澄ですが、信長を助けて間に入ったのは、信澄の父、信勝でした。というのも幻想で、実際には襲ってきた兵を乱が救ったのでした。信長はフッと微笑みます。「脇差を貸せ。よいか、わしの首……決して敵の手に渡すでないぞ……」
信長は正座します。乱は気を効かせてその場を離れます。ひとり。胸元を開き、脇差を手にします。「わしが太陽になって、上様が作り上げたこの国を、照らし続けまする!」 そんな秀吉の声が脳裏をよぎり、ニヤリとします。是非もなし──。ウッといううめきとともに、信長の姿が折れ、倒れます。
長秀が目にしたものは、天を焦がすほどの炎で燃え続ける本能寺の姿でした。
作:八津 弘幸
音楽:木村 秀彬
語り:安藤 サクラ
脚本協力:片桐 正博
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[出演]
仲野 太賀 (羽柴小一郎長秀)
池松 壮亮 (羽柴筑前守秀吉)
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要 潤 (明智光秀)
内藤 剛志 (斎藤利三)
宮﨑 あおい (市)
小栗 旬 (織田信長)
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制作統括:松川 博敬・堀内 裕介
プロデューサー:高橋 優香子・国友 茜
演出:渡邊 良雄
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』 第28回「急げ! 秀吉」
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