大河ドラマ豊臣兄弟!・(34)最強のライバル
徳川家康は嫡男の長丸を膝に乗せ、無数の薬草の名前と効能を答えさせています。ヒキオコシは腹痛に効き、オトギリソウは傷に効く。難なく答える長丸に家康は、触れば皮膚がかぶれ食せば身体がしびれて動けなくなる毒草も示して食さぬよう教えます。恐ろしそうに返事する長丸です。そこに羽柴秀吉からの書状が届けられますが、家康は「またか」と石川数正に投げ渡します。
天正11(1583)年、秀吉は織田家当主である信雄の補佐を務めるという立場を前提に、政治運営を自らの手で行いその権威を高めていきます。その象徴として築かれた大坂城には、その完成祝いに家康の名代として数正が訪れていました。上座には「一の谷馬藺後立付兜(いちのたにばりんうしろだてつきかぶと)」が飾られ、豪華絢爛な城内に数正はキョロキョロと見渡します。
そこに現れた秀吉は、家臣たちに場内を案内していたところで、数正はたちまち秀吉の家臣たちに取り囲まれる形になります。数正は家康からの築城祝いとして、茶器「初花」を献上します。筒井順慶や高山右近はとても驚きますが、あの織田信長が所有していた初花が、巡り巡って家康のところにたどり着いたわけです。それを下されるということで、秀吉はとても気を良くします。
家康は信長亡き後、いち早く甲斐と信濃を抑えて北条と盟約を交わしていました。秀吉は東国の抑えは家康に任せていれば憂いもないと言いますが、家臣たちはしらけムードで反応がありません。いつもニコニコしている羽柴長秀ですが、この時ばかりは数正を真顔で見据えます。「これからも互いに力を合わせて参りましょう、と」
秀吉が城内を案内させるというので、石田三成と片桐且元についていろいろ見て回る数正ですが、諸大名からの贈り物の多さに数正は言葉を失います。庭に出ては武芸の稽古を見学し、武器の手入れについても隠すことなく全てをさらけ出しています。これは城の案内というより、羽柴の内側を見せることで脅威に感じさせる作戦にも思えます。
その家康ですが、伊豆国三島の愛染院で北条家第4代当主の氏政と会っていました。秀吉から家康に対して出した、東国の争いについて解決せよとの命ですが、氏政は「下賤の成り上がりに指図される筋合いなどない」と苦々しい表情です。氏政は家康に、徳川が立つならいつでも味方すると耳打ちします。聞いていた家臣の本多忠勝も同じ思いで訴えますが、耳元に近づけて「でかい声を出すな」とたしなめます。
秀吉としては、命じたのではなくお頼みしたと思っていますが、相手がそう受け取っているとは限りません。黒田官兵衛は、まさに氏政が感じていたことを家康が思っているかもしれないと推察します。徳川と北条は盟約を結んでいて、羽柴に仇なす強敵となり得ます。長秀は、そうなる前に揺るぎない絆を徳川と作る必要があると、秀吉に強く訴えます。
遠江の浜松城に戻った家康ですが、再び秀吉から茶会のお誘いです。家康は数正を派遣しようとしますが、茶会が嫌というより、羽柴兄弟が嫌と感じているようです。今もし羽柴と事を構えることがあれば、戦になり手ごわい相手になるのは間違いありません。つまり今はその時ではないということです。そこにまたしても書状が届き、またあやつらかと家康は呆れますが、今度は織田信雄からの書状です。
伊勢長島城に駆けつけた家康に、信雄は最近の秀吉は目に余ると、自分を差し置いての振る舞いに不満たらたらです。確かにそれは家康も感じていたことで、手を握った信雄は秀吉を討とうと誘います。図に乗ったサルに今があるのは誰のおかげか思い知らせねばならないというわけですが、それは信雄に対しても言えることであり、家康はその手を突き放して断ります。「わしは……羽柴どのが恐ろしい」
家臣の津川雄光は、これで頭を冷やすだろうと家康に礼を言い、信雄にひょいひょい踊りで気を紛らわさせます。家康には数正が、信雄の誘いに乗らずによく耐えたと評価します。家康は、木に止まった小鳥を見て、ふと昔を思い出していました。
家康が竹千代と名乗っていた天文16(1547)年3月、竜王丸(今川氏真)たちにさんざんいじめられていたのを、心の癒しになると今川義元は小鳥を与えてくれました。家康は小鳥を大切に育て、天文24(1555)年3月、元服をして「松平元信」となった時、義元はその小鳥を殺せと命じます。しばらく手で掴んでいましたが、つい逃がしてしまいます。銃声がして、小鳥を撃ち殺したのは氏真でした。
お前には選ぶ道などないと突き放された元信は、小鳥の死骸の前に座り込み、「生きるも死ぬも……あやつらの腹ひとつ……わしと同じじゃ」とポロポロ涙を流します。数正は、奪われたくなければ奪う側になるしかないし、従うのが嫌なら従わせねばならないと諭します。「今はまだその時でなくとも、いつの日にかあなたさまが武家の頂に立つのです!」
天正7(1579)年8月には、嫡男松平信康と妻の築山が武田に通じていると信長に疑いをかけられ、処置を任された家康は、義元に命じられたあの小鳥のように、妻と子を殺させます。またしても……という家康の言葉には、生きるも死ぬもあやつらの腹ひとつ、というのがあったのかもしれません。小鳥を見ていろいろ思い出した家康は、数正に背中を見せたままつぶやきます。「……茶会に行く」
秀吉、長秀、家康、数正で茶会を開きますが、ニコニコ顔の秀吉に対して家康の顔は曇っています。茶は好きではないと包み隠さず打ち明ける家康に倣って、秀吉も自らの天下一統のために徳川の力を貸してほしいと隠さずに思いを話し、頭を下げます。家康は、東国の抑えは任せてほしい、北条にも引き続き声をかけると約束します。
そこで頼みたいことが1つあると、家康の子を養子にもらい受けたいと秀吉が言い出します。人質に差し出せということですか! と数正は思わず身を乗り出しますが、羽柴と徳川の架け橋として大切に育てると長秀は説得します。「断る……と言ったらどうする? それを口実に我らを攻め滅ぼすおつもりか?」と家康は秀吉を見据えます。
家康は自分が人質だったころ、周りの者の顔色ばかり窺っていて、顔を見れば相手が何を考えているのかだいたい分かるようになっていました。初めてであった時の羽柴兄弟は、何を考えているのかさっぱり分からず、逆にそれが家康の中に恐ろしさを生んでいましたが、今は手に取るように分かります。そなたら分かりやすくなったのう、と家康は指をさして笑います。
「子は……差し出しまする。やはりわしは、茶は好きになれそうにはありませぬ」と返事して帰っていく家康と数正です。長秀はふたりを追いかけ、いつものように自分たちの思いを丁寧に説明するのですが、家康はそれさえも遮って、「ご安心くだされ。そなたらの熱意、しかと受け止めた」とスタスタ行ってしまいます。長秀にとって、家康はいつもの手が通用しない、やりにくい相手なのかもしれません。
浜松城に戻った家康は、じっと長丸を見つめています。覚悟を決めて長丸を呼びますが、長丸の手には毒草が握られていました。これで父上を泣かせた敵を殺してくだされ! とかわいい声で恐ろしいことを言いますなぁ。家康は泣いてはいませんが、心の中で泣いているのを見透かしたのかもしれません。家康は、誰にも従わない。あとは自分がやる、と決意を新たにします。
信雄が家康と会っていたことが秀吉に伝わっていて、信雄は雄光を疑います。否定する雄光に、信雄はひょいひょい踊りを所望し、踊り始めたところで誅殺されてしまいます。ガタガタ震える信雄は襖を開き、隣の間にいた家康に、これでよいのだなと恐る恐る尋ねます。「よき、お覚悟でござる」と家康はニヤリとします。
家康は奪われる側から奪う側になったのです。もっと高揚するかと思うたがそれほどでもない、と冷静です。そんな家康の前に姿を現したのは、酒井忠次、忠勝、榊原康政、井伊直政ら家臣たちです。信雄の意を受け、逆臣羽柴秀吉を討伐する──と下知します。
作:八津 弘幸
音楽:木村 秀彬
語り:安藤 サクラ
脚本協力:片桐 正博
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[出演]
仲野 太賀 (羽柴美濃守長秀)
池松 壮亮 (羽柴筑前守秀吉)
池田 鉄洋 (丹羽長秀)
高橋 努 (蜂須賀正勝)
迫田 孝也 (石川数正)
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松下 洸平 (徳川家康)
大東 駿介 (前田利家)
大鶴 義丹 (今川義元)
谷原 章介 (北条氏政)
吉岡 秀隆 (千 宗易)
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制作統括:松川 博敬・堀内 裕介
プロデューサー:高橋 優香子・舟橋 哲男
演出:石川 慎一郎
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』 第35回「秀長誕生」
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